第3話 ケルベロス戦(2)


「ルリ!!」


 アリナのピンチを救ってくれたのは、青のスクラープを身に纏ったルリだった。


「すまん。ケルベロスに気づかれないようにしていたら遅れた」


「十分早いっての。アンタが来たら百人力だよ」


「俺ができるのは時間稼ぎだ。お前らは再装填リロードして、騎兵トルーパーの位置まで後退しろ」


「そこで討つってこと?」


「一斉射撃だ。それでまだ立ってたら、近接部隊メレーが時間稼ぎをしてまた一斉射撃だ」


「でもそれまでどうするの?」


 リサは不安な様子で聞いた。


「だから言っただろ。俺ができるのは時間稼ぎだ」


「まさか1人で!?」


「援護はミーナに任せてる。死にはしない」


「で、でも……」


「ワンッワンッ!」


 どうやらこれ以上喋る時間はないようだ。

 後続のガルムたちが次々と襲いかかろうと近づいてくる。


「とにかく砲兵ガンナー各員にそう伝えて、万全の状態にしていてくれ」


 ルリはそう言うと、戦斧を振りかざし、群れに突っ込んで行った。


「アリナ。こ、これでいいの?」


 リサは、ルリへの負担が余りにも大きいと感じているようだ。


「……今は従お。ただし! 後でこっぴどく叱ってやるから!」


「そ、そうだね! 喋ってないで早く準備しなきゃ!」


 アリナとリサはルリの指示に従うことを決め、砲兵各員に後退することを伝える。


「死なないでよ。死んだら叱ることもできないんだから……」


リサはボソッと呟くと、スピードを上げて後退していった。




◇ ◇ ◇




「こちらジャズ! 逃げるガルムは全部仕留めた! 俺らも合流するか?」


 近接部隊は、ルリに言われた通り逃げるガルムを全て討伐した。


「こちらルリ。今からケルベロスとぶつかる。バレないように近づき、合図を送るまで身を潜めていて欲しい」


「1人でやるのかよ! 俺らも加勢して……って切りやがったアイツ」


「どうする?」


 話を聞いていたスーリンがジャズに聞く。


「そりゃやるしかねぇだろ。策があるに違いねぇ」


「でもさ、今回の任務のルリ。なんかおかしくない?」


 今日ずっとルリの行動に不満を示していたマルクがそう言った。


「そ、そんなに変だったかな?」


 ダルカンが思い出しながらみんなに問いかけた。


「まぁちょっと焦ってるっていうか、やけに前に出てる気がしなくもないけど」


 ファラグは思ってたことを言った。


「それだけ今回の相手がヤバいってこと?」


 ラトは1つの可能性を口に出した。


「まぁそのことについては、終わったらアイツに聞こう。とりあえず行くぞ」


「お、応ッ!」


 今日のルリに様子に疑問を持ちながらも、近接部隊はルリの指示通りに動き始めた。




◇ ◇ ◇




「数は大分減ってるな。あと7体か」


 ルリは残りのガルムの数を把握すると、向かってくるガルムを1体ずつ確実に倒していく。


「グルルルルッ…………キャンッ」


 ルリの余りの強さに立ち止まり好機を伺うガルムは、狙撃手が狙撃することで効率よく数を減らしていく。


「あと3体」


「ウゥゥゥ……ワンッ!」


 残りの3体はタイミングを合わせ、ルリに同時に飛びかかった。

 しかし抵抗虚しく、戦斧の大振りでまとめてやられてしまった。


「ガルム48体討伐完了。あとは……」


 ルリが前を見据えると、怒りが溢れ出しているケルベロスが立っていた。

 その距離およそ15m。

 ケルベロスの図体ならば、一瞬で距離を詰められるだろう。


「こちらルリ。ケルベロスとの交戦に入る。一斉射撃は俺の合図で頼む」


 通信を使い、第4小隊全員にそう伝える。


「ヴァオオオンッ!!!」


 それと同時に、3つの頭が雄叫びを上げて攻撃を仕掛けてきた。


「……確かにデカイな」


眼前まで迫るケルベロスを見て出た言葉はこれだった。




◇ ◇ ◇




「ベルハラ! ランチャー使うから出して!」


 騎兵の位置まで下がったアリナはランチャーという言葉を出す。


「スパイクランチャーか。まあやむを得ねぇ。あそこの車両に積んである。勝手に取ってけ」


 機体から顔を出したベルハラは、端の方にある車両を指さした。


「ありがと! ルリには後で言っとく!」


本来、スパイクランチャーは小隊長の許可が出ないと使えないが、今ルリは通信を取れる状態ではないので今回は許可なしで使う。


「ハッ! 私らもどうせならとびっきりのをかまさないとな! 騎兵各員! 配置につけ!」


「応ッ!」


 ベルハラも気合を入れて騎兵各員に指示を出す。

 少しでもケルベロスの注意を分散させるために、機体1つ1つの間隔をあける。


「こちらルリ。ケルベロスとの交戦に入る。俺が合図したら一斉射撃をしろ」


 ここでルリから、ケルベロスとの交戦が始まるという報告が小隊全員に伝えられる。


「ヴァオオオンッ!!!」


 それと同時にケルベロスの雄叫びが響き渡る。


「始まった……」


 砲兵の1人が呟いた。

 ルリとケルベロスの戦いが始まったことで、小隊全員に緊張感が走る。


「ほら! ぼーっとしてないで早く準備して!」


 リサは、戦いの光景を見ていた隊員たちに準備を急かす。

 ハッとした隊員たちは先ほどよりも急いで準備にかかる。


「はぁ……大丈夫かな?」


 しかし、ルリが心配という気持ちはリサにもあった。


「リサ! 今ジャズと連絡取れたけど、ケルベロスの近くで待機みたい。一斉射撃に巻き込まれないように指示しといたから、思いっきりやるよ!」


 ジャズと通信で連絡を取ったアリナは、近接部隊の動きをリサに教えた。


「……」


「リサ?」


「あっ、ごめんごめん! 私も配置につくね!」


 リサは焦った様子で、自分の持ち場に走っていった。


「何かあったのかな? まぁ後で聞くか」




『スパイクランチャー』

・着弾後、小爆発も十数回繰り出す。

・遠距離でも正確に発射、着弾することができる。




◇ ◇ ◇




「ヴァンッ!!」


 戦闘が始まるやいなや、素早い爪を使った攻撃にルリは翻弄させていた。

 攻撃を躱した場所を見ると、地面が爪の攻撃により抉れていた。


 付け入る隙がないな……。


 とにかく攻撃を避け、反撃のチャンスを伺う。


「ヴァンッ!!!」


 攻撃が当たらないことにイラついたのか、真ん中の頭が噛み付いてきた。


「ッ……」


 少し驚いたが、右にジャンプして攻撃を躱す。


「ヴァンッ!!!」


 着地を狙って、ケルベロスから見て左の頭が噛み付いてきた。


「なっ……」


 ターボグライドの出力を最大にし、間一髪のところで躱す。


「あれを左右に避けるのは危険か……ん?」


 左脇腹を見ると、装甲が若干剥げていた。


「 掠っただけでこの威力か」


 だが今のような決め技はそうそう出ないはず。


「ウゥゥゥ……」


 決め技を躱されたこともあり、攻撃の手を1度止める。


「……どうするか」


 一斉射撃のためにも一撃は与えたい。

 こちらが有利なところは、半分目を潰していることだけ。


 これだけでも十分有利のはずだが、さすがB級だ。

 ピンピンしている。


「……出力上げるか」


 ルリがそう言うと、スクラープが電流が流れるように瞬間的に白く光る。


「スクラープ出力上昇。レベル6」


 ルリのスクラープを白い光が纏う。


「グルルルルッ……」


 先ほどとは何かが変わったルリの姿を見て、ケルベロスはより一層警戒する。


「行くぞ」


 何やら様子が変わったルリが、ケルベロスに攻撃を仕掛ける。


「……ッ!?」


 今までとは比にならないスピードでケルベロスに近づいた。

 明らかに強くなったと感じたケルベロスは、一瞬驚くも、足を振りかざして迎え撃とうとする。


「直線で突っ込むわけないだろ」


 ルリは素早い動きで、右へ左へとジグザグにケルベロスに近づく。


「ヴャンッ!!!」


 振りかざした足の爪で攻撃するが、ケルベロスはまだ速さに対応しきれてない。

 掠ることも出来ずに避けられてしまう。


「ここだ」


 次の攻撃を仕掛けようとするケルベロスの眼下に潜り込み、胸に戦斧で一撃を入れる。


「ギャンッ!!」


 胸から青い血が吹き出す。

 ケルベロスは悲痛な声を上げたが、あまりダメージは入ってないように見える。


「硬いな」


「ヴァンッ!!!」


 ケルベロスは傷を負わされたことに激怒し、先ほども行った噛み付く攻撃をしてくる。


「これを待ってた」


 ターボグライドを逆にフル稼働させて、少し後ろに下がり攻撃を避ける。

 そして、位置が低くなったケルベロスの頭の上にジャンプした。


「……ッ! ヴァンッ!」


 ケルベロスは即座に顔を上げたが、ルリは既に噛み付けない位置に飛んでいた。

 ルリは狙いを定めると、戦斧を大きく振りかぶった。


「フンッ!」


 今までの斬る振り方ではなく、戦斧を思いっきり叩きつけた。


「ギャッ……!!」


 ケルベロスから、断末魔のような声が上がった。

 先ほどよりもダメージが加わってることは明らかだ。


「よし」


 地面に無事着地したルリは、即座に通信をアリナとベルハラに繋げた。


「今だ!」


 ルリが珍しく大きい声を上げると、離れた位置から瞬間的な光が無数に見えた。

 ルリは全速力でケルベロスから離れる。


 数秒後、先ほどの攻撃のせいで動けないケルベロスが、無数の赤い光に包まれた。




『スクラープの出力レベル』

→出力レベルに伴い、強さが決まる。


・レベル1:狙撃手

・レベル2:砲兵

・レベル3〜4:騎兵、近接部隊

・レベル5:小隊長


大まかにこのようになっている。

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