第5話 歯車は壊れてる

アングラ造形 気紛れ聖戦

歯車は壊れてる



 世の中には体は生きているが、心が死んでいる者がいる。反対に、体が滅んでも魂が残っている者もいる。心が死んでしまえば生きていても、仕方がない。魂が残っていれば、たとえ体が滅んでも意味がある。


            吉田松陰


































 第五聖【歯車は壊れてる】




























 急に太陽が強く光ったことで、他のゾーンにいる彼らも驚いていた。


 何が起こったのかと分からないうちに、続いて起こったことはゾーンの配置換えだ。


 これは神がしたことではなく、半日に1~2回ほど、それぞれのゾーンの場所が変わるというシステムになっているのだ。


 とはいえ、空以外の4つのゾーンの中での配置換えになるのだが、それによって変化が生じた。


 配置替えの際、自分が今何処に居て、両隣には何処のゾーンが来たのかは分かるため、思考が一度切り替えられた。


 ストレイクはホルボの口の中に入れられていたため、眩しさから逃れることが出来ただけでなく、あまりの眩しさに吐き気を催したホルボが自らストレイクを吐きだした。


 氏神は蛇なため眩しさには鈍感で、目をつぶったヴァルソイに尾の方を巻きつけ、投げ着ける。


 ビートは意識を手放していたため目を眩まされることもなく、苹里は視力が良いものの、ネビーによって直接眩しさを感じることはなかった。


 そして配置換えが終えると、氏神、苹里、ストレイク、ビートの4名は、自分のいるゾーンから隣のゾーンへと移動を始める。


 その際、氏神と会った苹里は、なにやらゴミのようなものを渡されたらしいが、羽の奥にしまって移動を続けた。


 今の配置としては、ストレイクのいた森ゾーンにはビートが、ビートのいた夜ゾーンには苹里が、苹里のいた朝ゾーンには氏神が、そして氏神のいた海ゾーンにはストレイク。


 「なんだ?俺の相手をしてた蛇は何処に行った?」


 「おい!なんであのクソ鴉じゃなくて今度は蛇なんだよ!?」


 「なんで鴉が俺んとこいるわけ?梟野郎は?」


 「ちっこい蜘蛛から梟になった?どういうこと?俺とあいつの勝負は、俺の勝ちってこと?」


 ガイによって連れて来られたメンバーは、眩しさがなくなった視界にいきなり現れたソレらに、首を傾げながらも楽しげにしている。


 先程までいた奴は勝てないと見込んで逃げて、代わりに来たのかと聞かれたため、全員が同じ言葉を告げていた。


 「「「「お前じゃ力不足だってよ」」」」








 ―氏神VSネビー―


 海ゾーンから朝ゾーンへと移動した氏神は、海よりも隠れるところが明らかに多いその場所に来たことで少し安心していた。


 音を立てないように森の中を歩き回りながらも、ネビーの居場所を随時確認する。


 薄暗い森の中で、ネビーは音だけを頼りに氏神を探そうとしていた。


 「ったく。俺じゃ力不足だとかなんとか言っておいて、何逃げて隠れてやがんだ。ぶつ切りにしてやる」


 ブツブツと文句を言いながら森の中を飛んでみるが、木々が生い茂っていて、とてもじゃないが通常飛行は出来ない。


 そのため、休み休みで飛んでいた。


 「あ?」


 すると急に、氏神がどこからともなく襲いかかってきた。


 「くそっ!!」


 緊張の糸を解いていたわけではないにしろ、地上でもない場所から急に氏神が現れたことによって、ネビーはバランスを崩した。


 しかし、その崩したバランスをすぐに取り戻そうと羽を動かしたのだが、それは出来なかった。


 「・・・!?」


 氏神がいる場所とは別の場所から、何かが勢いよく飛んできた。


 それはネビーの身体に思い切り当たり、ネビーは軽い脳震盪を起こし、そのまま抵抗することなく穴が掘ってある地面へと落ちて行ってしまった。


 呆然とする中、なんとか声を絞り出した。


 「な、何が起こりやがった」


 氏神は人間の姿になると、掘った穴に上手く落ちてくれたネビーの身体を埋め始める。


 とはいっても、顔ごと埋めてしまうと窒息してしまうため、首から上だけは出した状態でだが。


 「森の中は動きやすくて良いな。俺は赤外線も紫外線も視えるんだ。だから、お前の居場所なんてすぐ分かる。お前が俺を探している間にその穴掘って、枝小細工して簡易的なボーガンみたいなのを作ったんだよ」


 「んなもんで俺を・・・?」


 「んなもんで今の状況だろ。ま、丸呑みも締めつけもされなかっただけマシだと思うんだな」


 ふう、と氏神は息を吐き、他はどうなっているか見に行こうとしたとき、空から何かが降ってきた。


 「・・・!?」








 氏神の決着がつくその少し前。


 ―ノーズゼインVSレオジオン―


 空では、レオジオンが発光を止めていた。


 ふう、と息を吐きながら下降していき、ノーズゼインが目をくらましているうちに攻撃をしようとした。


 しかし、そこにいるはずのノーズゼインはいなかった。


 「は?」


 一体何が起こったのかと思っていると、ふと、肩をガシッと強く掴まれた。


 「まさか・・・!!」


 顔を動かしてみると、そこには、自分よりも高い位置で自分を捕えているノーズゼインの姿があった。


 「どういうことだ?なんで動ける!?これほど至近距離であれば、視力さえ奪えるほどの光だっつーのに・・・!?」


 その場でばさばさと翼を動かしながら、ノーズゼインはレオジオンに言う。


 「お前が太陽神の象徴と言われようが、例え太陽の使いとされようが、俺には関係ないことだ」


 「関係ないだと・・・!?俺は太陽と天空の王となる逸材だ!お前ごときに負けるような男じゃねぇ!ここで終わる様な男じゃ・・」


 「一度だけ言う。良く聞いておけ」


 「何・・・!?」


 すると、ノーズゼインが口を開く寄り先に、レオジオンを捕まえたまま、回転を咥えながら急降下していく。


 「う、そだろ・・・!!」


 これから自分に何が起こるのかを覚ったのか、レオジオンはバタバタと暴れ出すが逃げ出せない。


 ノーズゼインも、広げていた羽をしゅっと窄めたため、速度はさらに上がって行く。


 「止せ!お前も一緒に自爆するぞ!!」


 「最後まで五月蠅い奴だな。いいか。俺は“空の王”。そして、太陽さえも俺の目を眩ますことなど出来ない」


 「止せ!!止めろ!!!」


 そのまま急降下していくノーズゼインと、ノーズゼインに掴まれたままのレオジオン。


 朝のゾーンに向かって落ちて行くと、その落ちる直前、ノーズゼインはぽん、と押し出すようにしてレオジオンを叩き落とし、自らは翼を広げて地面スレスレを飛び立った。


 勢いよく地面に突っ込んでいったため、レオジオンは動かなくなってしまった。


 一度人間の姿になったノーズゼインは、レオジオンが気絶していることを確認すると、少しだけ身体を休める。


 2、3分ほどでまたすぐに動き出したとき、何かがザッと音を立てて現れた。


 「びっくりさせるな」


 「・・・そりゃこっちの台詞だ。なんだその・・・鳥は」


 「鷹だ。鳥を一括りにするな」


 氏神とノーズゼインは、それぞれの状況を話し合うと、すぐさま行動に移す。


 「あいつらなら大丈夫だと思うが、俺は神のところに行く。あいつらのことは任せるぞ」


 「ああ、わかった。じゃあお前、蛇に成れ」


 「なんで」


 「なんでって、お前蛇だろ?俺が連れて行ってやる。そっちの方が早い」


 「・・・そうだな」


 ちょっと納得していない氏神だったが、ノーズゼインの言う事が正しいと、素直に蛇になる。


 ノーズゼインも鷲になると、まるで蛇を捕まえた鷲のような格好で空を飛んで行く。


 「どうだ、空を飛んでる気分は」


 「・・・泳いでる時とはまた違う浮遊感が襲ってくる。この胃がふわっとする感じ」


 「苦手なんだな」


 「お前トビウオの気持ちになったことあるか?それと同じだ」


 「もうすぐ着くぞ」


 「無視か」








 ―ビートVSホルボ―


 「美味そうな梟じゃねえか。こりゃ良い獲物がきたもんだ」


 森に入ってすぐ、ビートは森に潜んでいた。


 それでも、ホウホウ、という鳴き声が聞こえてくるため、ホルボはその声を頼りに進んで行く。


 ホルボはストレイクが作って行った細くて弱い糸をブチブチと切りながらビートの方へ近づいて行く。


 「ワザと鳴いてるのか?てことか罠か?どちらにせよ、襲ってきたらこの嘴で串刺しにしてやるよ」


 徐々に近づいて行くホルボだが、何かに気付いて舌打ちをする。


 それは、ストレイクがところどころに仕掛けている、強固な糸の方で作った罠だ。


 「あーくそっ。また引っかかっちまった。あの野郎、まだこんな罠残してたのよ。全部ぶっ壊してやる」


 からまってしまった羽を解いていると、ホルボが向かっていた方向からビートが勢いよく飛んできた。


 「俺に攻撃してきたって、捻り潰してやるって!」


 しかし、未だ引っかかったままの羽を動かすことは出来ずにいると、ビートはぐるぐるとホルボの身体に糸を巻き付けて来た。


 それも、強固な糸なものだから、ホルボは人間になってそれを解こうとするが、それよりも早く全身に糸が巻かれた。


 かろうじて息も出来るし片目だけは視える状態だが、ビートはそんなホルボの身体を巨大化させた爪でガシッと掴むと、あとは力任せに木に投げ着ける。


 あまりの衝撃にホルボは身体の中から何かが飛び出そうになるが、飛び出るほどの余裕さえない。


 ずるずると地面に吸い込まれるように落ちて行くが、それでも糸は切れていない。


 「くそっ!こんな糸さえ無けりゃ!」


 ビートは人間の姿になると、ぐるぐる巻きにされているホルボを見下ろす。


 「あいつは毎日新しい巣と罠を作る。神がいる場所に近ければ近いほど、その糸の強度は増して行くらしい。何かがあって俺達が森に入らざるを得ない場合に備えて、強固な糸が張ってるところには俺達だけが知っている目印がある。それを利用させてもらった」


 「目印!?お前、何処から見てたって言うんだ?」


 「俺が鳴き声を出したのは、お前の正確な位置を把握するのと同時に、強度のある糸の場所を確認するためでもあった。だから俺は目印を見たわけじゃない」


 「意味ねえだろ、ソレ」


 「良いんだ、こうしてお前を捕えられたからな」





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