第9-2回「ゴブリンとの再戦」


 休みをはさんでから、何事も無いまま歩き続けて間もなく───。

ゴブリン共に襲われた、あの地点に少しずつ、俺達は近づいていた。

ぐるぐると、前のリリスと後ろのディアナさんの動きと、かぶらないように気を配りながら、馬車の周りをスタスタと歩いて警戒する。

2回目となると、少し経験もついたからか、奴らの動きがうっすらと、見えるようになってきた。



 草むらからただう気配と、森から感じ取れるまとわり付くような動き。

 敵も前回の事を反省したのか、前よりも数をそろえてきているようだ。



「アール、草むらに気をつけろ。前より多いぞ」


 ディアナさんの言葉に、こくりとうなずき返す。


「6・・・・・・7体くらいですよね」

「ああ、それぐらいだな。今回はいきなり一番前、なんて事もある。1発目の動き、特に注意だぞ」


 はい、と言葉を返してからまた巡回を再開する。



 右手の森からの動きは、まだ無い。

 来るとするなら、今回も草むらからか?



敵も、この前ので何体かうしなった影響からか、少し動きも甘い。

警戒の薄くなるタイミングを見て、動いているようにしているのだが、しっかりと、草をき分ける音はこちらに聞こえているし、息遣いきづかいもわずかに聞こえている。



 俺の方には────来ない!



前に、前に固まっていく影が───。

敵の考えが、手に取るように分かる。


「ディアナさん。俺、リッちゃんの援護に回ります。後ろはお願いします」

「任せろ。深追いは禁物だぞ」


 はい、と答えた瞬間、奴らの動きが草むらの終わりギリギリまで迫った。



 来る・・・・・・来い!

 トミーさんの方か、リッちゃんの方か!



そう身構えた瞬間、最前方の馬車めがけて突っ込んでいく、茶色の影が目に留まった。



 来た、一番前!



慣れた様子で、襲って来たゴブリンをで斬りにするトミーさん。

すかさず押し寄せる後続を叩く為に、補助へ動くリリス。

その空いた2番目の馬車へ、見計らったようにゴブリンが2体、襲いかかっていく。



 今回は大丈夫だ、見える!



左を一瞥いちべつして、こっちには来ていない事を確認してから、馬めがけて飛びかかる奴に、剣を抜いた流れでふっと、一撃を加える。


「ぎょじゃっ!?」

「ぐうっ!?」


 液をき散らして1体が吹っ飛ぶ。

俺の動きを予測していなかったのか、驚いた様子でもう1体がこちらを振り向いている。

間をけずに聞こえた指笛に合わせて、馬車がグングンと速くなっていた。


「ぐるぅぅぅ・・・・・・!」


 奇襲に失敗し身構えるゴブリン。



 だが、今はこいつを倒す事が目的じゃない。



置いて行かれないように走って、リッちゃんの持ち場だった馬車に跳び乗ると、息づく暇も無く、前で戦う彼女に追いついた。


「リッちゃん!」


 そう言いながら咄嗟とっさに手を伸ばす。

振り返った彼女も意図いとを察して、すっと手をつかんで馬車に乗り移ってくれた。

トミーさんも機敏きびんに、状況を察する。

もう1体をぎ払い牽制けんせいすると、俺が任されていた、護衛無し状態のほろ馬車に跳び乗った。



 奴らもあきらめてはいない。



呆気あっけにとられる奴を放置して、3体が馬車隊を追いかけてくる。

森に視線を向けてみると、10体ほどのゴブリンが、わららと最後尾に群がって来ていた。


「下向いてろ!」


 ディアナさんの叫び声に、慌てて目を下に向ける。



 その瞬間、カッと強い光が、浴びせられて───。

 ぐーんと馬車の影と、掴まる2人の黒い輪郭りんかくが、映し出されて───。

 ふっと、地面に溶け込んでいく。


 今のは何だ。



そう思いながら、最後尾に目を向けてみると、奴らの姿はすっかり、走っても追いつけないほどに、遠ざかっていた。

追いかけていた奴らは、少しひるんだ様子で、去り行く俺達の馬車をジッと見つめている。

視線を奴らから、トミーさんとリリスに戻す。

2人とも、体に傷をった様子は見られなかった。



 それにしても、あの光は───。

 彼女から発せられた、あの光は、いったい何だろう。

 あれも、魔法の一つなのだろうか。



ふと視線を前に戻すと、マンソンさんの操る馬車の速さが少しずつ、ゆっくりと落ちている。


「アール君、そろそろ降りようよ!」


 えっ、と思い振り返ると、後ろに掴まっていたリリスはもう降りて、少し早歩きで歩いていた。


「あ、ごめんごめん」


 彼女にうながされて、ヨッと地面に降り立つ。


「リリスもアールもありがとうな、助かったわ!あともうひと踏ん張りだからな!頑張れよ!」


 パッと声のした方を見ると、トミーさんが一番前に向かって、軽く手を振りながら走り去っていく。

いえいえ、と俺も頭を下げて、走り過ぎていく彼を見送った。


「また助けられたね。アール君やるじゃん」

「いいよいいよ。だろ、俺達」


 彼女の笑顔に、俺も笑い返す。


「それにしても、今回は多かったね」

「うん。前の事があったから、敵も───」


 と言いかけた瞬間、後ろから声が聞こえる。


「おーい!アール、持ち場に戻れ!」



 あっ、そうだった。



彼女の言葉に、ハッと自分が1つ前の馬車に付きっぱなしだった事を思い出した。


「ほら、行った行った!ムダ話しないの!」

「ええ・・・・・・?そっちから話振ってきたのに」

「分かっているって!ほら戻る戻る!」


 ふいふいと、手で戻るように促す彼女。

分かったよ、と言うように眉をしかめ返してから、ほほほっとけ寄り、自分の馬車へ戻っていった。

持ち場に戻ってから、すいません、と言うように、彼女に軽く頭を下げる。

視線を前に向けてみると、あのとりでが少しずつ、険しい山々をともなって、ずんずんと近づいてきていた。



 今回も無事に、護衛は出来た。

 あそこに着いたら、とうとうサンドヒルズさんとの、新しい仕事が始まる。


 さて、上手く覚えて、出来るかな・・・・・・。

 これは出来てきたけれど、これからはどうなるかな・・・・・・。



近づくたびに高鳴ってくる胸の音。

その高鳴りに耳をませながら、ごくりとつばを飲む。

厚かった雲の隙間からは、青々とした空が、ちらりと顔をのぞかせていたのだった。




 -続-

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