第7話 抱え込む想い
それはやっぱり何でも無い日。
「賢くん、何か落ちたよ」
「ん?」
並んで下駄箱を開けると、彼の下駄箱からヒラヒラと一枚の便箋が舞い落ちる。
淡い桃色の紙。……これはもしや。
「何だコレ」
何ともない感じで彼が手紙を拾い上げる。…その反応も健全な高校生としてどうかと思うな賢くん……。
「………ラブレター、じゃないかな」
「……らぶ?」
「レター」
彼が私の顔を見る。手紙を見る。3回程繰り返したところで動きを止める。徐々にぷるぷると震えだす。
「マジでか」
「多分」
「ラブレターなんて貰ったの生まれて初めてじゃないか……!?」
「………」
感極まった様に天を仰ぐ賢くん。……私、何回か手紙渡した事あるのに。その時より嬉しそうなのはどういう事だろうか。
「私、先に行ってるね」
「ん?何で?」
「私が一緒に見るわけにはいかないでしょう?」
「何で?」
「………そういうとこだよ」
駄目だよ賢くん。誰かは知らないけどその人の気持ちはその人だけのものなんだから。勝手に赤の他人が暴く様なことは出来ないから。
そして賢くんの気持ちも賢くんだけのもの。
首を傾げる彼を置いて私はさっさとその場を後にした。
■
「はぁ〜〜………」
「どうしたんだい?月城さん」
何だか今日は授業に身が入らない。
朝から数えて何度目かという溜息を吐いたとき、星野君が声をかけてきた。
「………星野君かぁ……」
「ま、まだ怒ってるの……?」
「そんなことはないけど…」
でも、この悩み事って何故か彼に相談する気にならない。だって当てにならないし。凄く当てにならないし。
「僕で良ければ相談にのるよ?」
「気持ちは嬉しいけど星野くんって…」
「けー君今日一緒にショッピング行かなーい?」
口を開こうとした時に向こうから甘い声。見れば色々鮮やかな沢山の女のコが彼に向かって手招きしている。
「やあ、お誘いはとても嬉しいけれど残念なことに今日は予定があってね」
「「え〜」」
「けれど次は必ず行かせてもらうよ。君達みたいな綺麗な子達との縁を手放したくはないからね」
「「や〜ん」」
「…………やーん………………」
甘ったるい声に甘ったるい声で応える甘ったるいマスクの男子。どうして、こう、彼はいちいち、こう、…何なのかな。凄くムズムズする。やっぱり男性というのは賢くんくらい真っ直ぐで一途で
「……一途……」
「月城さん?」
胸のもやもやが強くなって、つい机に突っ伏してしまう。
「賢くん、何してるのかな……」
「ああ…賢一今ラブレターで呼び出されたんだっけ」
「うん…」
彼はどうするんだろう。あの手紙の内容が果たしてどの様なものかは知らないけれど、もし彼がその人の想いに応える様な事があれば──
『悪いな志乃。彼女が不安がるからもう家に来ないでくれ』
「………」
怖い。身体が震える。寒い。もしそんなことになったら、賢くんが私の世界からいなくなったら、私には何が残るの?家族。友達。大切だ。でも違う。そうじゃない。私にとってあの人は──
「…………っ」
「月城さん…」
気づけば突っ伏した私を心配そうに星野君が私を見下ろしている。
……いけない。こんなものはワタシじゃない。不安がる所を見せてはいけない。それはきっと、私にとって普通の人よりも付け入る隙になる。
だから笑わなきゃ。
「…これが、ねとられ?」
「寝てから言おうよ」
「寝てるもん」
「…そう…いや、それも…どうなのかな……」
頭を抱える星野君。何かおかしな事を言っただろうか。賢くんって温かいから、抱きしめて昼寝するのに丁度いいのに。…でも彼女が出来たらそれも出来なくなるのだろうか。
…少し寂しいけれど、しっかりと祝福しなきゃ。私は賢くんの幼馴染なのだから。
そんな事をぼんやり考えていたら、扉が開いて彼が帰ってきた。何やら重たい表情で。
「…ただいま」
「お帰り賢一」
「…けんくん」
一言だけ発した後、私達を無言で一瞥すると、彼はそのまま黙って座り込んでしまう。続く重たい雰囲気に私達も首を傾げる。
「どうしたの賢一」
「………」
「賢くん」
「どうしたもこうしたも」
ポケットから取り出した手紙を彼が星野君に叩きつけた。ああ、皺になっちゃう。
「これお前宛じゃねぇか!!」
「「え」」
発せられた衝撃的な一言。さっきまでの私の様に机に突っ伏してしまった彼を見て、私達は揃って顔を見合わせる。
「…心臓ドキドキさせながら呼び出し場所に着いた俺の純情を返せよっ………!!」
「……ドキドキしたんだ」
別にいいんだけど。
「何で…俺が、いきなりフラレなければならない………っ!知らない女子に!!」
「星野……陽向………あ、…あぁ〜〜…」
納得顔で頷く星野君。……まぁ、確かに緊張してて尚且つ場所も近かったらそういう事もある、のかな?
「まぁ、その、…」
「ああん?」
慰めたいのか、言葉を言い淀む星野君を賢くんが射殺す様に睨みつける。星野君が誤魔化す様に柔らかな髪をそっとかきあげた。周りの女子から微かに聴こえる感嘆。確かに様にはなる。
「ほら、僕、モテるから」
「「ちっ」」
「月城さん!?」
女子を虜にする魅惑の笑顔でこの一言。
いけないいけない。流石にイラッとしてしまった。いや、流石にイラッとするよ。私だって。
「星野君」
「え?」
「そういうとこ」
「?」
「嫌いだとさ」
「!?」
私の感情を見事に代弁してくれた賢くんに感謝を。膝を付いた星野君をとりあえず放って私達は一緒に席を立つ。肩を落として溜息をつく彼の前へと回ると、私はその大きな手をとった。
「賢くん。遊びに行こう?慰めてあげる」
「…何かお前上機嫌じゃないか?」
「そんなことないよ」
「…そうか?」
うん、そんなことない。
「買い物行こう。今日は何でも好きなもの作ってあげる。フラレちゃった可哀想な可哀想な賢くんのために」
「………お、おう」
「ゲームもしようね。今日はホラーでも何でも付き合ってあげる。一人身は寂しいもんね」
「…………」
「一緒にお風呂入ろうか。水着は着るけど。今の賢くんは人肌恋しいもんね。飢えてるもんね。よっ狼」
「やっぱおかしいて!!」
そんなことないってばっ。
「ねぇ賢一、ところで何て断られたの」
「俺に手を出す度胸は無いってさ。ふん、どういう意味だっつの」
「(あぁ〜……)」
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