第6話 君は何を望む
アングラ造形 気紛れ聖戦
君は何を望む
夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし。
吉田松陰
第六聖【君は何を望む】
「ふう・・・」
欠伸をしたビートは、物音が聞こえて場所を移動する。
森の中にある、比較的止まりやすそうな枝に止まっている、というよりも鳥から人間になったため腰を下ろしているノーズゼインを見つける。
「大丈夫そうだな」
「何が起こった?」
そう問いかけると、ノーズゼインが簡単な状況説明をした。
氏神を神のところに連れて行ったことを知ると、ビートはストレイクの方に行くと言ったため、ノーズゼインは苹里の方に向かうこととなった。
その頃、神のもとに辿りついていた人間姿の氏神は、そこに魔王とその使いの山羊を見つける。
「ああ、終わったんだね。お疲れ様」
「そんなのんびりしてて良いのか」
「ほらね、私に敬語さえ使わないだろ?」
小さく笑いながらそういう神の前には、まるでそこにだけ蟻が集まったように黒い、という表現もおかしいかもしれないが、とにかく、黒いオーラが漂っていた。
氏神は神に近づくと、自分たちの身に起こっていることを話す。
「災難だったね。君たちも、私も」
すると、ガイが氏神を見て口を開く。
「蛇を近くに置くなど、愚かだな。天敵が多いだろうに」
「いいんだよ、私が置いておきたいんだからね」
「“氏神”などと大層な名を貰っておいても、所詮は手足の無い地を這うだけの哀れな生物。人間に呪いをかけることも出来るのか」
ピク、と微かに瞼を動かした氏神だが、それを知ってか知らずか、神が何か思い出したように氏神に聞いてきた。
「そういえば、『ハーメルン』とかいう男と会ったかい?」
「はあめるん?誰だ?」
「知らないならいいんだ。きっと、君の名を騙っただけだろうからね。ああ、魔王は知ってるだろうけど、あちらは山羊のハンクっていうそうだよ」
「はぁ・・・」
なぜ紹介されたのか分からない氏神だが、きっとどの生物もが、神より会ったことがあるであろう魔王のガイを見て、全ての元凶がこの男であることは理解した。
その隣で気味の悪い目でこちらを見ているハンクは、先程からいつ襲ってくるか分からないほどの殺気を醸し出している。
「氏神」
「なんだ」
「そう喧嘩腰にならなくて良いよ。潰しにきたとは言ってるけど、多分違うね」
「違う?目的は他にあるってことか」
「本気で潰そうとしてるなら、わざわざこんな少兵制で来ないだろうし、何より、あの男がじっと座ってるはずがないからね」
「・・・自分の手を汚したくないだけじゃないのか」
「そんな綺麗な男じゃないよ。私を潰すならそれこそ自分の手でヤるだろうからね」
「なら、心を読めばいいだろ」
「神はなんでも出来ると思ってるのかい?確かに読めるけど、心が読めるのは人間だけだよ。あんな男の心を読んだら、一瞬でこの左目も真っ黒に染まってしまうだろうからね」
―ストレイクVSヴァルソイ―
「昆虫なんて一飲みだ。さっきよりも小さくて弱い蜘蛛なら尚更簡単なことだ」
「あれ?俺なんか小馬鹿にされてる?勘弁してくれよ。これでも結構してるって言われるんだけど」
「お前相手なら楽勝♪」
ヴァルソイはストレイクに一気に近づくと、先程の氏神の時同様に、ストレイクを連れて海の中に真っ逆さまに落ちて行く。
肺いっぱいに酸素を吸い込んで潜水すると、ストレイクは苦しそうにもがき始める。
簡単に殺せるだろうと、10分ほど海の中を泳いだあと、海面へと投げ捨てる。
「だから言ったろ?楽勝だって。そもそもお前、なんでこのゾーンに来たわけ?」
ヴァルソイはストレイクに背中を向けて歩きはじめる。
「他の奴らはどうなったかな?ちゃんと仕留めたかな?」
一歩一歩前に足を進めて行きストレイクから3メートルほど離れたとき、何かに引っ張られる感覚に陥る。
もしやと思い後ろを振り返ると、そこには動いているストレイクがいた。
「お前、どうして生きている?蜘蛛の癖に!息など出来ないはすだろ!どんな小細工をした!?」
「小細工?してねぇよそんなもん。知らなかったのか?蜘蛛にも、潜水出来る種がいるんだよ。しかも、お前等と良い勝負するくらいにな」
「馬鹿な・・・!!」
「いきなり潜られたときはどうなるかと思ったけど、なんとかなったな。それにしても、死んだことも確認せずに敵に背中見せるとは、大した自信家だな」
ストレイクはヴァルソイに近寄りながら、ヴァルソイをくるくるとまわして糸をまきつけていく。
ヴァルソイは力付くで振りほどこうとするもそれが出来ず、ただただそこで身体をねじることしか出来ない。
「ああ、あと一応言っておくけど俺、昆虫じゃねえから」
ストレイクは大丈夫だろうと人間の姿で休もうとしたとき、まだ余力があったヴァルソイがストレイクに嘴を向けてきた。
ストレイクの目玉目掛けてやってきたヴァルソイの嘴だったが、そのとき、ビートが現れてヴァルソイの身体を掴み、振りまわして海の中へと放り投げた。
「・・・・・・ええええええええええええええ!?おま、な、何してんだあ!?あいつ死ぬぞ!?動けねえのに!!」
「なら助けてやればいいだろ。動けないようにしておかなかったお前が悪い」
「ごめんねえ!?」
叫びながらストレイクは海の中へと潜ると、ヴァルソイを引きあげる。
そして今度は動けないようにしっかりと木に身体を巻き付けておいた。
「じゃあ、俺は海と森を見はってりゃいいのか?」
「森と夜は俺がする。お前より行動範囲広いからな」
「そりゃあありがとうございますだな。てか、地味に俺が行動範囲狭いって言ったよな?俺分かってるからな?意外とそういうの分かってるからな?」
「じゃあ、俺は持ち場に戻る。目玉くりぬかれないように気をつけてな」
「さらっと怖いこと言うの止めろ。お前と氏神はそういうとこ怖い」
ストレイクの返事など聞かず、ビートはさっさと空へ飛んで行き、今は隣り合わせになっている森ゾーンと夜ゾーンを見張ることとなった。
残されたビートは、ヴァルソイの嘴にもしっかりと糸を巻きつけたあと、しばし休息と取るのだった。
―苹里VSギンノウ―
飛んできたときにはまだ白かった苹里の羽、そして髪の毛は、徐々に黒くなっていく。
ソレを見て、なにやら興奮したらしいギンノウは、目を赤くしていた。
「面白ぇなお前!!なんで白かったのに黒くなるんだ?すっげえ!!!」
「・・・うるせぇよ」
「あれ?なんか口も悪くなってねぇ?どういうこと?性格変わっちゃう系か?益々面白ぇじゃねえか!」
完全に真っ黒に染まった苹里は、久しぶりに黒くなってしまった自分の羽を見て、多少ため息を漏らす。
きっとあの強い光を浴びたせいでメラニンが蓄積し、その結果白かった羽が黒くなってしまったのだろう。
「しかたねぇよな」
「お?」
苹里は一気に真っ暗な夜を駆け抜けて森の中へと隠れる。
ギンノウはまるで鬼ごっこをするかのように苹里を追いかけて行くが、途中で見失ってしまった。
「黒くなったからなー。やっぱわかりづらいなー。でも絶対見つけてやる!!」
ギンノウはただ集中した。
少しでも物音がしたら、きっとそこから苹里は攻撃してくるはずだ。
「知ってるぜえ。鴉は本来臆病だ。てことは、不意打ちを狙ってくる可能性が高い」
それからはまるで持久戦、苹里も様子を窺いながら息を潜ませ、ギンノウもなるべく動かずに神経を研ぎ澄ませる。
そんなとき、少しだけガサッ、という物音が聞こえて来たため、そちらに向かって一気に飛んで行く。
それは川の方向で、ギンノウが音のする方を見た次の瞬間、真逆から何かが向かってきた。
ギンノウの背後、つまりは森の中から現れた影に対し、ギンノウはすぐさま身体を回転させて嘴をそれに向かって躊躇なく伸ばす。
「俺を騙せると思うなよ?
音をつけるとすればグサ、と言った感じだろうが、ギンノウはすぐにその影を見て驚く。
「鴉じゃ、ねえ!?」
最初の音は囮で、背後から襲ってきたのが鴉だと思っていたギンノウは、苹里を仕留めたものと思っていた。
そして、ならば苹里は何処だと探しているうちに、羽に激痛が走る。
「ん、だとお!?お前、どっから!」
ギンノウの翼は、負傷していた。
血がじわじわと滲み出てきており、近くにきた苹里を振り払おうとするも、さらに攻撃をされてしまう。
再生しようと、ギンノウはまだ嘴に黒い影がささったまま、慌ててそれを傷口にあてる。
しかし邪魔で何度か顔を動かすとようやく取れた。
「やってくれたな・・・!!倍以上にして返してやるぜ!!」
「できればの話だな」
「こんな傷すぐ治してすぐ・・・!?」
くら、とふらついたかと思うと、ギンノウはその場に倒れ込んでしまった。
「ゾーンを移動するとき氏神・・・ああ、蛇に出くわしてな。あいつ、自分の抜け殻集めて遊んでんだよ。お前が俺だと思って攻撃したソレもあいつの工作。一応俺を作ったんだと。全く以て似てねぇけど。そもそもサギが騙されてんじゃねえよ」
「い、今すぐに再生をしてやる・・!!そして、お前を晒し首にしてやる・・・!!」
「うるせぇ奴だな。少し大人しく生死さまよってろ」
そう言うと、苹里は傷口をつつく。
するとその激痛からか、ギンノウは気を失ってしまった。
「ああ、メンドクせぇ・・・!!なんでこんなことになっちまったんだ。本当なら俺はもっと軽やかに戦っていたはずなのに、まさかこの姿で戦うとは思ってなかった・・・。クソ・・・!!」
苹里は口を動かしながらも、ギンノウが起きたとき動けないようにと身体を川に沈めておいた。
一応息は出来る形でだが。
「ちっ。ああ、どうすっかな」
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