第10-1回「平穏な朝」


 <まえがき>

・今回は短いです、700字程度になります。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ごちそうさまでした」


 朝粥を食べ終わった俺は、手を合わせてから席を立つと、食器をかごの中へと直して、食事番の方に軽く会釈えしゃくをする。

歩きながら、両の手をグッと突き上げて、伸びをしてみた。

左右に動かすたびに、う゛ん、う゛んと声が漏れ出てくる。



 仮眠をはさみながらの夜の見張りから、あの偵察を無事終えて───。

 久しぶりに今朝は、ぐっすりと眠れたな。



今回は悪夢も、変な夢も見る事は無く、目が覚めた時には気持ちの良い朝日が、鳥の鳴き声と一緒に、出迎えてくれた。



 ああ・・・・・・。

 気持ち良く朝を迎えられて、今日はなんだかいい気分だ。

 また今夜から、仮眠を挟みながらの夜勤になるが・・・・・・。

 この感じなら、明日までなんとか、頑張っていけるかも。



そう思えるくらいに、体も、心も軽快だった。


「おお、アール。おはよう」

「あ、おはようございます」


 壁に背を向けて、また伸びをしていると、オッドマン副部隊長が目の前を通り過ぎながら、気さくに挨拶あいさつをしてくれた。

俺も彼に、笑みを含ませながら、挨拶と共に会釈を返す。


「あれ?アールじゃないか」


 また、聞き馴染なじみのある声がしたので、ふと振り返ってみる。

昨日、食事中に話しかけてくれた、マーカスさんが優しい表情を浮かべて、そこに立っていた。


「ああ、おはようございます」

「今日は良い天気になるぜ!向こうの山に雲がかっていなかったからな」


 どうやら彼の中で、その日の天気を見定める、何か基準のようなものがあるらしい。



 その基準が何なのかは。よく分からないが・・・・・・。


気さくに話しかけてくれた彼に、うん、うんとうなずき返す。


「そうなんですね。俺もそういうの、分かってきたらいいんですけれど」

「なあに。あんたは若いから、それぐらいの事ならすぐに覚えていけるよ!今日も頑張ろうな!」


 そう言いながら彼は、からになったおわんを片手に、いそいそとお代わりを貰いに立ち去っていった。

去り行く彼に、俺も軽く手を振り返す。

まだ今日で、このとりでの一員として入って2日目になるはずなのだが───。

心なしか、初めて来た時よりも色んな人と知り合えて、少しずつ、打ちけられているような気がしてきていた。



 ・・・・・・さて、夜まで俺は、遊撃役なんだ。

 いつ、何が来ても動けるように、万全の状態で、待ち構えておかないと。



伸びをグッと切り上げてから、ポンポンと胴当てを叩いて、少し緩んできた脛当すねあてを、もう一度ギュッとめ直す。

食卓に着いている彼らの表情は、差し込む朝日と変わらないほど、穏やかなものばかり。

その様子を見ながら、もう一度大きく息を吐いて───。

いつ来るかも分からない、その時に備えて、持ち場へと戻る事にした。




 -続-

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