第17話 恐怖の始まり


「これは一体……」


 ダルカンはそう言った。

 フォーンの咆哮を聞いてから1分も経っていない。

 しかしフォーンの首は綺麗に切られている。


「他のモンスター?」


 第1小隊の砲兵ガンナーの1人が聞いてきた。


「可能性はあるけど……」


 第4小隊の砲兵が答える。


 色々な疑問が挙げられる中、レオはフォーンの死体の足元で地面を直視していた。


「アンタはどう見る」


 レオにスーリンが話しかける。


「フッ、まさかそんなことがあるとは……。フフフッ」


 レオはスーリンの問いには答えず、顎に手を添えて笑っていた。


「何かあったのか?」


 何かを見つけたと察したスーリンが、レオの後ろからフォーンの足元を覗き込む。


「なっ……コレは……」


「そう。これは――」


 レオは、驚きの声を上げているスーリンに顔だけ振り向いてこう言った。


「人型モンスターだ」


 フォーンの足元には、人間が踏み込んだ時の足跡のようなものがあった。


「……他の隊員の可能性は」


「ないね。完全に単独だ」


「今まで人型のモンスターとの遭遇は」


「あるにはあるが、それはアンデットとかの軟弱なのがフォーンを倒せるわけがない。しかもこんな真っ昼間だ。彼らの活動時間は夜か、ココよりもっと暗い場所さ」


「タダの人だったら」


「とてもじゃないが、ココで生身で暮らしていくのは厳しいと思う」


 まだ信じられないスーリンは、他の可能性を次々と挙げていく。


「ハッキリ言おう。これはモンスターの仕業だよ! しかもA、もしかしたらS級案件かもね!」


 レオはハッキリと、スーリン以外の隊員にも聞こえるようにそう言った。

 それを聞いた隊員たちはどよめき始めた。


 そんな中、スーリンは真っ直ぐとレオを見つめていた。


 ルリだったら、即座に体勢を立て直すために退却するだろう。

 できる限り準備を整えるはずだ。

 だが、アイツは何かおかしい。

 まさか戦うやるつもりか?


「おいレ――」


「プッ……クククッ。ハハハハハッ!」


 レオは、話しかけようとしたスーリンの声を遮るように、高らかに笑った。


「いやー、ここまでワクワクするのは久しぶりだよ。武者震いが止まらない」


 レオの様子が明らかにおかしいことに、みんなが気付いた。


 やっぱりだ。

 レオコイツは生粋の戦闘狂だ。


 そして、スーリンの嫌な予感は当たってしまう。


「よし! じゃあ行くか!」


「どこにだ? 拠点に帰って報告するか? その場合、フォーン討伐は中止になるがな。それとも今通信で報告して、注意しながらフォーン討伐を続行するか?」


 張り切ってるレオに、スーリンが今後の指示を仰ぐ。


「いや、この人型モンスターを狩るんだよ」


「は?」


 レオ以外の全員が声を出した。


「……危険だ。私は反対だ」


 当然、スーリンは反対した。


「この足跡の主は危険だ。何か起こってからじゃ遅いと思うんだ」


 レオは意見を曲げるつもりはないらしい。


「敵の詳細が分からない以上、圧倒的にこちらが不利だぞ」


「そうだそうだ!」


「まずは連絡した方が……」


 他の隊員も口々に反対の声を上げる。


「はぁ……反対多数か」


 レオは、自分以外乗り気じゃないことに困ったような声を出す。


「じゃあ俺だけで行こうかな!」


「は?」


 またもやレオ以外の全員が声を出した。


「さ、流石に単独行動は不味いんじゃ……」


 ダルカンはボソッとそう言った。


「クッ……」


 スーリンは心底ウンザリしていた。


 コイツ、何を言い出すかと思えば。

 部隊を捨てて単独行動だと?

 隊を率いる者として、その判断はないだろう。

 最も腹が立つのが、実力があるから単独でも何とかなるということ。


「どうする? 俺と一緒に来る? それとも君たちだけ一時退却する? 通信を入れてもいいけど」


 正直コイツが部隊から離れると困るのは私たちだ。

 この戦力でフォーンの群れと戦うのはかなり苦戦する。

 つくづく自分の無力さに腹が立つ。


 どうする?


「そろそろ答えて欲しいんだけど」


 レオは返答が来ないことに苛立っているようだ。

 早く戦いに行きたいんだろう。


「じゃあ私たちは――」


 スーリンが決断した瞬間、シュパッっという音が周囲に響いた。

 直後、レオの背後から木が倒れるような音が鳴り響いた。


「フッ、どうやらアッチから来てくれたみたいだ」


 レオは振り返りながら剣を構えた。


 森の中から人影が、ザッザッザッと足音を立てながら近づいてくる。


「なっ!? 総員戦闘態勢!」


 元々、少し開けた場所だったため、隊員たちはすぐに迎撃の陣形を組んだ。

 移動中にスーリンと、第4小隊砲兵であるアランが考え、全員に伝えていたのである。


「さあ! 僕は逃げも隠れもしないぞ! 早く姿を表せ!」


 レオが大声を出して、相手を誘う。


 挑発に乗るように、自分の力を示すように、さらに木を倒しながら、その姿を現した。


 姿を見た者が真っ先に脳内に浮かんだのは、『死神』だった。

 大きすぎる鎌に、紫色のマント。

 フードも深々と被っているが、真っ赤な目の光は隠しきれてなかった。

 さらに身長も大きい。

 第2小隊小隊長のナグールと同じくらい大きい。


「君は人間の生き残りか! こちらがモンスターと判断したら斬るぞ! 3秒以内に答えろ!」


 もし本当の人間だった場合、保護しなければならない。

 レオは確認をとる。


「…………」


 しかし何も答えないまま、ゆっくりと近づいてくる。


「よし……敵だな。行くぞ!」


 レオの声のトーンが低くなると、死神のようなモンスターに先制攻撃を仕掛けた。


【アラン】

・性別:男

・役割:第4小隊砲兵(ガンナー)

・年齢:20歳

・茶髪ショートで、身長180cm。

・状況の見切りが早く、上からの命令や指示がなければ即退散する。

・勝てない戦いはしないタイプ




◇ ◇ ◇




「なかなか出ないねー」


 と、つまらなそうにラトは言った。


「油断するなよ」


 ルリは、しっかりするようにと注意する。


 レオの部隊が謎の人型モンスターと対峙する少し前のこと、ルリの部隊は、事前に話していた陣形で行進して、フォーンの姿を探していた。


 倒木がない。

 こちらの方角にはいないのか。


 ルリは、別モンスターのことも気にしながら走っている。


 一応通信しておこう。


 現在通信を取る方法は、グレードフープのある拠点に通信を繋げ、そこから総員に連絡するしかない。


「こちら第4小隊小隊長ルリ。仮拠点聞こえるか?」


 先にスクラープを連携させておいたので、通信はすぐに繋がった。

 しかし返答がない。


「……こちら第4小隊小隊長ルリ。仮拠点聞こえるか?」


 もう一度通信を繋げる。


「こ、こちらベルハラ。ちゃんと聞こえてるぞ」


 ベルハラからの返答が来た。

 何やらテンションが低い。


「どうしたベルハラ。何かあったのか?」


「……ちょうど連絡するとこだった。これを聞いた後の判断は……お前に任せる」


 どうやら、向こうもこちらの通信を入れようとしていたみたいだ。


「何があった?」


 ルリはスピードを落とすことなく、ベルハラの声に耳を傾けた。


「レオの部隊が、謎のモンスターと対峙した。そして、死人が出た」


「なっ……」


 ベルハラは、若干声が震えていた。

 きっと本当のことだろう。


「レオの部隊はどこだ! 今すぐ場所を――」


「フォォオオオオッ!!!」


 右方向から、フォーンが5、6体ほど突進してきている。


「チッ、右方向にフォーン多数! 迎撃態勢!」


「応ッ!」


 タイミングの悪さに舌打ちをしながら、迎撃態勢に入る。


「悪いベルハラ。後でまた連絡する」


 ルリはそう言って、一度通信を切った。


「総員! レオの部隊が危険だ! 速攻で終わらせて援軍に行く!」


「応ッ!!」


 レオの手にも負えない相手がいるのか。

 ということは全滅も……。

 いや、そんなことさせるかよ。


「フォォオオオッ!」


「行くぞ!」


 ルリの部隊は、突進してくるフォーンに立ち向かっていった。

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