第9-4回


「よーし!交代班、集まれ!食事にするぞ!」


 副部団長のオッドマンさんの声が聞こえてきた。

彼の声でせきを切るように、湯気立つ鍋に向かって、人がぞぞぞと集まっていく。



 ホックヤードのとりでに入った、1日目。

 エディさんに代わって、これから俺も持ち場にく事になる。

 上の見張り場で持ち場についている、熟練のギルドメンバー、モーリー・サンドヒルズさんに失礼の無いように。

 しっかり食べて、しっかり動けるようにしておかないと。



その思いを胸に、食事を受け取るべく鍋に群がる人の束に、ぐいと足を踏み入れた。

お椀とスプーンを手に取る事は出来たが、四方八方あらゆる場所から押され、引っ張られ苦しい。

持っているおわんを、ぐいと腹に押しつけられ、ひじや肩でごりごりと、顔や胸をえぐられる。



 うう゛っ!痛い・・・・・・痛゛い───!



ただ彼らの中に混ざっているだけなのに、ひたいからじわじわと汗が染み出してきた。

それでも、前の人は少しずつ動いていき、だんだんと隙間が空いて、もわりとした湯気が、そこからシュウッと抜けていく。

押し合いを耐えてようやく鍋に辿たどり着いたところで、手を突き出してお椀の中に粥を入れてもらった。

逃げるようにして、そのまま近くの壁へと走り寄ると、勢いに任せて粥に口を付け、腹の中へと流していく。

麦に、その辺で採ってきたような穀物と、菜葉を混ぜた雑穀粥。

熱に乗って、口から背筋に伝わっていく粥のぬくもりと、かすかな甘さが、ぐんと体の中を巡っていく。


「・・・・・・ふう」


 軽く、暗さの増した上に向けて息を吐くと、白みがかったもやがスッと出ていき、フッと息つく暇なく消えていく。

ちらりと目を長つくえ椅子いすに向けて見ると、皆が自分のペースで飲むように食べて、かきこんで、スプーンを置いてまた、せわしなく鍋に並び直している。



 俺も、ゆっくり座って、食べたかったな・・・・・・。



いた場所も無い、名前も分からない彼らの様子を一瞥いちべつしてから、再びお椀に目を戻して粥をずずりと食べる。


「おう。あんた座らねえのかい」


 ふと声がしたので目を向けてみると、トミーさんと同じような歳の方が、お椀を片手に立っていた。


「ええ・・・・・・。その、今日が初めてで・・・・・・勝手に座ってもいいのか、分からなくて」

「なんだ、どうりで。別に席順に決まりなんかねえよ。次は好きに座りな」

「ど、どうも」


 軽く一礼すると、男もへへへと、笑みを返してくれた。


「俺はマーカス。マーカス・ヨキアだ。あんたは?」

「アールって言います。はじめまして」


 彼と会話をわしながら、もう一度粥を口にする。

手から伝わる熱も少しずつマシになってきたおかげで、ぐいぐいと飲むように、食べ進める事が出来てきた。


「これから交代だろ?誰と代わるんだい」

「サンドヒルズさんです」


 彼の名を口にした瞬間、ああ、とつぶやいて彼はまゆをひそめた。


「あのおっかない人か。あんたも大変だね」

「は、はあ・・・・・・」


 苦笑いを浮かべる彼に何も言えず、頭を下げてから、残っている粥を流し込んでいく。

ふう、ともう一度息を吐いた時には、手元のお椀からはすっかり粥は無くなっていた。


「あんたも早いね。お代わり出来るけれど、するのかい?」


 彼の言葉で思わず、視線をあの鍋に向けてみるが、相変わらず人が群がり、ごちゃごちゃとしている。



 腹はもう充分だ。

 食べ過ぎても、体が疲れるだけだ。



鍋の近くにまた視線を向けてみると、使い終わった食器を入れるであろうかごと、入れ物が目に留まった。


「いえ、これぐらいにしておきます。ごちそうさまでした」

「そうかい。返す場所は分かるか?」


 彼の言葉に、ぺこりと礼を返す。


「大丈夫です、ありがとうございます」

「おう。お互い頑張ろうや!」


 失礼します、と言うようにもう一度頭を下げてから、使い終わった食器を直して服装を正す。

そして、彼との交代が待っている持ち場へと、スタスタと足を進めていくのだった。




 -続-

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