第11話 スタンピード


「G17隊員! 総員に通達する! 皆も薄々感じていると思うが、最近のモンスターは変異し、危険度も上がっている!」


 今日も朝礼が行われており、隊長が全体に近況を伝える。

 すでに経験している隊員たちは、この後隊長が話す内容を薄々分かっていた。


「そうだ。『スタンピード』の兆候が見られる」


 スタンピードという言葉が出てきたことにより、隊員たちがざわめきはじめる。

 士官学校で習ったことがある、最悪の出来事、スタンピード。

 それはD8基地で起きたことである。

 モンスターが異様に強くなり、種類関係なく基地を襲ったものである。

 1枚だけ写真が残っていたが、様々な場所に火が上がる中、スクラープとモンスターが戦う光景は、正しく戦争そのものだった。

 結局モンスターの討伐には成功したが、数人しか生き残らず、基地はそのまま放棄された。


「だが! 未然に防ぐ方法はある!」


 どうやら解決策があるようだ。

 隊員たちは少しホッとしている。


「スタンピードの中心となるモンスター。つまりB級、もしくはA級を事前に討伐することだ!」


 隊員たちには、先ほどよりも動揺が見える。


「俺B級なんて戦ったことないよ……」


「怪我から復帰したらAかB級だって!?」


「無理無理無理!」


 ほとんど高難易度モンスターと戦闘経験がない隊員たちは嘆く。


「分かっている! いきなり難易度を上げても負傷者が増えるだけだ! だから2つの小隊を合体させ! 2つの中隊を設立させることにした! もちろん期間限定だがな」


 どうやら4つの小隊を、2つの中隊にまとめるらしい。

 3つの隊が驚きつつも、安心しているような顔を見せる。

 対して第4小隊は、全く表情を変えずにいた。

 何人かは嫌そうな顔さえしていた。

 ラギルスは目を輝かせていたが。


「この後、各小隊長は私の部屋に来い! そこで今後どうするかを決める! では解散!」




◇ ◇ ◇




 ルリは朝礼の後、隊長の部屋に向かった。

 今は扉の前にいる。

 コンコンとノックをして、反応を待つ。


「入れ」


「失礼します」


 中から聞こえた隊長の声を確認し、扉を開ける。

 そこには、大きな机に肘をついている隊長と、その前に小隊長3人が立っていた。


「全く、もっと早く来い!」


「すいません」


 ルリはとりあえず謝っておく。

 順番に並んでいるので、ルリは端に立つ。


「まぁいい。では早速、どの隊とどの隊を合わせるか決める。各小隊長は組みたい隊を上げて欲しい」


 そう言うと、第1小隊の金髪の青年が前に出る。


「はっ。第1小隊小隊長、レオ。特に希望はありません。しかし、どの隊でも上手くやれる自信があります!」


 戦場にしては綺麗な顔立ち、爽やかな声、きっとカリスマ性があるのが伝わってくる。


「よし! 次!」


 レオが1歩下がり、第2小隊の、紫色ロングの女性が前に出る。


「第2小隊小隊長、エイリーン。希望は第4小隊です」


 タレ目で顔が整っている美女だが、淡々と話す口ぶりの裏には、何かの企みが見える。


「……」


 ルリは、何で第4小隊と組みたいんだと言いたそうな顔を見せるが、その顔をチラリと見たエイリーンは、微笑んだ。


「なるほど……次!」


 エイリーンが1歩下がると、今度はガタイのいい男性が前に出る。


「第2小隊小隊長ナグール!希望は第2小隊!」


 ハキハキと喋る男性。

 髪型もほぼ坊主に近く、熱血という言葉が似合いそうだ。


「なるほど。次!」


「第4小隊小隊長ルリ。希望はなし。どことも組みたくないです」


 ルリは自分の思ってることをハッキリ言った。


「ほぉ? 理由を聞こうか?」


 隊長は興味ありげに理由を聞いてきた。


「シンプルに弱い奴の命を背負いたくないです」


 その意見に、レオとナグールは不満げな顔を、エイリーンは口角を微かに上げた。


「フンッ、大きく出たな貴様」


 隊長は鼻で笑った。


「まぁいい。とりあえずお前らの意見は分かった。今日の夜にはどこと組むのかを伝え、明日には早速合同任務に行ってもらう。いいな?」


「はっ!」


 4人は揃えて返事をする。


「では解散」


 その言葉を受け、4人は順番に部屋を出ていった。




『レオ』

・性別:男

・役割:第1小隊小隊長。近接部隊(メレー)

・年齢:17歳

・金髪の身長178cm。

・さわやかでカリスマ性がある。女性人気がある。

・武器:剣(ロングソード)※片手で扱う。


『エイリーン』

・性別:女

・役割:第2小隊小隊長。近接部隊(メレー)

・年齢:19歳

・紫色のロングヘア。身長176cm。

・大人っぽい。男性人気が高い。ルリに好意を示しているのか、ルリの前だと態度が変わる。

・武器:双剣(ツーソード)


『ナグール』

・性別:男

・役割:第3小隊小隊長。近接部隊(メレー)

・年齢:18歳

・金髪の身長187cm。

・筋肉と共に身長もあるので、”G17の巨人”とも言われている。

・武器:籠手(ガントレット)


◇ ◇ ◇




 部屋を出て早々、ルリは他の小隊長3人に囲まれていた。


「やあルリ。先ほどの弱い発言について聞きたいんだが」


「そうよ〜。弱いなんて言わずに私のとこと組みましょうよ! ね?」


「そうだぞ! 同じ基地の仲間になんてことを言うんだ!」


「……」


 3人揃うとやかましいな……。


「弱い奴のお守りは嫌なんだよ。タダでさえこっちは変わった奴ら抱えてるんだ」

「あとエイリーン抱きつくな離れろ」


 後ろから抱きついていたエイリーンに離れるよう言った。


「もうっ、冷たいんだから」


 そう言いつつも、ルリから離れる様子は見えない。


「ルリ、そんなに言うなら証明してみせるよ。第1小隊は弱くないってことを。訂正してくる」


 レオは勝手に対抗心を燃やし、第4小隊と組みたいようだ。

 もう一度隊長の部屋に入っていった。


「アイツ怒ってた?」


 面倒くさそうな顔をして、2人に聞いた。


「まぁルリのことライバル視してるらしいし」


「ああ、アイツは熱い男だ!」


「どこがだよ……もう戻るわ」


 ルリは呆れながら、自室へ帰ろうとする。


「え〜。どうせ暇なんでしょ。イチャイチャしましょーよー」


 エイリーンはルリを離す気がない。


「しつこいぞ。ナグールは何でコイツと組みたいんだよ」


「第3小隊みんなの意見だ! 俺はそれを尊重する!」


「アンタのとこ男ばっかでしょ。どうせ私のとこ女の子ばっかだから狙ってんでしょ」


「む、そうなのか?」


「俺に聞くな」


「まぁどっちにしよ、私はルリと組みたいのよ」


 エイリーンは、後ろから抱きつきながら頬擦りをする。


「断る」


「まっ……たく揺らがないね。はいっ」


 諦めたのか、腕を広げてルリを離す。


「……」


「何見てんの。何も企んでないわよ。あっ、それとも私に惚れて……」


「じゃあな」


 冗談を言うエイリーンを適当に流し、ルリはとっととその場を離れていった。


「珍しいな。そんな簡単に引くとは」


「うーん。何かいつもと違う。牙が抜けた?」


「俺にはさっぱりだ!」


「アンタじゃ分かんないでしょ。まぁそのうち分かるでしょ。私も戻る」


 区切りもいいので、エイリーンも自分の隊に戻ろうとする。


「そうか。結局エイリーンの希望は被ってしまい、俺の希望が通るとしたら、第1小隊と第4小隊。第2小隊と第3小隊になるのか?」


「はぁ? 嘘でしょ! アイツ止めなきゃ!」


 エイリーンは歩き出してすぐ振り返り、ダッシュで隊長の部屋に向かっていった。


「……俺だけになってしまった。よし! 筋トレにでも行くか!」

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