第10話 悪い予感


 基地に帰ってきた後、やることを終えた第4小隊は、報告会までまだ時間があるので大食堂に向かっていた。


「……な、なぁアリナ」


「何よジャズ」


「お前いつまで引っ付いてるんだよ……」


 アリナはラギルスの右腕に抱きついていた。

 帰還する車両の中からからずっと。


「うるさいわね!」


 ジャズに怒鳴ったアリナは、さらに抱く力を強くする。

 その様子を見たラギルスは苦笑いをする。


「ったく、すっかり子猫みたいになっちまって……ラギルスも、コイツが何かしてきたらすぐ言えよ」


「アハハ、分かりました。って今名前......」


「ッ……。あーなんか腹減ったなー! 今日の飯は何だろうなー!」


 ジャズは誤魔化すように声を大きくし、少し早歩きになった。


「プッ……アハハハハッ!」


 ラギルスは思わず吹き出し、高らかに笑った。

 周りも釣られて笑い声や笑みがこぼれた。


「うわジャズきも〜」


 アリナはジャズを指さして罵る。


「いやお前の方がおかしいだろうが!」


「ラギルスとはもう親友だからいいんです〜」


「えっ、親友です……か?」


「うん! もしかして嫌だった……?」


「いや、あの、いいんですか? まだ会ったばっかですし、私は皆さんが言う貴族の出身ですよ?」


「……もー何言ってんの。時間とか出身とかどうでもよくない? 親友って言ったら親友なんだから!」


「ぁ……はいっ!」


 ラギルスは涙目になりながらも、元気よく返事した。

 その後も、いい雰囲気は絶えることなく、第4小隊は大食堂に向かった。


「チッ、俺はまだ認めてねぇからな」


 移動する第4小隊の後方で、マルクはそう呟いた。




◇ ◇ ◇




 今日G17隊は、珍しく死傷者を出さずに任務を完了させた。

 夕食を済まし、報告会をした後もラギルスの周りには人が集まり、改めて自己紹介が行われていた。

 だが、まだラギルスのことをよく思ってる人はいる。

 数人はすぐに自室へ戻っていった。


「……」


 ルリも、ラギルスが楽しく話してる姿を確認し、自室へ戻っていった。




『マルク』

・性別:男

・役割:近接部隊(メレー)

・年齢:16歳

・オレンジ髪の身長167cm。

・少し子供っぽいところがある。身長が低いことを気にしてる。



『スーリン』

・性別:女

・役割:近接部隊(メレー)。

・年齢:18歳

・ブロンド髪、ショートヘアの身長174cm。

・表情に変化がなく、クールなイメージがある。




◇ ◇ ◇




「スゥ……スゥ……」


 あっという間に日は暮れ、基地にいる人間はほぼ眠りについただろう。

 ルリも、今日は出力レベルを上げたわけではないが、特に起きてる意味もないので眠りについていた。


コンコンっとノック音が聞こえた。


「ん……誰だ?」


「ラギルスです。こんな夜遅くにすいません」


「いや構わない。扉は開いて――」


 体を起こすと、ラギルスはすでに部屋に入っていた。


「実は相談があって……」


 先ほどの明るい表情とは違い、かなり悩んでいる顔をしている。


「とりあえずそこの椅子にかけろ」


 ルリはベッドに腰掛ける姿勢になり、ラギルスに椅子に座るよう指示を出す。


「失礼します」


 指示を無視して、ベッドに腰掛けた。


「おい」


「それで相談なんですが」


 ラギルスはルリの腕と自分の腕がくっつくほどにグッと近づいた。


「……はぁ。話してみろ」


 ルリは呆れたようなため息を吐き、話を聞き入れる体制に入る。


「まず報告で、みんなと仲良くなれました。ありがとうございます」


「俺は関係ないだろ。まぁこんなに早く仲良くなれたことは、第4小隊としては大きい」


「親友も出来ました」


「ああ」


「でも、だからこそ不安なんです」


「不安?」


「だって、いつ死ぬか分からない戦場で思い出が増えたら、最後私は笑えているのでしょうか?」


「死んだら笑えないな」


「仲間のことです。私は後回しでいいですけど、この戦いが終わったとき、何人生き残ってるのか、想像するだけで……」


「はぁ、そんな先のこと考えるな」


「考えますよそれは」


「じゃあ1つ教えといてやる。まずは自分第一だ。他人のことは後回しだ。考えを改めよ」


 ルリは肘を膝の上に置いた。


「で、でも!」


「他人第一、それこそさっき言ってた最悪の展開に繋がる」


「だからって見捨てるわけには!」


「じゃあ目の前で、あと数cm手が届いていたら助けられたということがあったら?」


「それは……」


「味方の命、夢を背負うことはな、上に任せとけばいいんだよ。だからお前がそんなに深く考える必要は無い」


「……」


「分かったらもう寝ろ。明日の朝礼に遅れたら俺が怒られるんだからな」


「いやまだ納得したわけでは!」


「納得はしなくていい。これは俺の意見だ。だからこれ以上俺からは答えが出てこない。つまり話は終わりだ」


「……分かりました」


 ラギルスは頬を膨らませ、扉へ歩いていった。


「また何かあったら来い」


「......はい」


 ラギルスは扉を開け、自室へ戻っていった。


「……行ったか」


 ルリは、ラギルスが遠ざかるのを確認すると、ベッドに横になった。


「そろそろデカい戦いが起こるはず……そんな余計なこと、考えれば考えるほど辛くなるぞ」


 天井に向かってそう言ったルリは、再び眠りについた。




◇ ◇ ◇




 翌日、いつも通り行われた朝礼。

 いつもより開始が遅れた気もしたが、治療から復帰するものが多いことに気を取られ、あまり気にしなかった。

 しかしその日告げられたことは、G17隊にどよめく内容だった。



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