第32話 3人の夜
私を訪ねて王都へとやってきたミーナと相対するパレッタ。どうやら、二人とも私に好意があるからか、険悪な様子になってしまった。周囲に色々誤解されながらも、彼女達を連れて帰宅した私は二人に事情を話す。そして二人も、お互いの事を話し合い、少しは理解しあった様子だった。
さて、二人とも話し合いは終わったようだし。 私はドアを数回ノックする。
「パレッタ?ミーナ?話し合いは終わったか?」
「あっ!うんっ、終わったよ姉ちゃんっ!」
「はい。大丈夫ですよ、お姉さま」
中から返ってきた返事。
「そうか。では失礼するぞ」
ドアを開けて中へと入り、先ほどまで座っていた椅子に腰を下ろす。
「それでミーナ?明日の予定は聞いていたが、今日はこれからどうするんだ?宿はもう取ってあるのか?」
「いえ。実はお姉さまに会いたい一心で、王都についてもすぐ、聖龍騎士団の駐屯地へと向かってしまい。実はまだ宿が取れていないんです。何分、屋敷の外へ出るのも殆ど初めてでしたから」
「そうだったのか」
気恥ずかしそうに頬を赤く染めながら語るミーナ。が、私は内心『しかし』と考えながら窓の外に目をやった。
「が、もう既に外は薄暗い。今から宿を探していたのでは時間が掛かるし、ミーナは狙われている可能性もある。防犯意識の低い安宿などでは危ないし」
「うっ、そ、そうですね」
苦い過去を思い出したのだろう。ミーナの表情が陰る。彼女の素性や過去を考えると、初めての王都に慣れぬ宿に泊まるのは些か危険かもしれない。その点、我が家には私もパレッタも、ローザもいる。うぅむ、ここは……。
「ミーナ、よければ今日は、いや。今日と言わず王都にいる間は我が家に泊まらないか?」
「「えぇっ!?」」
私の提案に驚いた様子で声を上げるパレッタとミーナ。……なんかミーナの方は若干顔が赤いというか、嬉しそうな表情をしているが、気にしないでおこう。
「よ、よろしいのですかっ!?」
「あぁ。構わないさ。ミーナの素性や現状を考えると、出来るだけ安全で、落ち着ける相手がいる場所が良いだろう?となると、やはり一番は私の家だろうと思ったのだが、どうだ?」
「それはもうっ!お姉さまの傍なら安心出来ますし、落ち着けますっ!」
嬉しそうに笑みを浮かべるミーナ。どうやら問題はないようだな。
と、話していたのだが、次の瞬間、傍にいたパレッタの腹から『クゥ~~』と可愛い腹の虫の音が鳴った。
「う~~。腹減った~~」
腹が減って我慢できない、と言わんばかりに憂いのある表情でパレッタが息をついている。そういえば夕食がまだだったな。流石に私も腹が減ってきた。
「ローザ、夕食の準備は?」
「もちろん出来ておりますが、流石に冷めてしまっていますね。少し温めなおせばすぐにお出しできますが?」
「そうか。あぁだが……」
ミーナも泊まる、となると私、パレッタ、ミーナにローザの分も食事が必要だ。とはいえ時間も時間なので、今から食材を買うのは無理だろう。
「食事は、私たち4人分はあるか?」
「えぇ。パレッタちゃんがよくお代りをするので、そこそこ量は作ってありますので大丈夫かと」
「そうか。ならば、食事にしよう。パレッタも、これ以上待てないだろう?」
「うんっ!腹減ってもう死にそうだよっ!」
食事、という単語にパレッタは突っ伏していた体を起こし、先ほどまでの表情とは打って変わって笑みを浮かべ瞳を輝かせている。本当にお腹が空いてたんだな。
「そう言うわけだが、ミーナも構わないか?」
「はいっ、お姉さまと食卓をご一緒出来るのなら、本望ですっ!」
彼女も彼女で、嬉しそうに笑みを浮かべている。そんなに私と一緒が嬉しいのだろうか?まぁ、食事は一人よりも複数の方が楽しいが……。っと、そうだ。別室で冒険者たちを待機させていたんだった。
「ミーナ、護衛として来ていた冒険者たちは、どうする?」
「それでしたら、今日のところはどこかに宿を取っていただきましょう。そしてまた、明日の朝迎えに来てもらう、という所でしょうか?」
「分かった。なら、ローザが食事を温め直している間に話をしてこよう」
「はいっ、では私もっ」
「あぁ。あっ、所でパレッタは……」
「ウチはもう空腹で動けねぇよぉ。悪いけど待ってるわぁ」
「ははっ、分かった。じゃあ待っててくれ」
今にも溶けるんじゃないか?ってくらいにぐったりした様子で机に突っ伏すパレッタ。その姿に私は苦笑しながらもミーナと共に冒険者たちの元へ向かった。
冒険者たちはミーナの指示に同意し、明日の朝、どれくらいに我が家に来るか相談。ミーナから宿泊代、としてお金を受け取ると、近場の宿が埋まる前に探したいから、と言って足早に家を出て行った。 そして話し合いが終わり、出ていく彼らを見送ったころ、ちょうどローザが料理を温め終えたようだ。 部屋に戻ると、ローザとパレッタが食器や料理を並べていた。
「あっ、お嬢様、もうすぐ準備が出来ますよ」
「へへっ!ウチも手伝ってるんだっ!」
私に気づいて声をかけるローザと、パレッタはもう待ちきれないっ、と言わんばかりの表情でせっせと手伝いをしている。
「そうか。偉いんぞパレッタ」
「あっ、えへへ~~♪」
何気なく、私が頭をなでると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべている。が……。
「むぅ~~」
すぐそばで何やらミーナが頬を膨らませているのだった。はっ!?つい癖でっ!
「さ、さぁっ!食事にするかっ!流石に私もお腹が空いてきたしなっ!」
「あっ」
このままではミーナが不機嫌になってしまうかっ!?そう考えパレッタの頭から手を放す、が……。
「………」
なんかパレッタの方も悲しそうな表情をしているぅっ!?うぅっ、片方に何かをすれば、もう片方がどこか悲しそうにしたり、嫉妬心に満ちた表情を浮かべるっ!あぁもうっ!これもすべて私がヘタレなせいなのかっ!?
しかし、かといって今二人に何か答えてやれる事も出来ず、とにかく今はローザが用意してくれた食事で腹を満たした。食後のお茶をしてしばし談笑した後、私、パレッタ、ミーナの3人は風呂に向かった。
「それじゃあローザ、すまないがミーナの分の客間の用意を頼む」
「はい、お任せください」
私はローザにお願いし、それぞれ着替えを持った二人を伴って風呂へ。3人とも、脱衣所で衣類を脱ぐと中へ。お湯を桶で掬って、体を洗ってから湯船に体を浸ける。
「ふぅ~~」
肌にお湯の温かさを感じながら私は息をつく。が、直後何やら視線を感じ、そちらに目を向けた。見ると、同じく湯船につかるミーナが私の体を恍惚とした表情で、文字通り注視していたっ!?それはもう穴が開くんじゃないかってくらいにねっ!でもえっ!?ミーナッ!?
「な、何か?」
「はっ!?ご、ごめんなさいお姉さまっ!」
私が問いかけると、彼女は我に返った様子ですぐさま頭を下げる。
「つ、ついっ!お姉さまのきめ細かいお肌がっ!瑞々しい肢体がっ!鍛えられながらもすべての女性の羨望を受けるような素晴らしいお体がそこにあったためにっ!あぁっ!我慢できずに凝視してしまいましたっ!」
「ッ!?な、なにを見てるんだっ!?」
顔を赤くしながら興奮気味に力説するミーナに私は思わず自分の胸を両手で隠してしまった。というか、ミーナってホントにこんな子だったっけっ!?……いや好きな事とかに滅茶苦茶饒舌になってたりした事はあったがっ!
「申し訳ありませんっ!で、でもっ!お姉さまのお体を見られるなんてっ!」
「ひぃっ!?」
何やら、獲物を前にした狩人みたいなミーナの表情に私は情けない声を上げてしまったっ!こ、ここはパレッタに助けを求めるべきかっ!?
私はすぐさま反対側に腰を下ろしていたパレッタの方へと振り返るっ。
「………」
「ぱ、パレッタ?」
しかし肝心のパレッタもなぜか私の体、それも胸の辺りをじ~~っと眺めていた。うぅ、なんかすごく恥ずかしいんだが……。
「あのさ、姉ちゃんってさ」
「な、何だ?」
「改めて思うけど、胸、大きいよな」
「ふぇっ!?」
ぱぱぱ、パレッタァっ!?ま、真顔でなんて事を聞いてくるんだっ!?い、いや、確かに自分でも決して小さくはないとは思っているが……。い、いやっ!そんなこと今は良いんだっ!
「確かに。以前お会いした時は鎧や服の上からしか見たことがなかったのですが、言われてみると、大きいですね」
「ッ!?」
な、何かミーナまで私の胸に興味持ち始めたぞっ!?
「確かこういうの、着痩せするタイプ、っていうんだろ?」
「えぇ。そうです。ただ、実際に着痩せするタイプの方を見るのは初めてですが。それにしても……」
「あぁ、改めて思うけど、姉ちゃんの胸、結構大きいよなぁ」
「同感ですね」
どうやら二人とも、仲良く話をしているようで私は喜ばしい。 しかし私の胸を話題にしないでくれぇっ!恥ずかしさで顔から火が出そうだぁっ!
「一体、何喰ったらこんな胸になるんだ?」
と、その時、パレッタが私の胸を指先でつついたっ!?
「ひゃうっ!?」
突然の事に体も心も戸惑い、口から洩れたのは騎士らしからぬ、女性らしい悲鳴。
「ちょ、ちょっと待てパレッタッ!?今のは流石にっ!」
「あぁずるいですっ!」
流石に不味いっ!そうパレッタに言いたかったのだが、ミーナの言葉がそれを遮ったっ!更に、私は結果的にミーナの方に背を向けてしまっていた。
「私だってお姉さまのお胸、触りたいですっ!」
直後、背中に当たったそれは、み、ミーナのむむむ、胸かっ!?後ろから密着してきたミーナの、柔らかい何かの感触を背中に感じるっ!? あぁぁぁぁぁっ!お、落ち着け私っ!落ち着くんだっ!考えるなっ!考えちゃダメだっ!
しかし……。
「お姉さまぁっ!」
「ひゃぁっ!!?」
むむ、胸っ!?胸を後ろからわわ、鷲掴みにされてしまったぁっ!?
「ちょっ!?ミーナっ!そ、それはホントに冗談じゃ済まないぞっ!?」
「あぁっ?!も、申し訳ありませんお姉さまっ!」
顔面を真っ赤にする私に謝るミーナ。しかし彼女はなぜか手を放してくれないっ!?
「あぁでも、これがお姉さまのお胸っ!なんて柔らかくて、手に吸い付くようでっ」
ミーナァァァァァッ!?!?何言ってるのっ!?ねぇ本当に何言ってるのっ!?
「ぶ~~っ」
って、なんかパレッタ、不服そうな顔してるけどっ!うわぁっ!ミーナそんなところを触らないでくれぇっ!
「ちょっ!?パレッタッ!お願いだっ!見てないで助け、うぅっ!」
「ずるいぞお前だけっ!ウチだって姉ちゃんの胸触るっ!」
「え゛っ!?」
ま、待ってっ!待ってくれパレッタッ!?君は今何を言ってっ!?
「ちょ、ちょっ!?」
必死に私は止めようとした。だが、言葉よりも彼女の動きの方が早かった。
「はぅんっ!?」
パレッタは私の胸に、顔をうずめるようにして抱き着いた。
「うは~~、柔らかいな~~。落ち着く~~」
今にも蕩けそうな表情のまま笑みを浮かべるパレッタ。しかし、しかしっ!
「だからって私の胸の間で落ち着くな~~!」
流石にこの状況を前にしては、叫ばずにはいられなかった。
「ちょっ!?何をお姉さまの胸の間で安らいでいるのですかっ!?なんて、なんて羨ましいっ!」
「羨ましいのかっ!?」
ミーナの声に思わず私はツッコんでしまったっ。
「こうなったら、私だってお姉さまのお胸を堪能させていただきますっ!?」
「なっ!?ちょ、ちょっと待てくれっ!これ以上は、うぅっ!や、やめてくれぇぇぇぇっ!」
結局、私はそれから数分、二人によって散々弄られてしまうのだった。……うぅ、もう、お嫁にいけない。
あぁ~~~。風呂に入ってさっぱりするはずが、何だか余計に疲れた気がする。こういう日は、早く寝るに限る。
「それじゃあミーナはこの客間を使って。私とローザの部屋はさっき教えた通りだから、何かあればすぐに来てくれて構わない」
「分かりました」
ふぅ、さて、あとは寝るだけか。 そう、思っていたのだが……。
「よぉしっ!じゃあ姉ちゃんっ!今日も一緒に寝ようぜっ!」
「今日、『も』?」
パレッタの言葉に、客間のドアを開きかけていたミーナの体がビクリと反応し、そのまま彼女は動かなくなってしまった。
「み、ミーナ?」
嫌な予感はした。だが、聞かずに行くのもどうかと思い、声をかけた。
「お姉さまっ!突然ですが、以前のように私との添い寝を希望しますっ!」
「えぇっ!?」
予感はあったっ!パレッタの言葉に反応してたし、もしかしてとは思っていたが、その通りになったっ!
「な、なに言ってるんだよっ!アンタにはアンタの部屋があるだろっ!?なら自分の部屋のベッドで寝ればいいだろっ!」
「パレッタさんこそっ!自分のお部屋があるのですから、そちらでお休みになれば良いではありませんかっ!」
「そ、それはっ!ウ、ウチは姉ちゃんの傍の方がぐっすり眠れるんだよっ!」
「でしたら私もそうですっ!私だって、愛する人の腕の中で眠りたいのですっ!」
「「うぬぬぬぬっ!!」」
お互い、一歩も譲らない二人に、私は疲れていたのもあって。
「わ、分かったっ!ならこうしようっ!」
私は早く寝たかった。だからとある提案をしてしまったのだった。
私の寝室のベッドの上。そこで横になる私と、両脇を固めているパレッタとミーナ。そう、私は二人まとめて添い寝する事にしたのだった。
「ふふふっ、お姉さまとまた一緒に眠れるなんてっ♪幸せですっ」
「む~~。ちょっと不満はあるけど、まぁ良いか」
笑みを浮かべるミーナと、これまで私と二人っきりで寝ていた事が出来なくなったからか、少し不服そうに頬を膨らませるパレッタ。
「まぁそういうな。それと、明日は私もパレッタも仕事だし、ミーナも駐屯地へ来るんだろう?ならば早く寝て、少しでも多く休んでおくように。良いな?」
「「は~いっ」」
二人とも私の言葉に異口同音の返事を返してくれた。
さて、もう寝よう、と思ったのだが……。
「あっ、お姉さま?実は一つだけお願いがあるのですが」
「ん?どうしたミーナ?」
「『腕枕』、というのをお願いしても、よろしいですか?」
気恥ずかしそうに頬を染めながらのミーナの言葉。まぁ、それくらいなら構わないか。
「えぇ。どうぞ?」
私は静かに片手をミーナの方へと回す。するとミーナの頭が、私の腕、二の腕の辺りに乗せられる。
「ふふっ、お姉さまの腕枕、良いですわぁ」
こんな事でも喜んでくれるのなら、それでいいか。と私も笑みを漏らす。
「あっ!ずるいぞっ!姉ちゃんっ!ウチもウチもっ!」
「はいはい」
すると対抗意識を燃やしたのか声を上げるパレッタ。私は笑みを浮かべながら、もう片方の腕を彼女の方に回し、パレッタも同じように私の腕に自分の頭をのせる。
「えへへ~~」
やれやれ、とは思いながらも、二人とも満足そうだし、良いか。と、私は考えていた。
「それじゃあ二人とも。おやすみ。明日も色々あるから、しっかり休むんだぞ?」
「「は~~い」」
ふふっ、まるで妹が二人も出来たようで、少し変な感じだが、まぁこれも良いか。そう、考えながら私は眠りについた。
ただし、長時間二人の頭を二の腕辺りに乗せていたせいか、翌朝。
「う、腕、が、しび、痺れて……」
寝起き直後は腕が痺れていて、まともに動かせなかったのだった。
第32話 END
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