第12-1回「白い揺らめき」
沈んでいた体が、ふわっと浮き上がるような、感覚
まぶたの向こうから照らしつける、目
手をついて起き上がると、部屋にゆったりと広がっている、温かな匂いで、ここが自分の部屋じゃないと、すぐ気づく事が出来た。
えっと・・・・・・・昨日は、確か・・・・・・。
リリスと一緒に
「げっ!?ここ、ええっ・・・・・・!?」
ぐんぐんと、映像になって浮かび上がってくる昨日の出来事に、どんどん顔から血の気がひいていく。
そうだ、彼女を
ああ・・・・・・面倒だという気持ちに身を任せて・・・・・・。
そのままここで、眠ってしまったんだ・・・・・・。
床に目を向けてみると、そこに自分で脱ぎ捨てたはずの装備一式が、まるまる無くなっていた。
えっ、なんで無いんだ!?
と思い、ベッドから立ち上がると、玄関に
歩み寄っていくと、そこには脱ぎ捨てた自分の装備が
辺りを見渡すが、彼女の気配はどこからも感じられない。
いったい、どこに居るのだろう。
そう思いつつ、部屋を出ると下に繋がる階段から、誰かが上がってくるような気配がしてきた。
軽やかな足音がふと、彼女の明るい笑顔を、頭の中によぎらせてくる。
リリスかな。
そう思いながら、1歩前に踏み出しかけた時、ふわりと白い衣を
「うおっ」
ガンッ、と当たりそうになる寸前で、グッと足を止める。
なんとか、リリスとぶつからずに済んだ。
「わっ!?あ、なんだアール君か」
「お、おお。リッちゃんおはよう」
目を丸くしながら、両手で、
だが、なぜだかリリスは気まずそうに、下を向いたまま。
目を、いつものように合わせてくれなかった。
「う、うん、おはよう。朝
彼女の言葉に
なぜ、リリスが自分に目を合わせてくれないのか───。
その理由は、もう分かっていた。
あんな形で、ここまで運んで来てもらって・・・・・・。
しかも、
ベッドに戻ってからも、色々あって・・・・・・。
突然泣きじゃくったりして・・・・・・。
忘れたくても忘れられない、恥ずかしくなるような出来事。
それらを思い出していたら、当事者であるこの俺と、目を合わせづらくなるという気持ちも、頷ける。
彼女の、恥ずかしいという気持ち。
分かってはいるのだが・・・・・・。
それでも、暗く、肩を落としている彼女の後ろ姿を見ていると、なぜか自分まで暗い気持ちになってくる。
いつもみたいに、元気に振る舞っていて欲しい。
そんな思いが、揺らぐ白い陰を見ているうちに、ふつふつと
手が
「じゃ、食べよっか。
うん、朝は食べたいけれど・・・・・・。
でも、食べる前に、この暗い気持ちを、なんとかしてあげたい。
俺は、どうするべきだ・・・・・・。
口にしてからの先を、頭の中に思い浮かべつつ───。
かけたい言葉を、丁寧にまとめていき、ヨシ、と小さく、心の中で頷く。
もしかしたら、すごく怒られて、嫌われるかもしれないけれど・・・・・・。
でも、言わないでおくより・・・・・・。
ここは、ちゃんと言うべきだよな。
「な、なあ。リッちゃん」
踏みきるように、視線を上げて口にする。
どうしたの、と言うように、彼女も目を合わせてくれた。
「俺、昨日の事なら大丈夫だから。その・・・・・・お尻の事とか、何も気にしていないよ」
「う、うっ・・・・・・」
言葉に
「あ、アール君・・・・・・。私だって気にしているのに、そういう事言わないでよ・・・・・・!最っ低ー・・・・・・!」
分かっている、この反応がくる事を。
一番気にしているであろう事を、
最低と言われて当然だ。
でも───ここからだ。
ここから話を繋げて、いつもの調子に戻してあげないと。
考えていた、これでいこう。
あらかじめ用意していた言葉を、すかさず続けていく。
「うん、でも・・・・・・。それでも、俺はあの出来事も込みで、一緒に呑めて、すごく楽しかったよ。リッちゃんがあそこまで
えっ、と言うように、彼女の目がキュッと丸くなる。
今にも怒りだしそうな勢いは、スッと収まっていた。
ここだ。
ここで
「だってさ、帰るだけだったのに。リッちゃん、星を指差したり、何でも無い事に笑ってくれたりしてさ、ずーっと嬉しそうだったし。俺が真面目にやって振り回されているのも、すっごい楽しそうだったから。だから───」
彼女はジッと、何も言わずに、俺の目を見つめてくれている。
「俺は、何も迷惑だなんて、思っていないよ。あんなにも楽しそうな、リッちゃんの顔が見られて、すごく楽しかったから」
机に置かれた鍋に、視線を落としたりしながらも、思いを込めて、再び彼女の目に合わせ直してから、言葉を続けてみた。
外からの光に照らされた、彼女の口が、ふっと動く。
「・・・・・・本当に?」
迷惑じゃなかった?一緒で楽しかった?
そんな思いを込めたように、光をまとった、真っ直ぐな
俺はただ、うんと頷き返した。
「気にしてないよ!だから、また一緒に行こうよ。また誘ってよ」
「そっか・・・・・・」
ふふ、と
彼女の顔色がまた、空に浮かぶ日のような、
「ありがとう、アール君!なら、また落ち着いてから、一緒に呑もうね!」
さんと輝く笑みに、俺も、うん、と頷き返す。
「いいよ。でも、今度は呑み過ぎないでね」
「あっ!またそうやって・・・・・・。昨日はたまたま、酔いが回り
「はいはい」
そう言ってから、
彼女も、口元を緩ませて、笑い返してくれた。
「急に話したりしてごめんね。そろそろ、食べよっか」
「あっ、そうだね!もうだいぶ冷めちゃったかも」
慌てて取りに行く彼女に、大丈夫だよ、と言うように、また笑い返す。
窓から差し込む光は穏やかで、キラキラとしていた。
「はい、アール君の分」
「ありがとう」
手渡されたお
朝の光に照らされた、白い衣をまとうリリスは、いつも見ている時よりも、
「・・・・・・どうしたの?ジロジロ見て」
「その、着ている服がさ。似合っているから、つい」
「そう?自分も気に入っているから。そう言ってくれたら・・・・・・なんだか照れるね」
彼女は目を
どこからともなく、
光を浴びながら揺らめくその姿は、草原に咲いた白い花のようだった。
「リッちゃん、この後どうするの?俺は明日に備えて、支部に戻るけれど。それまで何をしたらいいか、分からないし」
野菜の甘みを
「じゃあ、これ食べ終わってから、もっと町の事を教えてあげるよ!銀行とか、服屋さんとか、行った事の無い場所、色々案内してあげる」
「いいね。俺もまだまだ、知らない事だらけだし」
コクコクと頷きながら、残っているスープを飲み干して、もう一杯分、お代わりを
さっきまでの暗い雰囲気は、もうこの部屋には、どこにも残っていない。
穏やかな光の中で、俺は彼女と、
-続-
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます