第11話 俺とあいつと
「第4回、チキチキ恋愛映画鑑賞かーい」
「わー」
やってきました。志乃さんの怖がる姿を見たいというだけの歪んだ私利私欲が生み出した誰得コーナー。前3回中、3回ホラー映画を見せられた幼馴染が感情の薄い笑顔でパチパチと乾いた拍手をする。その瞳に既に光は無い。つまり俺は3回ゾンビに噛まれた事になる。
「懲りないね」
いやまったくもって。なんでだろうな。
「では早速」
「待って賢くん」
早速俺が厳選した映画『其方の名は』(中身『おらこんな村いやだ3〜惨劇の寒村〜』)をセットしようとすると、ぬっと横から伸びてきた志乃の手がそれを阻止した。力強っ。
あれ?…もしかして割りとガチめにキレてらっしゃる?
「たまには私の選んだホラー映画観ようよ」
「何?」
志乃が後ろから箱を取り出してそんなことを言う。思いもよらない提案に、俺も思わず間抜けな声を発してしまう。
…ホラーが苦手な志乃が自ら厳選した映画だって?そんなもの気にならない方が嘘ではないか。
志乃が手渡してきたパッケージを見つめる。…日本の映画か…おどろおどろしいけど、何だか雑コラ感満載でいかにもB級感増し増しだが、あの志乃が選んだ映画なのだ。さぞかしとんでもないのだろう。
「いいだろう」
「わーい」
ウキウキと志乃がディスクをセットする。
俺のように中身をすり替えているのではないかと警戒したものの、映し出されたのは確かにパッケージに描かれていた若い俳優だった。
「………」
静かに志乃が肩を寄せてくる。俺は何を思うことなく映像に集中する。この素晴らしくほのぼのとした学園の、いつ何処で何が起こるのか気になって仕方ないからだ。断じて動揺を隠すためではない。
…………
朝が来て、主人公が幼馴染に起こされる。
おいコラそんな可愛い子が起こしに来てくれてるのに何邪険にしてんだ自分がどれだけ恵まれた立場なのか自覚してんのかぶっ飛ばすぞ。
幼馴染が他の男子と喋っているのを見て、胸を抑えて首を傾げる主人公。
おいコラ何惚けてんだそんなの好きだからに決まってんだろLIKEじゃないよLOVEだよとっとと肩でも抱けよ焦れってえな。
チャラ男に絡まれている幼馴染を、勇気を振り絞って飛び出した主人公が助け出す。
おいおい信じてたよやればできる子だと思ってたよ俺はお前に足りないのはあと一歩の勇気だけだったんだよちくしょう涙がでてくらぁ巣立ちってのはこういうことを言うんだろうな。
……………
…………………
…………………………?
鑑賞会が始まってから、どれ程が過ぎただろうか。依然、映像には仲の睦まじい二人の男女が映し出されている。全く、幼馴染があからさまに自分に想いを寄せていることくらいわかるだろうに、この鈍感主人公何やってんだイライラするなぁ。
しかし、ここまでジレジレした青春模様を長く見せつけるくらいだ。さぞ恐ろしいどんでん返しが待ち受けているのだろう。具体的には幸せ絶頂の中、幼馴染が化け物に食われるとか、実はとっくに死んでいたとか。イケメンが絶望の底に叩き落される瞬間って気持ちいいよね。
…………
そんなもの一切なかった。
「んん?」
最後まで甘酸っぱい青春模様を見せつけやがった二人が、夕焼けが照らし出す丘で漸く想いを伝えあって、強く抱き締め合って、互いの唇を深く触れ合わせる。その光景をバックに、遂にスタッフロールが流れ始めた。
「めでたしめでたし」
「………」
何じゃあこりゃあ…。
「志乃。何だこれは」
「『幼馴染が可愛すぎる2〜俺とあいつと大五郎〜』だけど」
何じゃあそりゃあ…。
いや、それよりも何よりも
「大五郎誰だよ!」
「エンディングの1カットで後方彼氏面してたアフロの人だよ」
「誰だよ!!!」
何一つホラー要素の無い青春映画じゃねぇか!
パッケージ詐欺ってレベルじゃない。テレビとパッケージを何度も何度も見比べる俺を見て、志乃はニコニコ笑っている。
そして、俺は気付いた。その笑みの中に、ほんの僅かのニヤケ面成分が確かに含まれていることに。
まさか、
まさかこいつ…。
「どうどう?賢くん、ドキドキした?胸キュンした?」
「──」
「怖かったねー?」
俺に恋愛映画を見せる。ただそれだけのためにパッケージ自作しやがった!!しかもわざわざ同じ俳優のそれっぽいシーンだけ切り取って!何て油断ならないことしやがる!道理で雑コラっぽいと思ったよ!!
「いいなぁ。私もあんなロマンチックな告白されたいなぁ」
「くっ……」
確かにあのシーンは良かった。こいつの罠に嵌ってがっつりのめり込んでしまったから台詞も覚えているし、今でも思い出すと感動で涙がちょちょぎれてしまう。
「そう言えば近くの神社の裏手にそれっぽい丘あるよね」
「何っ」
昔よく遊んだあの神社のことか。確かに山の上にあるあそこならばあの感動的神シーンの再現が……。
「賢くん賢くん。今ならあの池田麺人になれるチャンスだよ」
「──!」
「レッツトライっ」
志乃が主人公の顔を何度も指さして、ウキウキと身体を揺らす。ふんすふんすと珍しく興奮したご様子で。
喜びなのか、照れなのか、頬を上気させてはしゃぐ可愛らしい顔を見て俺は──
「…いや、流石にあんなこっ恥ずかしいことできないかな」
「そういうとこだよ」
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