第9-1回「ホックヤードへ」


 <まえがき>

・時系列は飛んでいますが、回は飛んでおりません。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ニッコサンガの町で、1日ゆっくりと体の疲れをとって、仕事の準備をした次の日。

ディアナさんとトミーさん、そしてリリスと一緒に。

今日からもう一度、ホックヤードのとりでに向けてほろ馬車隊の側に付きながら、護衛の旅におもむいていた。


「よーし、ここで休もう!休憩!」


 前方から幌馬車を先導する、マンソンさんの声が聞こえてくる。

声に合わせてブルルと、馬車も緩やかに止まっていった。

ふと視線を空に向けると、厚みのある灰色の雲がズシリと、これから向かう砦の方へ、グンと広がっている。

この前、ゴブリン共に襲われた例の森も、ちらりと視線を下げると向こうの方に見えていた。



 さて、俺もひと休みしよう。



そう胸の中でつぶやきながら、馬の外された幌馬車に、ヨイショと腰を掛ける。


「アール君、今回の交代役するって、本当なの?」


 ふと声のした方へ振り向くと、リリスが不安げな表情でこちらを見ていた。


「えっ?うん」

「私的には、もうちょっと護衛で一緒にやっていった方が、良いと思うけどな。まだ入って、1ヵ月も経っていないんだし」

「そ、そうだよな。まあ、そうなんだけど・・・・・・」


 彼女のもっともな言葉に、何も言えない。



 少しでも、皆の負担が軽くなるように───。

 少しでも、自分が役に立てるようにするには、どうすればいいか───。



そう考えた上で、今回の交代をスタックス支部長に申し出たのだが、彼女が心配するのも、当然だ。



 まだ、今日を含めて実戦の経験は2回だけしか無い。

 知識も、腕もはっきり言って、まだまだ未熟だ。

 いさみ足、無謀だと思われても、仕方が無い。



「まあまあ。アールも考えて言った事なんだろうし。今回は、彼の力を借りさせてもらおうよ」


 視線を上げると、ディアナさんが様子を見かねたように、こちらに歩み寄りながら、話しかけてくれている。


「うん。そうなんだけど・・・・・・。でも、ちょっと入って間もないのに、いきなりあの人と、しばらく一緒にやっていくのは・・・・・・」

「確かに、不安っちゃ不安だよ。ただ、このままエディ君にやってもらうのは、少しこくというものだし。それなら、リッちゃんが代わりに入るか?となると───」


 その言葉で、リリスは露骨ろこつに嫌そうな表情を浮かべた。


「えっ、それは、ちょっと・・・・・・」

「・・・・・・まあ、そうだよな。一緒になったしょぱなで、いきなりあんなに怒られたのに、もう1回入れってのは・・・・・・だろ?だとすると、代わりはトミーさんか、あたしになるしな」


 そう言いながら、2人の視線が一番前の馬車に向けられた。

トミーさんは2人の心情も気にせず、持っていた水筒に口をつけて、美味しそうに飲んでいる。


「あー、うっま・・・・・・!うん、どうした?みんなして俺の方見て」

「いや、何でもない!こっちの話だ」


 ディアナさんの言葉に、そうか!と明るく返事をした彼は、うーんと大きく伸びをする。


「はあ・・・・・・。トミーさんに任せっきり・・・・・・」

「そうなると、どっちになっても・・・・・・だろ?」


 口数少なくそうつぶやいて、苦笑いを浮かべる2人。

あらためてトミーさんの信頼が、あまり厚くない事を、その様子からひしひしと、感じ取る事が出来た。


「だ、大丈夫ですよ。俺、初めてですけど、もしかしたら上手くいくかもしれないですし」



 これ以上の、重苦しい話は止めた方がいい。



そう考えた俺は、少しわざとらしくなってしまったが、2人に会話を振ってみる。


「まあ、そうだな・・・・・・。今回だけは、アール君に上手くやってもらうしか、どうしようもないか」

「そうですね。・・・・・・ごめんね、入ったばかりなのに」

「い、いいんです。なんとかなりますよ、多分」


 暗い表情の2人を鼓舞するように、こくこくとうなずいてみせた。

そうこうするうちに、馬の鼻息とカチャカチャとした物音が聞こえてくる。



 もう出発だ。



俺達はその場を離れて、また元の位置へと付いていく。

相変わらず、暗々とした森が向こうに広がっている。

まだ、ホックヤードの砦は見えてこない。



 さあ、やる事をやるぞ・・・・・・!



生唾なまつばを飲みながら、グッと口に力を込めて、姿勢を正す。



 この前のように、また襲ってくるゴブリン共に備えて───。

 その先にある、まだ見ぬ仕事に備えて───。



曇天どんてんの向こうに、目をらすのだった。




 -続-

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