第36話 屋敷到着
私たちの訓練の事を知ったミーナは、私たちと共に訓練をしたいと言い出した。私はレジエス団長やおじい様と連絡を取り、許可をもらう事に成功。二人とも反対などなかったため、私たちの訓練にはミーナも参加する事が決まったのだった。
手紙をもらったその日から、私たちは慌ただしく動きだした。まず、訓練は一週間以上になる予定だ。なので方々にその予定を伝える事。緊急時の連絡先としておじい様の屋敷の場所も伝えておく。また、長期の滞在となるのでそのための荷物の用意などなど。やることは色々あって大変だ。 ミーナも、手紙を貰った翌日には『準備のために一度我が家へ戻ります』と言って護衛の冒険者たちと共にフェムルタ伯爵領へと戻って行った。
その後も色々準備などをして、1週間が経った。そして……。
「ただいま戻りましたっ!お姉さまっ!」
騎士団駐屯地の部屋で書類作業をしていると、マリーに案内されてミーナがやってきた。
「ミリエーナ様、戻られたのですね」
「はいっ、長期滞在との事でしたので、それに見合うだけの着替えやお泊りに欠かせないアイテムなどを持ってきましたっ!」
「そ、そうですか」
お泊りに欠かせないアイテムって。ミーナ、結構浮かれてるなぁ。
「はいっ!訓練の最中はお姉さまとずっと一緒ですしっ!その上寝食までご一緒出来るとあっては、嬉しすぎて昨日など一睡もできませんでしたっ!」
「な、成程」
頬を赤らめ楽しそうに笑みを浮かべる姿はまるで、初めて遠出する子供のようだな。と私は思いながら私は少し引きつった笑みを浮かべる。
ただまぁ、ミーナの過去やらを考えると、誰かと一緒に遠出するなど殆ど経験が無いだろう。この前の依頼の時はそれどころでは無かったしな。まぁ無理もないか。
「ともあれ、これで全員が揃った訳だな。ではマリー、パレッタ達に通達を。数日後には王都を出立。私の家、クラディウス公爵領の一角にあるおじい様の屋敷を目指す。屋敷までは馬で二日程度の道のりだ。各自、準備を怠るなとな」
「了解ですっ」
私の指示を受け、マリーは「いよいよですねっ!」と言わんばかりの笑みを浮かべながら敬礼をし、皆に連絡のため部屋を後にした。
「さて、もうすぐだな」
私は彼女を見送ると、視線を窓の外に向けた。 おじい様たちと会うのは、もう2年ぶりくらいになるか。去年はうまく休みが取れずに会う事も出来なかった。久しぶりにおじい様たちと出会える事に、私も少なからず興奮していたようだ。 私は晴れた空を見上げながら小さく笑みを浮かべるのだった。
~~~数日後~~~
問題なく王都を出立した私たち。それぞれが馬や、馬車に乗り目的地である屋敷を目指して進んでいた。 そして今回、特別に参加しているミーナなのだが。騎士以外にもこの集団に参加している者がいる。 それは、ローザだ。
彼女がいる理由は私たちの世話をするためだ。 おじい様たちの屋敷には給仕や執事もいるし、宿泊に行くわけではないのだ。私たちも出来る限り自分の身の回りの事はするが、どうしても彼女らの手を借りる時はあるだろう。
そういう時の助っ人として彼女を連れていく事にした。 加えてローザも長く私に仕えてくれている。いわば家族同然だ。 だからこそこうして連れてきた、という事だ。
今、ローザは私が個人的に所有している馬車を操り私たちに同行している。そして馬車にはミーナが乗り、外の荷台にはいくつかの荷物を積んでいる。 ローザも公爵家に仕える者としてある程度何でもこなせるように手ほどきを受けてきた。
とはいえ、私の記憶が正しければローザも馬車の綱を握るのは久しぶりのはず。
「どうだローザ?大丈夫か?馬車を操るのは久しぶりだろう?」
「えぇ。問題ありませんお嬢様。確かに久しぶりですが、体に染みついた技術はそう簡単には抜けませんね」
「そうか。ただし無理はするなよ?」
「はい。心得ております」
私の言葉にローザは余裕の笑みを浮かべている。その様子に私も安堵から笑みを浮かべ視線を前方に向けた。
それから私たちは道中の町などで宿を取ったりしつつ、目的地へと近づいていた。そして、王都を出立して二日目の昼過ぎ。 私たちは森林の中を走る道の上を馬に乗り移動していた。
が、不意に森林が途切れ前方の視界が開ける。
「おっ、見えてきたぞっ!」
そして前方に広がる草原の先に一軒の家屋を見つけた。あれこそがおじい様たちの屋敷だ。久しぶりにやってきたこともあり、嬉しさから私は思わず声を上げてしまった。
見えてきた屋敷は、豪邸という程大きなものではない。だが、だからと言って一般市民の家屋よりは大きい。はた目には貴族の別荘のようにも見えるが、今はここがおじい様とおばあ様、それに二人に仕えている者たちの住む場所だ。
ここに来るのも久しぶりだな。懐かしさを覚えながら私はリリーの足を屋敷へと向けて進ませる。当然、ローザの駆る馬車やマリー、パレッタ達もそれに続く。
やがて屋敷の近くまでやってくると、入り口付近を掃き掃除していた壮年の女性が私たちに気づいてこちらに振り返った。
「あらっ!あらあらまぁまぁっ!もしやレイチェル様ではありませんかっ?」
「おぉっ!サリーッ!久しいなっ!」
それは、長くおじい様とおばあ様に仕えているメイドの一人だった。メイドとは言え、その付き合いは私が生まれた時からの物。彼女もローザ同様、私の家族同然である。私はリリーから降り、サリーに駆け寄る。
「お久しゅうございますレイチェル様」
「サリーこそ、まだまだ元気そうだな。ここ数年会えていなかったが、元気そうで安心したよ」
「はい、まだまだ私は現役でございますよ」
そう言って笑みを浮かべるサリー。
「っと、そうでした。確かレイチェルお嬢様たちは修練でこちらにいらっしゃったのでしたね?」
「あぁ。つい最近、部隊に入った新人の訓練や私たちの強化の為にな。おじい様に指導していただく為に来た」
「分かりました。お話は伺っております。今旦那様と奥様をお呼びしますので、こちらでお待ちください」
「あぁ、分かった」
サリーは私とマリー達にお辞儀をすると、屋敷の中へと入って行った。しばらくすると……。
「おぉ、来たかレイチェル」
「ッ!おじい様っ!おばあ様もっ!」
屋敷の中から現れた白髪が特徴的な夫婦。つまりおじい様とおばあ様だ。 ここしばらく会えていなかったが、二人ともしっかりした足取りでこちらへと歩み寄ってくる。
私は二人の元へと駆け寄り、優しく抱擁を交わす。
「お久しぶりです。おじい様、おばあ様。ここ数年は仕事が忙しく、中々お会いする事が出来ませんでしたがお元気そうで何よりですっ」
久しぶりの再会に、表情が自然と緩んでしまう。
「はっはっは、なぁに。年老いたと言っても私も妻もまだまだ心配されるほど衰えてはおらんぞ?」
「えぇ。まだまだ、私たちは元気よ」
そう言って二人は笑みを浮かべている。
「そうですか。ともかく、お元気な姿を見られて何よりです」
二人の今も元気な姿を見る事が出来て私としても一安心だ。
「はははっ、まぁ久しぶりの再会は嬉しいが、今日はそのために来たのでは無かろう?後ろの彼らが、そうかな?」
「あっ、はいっ」
いけないいけない。本来の目的を忘れてしまっていた。おじい様たちに紹介しなければな。
「彼らは私の率いる小隊、聖龍騎士団第5小隊に属する騎士たちです」
「総員、気を付けっ!」
「「「「はっ!!」」」」
私の言葉を聞くと、マリーが指示をしてパレッタらが全員、直立不動の気を付けの姿勢を取る。
「敬礼っ!」
さらに続くマリーの指示を受け、全員が見事に敬礼をする。全員の見事な敬礼におじい様とおばあ様は関心したような表情を浮かべている。と、その時マリーが一歩前に出る。
「お初にお目にかかりますっ!私は聖龍騎士団第5小隊において副官の任を預かっているマリー・ネクテンと申しますっ!本日より、指導していただけるとの事ですが、何卒よろしくお願いしますっ!」
「これはこれは。元気なお嬢さんのようだ」
マリーの挨拶を聞き、おじい様は笑みを浮かべている。
「おっと、それよりもまずはこちらも名乗らなくてはな。私は『アルバート・クラディウス』。レイチェルの祖父だ。こちらは私の妻で……」
「祖母の『ライラ・クラディウス』です。孫娘がいつもお世話になっているようで。これからも孫娘をどうかよろしくお願いします」
「いえ。こちらこそ。私たちの方こそレイチェル隊長には何度も助けられてきました。強く、優しく、人々を思い行動できる隊長は私たちの誇りです。だからこそ我々はこれからも隊長についていくつもりです」
「そう。レイチェル、良い仲間を持ちましたね」
「あ、ありがとうございます、おばあ様」
おばあ様はマリーの言葉に笑みを浮かべているが、肝心の私はマリーの褒め言葉で赤面していたっ!うぅ、やっぱりこういうのは何度経験しても慣れず、恥ずかしいっ。
「ところで、そちらのローザの隣にいるお嬢様が例の子かね?」
「はい、そうですおじい様」
やがて話題は、一人だけ服装の違うミーナへと振られていった。
「お初にお目にかかります、アルバート・クラディウス様。私はフェムルタ伯爵家当主、フレデリック・フェムルタ伯爵が娘、ミリエーナ・フェムルタと申します。以後、どうかお見知りおきを」
スカートの裾を持ち、令嬢らしい会釈をするミーナ。
「話はレイチェルの手紙で聞いています。生憎、この年老いた剣士では魔法に関して教えられる事はありませんが、ミリエーナ嬢が自身の身を守る護身術などを教える事や体力を付ける手伝いは出来ましょう。よろしいですかな?」
「はい、構いません。どうかよろしくお願いします、アルバート様」
「分かりました。さてレイチェル。この後はどうするね?まずは休んでここまでの移動の疲れでも取るかね?」
「いえ。その必要はありません。我々は鍛錬でここに来たのです」
おじい様の提案はありがたいが、生憎私たちは遊びに来た訳ではない。
「早速ですがおじい様、久しぶりに私と一つ、手合わせをお願いできますか?」
「ほぉ?」
その時、おじい様の雰囲気が一変する。 笑みを浮かべているが分かる、その体から放たれる圧倒的なプレッシャー。ふふっ、このプレッシャーも懐かしいな。何度このプレッシャーを放つおじい様を相手に叩きのめされた事か。 思い出すだけで体が武者震いをしてしまう。
チラリと後ろを見れば、歴戦の騎士や兵士たちであるマリー達でさえ、たじろぎ冷や汗を浮かべている。パレッタなど、顔色が真っ青になる一歩手前。完全におじい様に気おされているようだ。 あぁ、まったく。おじい様は既に全盛期を過ぎたというのに。今の私ですら明確に勝てるヴィジョンが浮かんでこない。かく言う私も、マリー達と同様に冷や汗が止まらない。
「よかろう。久しぶりに孫娘との手合わせだ。部下の前だからと、花を持たせる気はないぞ?」
「えぇ。望むところです……っ!」
こうして、私は数年ぶりにおじい様と手合わせをする事になった。
とりあえず持ってきていた荷物を下ろし、場所を屋敷の裏の平原に移す。草原で木剣を手に向かい合う私とおじい様。 そしておばあ様とマリー達、ミーナ、更にメイドのサリーたちも私たちを見守っていた。
「久しいなレイチェル。こうしてお前と試合をするのは、何年振りになるだろうか」
「もう何年も手合わせしておりませんでしたからね。懐かしいです。よくおじい様には叩きのめされました」
そう。私は何度もおじい様に敗れてきた。当時としては苦い記憶だが、まぁそのおかげで強くなれたのも事実。とは言え……。
「が、それも昔の話。今の私は、かつての私ではありません。負けるつもりはありませんよ?」
「ふっ。それはワシとて同じ事よ」
お互いに笑みを浮かべながらも、手にしていた木剣を構える。
「それでは、両者ともに準備はよろしいかしら?」
「はいっ」
「うむっ」
今回、審判はおばあ様が務める事に。
「あなた達にはもう教える必要もないかもしれないけれど。念のためにね。相手に1本有効打を与えたと私が判断するか。相手を参ったと言わせた方の勝ちよ。良いですね?」
「もちろんですっ。負けませんよっ、おじい様っ」
「ふふっ、久しぶりの手合わせ。思いっきり来るがよい、レイチェルっ」
「それでは。はじめっ!!」
「ッ!!!」
おばあ様の合図が響いた直後、私はおじい様に向かって突進した。
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
渾身の刺突を放つ。が……。
「ッ!」
おじい様はそれを危な気なく、簡単に受け流す。刺突をいなしたおじい様は返す刀で私を攻撃しようとするが、私はそれをバックステップで大きく後ろに下がって回避する。
「ふっ。レイチェルよ。どうやら剣技の鋭さは昔以上のようだ。よく鍛えているな」
「ははっ、そういうおじい様こそ。あの頃より更に老いて尚、私の突きを軽くいなすとは。本当に、わが祖父ながら頼もしい限りです」
お互いに笑みを浮かべ互いを称えあう。正直、さっきの刺突で今のおじい様の力量を測るつもりだったが、危なかったな。昔よりも鋭くなった刺突をなおも軽くいなしてくるとは。やはりおじい様相手に油断は出来ないか。
「さて、では今度は、ッ!!」
「ッ!?」
次の瞬間、おじい様が大きく踏み込んできたっ!空を切りながら繰り出される刺突を横に飛んで回避するっ!
「こちらから、行くとするかっ」
不敵な笑みを浮かべながら、おじい様の攻撃は続くっ!
「うっ!くっ!」
繰り出される攻撃の数々っ。そのどれもが的確、且つ相応の破壊力を持っているっ。
「ッ!!」
振り下ろされた一撃を、何とか剣に左手も添えて両手で防ぐ。が、防ぐ事は出来ても剣を握る腕に響く衝撃はかなりの物。
「ぐ、うぅっ!さ、流石ですねおじい様。破壊力は全く衰えていない様子」
震える手で何とか剣を持ち直しながらも痺れを回復するために私はおじい様に喋りかけた。
「はははっ。そうであろうな。何せ、隠居の身である以上時間は大いにある。鍛錬の時間は十分にあるのでな。まだまだ、若い者には負けんぞっ!」
「ッ!?くっ!」
突進し繰り出される攻撃を剣で受け止める。
「成程っ!しかし、私とて今は聖龍騎士の一人っ!簡単には負けませんっ!はぁっ!」
「ぬっ!」
つばぜり合いの姿勢から剣を流す。おじい様は一瞬体勢を崩した。そこに攻撃を叩き込もうと剣を振るうがおじい様はすぐさま立て直しバックステップで距離を取った。
「ふふっ、これは確かに。一筋縄では行かないようだな」
おじい様は不敵な笑みを浮かべている。
「行きます……っ!」
今の私とおじい様の決定的な差は、恐らくスタミナ。しかし攻撃も防御も一流のおじい様を相手に、防御に回っていては良い事など無いっ!いずれ攻め落とされるっ!だからここは、攻めて攻めて、おじい様のスタミナを消費させるか、連撃で攻め落とすっ!!
「おぉぉぉぉっ!!」
「来るかっ!」
おじいさま目がけて剣を振り下ろすが、案の定受け止められるっ!だが、承知の上っ!
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そこからおじい様を防御のまま釘付けにするため、実戦でも中々見せない私の奥の手、最大速度の連撃を叩き込むっ!
連続して響く剣戟音。間断なく響き渡る剣戟音が、私の剣戟の速度を物語る。この最大速度の連撃は体力を特に使うからそれほどの持続力は無いっ!だからこそこの連撃で、一気呵成に畳みかけるっ!
「ふっ。流石は聖龍騎士に上り詰めただけの事はあるっ!」
しかしおじい様は私の猛攻を凌ぎながらも会話する余裕を見せているっ!本当にっ、どこまで行っても私の祖父は人間離れしているっ!
「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
が、だからと言って私も引き下がる気はないっ!模擬戦と言えど相手はおじい様っ!手を抜けるような相手ではないし、これまで何度もおじい様と手合わせして敗れてきたっ!だが今日ここで、私は勝つっ!勝利し、おじい様に成長した私の姿を見せるのだっ!
雄叫びを上げながら剣戟を繰り広げていた私とおじい様。木剣同士がぶつかり合う激突音を何十と響かせながら打ち合う。が、先に体力の限界が見え始めたのはおじい様の方だった。
「ふっ、ふっ」
おじい様は汗を流し、息も少し上がってきているっ!ここだっ!一気に畳みかけるっ!
そして大きく踏み込んだ。が……。
「はぁっ!」
「ッ!?」
こちらの繰り出す剣戟に合わせて、おじい様も攻撃を繰り出してきたっ。激しく木剣がぶつかり合い、つばぜり合いになった、かと思った次の瞬間。
おじい様は木剣を回し私の木剣を絡めとると、弾き飛ばしたっ!? しまったっ!?と思ったその時には遅かった。
「うっ!」
私の喉元に突き付けられるおじい様の木剣の切っ先。こうなっては、実戦では死んだも同然。
「ま、参りました」
「それまでっ!」
すると、それを合図におばあ様が声を上げる。だが私が声を上げずとも勝敗はついていた。また、負けてしまったか。あぁ、自分が情けない。
「レイチェルよ」
「ッ、は、はいっ」
そこに聞こえたおじい様の声。ハッとなって俯いた顔を上げると、そこにあったのは師匠としての硬い表情を浮かべるおじい様だった。私は慌てて姿勢を正す。
「確かにお前の技量はかつてとは比べ物にならない程上達している。先ほどの剣戟の速度はなかなかの物だった。が、以前からある絡め手に弱いという所はまだまだ治っておらんようだな。見え見えの隙に誘われてしまったな」
「えぇ。お恥ずかしい限りです」
あの荒い呼吸も演技であり、私はそれに乗せられてしまった、と言う訳か。
「今のお前ならば、特に制約のない1対1であれば大抵の敵に後れを取る事は無いだろうが、まだまだ精進は必要だぞ?聖龍騎士となったからと言って、それで鍛錬を怠ればいずれ命を落とすかもしれん。良いな?」
「はいおじい様。今後も精進したいと思います」
以前と変わらずおじい様の助言は適格だ。実際、制約のない1対1と言うのはその通りだ。ミーナの護衛の一件では、ミーナを守るために自慢の速度を生かせず苦戦を強いられた事があった。最大の武器である速度を生かせない状況は、それだけで私の弱体化を意味している。 それに見え見えの隙に乗せられているようではまだまだ。
「ともあれ、私とお前の手合わせはこれくらいだ」
「はい。ありがとうございました」
「うむ。まずは皆に今後の鍛錬について話すとするか」
「分かりました」
おじい様に頭を下げ、弾かれた木剣を拾うと私とおじい様はマリー達の元へと歩み寄る。
しかし……。
「んっ?」
私とおじい様が歩み寄った時。なぜかマリー達全員が啞然とした表情をしていた。パレッタやミーナもだ。
「み、皆どうした?そんな、びっくりして固まったような表情をして?」
どうしてそうなったんだ?と思いながら私が声をかけてみると……。
「い、いや驚きますよっ!何ですか今のハイレベル過ぎる模擬戦はっ!?」
「えっ?ま、まさか今の模擬戦に驚いていたのか?」
驚愕した様子のまま声を荒らげるマリーに私は首を傾げた。がしかし……。
「な、何て言うか。姉ちゃんの強さの根っこを見たような気がする」
「「「「「うんうん」」」」」
唖然としたままのパレッタの言葉に、マリーやミーナを含めた全員が何度も頷くのだった。皆何をそんなに驚いているんだろう?と思いつつも、とりあえず今後の予定について話すために気持ちを切り替える。
「んんっ。まぁ、今見てもらった通りだ。私のおじい様の強さは皆分かっただろう」
「「「「「はいっ」」」」」
みんなも私の咳ばらいを聞き気持ちを切り替えたのか、姿勢を正す。
「それでは、我々はこれよりおじい様に指導を受けながら戦闘力の底上げを図るための訓練を開始するっ!実戦ではないからと、気を抜くなよっ!良いなっ!?」
「「「「「はいっ!!!!」」」」」
皆の元気のいい返事が響き渡る。
こうして、私たちの訓練は始まったのだった。
第36話 END
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