第13-1回「モーリー班出発」


 まだ日が、すっかりと空に昇る前。

紫の色がまだ大きく広がっているその下で、俺達はそろって出発する為に、支部の前へと集まっていた。

ディアナさんに、トミーさん。リッちゃんとエディさん、そしてモーリーさん。

自分も含めて6人全員が、きっちりとした装備に身を包み、スタックス支部長が見守る中、それぞれ見合わせ、指差し合いながら、最後の確認をしていた。

胴当てに脛当すねあて。腰の剣に、かぶと

緩みやほつれ、壊れているような箇所かしょが無い事を確認し終わると、あらためるように、また支部長へ目を向け直す。


「じゃあ、よろしく頼むよ、みんな。くれぐれも、無理はしないように」

「はい!」


 スタックスさんの言葉に、俺も、皆の声に合わせて、返事をする。


「じゃあ行こうか」


 モーリーさんの声を合図に、俺達は支部長に背を向ける。

そして、呼ばれているホックヤードのとりでに向けて、足を進めていった。


「いやあ、でもいいのかモーリーさん。舟使わせてもらってさ・・・・・・」


 前を歩くトミーさんが、先頭を歩く彼に話しかけている。

集合した時に、俺も初めて教えてもらったのだが。



 護衛の時のように歩きで向かっていたら、どうしても日数が掛かってしまう。

 そこで、ここから舟で下って、小さな川に出てからは、カウツの村近くにある小さな舟着き場で下ろしてもらい、そこから歩いていく。



という、短縮路を取る為に、これから俺達は、その舟まで歩いているのだが。

なんと昨日のうちに、モーリーさんとディアナさんがお金を出し合って、既に舟を用意してくれているのだという。



 少しでも余裕よゆうを持って、楽に行けるように、と気をつかってくださっている、2人の根回しの早さ。

 その優しさに、あらためて頭の下がる気持ちで、いっぱいだ。



「トミー、嫌ならいいぞ。なんならお前だけ泳ぐか?」

「ちょっと、そりゃあねえよ。嫌じゃねえよ、俺も乗るからさ」


 彼にそう返事をするモーリーさん。

頬は緩んでいるのだが、相変わらずその目は、笑っていなかった。



 彼への発言も、冗談じょうだんなのか、本心からなのか、まだまだつかめそうにない。



「すいません。モーリーさん、ディアナさん、舟を用意していただいて」


 ありがとう、という気持ちを込めて、先頭を歩く2人に感謝の言葉を口にしてみる。


「いいよ、お金の事も気にするな。アール君には期待しているからな。これは出世払いでいいぞ」


 そう返事をしながら、ディアナさんは軽く笑みを浮かべていた。


「しゅ、出世払い・・・・・・?」


 ぽつりと漏らした言葉に、横を歩くリリスが補足をしてくれる。


「この礼は偉くなってから返してくれ、って意味だよ。アール君、期待されちゃったね」

「へ、へえ」


 そう、言葉にならない返事をして間もなく。

彼女は、目を上に向けながらも、不安をあおってくるような、不敵な笑みを浮かべつつ、口を開いた。


「ま、私はほどほどで頑張るけど。アール君は、ちょっと本気出さないと、いけないかもよ?」

「お、おいおい。やめてくれよ、リッちゃんまでそんな・・・・・・」

「うそうそ。考え過ぎだって!そんな怖い顔しないでよ。アール君も無理しなくていいから、ね?」

「そ、そうだよな・・・・・・。ははは」


 ニッと笑う彼女に対して、俺は乾いた笑いを返す事しか出来なかった。



 ディアナさんは冗談かもしれないけれど・・・・・・。

 モーリーさんの姿勢は、冗談抜きの、本気の期待かもしれない。



そんな言葉が頭にちらつき、思わずひたいからじっとりと、汗がにじみ出ているような気がした。

まだほんのりと、すずしい風が吹いているというのに。



 ・・・・・・大丈夫。

 スタックスさんが出る前に、無理はするな、と言ってくれているんだ。

 モーリーさんも以前に、考えも無しに突っ走るな、と言っていたはず。

 俺は俺で、やれる事をやればいいんだ。

 大丈夫、出来るさ。



そう呟きながらもう一度、視線をリリスの方に向けてみる。

彼女は穏やかな表情を浮かべながら、歩いていた。

建物の向こうからのぞく空は、少しずつ青く色づいてきており、白い光が、スッと昇り始めている。


「・・・・・・?どうしたの」


 俺の視線に何か気づいたのか、彼女が不思議そうな表情を浮かべて、尋ねてきた。

一日の始まりを告げる、穏やかな空。

穏やかに、いつもと変わらず明朗なリリスの表情に、また少し、心が軽くなってくる。


「なんでもない!俺も、出来る範囲で頑張るよ!」

「そうそう!ほどほどでいいんだよ、ほどほどで」


 そう言いながら、彼女と笑い合い、また視線を前に向けて、4人の背中へと続いていく。



 そうだ。

 少しずつ、俺に出来る範囲は、増えてきているんだ。


 次も、出来る事をやれば。

 きっと上手くいくさ。



そう、自分をふるい立たせながら、軽く腕を振って、舟着き場に向けて、足を進めていくのだった。




 -続-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る