第37話 訓練開始

 修行のため、おじい様とおばあ様の邸宅を訪ねる事になった私たち。道中特に問題もなく、無事に屋敷についた私たちは、挨拶を済ませるとまず私がおじい様と久しぶりに試合をするのだが、負けてしまった。が、なぜか皆が驚いていたのだった。



 私とおじい様の手合わせ後。

「さて。では改めて。これから私が主導して君たちを鍛える事になるが、まず私は諸君らをよく知らない。そこで、これからいくつか質問などをする。深く考える必要はないので、素直に思った通りに答えたり動いてほしい。良いかな?」

「「「「「はいっ!!」」」」」


「うむ。ではまず、諸君の中で、自分は強い方だと思う者は2歩前に。逆に周囲よりも弱いのではと思う者は2歩後ろへ。どちらか分からない者はそのままその場で留まってくれ」

 おじい様の言葉を聞いて、横一列に並んでいたマリーらは数秒して数人が前に。数人が後ろに。大半はその場に留まった。パレッタは、やはり自分の力に自信があるのだろう。マリーらと共に2歩前に出ている。


「成程、成程」

 おじい様は小さく何度も頷きながらも一人一人を静かに観察していく。

「では次へ行くとしよう。次は各々、自分と力量が近い者とペアを作ってほしい。ペアが無理なら、3人組や4人組でも構わない」

「わ、分かりました」

 おじい様の指示の意図が分からないのか、マリーが少し困惑した様子で頷く。他の皆も少し戸惑いながらも、お互いに声をかけて話し合い、ペア、もしくは複数人のグループを作っていく。


「終わりました」

「うむ。では諸君。諸君にはこれから木剣による模擬戦を行ってもらう」

 マリーの報告を受け、おじい様は皆を見回しながら指示を出し始めた。


「内容は、先ほど私とレイチェルがやった物と同じだ。1対1、或いは三つ巴の状況下で戦ってもらう。この模擬戦に深い意味は無い。まずは私自身の目で諸君らの動きや技術が見たいだけだ。なので特に気負わず、普段の訓練などと同じだと考えてくれれば良い」

「わ、分かりましたっ」


 と言う事で、それぞれがペアや3人組を作り、おじい様の前で順番に模擬戦を行った。

「皆の模擬戦を見て、如何ですかおじい様。良ければ忌憚なき意見をお聞かせください」

 模擬戦を見ている最中、私はそばに居たおじい様に問いかけた。おじい様は騎士として私以上の実力を持っている。だからこそおじい様から見た皆の実力の感想を聞きたかった。


「ふむ。まずはっきり言って悪くはない。皆基本的な動きはしっかり学んでいるのが良く分かる。更にその中でも実戦経験が豊富な者は経験に裏打ちされた、しっかりとした各々の戦い方を身に着けている。しかし逆に言えば、その経験の差が出ているともいえる」

「と言うと?」

「強さとはただ鍛錬を重ねただけで身に付く物ではない。時に命がけの実戦で戦い、その中で成長していくという事だ。時には自分と相性の悪い相手と戦う時もあろう。不利な状況で戦いを強いられる事もあろう。そういった状況への対処能力は、訓練の中だけでは身に付きづらい、と言う事じゃな」

「成程。確かにおじい様の言う通り、実戦での経験は何よりも勝る物ですからね。かといって早々経験できる事でもありませんし」

「うむ。そういった経験は、命がけで場数を踏んでこそ。故にその場数そのものが彼らの差となる」


 うぅむ、おじい様の話を聞いている限りだと、やっぱり場数が物を言う、と言う事なのだろうなぁ。しかし命がけの実戦なんて早々出来る物ではない。仲間内で真剣を使った戦いなんて、一歩間違えば仲間を自分の手で殺してしまう事になりかねない。と言うか、私の幼少期だって実戦形式の訓練は一度もやった事がない。 


「おじい様。おじい様は今の意見を踏まえた上でどのような訓練をなさるつもりですか?まさか、実戦形式の物を?」

「いや、そこまでは考えてはいない」

 まさか、と思い問いかけるがおじい様は小さく首を横に振った。

「お前たちはここに訓練で来ているのだ。それで重傷を負ってしまっては元も子も無いだろう。なので、私が教えるのは彼ら一人一人の弱点を克服、もしくは弱点を補う技術だ。弱点はつまり隙。そして隙を突かれれば、命を落とす可能性もある。だからこそ、こうして彼らに模擬戦をしてもらい一人一人の弱点をつぶさに観察している、と言う事だ」

「成程。流石はおじい様です」


 その後、模擬戦もつつがなく進行し、最後はパレッタがマリーを相手に模擬戦を行った。

「はぁっ!」

「くっ!!」

 相変わらずパレッタの戦い方は我流だ。騎士となるべく剣術を教えたりしているのだが、やはり盗賊時代の経験からくる戦い方にすっかり馴染んでしまっているのか、熱くなるとパレッタは体力を鑑みない、攻め重視の戦い方をしてしまう。故に体力が持たない。まだ騎士としてちゃんとした訓練を始めて日が浅いので、その攻め重視の戦い方に体力の方が追い付いていかないのが現状だ。


「はぁっ!らぁっ!」

「ッ!くっ!?」

 マリーはパレッタのラッシュ攻撃に晒されながらも、適格に彼女の攻撃を避け、受け流し、防御に徹していた。それがしばらく続けば……。


「ハァッ!ハァッ!ハァッ!!」

 パレッタの方が体力切れで殆ど自滅する形となってしまった。マリーも模擬戦などを通してパレッタと手合わせした事は何度かある。それに明確な弱点を知ってしまえば、後はその弱点を突けばいいだけの事だ。


「それまでっ」

 様子を見ていたおじい様が声を上げて模擬戦を止めた。荒い呼吸を繰り返し、滝のように汗を流すパレッタと、息をつきながらも剣を下ろしまだ余裕そうなマリー。


「ふむ。パレッタと言ったかな?確かあの少女は」

「えぇ。そうです。手紙にも書きましたが、紆余曲折を経て我が第5小隊に特例で配属になった者です」

「そうか」

「如何でしょうおじい様?パレッタを見て」

「ふむ。確かに筋は悪くない。あの速度はある種の才能だな。しかしそれを支えるための体力や判断力、技術力などが低い。このまま実戦に出したのでは危ういだろう。最低限、持久力をつける必要があるな」

 どうやらおじい様の判断は私と同じようだ。今のパレッタに必要なのは、何よりも持久力、体力だ。


「となると、やはりパレッタはまず体力づくりから、ですか?」

「うむ。それもあるが、もう一つ工夫をする必要があるかもしれんな」

「工夫、ですか?」

「うむ。そちらについては、まぁ明日話すとしよう。彼女自身に試してもらいたい事もあるのでな」

「そうですか。分かりました」


 その後、パレッタとマリーの試合も終わった事で一通り模擬戦をやり終えた。

「皆、模擬戦ご苦労であった。これで各自の動きなどを一通り見る事が出来た。しかし既に日も暮れだしているので、今日はここまでとする」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 おじい様の言葉通り、既に日も傾き始めている。と言う事で今日の訓練はこれまでとなった。


 その後、夕食やら風呂、布団などの準備をすることになった。とはいえ、ローザやサリーらこの屋敷の給仕たちだけでは色々大変だ。なので皆で分担してそれらを手伝った。夕食を食べ、風呂に入り、後は休むだけになった。


 夜、私はマリーらと共に布団が無数に敷かれた大部屋にいる。男の騎士たちは別の大部屋で、同じように布団を敷いていてそちらだ。


「それじゃあ皆。明日から本格的な訓練が始まる。なので今日は早く休んで明日に備えるように。分かったな?」

「「「「「は~~いっ」」」」」

「……なんだか返事が軽い気がするが、まぁ良い。早く寝るんだぞ?」


 若干マリーやパレッタ達のテンションが高い気がするが、気にしても始まらないだろう。早く寝るように言いつつ、私は部屋の明かりを消すと自分の布団で横になった。


 ……のだが……。

「なんかこういう皆で一緒に寝るのって新鮮だよね~」

「確かに。普段は寮生活だからね~」

「こういうの、お泊り会って言うんだよね?」

 なぜかマリー達の奴らが未だに話をしている。全く。ここは早く寝ろ、と言ってやるべきか? 私はチラリと彼女達の方に目を向けるが……。


「ウ、ウチこういうの初めてだからなんか緊張するな~!」

「私もですっ!こんな大人数で一緒に一緒に眠るのなんて、初めてでちょっとドキドキしていますっ!」

 ぱ、パレッタとミーナが何やらすごく楽しそうにしていた。これは早く寝ろ、と声を掛けるのもなぁ。折角楽しそうな所を邪魔するのも無粋と言う物だ。ここは少し様子を見て、それでも眠りそうになかったら注意するか。


 と言う事で私は寝たふりをしながら彼女らの会話に耳を傾けていた。


「確かこういう時には、皆で色々おしゃべりをする。と本で読んだことがあるのですが?」

「まぁ他にやる事もないですからね~」

 聞こえてくるのは、ミーナとマリーの声か。

「でもおしゃべりって言うけどさ?なんについて話すんだ?」

「そりゃもう決まってるでしょっ。こういう時の話題は、『恋バナ』よっ!」

 パレッタの問いにマリーが答えている。しかし、恋バナか。……ちょっと興味があるな。悪い事とは思ったが、気になって思わず私は聞き耳を立てた。


「って訳で一番手はパレッタちゃんっ!」

「うぇっ!?ウチッ!?」

 マリーがどうやらパレッタに話題を振ったようだな。慌てふためくパレッタの声が聞こえる。

「ほらほらぁ♪言っちゃいなよぉ♪好きな人、いるんでしょ~?」

「う、そ、それはそのぉっ!」

 茶化すようなマリーの表情と顔を真っ赤にして狼狽えるパレッタの様子が手に取るようにわかる。


「そうよパレッタちゃんっ!ここまで来たら無礼講よっ!さぁさぁ、素直に話しちゃいなよっ!」

「う、うぅぅぅっ!わ、分かったよっ!話すよっ!」

「「「「お~~~~」」」」


「う、ウチが好きなのは、好き、なのは。ね、姉ちゃんだよっ!レイチェル姉ちゃんっ!」

「「「「お~~~~っ!!」」」」

 部下たちのかしましい声が聞こえてくる。皆楽しそうだな。……だがっ!私は今恥ずかしいっ!ぱ、パレッタッ!?なぜみんなの前で私の名を出したっ!?本人に聞かれてるの気づいてないのかっ!?うぅ、恥ずかしくて顔から火が出そうだっ!


「お待ちなさいパレッタさんっ!あなたがお姉さまを愛しているのは知っていますが、私の事を忘れてもらっては困りますっ!私だってレイチェルお姉さまを愛しているのですからっ!」

「「「「お~~~~っ!!!」」」」

 み、ミーナまで何を言ってるんだっ!?うぅ、そして私の話題で部下たちが盛り上がってるぅ。


「いや~隊長羨ましいねぇ。こんな可愛い子たちに惚れられてさぁ」

「ホントホント。にしても2人も惚れさせるなんて、罪な女性だよね~」

 部下たちの話し声が聞こえる。でも褒められてるのか、貶されてるのか。分からないぞ内容的にっ!


「まぁ、そんな罪な隊長に惚れてる私たちも大概だけどねぇ」

「「「うんうん」」」

 ッ。今の声は、マリーか?それに頷いているのは他の連中だ。


「えっ!?も、もしかしてマリー姉ちゃんたちもウチやこいつのライバルって事なのかっ!?」

 そこに響くパレッタの驚きの声。

「そりゃまぁ、ねぇ?」

「私たちも隊長に憧れて騎士になって、ここまで付いて来たんだもん。ねぇ?」

「そうそう。って言うか、私たちの部隊の女性騎士はみ~んな隊長に惚れてるんだからね」

「え、えぇっ!?じゃあ姉ちゃんたちみんなウチのライバルなのかよっ!?」

「うぅ、ライバルの多い恋かもとは思っていましたが、まさか皆さんもお姉さまを慕っているなんて。ライバル、多すぎですぅ」


 驚き声を上げているパレッタと、何やら憂鬱そうな声を上げているミーナ。……がしかしそんなことはどうでもいいっ!なぜなら今私の顔は真っ赤になっているからだっ!


 え?皆惚れてるって、私にかっ!?い、いや普段から慕われているのは分かっていたがっ!?い、いや待てっ!そ、そうだきっと惚れていると言っても、決して恋慕とか、そんなはずは……。


「ち、ちなみになのですが、皆さんお姉さまと結婚、したいとは思っているのですか?」

「「「「そりゃもう。隊長を嫁にしたいに決まってるじゃないですか??」」」


 ッ!?ま、マリー達何を言ってるんだっ!?あ、あいつらミーナの言葉になんて答えたっ!?よ、嫁にしたいって、わ、私をかっ!?

「じゃあじゃあっ!もし姉ちゃんたちがレイチェル姉ちゃんと結婚したらどうするんだよっ!?」

「そうね~。結婚しても仕事は続けるけど、家では毎日イチャイチャラブラブしたいかな~」

「ぐ、具体的にはどのようなっ!?」


 な、何か話が変な方向に進んでないかっ!?マリーの言葉にパレッタとミーナが何やら興奮気味に問いかけているぞっ!?

「仕事が終わってヘロヘロになりながら帰宅して。食事とかを終えた2人は疲れたままベッドへ。着替えるのも億劫で、着崩した状態で一つのベッドの上で並んで横になる。それでも、2人の夜の日課としてお互いの耳元で愛を囁き合い、おやすみのキスを……」

「ッ~~~~!なんだそれっ!大人っ!大人な関係過ぎるぞっ!」

「い、良いですわっ!私もお姉さまとそんな関係になりたいですっ!」


 何やら2人がマリーの言葉に反応してキャーキャー言ってる。がっ!そんなことはどうでもいいっ!なんだ夜の日課に耳元で愛を囁き合うってっ!?おやすみのキスってなんだっ!?


まさかとは思うが、マリーもパレッタやミーナと同様に、本気でっ!?


 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎった。だが、それも一瞬で吹っ飛んだ。なぜなら……。

「まぁ、個人的にはキスのもっと先に行きたいんだけどねぇ」

「「えっ!?」」


 ま、マリィィィィッ!?お、お前何を言ってるんだっ!?きき、キスのもっと先ってまさかっ!?

「そ、そそ、それはもしかしてっ!『え』で始まり『ち』で終わるあれ、ですかっ!?」

「そうそう、そのあれだよ~♪」


 み、ミーナァァッ!?なんかミーナの凄い興奮した様子の声が聞こえるぅっ!?声だけで顔は見えないけど、顔を赤くしながら興奮したミーナの表情が脳裏に浮かんで離れないっ!ま、まさかミーナもそういう事に興味あるのかっ!?まぁ年頃だから仕方ないのかもしれないがっ!?


「いや~、憧れるよねぇ。二人きりのベッド。窓から差し込む月明かり。薄暗い部屋で、2人の乙女は纏っていた衣を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で向かい合うの」

「え、エッチだっ!すげぇエッチだぞそれっ!」

「あぁダメですわっ!そ、そこから先は禁断の園ですっ!」


 ま、マリ―の妄想に二人がどこか恥ずかしそうであり、またどこか楽しそうな声を上げているがっ!?マリーッ!お前年下の2人に何を教えてるんだっ!?


「そしてまずはキスから。お互いに身を寄せ合い、抱きしめ合いながら2人の唇は近づいていき……」

「「「「キャーキャーッ!!!」」」」

「わ~!わ~っ!」

「あぁダメですっ!本当にここから先はダメですぅっ!」


 黄色い悲鳴を上げる部下たち。声を上げるパレッタとミーナ。が、しかし。ここまで来て沸いて来たのは、怒りと言うか、呆れだった。そうだ。明日から厳しいトレーニングが始まるというのにこいつらは変な話題で盛り上がりおってっ!


 で、私はどうしたかというと……。




「お前たちぃッッ!いい加減に、寝なさぁぁぁぁぁいっ!!!!!」

「「「「「ひゃぁっ!?ご、ごめんなさぁぁぁぁぁいっ!!!!」」」」」


 顔を赤くしながら怒髪天の如く、彼女達に雷を落としいい加減、布団で眠らせた。

「まったくっ」


 私も彼女達が布団にもぐったのを確認すると、自分の布団に戻る。


 ……ただ、話を聞いていて赤くなった顔だけは怒りの形相で何とか誤魔化せたから良かったのだった。




 翌日。朝。 起床した私たちは朝食を取り、動きやすい恰好に着替えて身支度を整えると屋敷の裏の庭に集合していた。全員気を付けの姿勢で整列していると、おじい様がやってくる。


「おはよう諸君。それでは今日から本格的な訓練を始める」

 私をはじめとした皆を前にして、おじい様は話し始める。

「この訓練の目的は、諸君らのレベルアップ、より正確に言えば『弱点の克服』である。昨日の模擬戦を見た事で、各々の大よその弱点は理解している。なのでこれから一人ずつ訓練メニューを伝えていく。まずはレイチェル。お前からだ」

「はいっ!」


 こうして、おじい様指導の下、我々の訓練は始まった。


 まず、おじい様は各自にそれぞれ異なる訓練メニューを伝えていった。例えばまだまだ経験の浅いキースなどは、いかなる状況でも冷静に対処できるように反射神経や冷静さを保つための訓練をすることに。


 逆にマリーやレオと言った経験のある面々は、弱点も少ないオールラウンダーなタイプなので、得意な事を伸ばすための訓練メニューを言い渡されている。


 そしてパレッタはというと……。

「パレッタ。君はまずこれを使ってみなさい」

「これは?」


 おじい様はパレッタを自分の前に呼ぶと、傍にあった木箱の中から1本の木剣を手渡した。その木剣は、普通の物よりも少し小さい。子供の訓練用の物だろうか?

「おじい様、これは?」

「実は彼女の戦い方を見た時から少し考えていたんだよ。彼女に最も合う戦い方は、果たして何か、とな」


 おじい様は両手に木剣を握るパレッタを見つめながら語る。

「昨日の模擬戦の内容からしても、この子の最も得意とする部分は、速度だ。相手をかき乱し、素早い連撃を叩き込む事だ。これ自体はレイチェル、お前の戦い方と似ている。が、彼女とお前では異なる点がある。何だと思う?」

「……体格と体力、後は、腕力ですか?」

「そうだ。今の彼女の体力は、同世代の子たちに比べて高いとはいえ、現役の騎士には及ばない。加えてその身長もだ。小さく軽い事は、速度を重視する上ではメリットではあるが、反面。力に優れた相手と真正面から斬り合っては力負けするのは確実だろう。更にその体の小ささも、斬り合いでは不利となる。つばぜり合いになり上から押し込まれて、抑え込まれてしまえば終わりだ」


「確かに」

「なので私なりに考えてみた。恐らく一般的な長剣でさえ彼女からしても重く感じるであろう。彼女の速度という持ち味を生かす意味でも、より軽い剣の方が、彼女の得物に相応しいと考えたという訳だな」

「そういうことですか。パレッタ」

「んっ?何、姉ちゃん?」


「その木剣はどうだ?いつも持ってる剣や木剣より軽いだろう?持ってみた感想はあるか?」

「う~ん。そうだな~」

 彼女は木剣を見つめると、それを手に取りその場で少し振り回し感触を確かめている。


「確かに姉ちゃんが鍛冶屋のおっちゃんに頼んで作ってもらった剣より軽いし、すげぇ使いやすいっ!」

「そうか」

 パレッタには、彼女の身長にあったサイズの剣を特注で作ってあるのだが、どうやらそれも彼女からすれば重いと感じていたのかもしれないな。


「ふむ。ではパレッタ。今日の君にはその木剣を使って何人かの者と模擬戦をしてもらう。もし、その短い木剣が使いやすいと判断したのなら、そのサイズと同等の剣を扱うための訓練を明日から行う事になる。いいかな?」

「はいっ!」

 パレッタはやる気に満ちた返事を返した。


 その後パレッタは他の騎士たちと模擬戦を開始。

「さて。では最後に、フェムルタ嬢。こちらへ」

「はいっ」

 最後におじい様は傍に控えていたミーナを呼び寄せた。


「フェムルタ嬢には、私の方で体力づくりのためのトレーニングメニューを作らせていただきました。聞くところによると、将来レイチェルの傍に立つことがあなた様の望みだとか?」

「はい。お姉さまの隣に並び立つ事が、今の私の望みです」

 ミーナはおじい様を真っすぐ見つめながら答える。その望みに嘘偽りはないのは、その姿勢を見ていれば分かるだろう。


「成程。であれば、やはり体力を付ける事や護身のための技を身に付ける事は必要でしょう。大まかな事情は伺っております。そして護身術を身に付け戦えるようになるにせよ、まず何よりも必要なのは体力です。ですのでまずは、無理せず私の考えたトレーニングで体力作りをするのがよろしいかと」


 おじい様はそう言って懐から1枚の紙を取り出し、ミーナに渡した。

「ありがとうございます、アルバート様」


 こうして、各々の訓練メニューが決まって行き、それぞれがそれぞれの訓練を始めた。おじい様は皆の周りをまわりながら、その訓練を監督している。


 そして、私たちの訓練の日々は本格的な始まりを迎えた。


     第37話 END

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