第34話 魔法披露

 ミーナの魔法の腕を見る、と言う事で私は彼女らを連れて駐屯地へ。その道中、マリーのおかげでミーナの意思を聞くことが出来たりもした。そして、レジエス団長も交えて、私たちはミーナの魔法の腕を見ることになった。



 今、私たちは駐屯地の中にある訓練場に集まっていた。中央にはミーナが立ち、それを遠巻きに私やマリー、レジエス団長や、どこから話を聞きつけてきたのか私の部下たち、他の小隊の騎士たち、もともと訓練場にいた面々も居たためか、ギャラリーが続々と集まってきていた。


「なんか、結構人集まってきたな~」

 私の傍にいたパレッタが、キョロキョロと興味ありげに周囲を見回している。

「まぁ無理もないさ」

 そんな彼女に笑みを浮かべながら、私は説明を始めた。


「先ほど団長が言っていたように、魔法師は数が少ない。そして、聖龍騎士団に入団しようとしているミーナが魔法を披露するとなれば、皆興味があるのだろう。有望な新人かどうか、な」

「あ~成程ね。……あ、でもさ姉ちゃん。一つ聞いていいか?」

「ん?なんだ?」

「どうして騎士団の魔法師って数が少ないんだ?なんかさっき団長が話してたのだと、冒険者になる奴も多いって感じだったけど?」

「あぁそれか。まぁ、理由としてあげるのなら、『冒険者の方が自由だから』、だろうな」

「冒険者の方が、自由?」

「そうだ」

 私は小首をかしげるパレッタに頷きながら話をつづけた。


「軍や騎士団は国家に属している存在だ。更に言えば規律や上官の命令などは基本的に絶対の物。ルールを破って騎士や兵士にあるまじき行為を行えば処罰される。そういった所が自由を好む連中からすると『お堅い』と見えるようだ。なので、腕っぷしの立つ者や魔法師としての才能がある者が仕事をするとなると、選択肢は大きく分けて二つある。一つは我々のように騎士や兵士、軍人として軍や騎士団に所属する。もう一つが冒険者として依頼をこなす事だな」

「じゃあ、冒険者の奴らってそういうルールとか嫌いなのか?」

「まぁ冒険者全員がそう、とは言わないが。そういった連中は多いのも事実だ。部下の知人に、出世を願って騎士団に入ったが規律や厳しい上官に嫌気が指して冒険者に転身した、という人もいるそうだ」

「へ~~。でも、それじゃ騎士になろうとする人って少ないのか?」

「ん?まぁ多くはないが、だからと言って少ない事も無いな」

「どうして?」

「騎士団内部で出世すると平民から貴族に取り立てられる事もあるからだ。例えば危険な魔物の討伐任務で見事活躍して叙勲されたり、優秀な仕事ぶりの褒美として爵位を与えられる事もある。特に、このグロリアス王国は騎士の国としても有名だからな。平民出身で、出世して騎士となり更に功績を重ねて貴族となる事も無い訳ではない。実際、そうやって貴族になった家も無数にあるからな」


「じゃあ、やっぱり貴族になりたい奴らが騎士団に入ったりするのか?」

「まぁな。そういう魂胆で入ってくる連中や大会に出たりする連中もいる。……もっとも、そういう貴族になりたい、という理由だけで続けるには難しい仕事だ。だからやめていく者も多い。それでも残る者というのは、騎士としての仕事に誇りを持つ者や何らかの理由で後がなく、苦しいながらも踏ん張っている者。貴族になりたいという強い意志で諦めずに続けている者とかだな」

「ふ~~ん」


 と、パレッタ相手に話していると……。

「お姉さまっ!準備が出来ましたっ!」

 護衛の冒険者やマリー達に手伝ってもらいながら、標的となる木製の人形を準備していたミーナが私の方へと戻ってきた。


 チラリと目を向ければ、整然と並べられた数体の人形が見える。どうやら準備は万端のようだ。ならば……。


「分かりました。ならばミリエーナ様のその腕前、しかと拝見させていただきましょう」

「はいっ!頑張りますっ!」

 私の言葉に、彼女はやる気に満ちた表情で頷くと訓練場の中央まで戻って行った。


 今、訓練場の中央にミーナが立ち、それを遠目に私たちが見守っている。

「すぅ、はぁ」

 彼女の集中を乱さないためだろう。皆、静かにミーナの様子を伺っていた。そして静まり返った中でミーナの微かな息遣いが聞こえる。


「行きますっ!!」 

 やがて、ミーナは目を見開くと同時に、手にしていた杖を振りかざした。彼女の持つ杖の先端に埋め込まれた特殊な鉱石、『魔石』が太陽の光を受けて輝いている。


 魔法師とは、彼ら自身の体内にある『魔力』という力を消費して魔法を発動する。その発動方法は、特定の文章を口にする詠唱方式と呼ばれるものだ。ただし、この世界には『魔石』と呼ばれる鉱石が存在している。この魔石は、所有者の魔法の威力を強化する性質があり、そのため魔石を備えた杖を持つ魔法師も多い。無論、魔石と杖が絶対に必要という訳ではないので、私の部下の中にも、取り回しを考えて杖を持たない者と、威力の底上げのために杖を持つ者がいる。


 そしてミーナは今まさに魔法師の杖を持っている。つまり、これから放つミーナは魔石によってブーストされた物という訳だが、果たして……?


「≪赤き炎よ、その熱で敵を焼き払え、『ファイヤーボール』≫ッ!」


 彼女が詠唱を叫ぶと、左手に握られた杖の魔石が赤く光を放った。そして、的に向けた彼女の右手の辺りから、球状の炎、ファイヤーボールが放たれ的に命中した。藁人形で出来た的に火が燃え移り、そのまま人形全体へと広がっていく。


「「「「「おぉぉぉっ」」」」」

 直後、ギャラリーの騎士たちから微かな驚嘆の声が漏れた。

「なんな皆驚いているけど、あれそんなにすごいのか?」

「あぁ、魔石の補助があるとはいえ、放っている火球のサイズは申し分ないし、速度もそこそこ出ていた。そこにミリエーナ様の若さを加味するとな。私の部下の魔法師の話だが、彼は魔法をまともに使えるようになるまで1年半近く、それも子供の時から訓練に明け暮れていたようだ」

「そ、そんなにかかるのかよっ!?」

 1年半、という数字が予想外だったのだろう。ギョッとした表情でパレッタが驚いている。


「それだけ魔法を取得するのは難しいという事さ」

「へ~~~。大変だ大変だって話してたけど、そんなに大変なのかよ」

 驚嘆したパレッタの様子を後目に私は視線をミーナへと戻した。


「次、行きますっ!」

 ある程度炎の勢いが弱まった所で、ミーナは次の魔法の詠唱を始めた。

「≪吹き抜ける風よ、刃となりて敵を切り裂け、『ウィンドカッター』≫ッ!」

 今度は風系統の魔法か。魔石が緑色に輝くと、彼女の前面から目には見えない風の刃が放たれ、見事に人形を横一文字で切り裂いた。


「はぁ、はぁ、ふぅっ。まだ、行きますっ!!」

 心なしか、少し疲労の色をのぞかせるミーナ。大丈夫か?これは? 少し心配になった私は、いつでもミーナを止められるようにしておく。


「≪敵を指し穿て、氷結の槍、『アイシクルランス』≫ッ!」


 今度は水色に魔石が光った、かと思うと空中に生成された氷の槍が、まるでバリスタから大型の矢が放たれるように的へと向かっていき、深々と突き刺さった。その後も、ファイヤーボールを数発ほど連射したミーナだったが……。


「あっ」

「ッ!?ミーナっ!」

 不意に、ミーナが力なく後ろに倒れこんだっ。咄嗟に駆け出し、彼女が倒れる前に抱き留める。


「う、うぅ、申し訳、ありません。お姉さま」

 ミーナは、若干顔色を青くしながら私を見上げている。


「ミーナ、あなたの気概は買うけど、無理をし過ぎだっ。魔力切れは相当辛いと聞くっ」

「ごめんなさい、お姉さま。どうしても、お姉さまに、良いところを、お見せ、したくて」

「そうか。だが、無理はするな。ミーナが辛そうにしているところを見ると、私まで胸が締め付けられるようだ」

「ッッ~~~!」

 ん?な、何から先ほどまでの真っ青な表情と打って変わって、ミーナの顔が赤い。私としては(妹のような存在として)大切なミーナが苦しそうな所を見るのがつらい、という意味で言ったのだが、何か間違ったか?まぁ良い。


「とにかく、ここでは休む事もままならないだろう。私が医務室へ運ぼう」

「ふぇ?」

 私は抱き留めていた。ミーナ膝辺りと背中に腕をまわし、持ち上げた。いわゆる、お姫様抱っこという奴だ。


「「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「「「「きゃ~~~~♪」」」」

 って、なんか急に聞こえてきたぞっ!?ま、マリーとパレッタが何やら怒った様子でこちらを見ながら叫んでいるっ!そして部下の女性騎士たちも何やら笑みを浮かべ黄色い悲鳴を上げているっ!?なぜっ!?


「見てよあれっ!姫様抱っこよっ!」

「良いなぁ良いなぁっ!私も隊長にお姫様抱っこして貰いたいなぁ~♪」

 うぅ、なんか部下たちがまた変な事を言っているっ!し、仕方ないが、私は逃げるように足早にミーナをお姫様抱っこで抱えたまま医務室へと向かった。


 ちなみに……。

「あぁ、憧れのお姉さまにお姫様抱っこしていただけるなんて♪ミーナは幸せですっ♪」

「そ、それはよかった」

 うぅ、こんな事で幸せってっ!?ミーナまで変な事言ってるよぉっ! 私は、内心泣きたくなるのを我慢しながら彼女を医務室まで運んだ。


 

 その後は、医務室にいた医師にミーナの事を頼むと、一度訓練場に戻るべく部屋を出た。

「っと」

 そして、廊下に出た所で追いついて待っていたのかマリーとパレッタと遭遇した。

「お前たちも来ていたのか?」

「えぇまぁ。……隊長が医務室で破廉恥な事でもおっぱじめないか心配でしてね」

「ちょっと待てなんだその内容はっ!?」

 声をかけてみると、マリーが何やらジト目で私を見つめながら答えたのだが、内容がおかしいっ!?


「私はそんなことしないぞっ!?」

「ど~ですかね~。隊長って、無自覚に女を落としまくる女性キラーですからねぇ」

「うんうん」

 何だその女性キラーってっ!?というかパレッタもなぜ頷くっ!?


「お、お前は隊長を何だと思ってるんだっ!?」

「それはもう。恋愛に関してはヘタレだけど、強くてカッコよくて、誰かのために命がけで頑張れる最高の隊長ですけど?」

「ッ!あぅ、あぅ」

 うぅ、真顔で急に褒められると滅茶苦茶恥ずかしいっ!顔が熱くてマリーの顔を見られないっ!


「良いパレッタ?こんな感じに隊長はストレートな誉め言葉に弱いから。赤面してる可愛い隊長が見たい時はこんな風に褒めてあげると良いわよ」

「ありがとマリー姉ちゃんっ!勉強になったよっ!」

 ってちょっと待てぇっ!?


「マリーお前っ!?何パレッタに私の恥ずかしい事を教えてるんだっ!?」

「え?そりゃぁパレッタも隊長の事が好きみたいですし。なのでレイチェル隊長のファンクラブのメンバーとして隊長の可愛い所を教えていたんですっ!」

「だからそのファンクラブとやらの活動はやめろと前にもっ!あ~~~も~~~っ!」


 うぅ、部下が慕ってくれているのは嬉しいが、こうもプライベートや恥ずかしい事を共有されていると思うと気が重い。


「はぁ、とにかくレジエス団長たちのところに戻るぞ?」

「「は~い」」

 

 医務室の前でたむろしていても仕方ないので、とりあえずミーナの事を伝えるためにレジエス団長のところに戻ろう、と私は考えた。私は二人を連れて訓練場に戻ろうと歩き出したのだが……。

 

「なぁ姉ちゃん、一つ聞いて良いか?」

「ん?どうしたパレッタ」

「そもそもなんであのお嬢様は倒れたんだ?」

「あぁ、そのことか」

 パレッタは魔法に関してほとんど知らないだろうから、この疑問も最もだ。


「ミリエーナ様が倒れた理由は魔力切れが原因だ」

「魔力切れ?」

「そうだ。順を追って説明するとだな。魔法師と呼ばれる者たちは、体内にある魔力と呼ばれる物を消費して魔法を発動する。だが魔力の数は有限。それに魔力の量も人によって異なる。例えば魔力を大量に内包している魔法師なら、それだけ多く魔法を放つ事が出来るし、逆に魔力量が少ない者は、どれだけ強力な魔法を使えたとしてもたった1度の魔法を発動しただけで魔力切れを起こす事がある」

「じゃあ、あのお嬢様も魔力切れで?」

「あぁ」


「ちなみに」

 私が頷くと、傍を歩いていたマリーが補足説明を始めた。

「『魔力とは我々人型種族が持つ生命力である』って言っている人がいてね?魔力=体力って考えてる人が多いんだ。だから魔法師の人たちも体力をつけるために筋力トレーニングとかしたりしてる人が多いから。万が一魔法師と戦う事になっても、『魔法師だから接近戦は弱いはずっ!』なんて思わない方が良いよ?」

「え?そうなのか?」

「うん。前に私たちが倒した盗賊団の話だけど、あいつら私たちの仲間の魔法師に、『魔法師なんて懐に入ればこっちのもんだぁっ!』って叫びながら数人で襲い掛かった挙句、返り討ちにされてたし」

「へ~~」


「逆に言えば、そういう風に、魔法師は接近戦に弱い、と考えて突進してくる輩も多い。それに対応できるようにするため、私たち第5小隊では魔法師でも通常の騎士や歩兵と同程度の接近戦が出来るよう訓練をしている。それに、冒険者をやってる魔法師となれば、いざという時自分である程度何でもこなせないと生き残れないからな。単に魔法の修練だけしている魔法師の方が少ないだろう」

「マジか~~。剣も魔法も使えるなんて、反則じゃん。ウチなんか剣を振るくらいしか出来ないのにさ~~」

 気だるげに息を吐くパレッタに私は乾いた笑みを浮かべる。


「まぁそう気を落とすな。魔法師はこれまで話してきた通り、数は少ない。それに魔法と剣の両方を鍛えるとなると、ある程度の事はなんでも出来る反面、どちらも極める事は難しい。剣と魔法の両方を極めた人物など、私ですら未だ見たことが無い」

「姉ちゃんでも見たことが無いのか。……何かを極めるのって、大変なんだなぁ」

「そうだな。一つの事を極めるのだって、何年、何十年と時を費やす。若くして剣と魔法の両方を極められる人物が居るとしたら、それは才能の塊と言う他ない。私ですら、まだ剣を極めた訳ではないしな」

「えっ!?姉ちゃんでもっ!?」

「あぁ。それほどまでに、何かを極めるのは難しい、という事さ」


 などと話していると、私たちは訓練場にたどり着いた。えっと、レジエス団長は、あぁ居た。


「レジエス団長」

「ん?おぉレイチェル。戻ったか」

 声をかけると、団長も私に気づいてこちらに振り返った。


「それで、フェムルタ家のご令嬢は?」

「今は医務室で休んでいます。軽度の魔力切れという事で、医師の先生の話では少し休めばすぐに回復するだろうと」

「そうか。それなら良いんだが。どうだレイチェル。お前の目から見て彼女は?」

「……正直、逸材と言えるかと」

 静かに、しかし真剣な表情で問いかけてくる団長に私は忌憚なき意見で答えた。


「そう思う根拠は?」

「魔力量自体は、先ほど10回程度の魔法の発動で魔力切れを起こした事から見ても、決して多くはないでしょう。ですが、たった数か月という短期間であそこまで魔法を発動できるようになっている事は、正直賞賛に値します」

「彼女には魔法に関する天賦の才があった、と?」

「分かりません。ただ、魔法にはイメージする力が必要だと聞いた事があります。例えばファイヤーボールですが。あれは何もない空間に、魔力で生み出した火球を生み出し放つ魔法です。口で言うのは簡単ですが、それをこなせる人間は少ない」

「それは俺も聞いたことがあるが……」

「ミリエーナ様は幼少期より大量の書物を読んでおられました。文字から情景を読み取り脳裏にイメージする。もしかしたら、それが魔法をイメージする事への練習になっていたのかもしれません」


「成程。文章から状況を読み取り、脳内にイメージを組み立てる。それのおかげで魔法のイメージを固めやすかったのかもしれない、という事か」

「あくまでも私個人の仮説ですが。それに、ミリエーナ様が魔法への高い適正をお持ちの可能性もあります」

「成程な。つまり、将来が楽しみなご令嬢、という事か。それで、どうするんだ?部隊に誘うのか?」

「……それについては、まだ。つい最近入隊したパレッタは特例ですし。彼女の近況を考えれば、傍にいてくれた方が守りやすいとは思っているのですが、何とも」

「そうか。まぁ、じっくり考える事だ。特別、判断を急ぐ理由はないんだろ?」

 そういうと、団長は私の肩を軽くたたく。


「相談ならいつでも乗るからな?」

「はいっ、ありがとうございます」

「おう。それじゃあ俺は、執務室に戻るぞ」


 そう言って歩き去っていく団長を私たちは見送った。


 その後、今のところこれと言った火急の仕事や依頼などはないため、私は兵たちとの訓練やら書類仕事などをこなしていた。 今は執務室でとある用事のために手紙を書いている所だ。周囲には、殆ど人はいない。別の部隊の小隊長たちは訓練や依頼で席を外している。団長も、上層部と会議があるからと先ほど出て行った。


「失礼しま~す」

 ノックと共にそう言って入ってきたのはマリーだった。

「ん?どうしたマリー」

「あぁいえ。先ほど、ミリエーナ・フェムルタ様が回復されましたので、お連れしました」

「お姉さまっ」

 マリーの言葉が終わると、彼女の後ろからぴょこんと顔を出すミーナ。


「み、ミリエーナ様っ。もうよろしいのですか?」

 あ、危うくミーナと呼びかけたが何とか誤魔化しながらも席を立つ私。


「はいっ、医務室で休ませていただいたおかげで、もう大丈夫です」

 ミーナの顔色を確認するが、彼女の言う通り問題なさそうだ。


「それよりごめんなさいお姉さま。魔力切れを起こしてしまって、ご迷惑をかけてしまって」

「気にする必要はありません。苦しんでいる人を助けるのも、私たち騎士の、当然の務めですから」

 そう言って私はミーナに微笑みかける。

「そう言っていただけると嬉しいです、お姉さま。……あら?」

 彼女も安心した様子で笑みを浮かべたのだが、ふと視線を私のテーブルに向ける。


「お姉さま?この手紙は?」

「あぁ。それは私の祖父母の屋敷に送る手紙です」

「お姉さまの、おじい様とおばあ様ですか?確かおじい様は」

「えぇ。私が騎士になるきっかけを作ったと言っても過言ではない人です」

「そんなおじい様とおばあ様にお手紙を?理由をお聞きしてもよろしいですか?」


「構いませんよ。と言っても、大した要件ではないんです。実は今、我々第5小隊の強化訓練を考えておりまして、それについてなんです」

「強化、訓練ですか?」

「えぇ。パレッタは知っての通りまだ騎士になりたてです。実戦経験も少ない。また、私の部隊にはキースという新人がいるのですが、彼もまだまだ入隊したばかりなので。二人のレベルアップはもちろん、私やマリーと言った皆の更なる強化のためにおじい様に協力を仰ごうと思っているのです。それに正直、私自身は0から騎士を育成した事がないので、パレッタについてもおじい様の意見を聞きたい所なんです」

「成程、それで」


 情けない話だが、私も騎士を0から育てた経験はない。マリーなどは私の部下になる前に一通りの教練を受けているからな。しかしパレッタはそうではない。だからこそ私や私の兄に姉を育てた経験のあるおじい様を頼るつもりだ。


 しかし、ミーナが何やらぶつぶつとつぶやきながら考え込んだような表情を浮かべてる。なんか『ご家族に挨拶をしながら私自身もレベルアップ?』とか『それは完璧では?』みたいな事を言ってるが、一体?

「お姉さまっ!」

「ん?ど、どうした?」

 

 やがて不意に顔を上げるミーナ。その眼はなぜかやる気に満ちていた。


「その訓練っ!私も参加させてくださいっ!」

「えっ!?」

 突然のパレッタの発言が予想外過ぎて、私は驚き声を上げてしまった。どうして?という疑問が脳内で渦を巻く中で……。


「あぁ、また修羅場の予感」

 ミーナの後ろでマリーが気だるげな表情でポツリとそう呟いていたのだった。


     第34話 END

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