第35話 手紙のやりとり
改めて私たちの前で魔法を披露したミーナ。少し無理をしたために魔力切れを起こしたものの、彼女も少し休めば無事に回復した。しかし、彼女は私たちの訓練があると知ると、何とそれに参加したいと言い出したのであった。
「ミーナも、この訓練に参加したい、というのか?」
「はいっ!その通りですっ!」
「むぅ」
その表情などからミーナのやる気は十二分に感じ取れるのだが……。これ、一応は騎士団の訓練だからなぁ。民間人のミーナが参加してよいのだろうか?
「あっ、も、もしかしてダメ、ですか?」
すると唸る私の姿を見たせいか、途端に不安そうな表情を浮かべるミーナ。
「あ、あぁいやっ、違うんだミーナッ」
これは不味いと、私は咄嗟に弁明した。
「今まさに話した通り、これは我々第5小隊のレベルアップを図るための物だ。おじい様が引き受けてくれたとしても、訓練と言えど仕事の一環になる。そこに、騎士団所属でもないミーナを連れて行っても良いのか、少し疑問でな」
「そうですわね。でもお姉さまっ!私だってお姉さまの隣に立つために強くなりたいのですっ!何とかならないのでしょうかっ!?」
「う~~ん」
ミーナの熱意もあるから、連れて行っても良い気はするんだが……。
「すまないミーナ。今の私では可否の判断が出来ない。とりあえず団長とおじい様にそれぞれ聞いてからだな。団長の確認はすぐ出来るが、おじい様となると手紙の往復で数日は掛かる。それまで待ってもらえないだろうか?」
「……分かりました」
ミーナは間を置きながらも納得してくれた。
「確かに部外者の私が無許可で騎士団の訓練に参加するわけにはいきませんね。では、もし団長さんとお姉さまのおじい様、双方の許可が貰えないのであれば私も参加を諦めます。駄々をこねてお姉さまに迷惑をかける訳にもいきませんし」
「そう言ってもらえると助かるよ。では、早速だが私はレジエス団長が戻り次第確認を取っておく。マリー、すまないがミーナを私の部屋へ。そのまま念のため彼女の傍にいてあげてくれ」
「分かりました。では、ミリエーナ様」
「はい」
ミーナはマリーに案内され、護衛の冒険者たちと共に私の部屋へと向かった。それを見送ると、私は机に戻り仕事を再開した。やがてしばらくすると……。
「ふぅ~~。戻ったぞ~~」
息を付きながらレジエス団長が戻ってきた。
「お疲れ様です団長」
私は席を立ち、彼の元に歩み寄る。
「すみませんレジエス団長。ちょっと相談したい事があるんですが、よろしいですか?」
「ん?どうした?」
「実は……」
私は首をかしげているレジエス団長にミーナが訓練に参加したい、という先ほどの会話の内容を説明した。
「成程ねぇ。あのお嬢さん、よっぽどお前を気に入ってたみたいだったが、まさかこれほどとはな」
「えぇ。一応、騎士団の規律が掛かれた書類も確認して、騎士団の訓練に民間人が参加してはいけない、なんて項目がない事は確認したのですが。流石に団長や指導をお願いするおじい様に断りもなし、というのは些か不味いと思い、相談を」
「成程ねぇ。しかし俺は構わないと思うぞ?」
「よろしいのですか?」
「あぁ」
俺が問いかけると団長は笑みを浮かべた。
「別に魔物相手に、限りなく実戦に近い、命の危険もある訓練をするとかじゃないんだろ?」
「えぇまぁ。おそらくは」
「だったら別に連れて行ったって問題はないはずだ。それに、あのお嬢ちゃんはレイチェルの隣に立つのが夢みたいだが、これをきっかけに聖龍騎士団の過酷さを知るのもいい経験なんじゃないか?」
「成程」
「どのみち、お前の隣に立つって言うのなら聖龍騎士団の過酷さを、身をもって体験するしかないんだ。ついていけないと諦めるのか、食らいついてくるのか。遅かれ早かれあのお嬢ちゃんは選択を迫られる。奇しくも、それが訓練期間中に出来るかもって事だ。だから俺に反対する理由はない」
そう言って団長はフッ、と笑みを浮かべる。
「分かりました。ありがとうございます」
私はそう言って小さく頭を下げるのだが、問題はまだある。
『次はおじい様に関してだが、手紙を書いて送って、返事を待つしかないな』
そんなことを考えながら私は自分の机に戻り、追加で手紙を書き始めた。
少しして追加分の手紙を書き終えた私は、執務室を出てミーナが待つ部屋へと戻った。しかし……。
「それでですねっ!お風呂でお姉さまのお胸に触ったのですが、大きさはこれくらいでっ!」
「ふむふむ。おっ?それくらいあるとなると、前よりまた大きくなってるかな?」
なんかマリーがミーナと意気投合してたんだけどっ!?ってそんな事よりっ!
「ふふ、二人とも一体何を話題にしているんだぁっ!?」
「あっ!お姉さまっ!」
「やばっ!?もう戻ってきちゃったっ!」
笑みを浮かべるミーナに対して、マリーの方は『やばっ!?』と言いたげな表情を浮かべているが、今はそんなことどうでもいいっ!
「ミーナッ!?もしかしなくてもあなた今、わ、わた、私のバストの事をマリーに教えていなかったっ!?」
「あっ、はいっ!ネクテンさんとお姉さまのお話で意気投合していると、先日一緒にお風呂に入った事をお教えしましてっ。その時の事を聞いたネクテンさんが、『詳しく聞きたいっ!』と、それはもう必死にお願いされてしまいましたので、お話していたんですっ」
な、何だって~~っ!?
「あ~~。では隊長が戻ってきたので私はこれで~~」
ススス~~っと出ていこうとするマリーだが、逃がすかぁっ! 私は即座にマリーの肩をつかむっ!
「マ~~リ~~?」
「あ、あはは。な、何ですか隊長~?あ、あと、そんな怖い笑み浮かべないでくださいよ~~。あ、あまりの怖さに私泣いちゃいますよ~~?なんて」
マリーは笑みを浮かべているが、それも微かに引きつっている。そんな彼女に私は……。
思いっきりヘッドロックを仕掛けた。
「イダダダダダッ!!!」
「まったくお前はっ!ミーナから何を聞き出しているんだっ!大体、なんでその、私の胸が前より成長したって分かるっ!?」
「そ、それはその、以前お風呂で見た時、自分のと比較検証して大まかなサイズの割り出しをぉ、ぎゃぁぁっ!ギブギブギブッ!!」
テシテシッと私の腕をタップするマリー。だが、しかしっ!
「まったくお前はっ!何てことを聞いてるんだぁぁぁぁぁっ!」
「あだだだだだだっ!?締まる締まるっ!あ、頭が~~~!」
今回ばかりは容赦できるかっ!?よりにもよって私のさ、サイズを聞き出すなんてっ!
「この変態副官めっ!お前はもう少し自重という物を覚えろっ!」
「わ、分かりましたから離してぇっ!な、何か聞こえちゃいけない音が頭から聞こえるんですぅっ!」
「じゃあ今後、私のスリーサイズのデータとかを集めないと誓えっ!良いなっ!?」
「そ、それはちょっと確約できな、いぃぃぃぃぃっ!?」
「お、お前という奴はぁっ!」
こうなれば仕方ないっ!私はヘッドロックをとくと、すぐさまアイアンクローに変更したっ!
「いだだだだだだだっ!!!痛いですよ隊長っ!」
「問答無用っ!こうなったら、一か八かお前の中にある私の恥ずかしい記憶をぉっ!?」
「えっ!?ちょちょちょっ!?ちょっと隊長っ!?それはまさか物理的な物じゃないですよねっ!?物理的な記憶消去って事じゃないですよねっ!?ねっ!?」
「私の秘密を、守るためにはぁっ!」
これ以上、私の恥ずかしい情報を周囲に知られる訳にはいかないんだっ!だからっ!
「本気だよこの人っ!?わ、分かりましたっ!もう隊長のプライベートな情報は不必要に詮索しませんからぁっ!だから物理的手段に出るのだけはやめてくださ~~いっ!」
結局、必死に懇願するマリーに私が折れる形で私は手を離した。
「うぅ、いたたたっ。頭割れるかと思った~~」
涙目になりながらも、頭に手を当てているマリー。が、それもこれも私のプライベートな情報を聞き出そうとするからだっ。
「自業自得だろうが、馬鹿者」
私は恥ずかしさから顔を赤く染め、そっぽを向きながらマリーにそんな言葉を投げかける。
「大体、人のプライベートな情報を集めるなお前はっ。お前だって他人に自分の、そのっ、ボディスタイルとか知られたら嫌だし恥ずかしいだろっ?」
「え?そりゃまぁ赤の他人は恥ずかしいですけど、まぁ隊長なら構いませんよ?」
「ふぇっ?!」
突然のマリーの言葉に、私は顔を赤くした。
「お、お前は何を言ってるんだっ!わ、私になら良いってっ!」
「いやまぁ、赤の他人だったら今言ったように嫌ですよ?でも私、隊長の事は好きですし」
「ふぇぁっ!?」
こいつはいったい何を言ってるんだっ!?うぅ、突然の事に更に顔が熱くなる。
「お、おまっ?!な、何をっ!?」
「おっ?照れてますねぇ隊長。そんな照れてる姿も可愛いですよぉ?」
何やらイジワルな笑みを浮かべるマリー。うぅ、こいつはホント、事あるごとに私が照れるような事を言いおってっ。 頬を赤らめ、マリーの方から顔を背けそっぽを向く私。
「む~~っ、お姉さまとネクテンさんが仲良しなのはいい事ですが、見せつけられるのは面白くありませんっ!」
そう言って頬を膨らませているミーナ。
「仲いいなぁ、あの二人」
「良い、のか?あれ」
そして、護衛のために部屋で待機していた冒険者たちの会話が聞こえてきたのだった。
その後、何やかんやあったが、私はミーナと、部隊の仲間と訓練していたパレッタを連れて帰宅した。
そして翌日から、ミーナは私たちに付いて朝から駐屯地へと出向くと、私からアドバイスを貰って体力づくりに励んだり、私の仲間の魔法師から魔法に関してのアドバイスを受けていた。 その姿勢からも、本当に強くなろうとするミーナの意思が感じ取れた。 が、更に言えば、その姿にパレッタが対抗意識を持ったのか。
「姉ちゃんっ!ウチももっと強くなるからっ!」
と言って訓練に励んでいた。
そうやって、日々の鍛錬や青銅騎士団への教練などを行っていたある日。
「クラディウス隊長、訓練中失礼しますっ」
「ん?どうした」
訓練場で部下やパレッタたちと訓練をしていると、私の部下ではなく、騎士団で事務を担当している騎士の一人が駆け寄ってきた。
「こちら、お手紙が届いておりましたっ。差出人は『アルバート・クラディウス』とありますっ」
「ッ。おじい様からの手紙かっ」
私は差し出された手紙を受け取る。
「ではこれで。失礼します」
「あぁありがとうっ。ご苦労様」
踵を返す騎士を見送ると、私は手紙を裏返す。 そこには、確かにおじい様の字でアルバート・クラディウスより、と書かれていた。
「隊長、手紙が届いたみたいですけど、もしかして?」
「あぁ。私の祖父、アルバート・クラディウスおじい様からだ。例の訓練についての返事だろう」
私が手紙を取り出していると、マリーやパレッタ、ミーナに部下たちが集まってくる。
「そ、それでお姉さまっ!?私の訓練参加についての可否はどうなのでしょうっ!?」
「まぁそう慌てるなマリー。今読み上げるから」
どこか緊張した様子のミーナを宥めると、私は取り出した手紙に目を向ける。
「では読むぞ。んんっ。『我が愛しい孫娘、レイチェルへ。訓練に関する手紙は受け取らせて貰った。』……」
『内容も把握している。特例で新兵などを迎えている事や今いる騎士たちや自分自身も鍛えたい、というそちらの理由についても承知した。また、追加で書かれていた手紙に魔法師を目指す貴族のご令嬢の話も読ませてもらった。幸いな事に今の私はこれと言った仕事があるわけでもないし、久々に孫娘であるお前の姿と成長ぶりも見たい。私には魔法の才はないので、そちらについての教えを授ける事は出来ないが、それ以外、剣や体術などについては教えてやれる事もあるだろう。お前さえよければ部下たちと共にそのご令嬢を連れてきなさい。待っているよ』
それが、おじい様からの手紙の内容だった。
「お、お姉さまっ!という事はつまりっ!」
「えぇ。ミリエーナ様も付いて来て問題ない、という事でしょう」
「ッ!本当ですかっ!うふふっ!やりましたっ!これでお姉さまと一緒に訓練できますっ!」
私が笑みを浮かべながら頷けば、ミーナは満面の笑みを浮かべ嬉しそうだ。
「それじゃあ、これでとりあえず当面の予定は決定、ですね?」
「あぁ」
問いかけてくるマリーに私は頷く。
「なぁなぁ、ウチも姉ちゃんのじいちゃんに会えるのかっ!?」
「そうだぞパレッタ。私たち全員で、おじい様の所で訓練だ。そしたらパレッタも今まで以上に強くなれるかもしれないぞ?」
「ッ!っしっ!じゃあ訓練頑張るぞ~~!」
パレッタもまた、やる気に満ちた笑みを浮かべている。
さて、私も色々準備などをしなければな。久しぶりにおじい様やおばあ様と会うのだから。と、そんなことを考えながら、私は手紙へと視線を落とすのだった。
第35話 END
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