第17話 帰還

 護衛任務を終了した私達だったが、私は夢を諦めようとしていたミーナにエールを送り、彼女の夢を応援する事を決めた。しかし一方で、何故か彼女から告白を受けるハメになってしまうのだった。



 今、私達は伯爵領を出て、王都イクシオンへ向けて帰路に就いていた。

「ハァ~~~~」


 しかし、任務が終わったと言うのに私の心は晴れない。任務は無事に終了したのだが、告白されたのだっ。しかも同性のミーナからっ!


 更に言えば、告白について私は否定も肯定もしていない。待ってくれと言ったくらいだ。しかしいつか返事をするとも言ってしまった。いずれは返事をしなければならないだろう。……しかも、ミーナがしびれを切らして我が家に押しかけてくる前に、だっ!


 とは言えな~。返事を考えると言ってもどうするべきか。もし私が断ったら、きっとミーナは酷く悲しむだろう。下手をすると、それが理由で私と一緒に世界を見て回る夢を拒むか諦めてしまうかもしれない。


 かといって告白を受け入れてもな~。私自身、同性愛を否定する気は無い。が、私自身は今の所普通だ。……いやそもそも私は恋愛経験の一つも無い女なのだが。しかしだからこそ、女性同士の恋愛という物が一切分からない。……それに、公爵家と伯爵家の令嬢が同性同士でお付き合いなど。陰口が大好きな貴族連中に知られればどうなることか。下手をすれば私達だけではなく私やミーナの家族にまで何を言われるか。


「ハァ」

 結局、受けるのも断るのも、色々問題がある。『進退窮まる』とは正にこのことか、と思ってしまう私が居た。……どうしたものか?と考えながらも自然とため息が出てしまう。


「隊長」

 その時ふと、隣に居たマリーから声が掛かった。

「そんなに悩むんでしたら、最初から断れば良かったのでは無いですか?あの告白」

「うっ。た、確かにマリーの言う事は分かるが、しかし見ていただろう?私が断ったら今にも号泣したかもしれないミリエーナ様の表情を」

「そりゃぁ見てましたけど。……だからって、あんな曖昧な返事しちゃって良いんですか?あれじゃあ問題の先延ばしにしかなってませんよ?」

「う、うぅ。その辺りは分かっているのだが。しかしどうにも。ミリエーナ様が悲しむ顔を見たくは無いし、かといって告白を受ける勇気も、今はその……」


「隊長って……」

「ん?な、何だ?」

 何やらマリーが、呆れたような目で私を見つめている。


「見た目は良いし強くてカッコいいのに、恋愛に関しては『ヘタレ』なんですか?」

「ぐふっ!?」


 『ヘタレ』、と言う容赦の無い言葉が私に突き刺さるっ!しかもマリーめっ!若干ヘタレの部分を強調していたようなっ。

「し、仕方無いだろっ!?あの状況では頭の中がこんがらがっていたんだっ!」

「だからって問題を先延ばしにしているだけじゃ何も変わりませんよ?」

「うっ」


「それに、今良い答えが出なかったからって、この先、良い答えが出る確証は無いですよね?」

「うぐっ」


「だからもし悩むくらいなら、最初に断った方が相手にも良いんですよ?下手に待たされて、希望を持たされた挙げ句に断られでもしたら。それこそ号泣ものですよ?」

「う、うぅ」


「どっちも選びにくいのは分かりますけど、結果がどうあれ答えを出せないままでは、一生ヘタレのままですよ?」

「ぐふぅっ!!」


 か、完敗だっ!非常に情けないが部下に言い負かされてしまったぁっ!うぅ、情けなさと恥ずかしさで穴があったら入りたい。

「と言うかマリーッ!?お前何か怒ってないかっ!?」

「いいえ。怒ってなんかいません。ただ情けない隊長の姿にちょっと幻滅してるだけです」


「うぅっ!やっぱり怒ってるじゃないか~!!」

 何故か知らないがマリーの言動がいつにも増して棘があるっ!うぅ、私が何をしたって言うんだ~。


 訳が分からないまま私はリリーに跨がっていたが、ミーナに告白されるし何かマリーも怒ってるし。うぅ、色々ありすぎて私は泣きたいぞ。


「……怒るに決まってるじゃないですか。本当なら、私が一番に隊長に告白したかったのに」

「ま、マリー?何か言ったか?」


「いいえ。言ってもヘタレの隊長には絶対教えません」

「やっぱりお前いつもより辛辣だなっ!?」


 結局、任務で敵と戦った時よりも色々ありすぎて、私は困惑し、戸惑い、告白された事やマリーが何故怒っているか分からず、結局帰り道はずっと頭を抱えている羽目になったのだった。



 しかし、道中これと言った問題も無く、我々は王都イクシオンへと帰還出来た。既に夕暮れ時なので、詰め所に戻った私は皆を解散させ、1人で報告のためにレジエス団長の元へとやってきた。


「失礼しますっ。レイチェル・クラディウス及び第5小隊っ、任務を終え帰還しましたっ!」

「おぉ。戻ってきたかレイチェル」

 仕事をしていたレジエス団長が視線を上げ、私の様子を見ている。


「その様子じゃ、上手く行ったみたいだな?」

「はい。護衛任務は完了しました。護衛対象である伯爵家ご令嬢、ミリエーナ・フェムルタ様はご無事です。また、襲撃を受けましたが首謀者の拘束に成功しました」

「そうか。ならば成果として十分だ」

 笑みを浮かべながら頷く団長。


 っと、そうだ。

「あっ。レジエス団長。実はお伝えしておきたい事が」

「ん?何だ?」

「実は………」


 私は光防騎士団の連中の顛末を伝えた。勝手にやってきて、勝手に護衛に加わった事。しかし最後は、クリフォードとその部下によって全員が死亡した事。

「……そうか。……全員死亡で間違い無いな?」

「はい。帰路で受けた最初の襲撃で数名が死亡。残った隊長のオルコス以下、10名余りも味方を装っていたクリフォードとその配下に切られ死亡。オルコスは首を落とされていました」

「……そうか。……分かった。光防騎士団には俺から報告しておこう。それと……」

「何でしょう?」


「もし光防騎士団の連中がこの件で何か言ってきたら真っ先に俺に言え。厳重に抗議する」

「……よろしいのですか?」

「あぁ。連中の死はお前の落ち度じゃない。大体、連中は正式な依頼を無視して独断で動いたんだ。言い方は悪いだろうが、自業自得だ。気にするな」

「ありがとうございます」

 私は静かに団長へ頭を下げた。



 その後、報告を終えた私は駐屯地を出て、その足で法務省へと向かった。衛兵などは聖龍騎士団の騎士である私が来た事に驚いて、すんなりと中に通してくれた。そして中を歩いていると……。


「ッ、大臣っ」

 運良く仕事を終えて帰ろうとしている初老の男性、法務大臣と遭遇出来た。


 私は足早に彼に駆け寄り、敬礼をする。

「ん?あなたは確か、聖龍騎士団の?」

「はい。聖龍騎士団第5小隊隊長をしております、レイチェル・クラディウスと申しますっ」

「あぁ、あなたが。それで、聖龍騎士のお方が私に何か?」

「はい。実は先日、前法務大臣をしておりましたフレデリック・フェムルタ伯爵に関してご依頼を受けまして、その際に伯爵より現法務大臣である貴方様に渡して欲しいと、これをお預かりした次第です」


 そう言って私は持っていた鞄の中から手紙を取り出す。

「これは?フレデリック伯爵からの手紙ですか?」

「はい。伯爵から直接渡して欲しいと頼まれ、参上した次第です」

「分かりました。ありがとうございます。ここでは何ですし、屋敷に戻ってから拝見いたします」

「はっ。では私はこれで、失礼させていただきます」


 そう言って大臣の傍から踵を返して離れようとした時。


「あっ。ちょっとよろしいですか?」

「はい、何か?」

 呼び止められ、私は振り返る。


「一つお聞きしたいのですが、先輩は、伯爵はご壮健でしたか?」

 そう問いかけている大臣の表情は、伯爵を本当に心配しているようだった。

「えぇ。今も奥様と娘のミリエーナ様と共に、幸せそうに暮しておられました」

 だからこそ、私はそう伝えた。流石に狙われている事を話すことは出来なかった。


「そうでしたか。なら、良かった」

「大臣は、伯爵の事を心配なさっているのですね?」

「えぇ。昔世話になった人ですから。……昔は仕事ばかりで、でも何度か命を狙われた事もありましたから。最近は仕事も忙しくて会うことも出来なかったので、少し気になっていたんですよ。でも、幸せそうと聞いて何よりでした。すみません、呼び止めてしまって」

「いえ。ではこれで。失礼いたします」


 そう言って私は大臣と別れ法務省を後にした。……彼を恨む人も居れば、その身を案じる人も居る、か。


 ふとクリフォードの恨み辛みを叫ぶあの時の顔が浮かぶが、あの男もどうなる事やら。


 そんな事を考えながら、私は数日ぶりに我が家へと帰還した。実に2週間近く家を空けてしまっていたな。仕事で家に数日帰れない事はよくあるが、やはり仕事を終えて帰ってくると、いつも『あぁ、帰ってきたんだなぁ』と思わされる。


 そんないつも感じる懐かしさと共に我が家の扉を開ける。


「ただいま。戻ったぞローザ」

『パタパタッ』

 中に入り、声を上げれば奥から足音が聞こえる。そして……。


「お帰りなさいませっ、レイチェル様っ」

 少しばかり息を荒くしたローザが出迎えてくれる。


「あぁ、ただいま、ローザ」

 彼女を前にする時も思う。『我が家に帰ってきた』のだと。


 その後、ローザが用意してくれた風呂に浸かり任務の疲れを癒やすと、お腹が空いてきた。風呂から上がった私は、着替えてローザと共に食事をした。


「それで?今回の依頼はどのような物だったのですか?」

「ん?」


 それはローザの日課というか、癖だった。私が任務から帰ってくると、決まって内容や成果を聞いてくるのだ。


「そうだな。大変だったが、やりがいのある任務だったよ」

 そう言って私はローザに話をした。


 ミリエーナ様の護衛、としてどんな事があったのか。どんな危険があったのか。どんな出会いがあったのか。流石に個人のプライバシーなどは言えないが……。


 その日は、ローザが長く家を空けていた私への労いとして上等のワインを出してくれた。しかしそれが不味かったのかも知れない。



「そうだ。そう言えばローザ、私は任務の最中に告白されたよ」

「えっ!?!?」

 私が酔った勢いで言うと、これまで微笑みを浮かべながら相槌を打っていたローザが一転して驚いた様子で立ち上がった。


「ここ、告白ですかっ!?レイチェル様がっ!?」

「あぁ。そうだぞ。いやはや、あれにはホントに驚かされた」

「ッ!?な、何と言う事ですかっ!あ、相手はどなたですかっ!?貴族っ!?平民っ!?み、認めませんからね私はっ!レイチェルお嬢様と結婚しようなどとっ!どこの馬の骨とも知れない輩からの告白でしたら、絶対このローザが認めませんからねっ!」


 何やら顔を赤くして騒ぎ立てているローザ。ふふっ、いつもと違い慌てているなぁローザ。

「あぁ、何を慌てているんだローザ?私に告白してきたのは、伯爵家のご令嬢。今の話に出てたミリエーナ様だぞ?」

「え?そ、そうなのですか?」

「あぁ」


 私は頷き、手元のワインに視線を落とす。


「どうして、私が同性のミリエーナ様から告白されたのか、正直訳が分からないよ」

 そう言って私は自虐的な笑みを浮かべる。あぁ、本当に。何故私は告白されたのだろうか?どれだけ考えても、理由が分からない。


 しかし……。

「あ~。とうとう、と言うべきですかね、これは」

「ん?」


 予想外のローザの言葉に私は視線を上げた。彼女は今、頬に手を当てて『ようやくか』と言わんばかりの表情を浮かべている。……何故だ?


「ローザ?」

「はい?何でしょう?」

「ローザは私が、同性から告白された事に驚いたりしないのか?」

「えぇ。それはもう驚きませんとも。レイチェルお嬢様の勇姿を、誰よりもお側で見てきた女として、驚きませんとも」


 そう言って微笑みを浮かべているローザ。むぅ、どういうことだ?

「ローザは、私が同性から告白されるかも?と思って居たのだろう?ならば教えてくれ。なぜ私はミーナから告白されたのだ?」

「ふふふっ。残念ながら、その理由をお教えすることは出来ません」

「私がお前の主でもか?」


「主でも、です。お嬢様の持つ魅力には、お嬢様ご自身で気づいて欲しいのです」

「むぅ。……騎士として生きてきた私に、そのような魅力があるとは思えぬが?」

 そう言って若干不満を覚えながら、料理を口に運ぶ。


「何を仰いますか。お嬢様こそ、魅力の塊にございます。それは時に、同性から恋慕の思いを向けられるほどに」

「そう、なのか?」

「えぇ。現に私も……」

「ん?」

「はっ!な、何でもありませんっ!い、一度空いた皿を片付けて参りますっ!」

 何かを言いかけた様子のローザだが、すぐにハッとなって空いた皿を手に一度キッチンの方へ行ってしまった。……何を言いかけたんだろうか?と思いながらも私はワインを飲む。


 ……ハァ、返事を考えなければなぁ。と考えながら、私はワイングラスに視線を落とすのだった。


 結局その後は他愛も無い話をして、お開きとなって私は自室へ行きベッドへと潜り込んで眠りに付いた。



 それから、数日が経過した。



「ふぅ」


 ミリエーナ様の護衛任務から既に1週間が経過したある日、私は自室で書類仕事をしていた。しかし、相変わらずミーナへの良い返事は思いつかないままだった。


「ハァ」

 どうすればミーナを傷付けずに……。いや、そもそも告白を受けた事に関してどうするべきか。受けるべきか?断るべきか?うぅ、どうしよ~~。


『コンコンッ』

「ッ!は、はいっ!どうぞっ!」

 考え事をしていたので、突然のノックに若干上ずった声で答えてしまう。


「失礼しま~す」

 入ってきたのは、何かを手にしたマリーだった。


「隊長、クラディウス伯爵家から隊長宛に手紙が届いてましたよ」

「て、手紙?私にか?」

「はい。これです」

「あ、あぁ。ありがとう」

 近づいてきたマリーが差し出した手紙を受け取る。手紙には封蝋がされており、右下には差出人の名前として『クラディウス伯爵家より』との文字があった。


『差出人は伯爵家より、としか無いか。となるとフレデリック伯爵か、ミーナが出した物か分からないな。とりあえず開けてみるか』


 私は机の引き出しからペーパーナイフを取り出し、中から手紙を取りだした。さてさて、送り主はどっちだ?


「……………………。うぅっ」


「えっ!?た、隊長どうしたんですかっ!?」


 手紙を読み進めていた私だが、ちょっとした『絶望』にうめき声を漏らすと、後ろにいたマリーが慌てて駆け寄ってくる。


「うぅ、そ、外堀が……」

「はい?」

「外堀が埋められて行ってる」

「は、はぁ?」


 私の言っている意味が分からないのか、マリーは首をかしげている。し、仕方無い。ここは口で話すより、この手紙を読んで貰った方が早い、か。


 私は手にしていた手紙をマリーに差し出した。

「これは?」

「読んでくれ。口で説明するより、きっとこっちの方が早い」

「は、はぁ。それじゃあ、ちょっとお借りしますよ」


 そう言って手紙を手にしたマリーは咳払いを初めてから手紙の内容を朗読し始めた。


「え~っと。『拝啓、レイチェル・クラディウス様。王都へと戻られて早数日。如何お過ごしでしょうか?私はお姉様が騎士団の激務でお体を壊していないか、毎日心配している次第です。お姉様が王都へ戻られてからと言う物、私がお姉様の事を考えない日はありません。そしてあの日からと言う物。私はお父様とお母様を説得するための日々を送っております。お父様は当初、私とお姉様の婚約に難色を示していましたが、意外にもお母様が私の思いを尊重し、応援してくれています。なのでお父様の説得もあと少しと言う所まで来ています』。……あぁ、これは確かに外堀埋まってますね」

 どこか気怠げに呟くマリー。しかしそれだけじゃないんだ。


「うぅ、それだけじゃないんだマリー。もう一枚も読んでくれ」

「え?」

 私が促すと、2枚目に目を向けるマリー。


「『それと、私ごとなのですが、今現在私はお姉様の隣に立てるよう、魔法師の勉強を始めました』。…………はぁっ!?」

 手紙の内容にマリーが驚きの声を上げている。


「『まだまだ戦う事などは出来ませんが、少しでも自分の身を守れるように、そしてお姉様の隣に立った時、相応しい女であれるよう日々邁進しております』ぅっ!?ちょっ!?何ですかこれっ!?」

「うぅっ、ミリエーナ様が本気で私と婚約しようとしてるぅ」


 戸惑い驚いているマリーの傍で私は頭を抱える事しか出来なかった。


「いや~~。マジですかこれ」

 マリーは若干引いたような口調で机の上に置かれた手紙に視線を下ろしている。そして私は今もその隣で椅子に座り頭を抱えていた。


「どうするんですか隊長。これ、ガチですよ。マジですよ。本気ですよ。あの子、本気で隊長と結婚する気ですよ。しかも親ももう説得出来そう、みたいな事書いてましたし。……早くしないと、知らぬ間に『お姉様のご両親に挨拶済ませておきました』、なんて手紙届きますよ?」

「やめてくれっ!リアルでそうなると思うと怖いからやめてっ!」

 うぅ、このままではミーナがどんな行動に出るか、想像も付かないっ!


「……ホント、どうするんですか?」

「うっ」

「あの子にどんな返事するのか、その様子じゃまだ考え切れてない、ってところですか?」


「……あぁ」

 私はマリーの言葉に静かに頷いた。


「ちなみにですけど、あの告白を受ける気はあるんですか?」

「……全く無い、と言えば嘘になると言うか。そもそも私は恋愛というものが良く分かってないんだ」

「と言うと?」

「彼女の事は、私からすれば妹のような存在なのだ。あの任務の中で怯える彼女を姉のように宥めていた事があったからな」

「へ~~」


 うっ!?な、何かマリーが凄まじく冷たい目で私を見ている気がするっ!?

「と、とにかくだっ!」

 私は声を上げて強引に話題を変えた。


「ミリエーナ様の事は嫌っている訳じゃないが、私からすれば妹のような者だ。嫌っては居ないが、そもそも恋愛対象としてはなぁ」

「恋愛対象としては見ていないと?」

「そうだっ。……が、しかしかといって断ると、彼女がどうなるか。タダでさえこれまで殆ど外に出たことが無かったミリエーナ様だが、依頼を終えて屋敷に戻った日。私は彼女の夢を、外の世界を旅してみたいと言う彼女の夢を応援すると約束したんだ。……それを、告白を断ったせいで台無しにするのも避けたい」


「成程。って事は結局、今もこれといった答えが出ていない、と。……やっぱりヘタレじゃないですか」

「ぐふっ!?」


 再び突き刺さる言葉という名のナイフ。

「うぅ、部下の言葉が容赦なさ過ぎて辛い」

「自業自得です。そんな優柔不断だから悩んでるんじゃないですか?」

「ぐふっ。……か、返す言葉もございません」


 うぅ、部下の言葉が辛辣すぎて胸に刺さる。


 やがて……。

「ハァ。隊長ご自身の今後に関わる問題なので、私が言えることは少ないですが。少なくとも待たせすぎるのは失礼に当りますよ。断るにしろ受け入れるにしろ。お返事は早めの方がよろしいかと」

「あぁ。分かってるさ」

「……なら、良いんですけど。じゃあ私はこれで」


 そう言ってマリーは部屋を出て行った。彼女の後ろ姿を見送った私は、視線をテーブルへと戻し、眼下にある手紙に目を向けた。


 相変わらず、自分が告白された理由も、今後どうするべきかも。どれだけ考えても『案』、と呼べるような物は浮かんでは来なかった。


「ハァ。……とりあえず、返事の手紙でも書くか」 


 私はテーブルの引き出しから紙とペンを取り出し、返事の手紙を書き始めた。


 『どうしてこうなったんだろう?』と、頭の中で何十、何百回と答えの出ない自問自答を繰り返しながら、とりあえず当たり障りの無い文章の手紙を書き上げる。


 『しかし』。と私は手紙を書き上げてから思う。恋愛のれの字も知らない私にはこれから先、どうすれば良いのか皆目見当が付かない。……少しでも恋愛を経験していたら、この先どうするべきか分かったのだろうか。それすらも私には分からなかった。


 これまで騎士になるために時間を捧げてきた私にとって、恋愛とは謎解きにも等しい物だった。全てがパズルのようで、どこをどうすれば良いのか今の私では分からない。


「ハァ。……誰か、恋愛という物を私に教えてくれ」


 分からないこそ私は誰かに、恋愛について教えを請いたい気分だった。


 が、答える者も居ない私の言葉は空しく消えていった。


 本当に、この先これからどうすれば良いんだろう。


 これまでの人生で最大になるかもしれない難問を前に、私は頭を抱える事しか出来なかった。


 そして同時に、私はこの時はまだ知らなかった。ミーナからの告白が、単なる始まりでしかない、と言う事を。


     第17話 END

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