第15話 怪しげな影


 ジャイアントサーペントの討伐を終えたルリとレオを、隊員たちが迎えた。

 そのまま車両に乗り込み、フォーン討伐に向かった。


「いやあ、よく無事だったなールリ」


 ジャズは安堵するようにそう言った。


「そう簡単にはやられん」


 ルリは真面目にこう答えた。


「正直どっちが倒したの? ジャイアントサーペントが暴れた時の砂煙でよく見えなかったからさ」


 立て続けにラトが質問した。


「アイツがやったよ。俺はサポートだ」


 ルリは正直に答えた。


「悔しくないのかよ。上下関係がハッキリしたみたいだろ」


 その戦い方に、マルクが不満の声を上げる。


「どちらにしよ、どっちかが引きつける戦いをしないといけなかったしな」


「じゃあこの先もアイツのサポートに回るのか?」


 マルクが続けて言った。


「あの、あんまりそういう言い方は……」


 ラギルスは慌てた様子でマルクを制止させようとした。


「いや……。少し分かったが、アイツは隊を率いる器ではないと思う」


 そのラギルスに気にするなと手で制し、マルクに対してこう答えた。


「それはどういうことだ?」


 ジャズが身を乗り出して聞いてきた。


「正直アイツが強いのは確かだ。だがあの強さは個の強さだ。そんな奴にこの中隊を仕切らせる訳にはいかないからな」


「個の強さ……ですか?」


 ラギルスは、ルリの言ったことを理解しきれていない。


「まあ戦っていくうちに分かるだろう」


 ルリは半分投げやりの返答をした。


「ちゃんと説明しろよ」


 マルクは投げやりの答えでは物足りないらしい。


「ルリも疲れてるんだろう。休ませてやれ」


 スーリンがそう言ったおかげで、この話は終わりになった。




◇ ◇ ◇




「チッ、森かよ……」


 先頭を走る機体を操縦しているベルハラは、視界に広がる森の中を、舌打ちをしながら突入した。

 フォーンのいるとされる場所に近づいた中隊の騎兵トルーパーは、フォーンの群れを探しながら慎重に移動していた。


「倒れてる木が多くて進みづれぇな」


 生えている木が思ったより少ない代わりに、倒木が多くて進みづらいようだ。

 

「降りた方がよさそうだな」


 ここからは、車両から降りて移動した方がいいと判断したベルハラは、ルリに通信を繋げる。


「こちらベルハラ。道が悪い上に、倒木が多くて進めない。悪いが降りて移動した方がよさそうだ」


「了解。少し開けた場所に移動できるか? そこで仮拠点を立てたい」


「分かった。着いたらまた連絡する」


 ベルハラの返事を聞くと、ルリは通信を切った。


 倒木が多い……?


「どうかしましたか?」


 通信の内容が気になったのか、ラギルスが話しかけてきた。


「木がたくさん倒れているらしい。もしかしたら別のモンスターがいるかもな」


「ええ!? で、でも、フォーンのあの角なら十分あり得るんじゃないですか?」


「フォーンは普段は温厚だ。仮に暴れたりしたとしても、群れ全体が暴れないと、期待が進みづらくなるまで木は倒れないだろう。どちらにしよ、別モンスターの仕業の可能性が高い」


 ルリは自分の考えを伝え、その場にいる隊員に警戒を促す。


「連戦とかになったらだなぁ」


 話を聞いたダルカンは、不安の声を上げた。


「そういう場合でも対応できるように、中隊にしたんじゃないの?」


 ファラグがそう言ったように、隊が大きくなったということは、それだけ1人の負担も減るということだ。


「でも第1小隊の奴ら大丈夫なのかよ。きっとレオに頼りっぱなしだぜ。シシッ」


「プッ、違いねぇ」


 マルクとファラグが第1小隊のことを小馬鹿にした。


「やめろお前ら。これからはアイツらも仲間なんだ」


 ルリは2人を注意した。


「まあでも、向こうの出方次第だな」


 ジャズは腕を組みながらそう言った。


「証明すればいいだろう。我々第4小隊の強さをな」


 スーリンはみんなに向けてそう言った。

 その一言によって、俄然がぜんみんなのやる気が上がった。




『ラト』

・性別:女

・役割:近接部隊(メレー)

・年齢:18歳

・黒髪のショートヘア。身長166cm。

・自分の心に忠実。ダメだと思うことはやらないし、好きなことには夢中になる。

・武器:槍(スピア)




◇ ◇ ◇




 中隊は、騎兵トルーパーの機体を中心に少し開けた場所に仮拠点を作ることができた。


「よし、こんなもんでいいだろ」


 どこでも通信ができるほど強い電波を持つ装置を設置したベルハラは、早速起動してみる。


 ヴヴヴヴヴヴヴッとエンジンをふかすような音を立て、装置が起動した。


「あの~、これは何という装置ですか?」


 ラギルスはこの装置のことを知らないので、ベルハラに質問した。


「ああ? 見るのは初めてか? これは『グレードフープ』って言ってな、こういう見渡しが悪い場所とかで遭難したり、通信障害が起きないようにするための装置だ。コッチからは分からないが、お前らのスクラープからはコイツの場所が分かるんだよ。便利だろ?」


「確かに便利ですね。教えてくれてありがとうございます!」


「別にき、気にするなっ」


 ラギルスの感謝の意を受け取ったベルハラは、そっぽを向いた。


「んん?」


「気にするな。コイツ褒められるの慣れてないんだ」


 ベルハラの顔を覗き込むラギルスに、ルリはそう言った。


「そんな訳ねぇだろぉ!」


 顔を真っ赤にしながらベルハラは怒鳴った。


「ま、まあまあ落ち着いて下さいっ。それより! ルリさんは何の用でこちらに来たんですかっ」


 このまま揉め事が起こらないよう、ラギルスは話題を変えるよう促した。


「ああ、この後の動きについて話がある。来てくれ」


「分かりました! では失礼しますねベルハラさん」


 ラギルスはベルハラに一言告げると、ルリの後をついていった。


『グレードフープ』

・スクラープから発せられる電波よりも強い電波を発することができる。

・見渡しが悪い場所、通信状態が悪い場所に使われる。

・安全が取れた場所に設置することが多く、基本的に拠点などに使われる。




◇ ◇ ◇




 ある騎兵の機体の裏で、4人の人物が集まっていた。

 ルリとラギルス、レオ、そして副隊長。

 4人ともスクラープはカスタム可能である。

 実質、この中隊の4トップが集まっているのである。


「じゃあ手短に話すぞ」


 ここに3人を集めたルリは作戦を話し出す。


「この森、規格外のモンスターがいると思う」


 ルリは、この倒木の原因は高難易度のモンスターだと考えていた。


「まあこの森かなり怪しいしね。慎重に行きたいとこだけど」


 レオもこの異変には気づいているようだ。


「できれば全員で動きたいとこだが、日が暮れると困るからな。この中隊を4つに分けて捜索をしたい」


 ルリは作戦をざっと話した。


「え? 高難易度のモンスターがいるのに分けちゃうんですか? 非効率と言っても危ないんじゃ……」


 ラギルスは疑問の声を上げた。


「俺たちの本来の目的はフォーン討伐。だろ?」


 第1小隊の副隊長が、ルリの代わりに答えた。


「なるほど。ところで貴方は……」


「紹介してなかったな。第1小隊近接部隊メレー所属、グラルバだ。よろしく頼む」


「あっ、第4小隊近接部隊所属、ラギルスです。よろしくお願いします!」


「よし、じゃあ話を戻すぞ」


 グラルバの紹介も終わり、ルリの声でまた作戦の話に戻る。


「まあ4つに分けると言っても、初任務だからな。できれば2つの小隊の隊員を混ぜたくないとこだが」


「いや混ぜようよ。お互いを知るにはいい機会さ」


 ルリとレオの意見は対立した。


「お前なぁ」


「初任務だからこそだよ。ファーストコンタクトは大事だろ?」


「じゃあお前は俺の隊員を守る自信があるのか?」


「守るさ。君みたいに死なせたりしないさ」


「ッ……」


 レオの煽りは、ルリには絶大な効果を示した。


「まあそういうことだからさ。第一、君よりスクラープの出力レベルが高い。それだけで安心だろう?」


「チッ、そこまで言うなら混ぜてやる。ただし、何かあったら容赦しないぞ」


「フッ、そっちこそ、僕の可愛い部下を傷付けさせたりしないでよ」


「チッ」


「フンッ」


 ルリとレオはお互いにそっぽを向いた。


 この調子で大丈夫だろうか……。


 その様子を見ていたラギルスとグラルバは、心の中の意見が一致した。

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