第14話 ジャイアントサーペント戦


「キシャアアアアア!!」


 何でこんなことになった。

 相変わらず小隊長レベルは変な奴しかいないな。


「何ボーッとしてるんだ! 早く仕留めるぞ!」


「......ああ」


 ジャイアントサーペントに突進するレオに、呆れながらも合わせる。


「キシャアッ!!!」


「ハッ!!」


 ジャイアントサーペントの牙を多用した攻撃を、レオは難なく躱す。


「こっちは勝手にやるから合わせてくれ!」


「はぁ?」


 レオはまた、自分勝手な指示をした。


「やるしかないか......」


 ルリは戦斧を担ぎ、レオのサポートに回ることにした。




◇ ◇ ◇




「おい! 始まったぞ! 小隊長2人によるB級討伐!」


「実際どっちが強いんだろうな〜」


 いつの間にか、第1小隊の隊員たちは車両を降りてきており、2人の戦いを見物し始めた。


「アイツら呑気だな......」


 そう言うジャズを先頭に、第4小隊は、第1小隊とは違い、いつでも出撃できる装備で降りてきた。


「しっかしなんで2人で討伐なんてするんだ?」


 ファラグがそう聞いたが、確かにその通りだ。

 ルリがそんな判断をするわけがない。

 きっとレオが勝手にやったことを、しょうがなく付き合っているのだろう。


「多分、力の証明。どちらの小隊長が強いのかを示すつもりだと思う」


 スーリンは理由が分かっているらしい。


「まあ、お互いに小隊長がどういう戦闘スタイルか知っておきたいのは確かだ」


 マルクもスーリンの意見に同意した。

 

「大丈夫でしょうか......」


 ラギルスは不安げにそう言った。




◇ ◇ ◇




「ハハハッ! ルリ! 仲間に戦わせてたのか! 動きが鈍ったんじゃないかい!」


「この野郎......」


 ルリが怒るのも無理はない。

 レオは、ジャイアントサーペントが攻撃を仕掛けてくるタイミングで、ルリの方に誘導してくるのだ。

 そのせいで、上手くルリが動くことができない。


「合わすに合わせられない。こっちに誘導するな下手くそ」


 若干キレ気味でルリはそう返した。


「言ってくれるじゃないか! そんなに言うなら先に仕留めさせてもらうよ!」


 突如、レオは動くのをやめ、その場でカウンターの体勢をとる。


「キシャアアアアア!」


 ジャイアントサーペントは、この好機を逃すまいと、攻撃を仕掛けてきた。


 真正面から受けるつもりかアイツ。


「フッ」


 ギリギリまで引きつけたレオは、鼻で笑った。


「よっと」


「シャッ......」


 ジャイアントサーペントの攻撃をヒラリと躱しながら首にダメージを与えた。

 隊員たちがスクラープのズーム機能で見ているのか、歓声が上がる。

 凛としているレオのその様子は、まるで闘牛士のようだった。


 魅せる戦い方は嫌いだ。


 明らかにあの攻撃では致命傷は与えられないことは、ルリには分かっていた。


「シャアアア......」


 ジャイアントサーペントの攻撃手段は、あの頭と尻尾だけだ。

 しかし逆に言うと、頭しか弱点がないとも言える。

 とぐろをまかれてしまえば、頭の位置は高くなり討伐は困難になる。

 その前には仕留めたいが。


「おいレオ、早く仕留めるぞ」


「んー? いいよ。守りに入られたら面倒臭いしね」


 分かってるならあんなことするなよ......。


「じゃあ合わせてくれよ!」


 レオはターボグライドをフル稼働して、急発進した。


「ああ」


 ルリも遅れないようにターボグライドをフル稼働して発進した。


「キシャアアアアッ!!!」


 ジャイアントサーペントも、迎え撃とうと雄叫びを上げた。


 それと同時に、ルリとレオは左右に旋回した。

 ターボグライドをフル稼働しているので、一気に2人との距離が開く。


「?」


 ジャイアントサーペントは目をギョロギョロさせ、2人の様子を伺う。

 すると......。


「ッ......シャアアアア!!」


 ルリ目掛けて突っ込んできた。


 まあそうなるよな。

 スクラープの常時出力レベルはあっちが上だ。

 当然俺の方が遅く見えるよな。

 と言っても、レオの位置もちゃんと把握しているな。


「俺が怯ませたら仕留めろよ」


 レオに通信で一言入れる。


「どっちにしよ倒すから安心し――」


 相変わらず言動が腹立つので、言い切る前に通信を切った。


「シャアアアアッ!!!」


 目の前までジャイアントサーペントの顔が近づいていたが、すでにルリは戦斧を構えており、あとは振り下ろすだけの状態だ。


 今だ。


「フンッ!」


 ジャイアントサーペントの大きく開いた口に目掛けて戦斧を振り下ろした。

 というより、上の牙に向けて叩きつけるようだった。


 ガキンという鈍い音が鳴ると、ブワッと風が舞い上がった。


「ぐっ......」


「ガガッ......」


 そのまま戦斧と牙は離れず、力の押し合いになった。

 

 流石に骨が折れる。

 コイツの勝手な行動には一生付き合わないからな。


「ぬ............ああっ!!」


 十数秒の間、力を押し合いをしたルリは、戦斧を振り切ることができた。


「ガッ......!?」


 ジャイアントサーペントの頭が宙に弾かれた。

 そしてそのまま仰け反るような体勢になった。


「今だ!」


 ルリは即座にレオに合図を出す。


「任してく......れっ!」


 レオはルリが力の押し合いをしている間に、ジャイアントサーペントの背後に回っていた。

 そして合図とともに、弾かれたジャイアントサーペントの頭上にジャンプをし、剣を構える。


「ハァアアアッ!!」


 レオはこれでもかってくらいジャイアントサーペントの頭を中心に切り刻んだ。


「ギャッ!............キシャアアッ!」


 最後の抵抗か、青い血を撒き散らし、身をよじらせて暴れ始めた。


「結構頑丈タフだなコイツ」


 着地したレオは、呑気にそう言った。


「早く終わらせるぞ」


 ルリは呼吸を整え、トドメを刺すつもりのようだ。


「もっと焦ってくれてもいいのに。可愛くないなぁ」


 そう言ったレオはゆっくりと、暴れ回るジャイアントサーペントに近づく。


「おいちょっと待て! 何考えてる!」


 レオはルリの制止の声を無視して、剣をクルクル回しながら進んでいく。


「まあそんな騒がないでくれよ」


 流石にジャイアントサーペントも、自分に近づく影に気がついた。


「シャアアアッ......アッ? ギシャアアアッ!!」


 自分をここまで傷つけた相手だと認識すると、怒りをあらわにして噛み付いてきた。


「よっと」


「……は?」


 ルリは呆気に取られていた。

 レオがノールックで、ジャイアントサーペントの頭を下から剣で突き刺したのだ。

 その剣は、ジャイアントサーペントの口が開ききる前に突き刺したおかげか、見事に貫通している。


「ガッ......ギッ......」


 ジャイアントサーペントは痙攣しながら、呻き声を上げている。


「ん」


 レオはグッと力を入れたと思えば、一気に剣を引き抜いた。

 ジャイアントサーペントは支えるものがなくなり、その場に倒れた。

 動く様子はなく、見事に討伐完了してしまった。


「はいお終い。死体どうする?」


「どうするって......一旦置いといて、フォーン討伐後に一緒に持って帰ればいいだろ」


 レオの変わりようにルリは驚きはしたが、冷静に質問に答えた。


「それもそうだね。死体に別のモンスターが寄ってくるかもだし」


「ハッ、てっきりそれ目的で持ってくと思ったがな」


 ルリは煽るようにそう言った。


「いやいや流石に中隊を危険にはできないよ」


 真面目に答えたレオは、血だらけの剣を握ったままルリに近づく。


「俺が思ったより強くて焦っちゃったのかな? そんな挑発で何か探ろうとしても無駄だよ」


 剣先をルリの眼前に向けてそう言った。

 明らかにいつものレオとは様子が違った。


「そっちの方が合ってるぞ。普段のおチャラけたのより幾らかマシだ」


 ルリは圧に押されずにそう言った。


「あっ......そっ」


 レオはルリに向けた剣を素早く降った。

 一瞬風が起こり、地面には剣に着いていた青い血が叩きつけられた。

 そして剣を収めた。


「こちらレオ。ジャイアントサーペントを討伐完了。死体は帰りに持って帰るから、フォーン討伐に行く準備を始めてくれ」


 レオは通信を通して、討伐が完了したことを第1小隊全員に伝えた。

 それと同時に歓声が上がった。


「こちらルリ。もう分かってると思うが、ジャイアントサーペントを討伐した。総員車両に戻るように」


 ルリも第4小隊に通信を入れた。


「よし。じゃあ戻ろうか」


 そう言ったレオは、いつも通りの雰囲気に戻っていた。


「......ああ」


 コイツは一体、何を考えているんだ。

 本当の強さを隠しているのか?


 ルリは、レオのことを今まで以上に警戒することにした。

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