第2話 ケルベロス戦(1)
「こちら
スクラープの通信機能を使い、小隊全員の耳にベルハラの声が流れた。
車体に揺られること数時間、今回の討伐対象であるケルベロスと、ガルムの群れを発見した。
その場所はもう廃れた町であり、荒廃した建物しか見当たらなかった。
「了解した。総員降車し、討伐の準備にかかれ」
「はっ!」
通信を通したルリの指示により全員が一斉に降車し、それぞれが準備を始めた。
◇ ◇ ◇
隊員たちが、地形や標的の下見、武器の装備などを終わらせた。
今は各役割の代表、ジャズ、アリナ、ミーナ、ベルハラ、小隊長のルリの5人で最終確認を行っていた。
「敵モンスターの数は、ケルベロス1体とガルム48体で間違いないな?」
「……うん。でもケルベロスが思ってたより大きい気がする」
ミーナたち
しかしケルベロスが少し大きいという。
もしかしたら特殊個体かもしれないとルリは考えていた。
「ったく、ガルムが思ったよりいるな。それだけケルベロスが強いのか?まぁ地形に高低差がほとんどねぇのが唯一嬉しいとこだが」
ベルハラたち騎兵には地形を確認してもらったが、特に作戦に支障はないようだ。
荒廃した建物を使えば、身を隠すこともできる。
「あたしたちも銃は問題なかったからいつも通りに戦えるよ~」
「俺たちも特に問題なしだ。思う存分戦える」
前線で戦うジャズとアリナたち、
「よし。作戦に変更はない。お前たちもそれでいいな?」
作戦はそのままで行くことを4人に問うと、全員が快く返事をした。
「総員に伝える。作戦に変更はない。標的はガルム48体、ケルベロス1体だ。心してかかれ」
ルリはスクラープを通して、全員に作戦開始を告げた。
『近接部隊各員の名前と使用武器紹介』
・ルリ(男):戦斧(バトルアックス)
・ジャズ(男):大剣(ツーハンドソード)
・マルク(男):剣(ロングソード)
・ファラグ(男):剣(ロングソード)
・ラト(女):槍(スピア)
・スーリン(女):片手剣+盾
・ダルカン(男):槌矛(メイス)
◇ ◇ ◇
近接部隊は群れの正面、200mほど離れている瓦礫に身を潜める。
群れを中心に、近接部隊の反対側の建物の陰には砲兵が。
さらに後方には騎兵が身を潜めている。
狙撃手は各々狙いやすい位置に移動している。
「全員配置についたな。近接部隊行くぞ」
「応ッ!!」
小隊全員が配置についたのを確認すると、ルリの掛け声を皮切りに討伐が始まった。
近接武器を持った近接部隊7名はターボグライドを稼働し、モンスターの群れに突撃仕掛けた。
「?……ッ!! ワオーーン!!」
そのことに気づいた1体のガルムが、敵の接近を群れに伝えるために遠吠えを上げた。
その声を聞き、群れは臨戦態勢に入る。
「……ヴァオオオンッ!!!」
ケルベロスの真ん中の頭が雄叫びを上げると、ガルム7体がこちらに向かって走ってきた。
早速、大剣を構えたジャズが1体に攻撃を仕掛ける。
「……ッ!」
しかし振り下ろしてた大剣を瞬時に躱し、反撃を仕掛けてきた。
「何やってん……のッ!」
大剣で防御しようとするジャズの後ろから、ラトが槍でガルムの喉を突き刺した。
キャンッと声を上げたと思うと、首を振り回して槍の刀身を抜いて少し後ずさる。
「悪いラト。助かった」
「感謝なら後で言って! 次の攻撃来るから早く構えて!」
「おうよっ!」
「各員に告ぐ。2人1組でガルム1体を討伐しろ。4体は俺がやる」
ジャズとラトの様子を見たルリは、新たな指示を出した。
「そんなに俺ら心もとないのかよ!」
しかし、マルクが反対する。
「効率を考えた結果だ」
「お、おいっ! クソっ、行くぞファラグ!」
「お、おう!」
不満気だが指示に従うことにしたマルクは、ファラグとペアを組み、ガルムに攻撃を仕掛ける。
「じゃあ私はダルカンとか」
「う、うん。よろしくね」
スーリンはダルカンと組み、ルリ以外は2対1の構図ができた。
それを確認したルリは更にスピードを出し、ガルムに急接近する。
「ウゥゥゥ……ワンッ!」
1体のガルムが接近したルリに飛び掛かった。
ズパッという音が聞こえたと思うと、飛び掛かったガルムが真っ二つになっていた。
真っ二つになったガルムが地に落ちると、残りの3体は足を止める。
「スゥ……」
ルリは落ち着いて息を吸うと、様子を伺う3体のガルムに戦斧を振りかざして襲い掛かる。
ガルムは声を上げる間もなく、3体とも一撃で倒された。
「フゥ……」
ルリは息を吐き、後ろを振り返る。
ちょうど他のメンバーも、誰も怪我することなくガルムを倒し終わっていた。
「あ、相変わらず強いな~」
一撃でガルムを倒していったルリを見て、ダルカンは感心する。
「それに比べてダルカン。アンタはもう少し強気で行け。図体がデカい分パワーあるんだから」
「うっ。ご、ごめん」
スーリンが、ダルカンに先ほどの戦いについてアドバイスをする。
「…………」
その横でマルクが、不満そうにルリを見ていた。
◇ ◇ ◇
「こちらルリ。ケルベロスに動きはあるか?」
ルリは、ミーナに敵の動きを確認するため、通信を入れる。
砲兵と騎兵の一斉掃射を行うには、もう少し数を減らしたい。
「こちらミーナ。怪しい動きをするのが何体かいる。多分次の攻撃が来る」
「了解。その攻撃を近接部隊でギリギリまで引き付ける。そこで合図するから作戦通り、ケルベロスを撃て」
「分かった」
ミーナとの通信を切り、アリナとベルハラに通信を入れる。
「砲兵と騎兵は狙撃手がケルベロスを撃ったのを合図に一斉掃射だ。細かい動きはお前らに任せる」
「はーい」
「おう。分かった」
「ヴァオオオンッ!!!」
通信を切ったところで、またもやケルベロスの真ん中の頭が雄たけびを上げる。
すると、十数体のガルムが近接部隊に向かって走り出した。
15、いや16体か。
「近接部隊各員。少し後退だ。引き付けるぞ」
「応ッ!」
ルリの指示により、近接部隊は後退する。
これにより、まだまだ数はいるが、ある程度分断することができた。
「撃て」
ルリの合図とともにバチュンッという音が響いた。
「ッ……ギャオオオンッ!!!」
狙撃手3人が、3方向から同時に狙撃した。
真ん中の頭は右目、他の2つの頭は左目を負傷しており、3つの頭が悲痛な声を上げた。
「騎兵各員! 撃てぇ!」
ベルハラの指示により、騎兵4人が火力の高い砲撃を開始する。
「砲兵も行くよ!!」
アリナの指示により、砲兵も姿を現し、前進しながら銃撃を開始する。
突然、ケルベロスが負傷したことにより、ガルムはどう動けばいいか分からず、右往左往する。
当然、近接部隊に攻撃を仕掛けたガルムたちも唖然としている。
「いまだかかれ。今回は1人で十分だ」
「応ッ!」
十分引き付けた近接部隊は一斉に攻撃を仕掛け、先ほどよりも楽にガルムを倒していく。
と言ってもやはりルリは別格で、一気に5体も片付けた。
「グルルルルルッ……」
ケルベロスは落ち着きを戻しかけているとは逆に、唸り声を上げて怒りを露わにしていた。
「……片付いたら逃げる奴を仕留めにかかれ」
その様子を見たルリは、6名にそう伝えるとどこかに向かっていった。
「何してんだよ! おい!」
マルクは声を荒げたが、ルリは反応を示さなかった。
◇ ◇ ◇
「チッ! ちょこまかと動くな!」
アリナが銃声に負けないほどの怒鳴り声を上げる。
パニックになっていたガルムたちも落ち着きを取り戻し、砲兵の弾を避けるようになってきた。
さらに、砲兵は7名。騎兵は4名と人数不足のため、やっと互角になるまで減らせたところである。
つまりまだ有利というわけではない。
「どうするアリナ! そろそろ
アリナの親友かつ、補佐であるリサが、怒ってるアリナに問いかける。
「くっ……しょうがない! 砲兵各員! 撃ちながら後退して!」
アリナは、砲兵に少し後退するよう指示を出す。
「こちらアリナ。ベルハラ再装填の援護頼める?」
「任せとけ」
アリナはベルハラに通信を繋げ、騎兵に再装填の時間を稼いでもらうことにした。
「ッ……。再装填入ります!」
リサの言っていた通り、あちこちで砲兵が再装填に入り始めた。
「ヴァオオオンッ!!!」
その瞬間、ケルベロスが今までで一番大きい雄叫びを上げた。
「うっるせえな! 何回もデケェ声出しやがっ――」
「ワンッ! ワンッ! ワンッ!」
ベルハラがキレながら前方を見ると、生き残っているガルムたちが、砲兵目掛けて走ってきていた。
その後ろにはケルベロスの走ってくる姿も見える。
「噓でしょ!?」
弾が尽きそうなアリナは、目を見開いて驚いた。
「まずいよアリナ!」
リサも危機感を感じ、アリナに指示を仰ぐ。
「クソっ! ベルハラ援護お願い!」
「分かってる! だがこの速さじゃ全部は無理だぞ!」
アリナはベルハラに援護を頼んだが、ケルベロスとガルムの早さに対応が追い付きそうにない。
「砲兵は後退して! 再装填を終えた奴とまだ弾残ってる奴は接近してきたのを撃ちながら後退して!」
アリナは砲兵が狙われていることを察し、早急に後退の指示を出す。
「騎兵各員! 砲兵に犬どもを近づかせんな! 撃て撃て撃て!」
ベルハラも即座に騎兵各員に指示を出し、向かってくるガルムたちを迎撃し始めた。
「おいルリ! こちらベルハラ! ケルベロスがこっち来てんぞ! どうする!」
焦るベルハラは、ルリに通信を繋いで指示を仰ぐ。
「こちらルリ。今援護に向かっている。凌いでくれ」
「ミーナ。あと敵は何体だ?」
ベルハラには援護に向かっていることを伝え、続けてミーナに残りのガルムの数を聞く。
「こちらミーナ。ガルムが14体。ケルベロスはガルムより遅い。撃つ?」
「いや、ケルベロスは撃つな。動きが遅い奴を頼む。他の2人にもそう伝えてくれ」
「分かった」
ミーナの返事を聞いてから通信を切る。
ルリは、ケルベロスに見つからないように、前もって大回りをして援護に向かっていた。
『リサ』
・性別:女
・役割:砲兵。
・年齢:19歳
・茶髪ポニーテールの身長163cm。
・しっかり者。アリナの親友。
◇ ◇ ◇
「チッ、弾撃つ間隔が長い私らにはやっぱ抑えきれねぇ……」
ベルハラはガルムたちの突進を抑えきれないことを改めて理解する。
「数体抜けるぞ! 気をつけろ!」
ベルハラは、砲兵に警告する。
「分かってる! リサ! 再装填終わったのは!」
「終わったのが2人! 再装填してるのが3人! 私たちはそろそろ弾切れ!」
リサは現状報告をしながら弾を撃ち続ける。
「出来ればケルベロスが到着する前に他全部やっちゃいたいけど……」
「アリナ!」
「どうする? 正直ガルム速いから1人1体で手一杯だし……」
アリナは 何とか打開策をと考えた。
その瞬間――。
「アリナ! 前!」
リサの声を聞きハッとしたアリナは顔を上げると、1匹のガルムが飛びかかってきていた。
「しまっ――」
アリナは気を抜いてしまったことを後悔して、反射的に目を閉じた。
「……?」
しかし、一向に攻撃が来る気配がない。
恐る恐る目を開けると、そこには真っ二つになったガルムと、戦斧を持った青のスクラープがあった。
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