第13-4回「敵陣へ」


<まえがき>

・今回は戦闘パートになります。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 並走していた先行班が、森の深部に進んでいって、かなりの時が経った。

彼らの後を追うように、茂みに身を寄せながら、モーリーさん達の背後について、列になって、足を進めていく。

耳に入ってくるのは、ひやりとした風の心地と木の葉を揺らす音。

そして、周りから聞こえてくる、小さな吐息ばかり。

ふと、視線を右に向けて、敵に見られていないか、確認しようとした───。



 その瞬間だった。



前を歩くトミーさんが止まり、こちらに目線を向けてくる。

そして、指差すその先へ視線が向けられた時、ある光景が目に留まった。

先に行っていた先行班が、一番手前にある、頑丈な木に組まれた見張り台に目をつけて、これから攻めようとしていたのだ。


「どうする。俺達もいくか?」


 足を止めているモーリーさんに、トミーさんが尋ねている。


「いや、1つの櫓に12人は集まり過ぎだ。それなら、向こうの方が良い」


 そう言いながら、彼は視線をより遠くの方へと動かす。

手前の櫓からさらに奥の方に、同じように仮組みして作られたような、見張り台が見えていた。


「やるなら向こうだ。数も手薄、奴らの力じゃあれを落とすのに、時間はかかる。応援に行くなら、あれを落としてからでもいい」

「なるほど。じゃ、あんたに任せるぜ」


 彼の提案に頷き返すトミーさん。

後ろの3人も、こくこくと頷き返していた。


「よし、ついて来い」


 皆の頷きに、彼も頷き返してから、そう言ってすぐ、向こうにある櫓へ向けて足を進めていった。

まだ奴らは、こちらの動きに気づいていない。

先行班に一瞬、目を向けてみると、段取りをしていなかったのか、誰が行くかで少し揉めているような感じだった。



 いや、向こうは向こうだ。

 俺達は俺達で、する事をすれば良いんだ。

 関係ない。



そう言い聞かせるように首を振って、再び前を見据え直す。

先ほど決めた、攻める対象の見張り台に、あと50歩程度まで接近した所で、ピタリと、モーリーさんの足が止まった。


「よし。俺の合図で、手筈通りに───」


 攻めにいくぞ、と言いかけた瞬間だった。

後ろの方が騒がしくなり、ふと視線を向けてみる。

あの先行班が敵に見つかり、乱戦になっていた。


「もうやってんぜ!」

「仕方ない、こっちも斬り込むぞ」


 トミーさんの声に、モーリーさんも頷き返して剣を抜く。

攻める先へ目を向けると、見張り役も乱戦に気を取られており、こちらの動きにまだ気づいていなかった。


「いくぞ!走れ」


 手を動かしてから、昇降用に付けてある取手に向けて駆けていくモーリーさん。



 俺も、続くぞ。



と腹を決めて、彼の後ろに続いていく。

50歩と離れた差はあっという間に詰まり、見張り台のすぐ下へ辿り着いた。


「頼んだぞ皆!」


 モーリーさんはそう言ってからすぐ、しがみついて、上に、上にとよじ登っていく。

俺も負けじと、彼の後ろに続いて、突っ掛かりに手を掛けよじ登っていった。


「スケリー!ヤガリーバ!!」


 見張りもすぐに、俺達の動きに気づいた。

上に居た奴は、登るこちらを指差して、何かを言っている。

木の葉の茂る方からは、弓矢を構えた射手が1人、モーリーさんに狙いを定めていた。



 まずい、射たれる!



考えて動く暇は無かった。


「うおおおおおお!!!」


 気がついた時には、俺は大声を上げてさらに早く上によじ登っていた。

俺の動きに慌てた射手が、パッとこちらに矢を向けてくる。



 あっ、撃たれる!



手から放たれる瞬間、思わず身を止めて兜を向け返す。

固い棒でぶっ叩かれたような強い衝撃が、頭にぐわんと響いた。



 が、俺はまだ生きていた。



目を向け直すと、奴は2発目の準備をしている。

先ほど、射手に何かを言っていた男も、茂みから弓矢を取り出して援護しようとしていた。



 そうはさせるか!



残り3つの突っ掛かりを一気に掴み上がって、ガッと堅い木に腕を掛け、身を乗り出す。


「ウダ!!」


 援護しようとした射手が、俺に向かって叫んでいる。

2発目を手に掛けた射手が、矢を向けて俺を射抜こうとした。



 迷いは無い。



手前の射手の太腿を、ズバリと斜めから斬りつける。

射手は声を詰まらせ、櫓から崩れ落ちた。


「チィッ!!」


 後ろの奴も、慌てて矢を向けた直後だった。

モーリーさんが奴の背後を取り、ズバリと斬りつけてくれたのだ。

崩れ落ちる射手。

モーリーさんの額からは、汗がじっとりと溢れてきている。


「アール退がれ!木の葉に身を隠せ!」


 倒れた射手から弓を奪いながら、彼は口を開く。

思わず視線を周りに向けてみると、向こう隣の櫓に居る射手が、こちらに向けて矢を構えていたのだ。

下に目を向けてみると、リリスも頑張って登ってきている。

下では3人が身を寄せ合いながら、バラバラとやって来ている敵に剣を振るって、牽制をしてくれていた。


「リッちゃん!」


 彼女を早く上げようと、手を差し伸べる。

彼女も頷きながら、手を出して掴んでくれた。

一気に引き上げて、彼女も見張り台の上に乗せると、すぐに首から掛けていたネックレスに手に取って、空に向けて掲げる。

真っ赤な光が、ポンと線になって、飛んでいった。


「よし、茂みに隠れてろ。俺がやられても、敵が突っ込んで来るまで無理をするな」

「いや、俺出来ます!俺も手伝います!」


 弓矢を構えながら話す彼に、考えも無しについ、返事をする。


「バカ野郎!!突っ走るんじゃねえ!身を弁えろ!」


 背面越しに飛んでくる、耳を震わせるほどの怒声。

何も言い返せず、思わず身がすくんでしまう。

彼は気にする事なく、そのまま隣向こうの櫓に向けて矢を飛ばした。

放たれた矢が敵に命中し、その像がぐったりと、崩れ落ちる。


「アール君、そうさせてもらおう。やる事はやったんだし、無理しちゃダメだよ」


 彼女がなだめるように、そう言いながら肩を叩いて、茂みの方へと目を向けている。

茂みの中は切り抜かれたような窪みを利用した物のようで、小さな休憩所と武器置き場になっていた。


「あっ、あれ!」


 空の方を指差す彼女に釣られて、俺もその先へと振り向いた。

真っ赤な、太い線が、白い雲流れる空に向かって、飛んでいく。

どうやら、別の先行班も上手くいっているらしい。


「よし、中班が来る。頑張れよ!」


 モーリーさんが俺達に目を向けながら、声をかけてくれた。

その声からは、先ほどの怒気はすっかり無くなっている。



 今の俺に、何か手伝える事は無いか。



と思いながら、再び周囲に目を向けていくと、ふと斜め下、味方陣営に近い方が、少し騒がしくなったような気がしていた。

目を凝らしてみると、味方が敵陣に突っ込んでいき、敵に斬り込みを仕掛けてくれている。

トミーさん達を囲っていた敵も、困惑するように声のする方へ散ったり、身を寄せて身構えてばかりになっていた。



 やった、助かったぞ。



そんな言葉が、自然と浮かび上がってくる。


「やりましたね!トミーさん!」

「おう!よくやったぞアール!」


 湧いてきた勝利の実感に、思わず下の方へ、声をかけてしまう。

トミーさんも、腕を上げて返事をしてくれた。


「よそ見するな!最後まで気を抜くんじゃねえ!」


 そう言いながら、今度は右側に向けて矢を射掛けるモーリーさん。



 しまった、迂闊だった。



彼の言葉で自分の不注意に気づかされた俺は、はい、と返事をするしか、他に無かった。

後ろからクスクスと聴こえてくる、彼女の笑い声。

敵陣に押し寄っていく、味方の流れ。

青い空と、少しずつ聞こえてくる、砦で聞いてきた馴染みある人々の声に、胸の奥から少しずつ、ホッとした気持ちが湧き上がってくる。



 ああ、勝てたんだ・・・・・・。



そう、心の中で呟きながら、こっそり虚空に向けて、笑みを飛ばしたのだった。




 -続-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る