第4話 朽ち往く想像
アングラ造形 気紛れ聖戦
朽ち往く想像
想像力は知識よりも重要だ。知識には限界があるが、想像力は世界を覆う。
アインシュタイン
第四聖【朽ち往く想像】
―ビートVSギンノウ―
「(やっぱ、この攻撃は再生されちまうか。なら、どうやって奴に攻撃する?)」
「ハハハハ!!どうした!怖気づいたか!!そうだよな!!お前の攻撃なんか、俺の再生能力で治っちまうからなあ!!!」
「(とはいえ、俺の攻撃は爪が最も有効。そもそも、攻撃タイプじゃないからな)」
「恐れをなして逃げ出すか!!!夜の番人ともあろう男が情けないものだな!!どうにもこうにも楽しくてしょうがないぞ!!いっそ、実況中継でもしてほしいくらいだ!!」
「(こいつの攻撃力もさほど強くはない。が、回復力は圧倒的にこちらが不利。となると、攻撃を喰らわずに攻撃をし続けるしかないか?いや、もっと他に方法があるか?)」
「・・・・・・いやお前いい加減にしてくんない!?なんでさっきから俺独りごとになってるわけ!?一応言葉のキャッチボールはしてもらえるって信じてたのにさあ!!こんなに放っておかれるとは思っていなかったよ!?ちょっとお願いだからさあ!!!マジで俺心折れちゃうよ!?ずーん、ってマンガみたいに沈んじゃうよ!?」
「勝手に折れて勝手に沈んでろ」
「ひっど!まじひっど!!どういうこと?!そんな感じ!?もっと俺のこと労わってくれても良くね!?」
ビートの対応にフラフラと足をふらつかせながら落ち込んだ様子のギンノウに、ビートは呆れた顔を向ける。
それでも、落ち込んだ拍子に乱れてしまった髪の毛を直しているのを見る限り、まだ大丈夫だろう。
ビートはすぐに森へ逃げ込んだ。
朝と夜のゾーンはそのほとんどが陸地で形成されてはいるが、小さい区域ながらも、森や川などが存在している。
その森へと一旦は逃げ込むが、ギンノウは人間の姿と蒼鷺の姿を器用に交互に変えながら攻撃を繰り返ししてくる。
「・・・やってみるしかないな」
ビートは、今までの通常での攻撃から、爪のみを巨大化する攻撃へと変えた。
その見た目はあまりにも不格好で、爪があまりにも大きくなるためバランスを取り辛くなるのだが、そうは言っていられない。
「ちっ!!そんな手があったのかよ!だが、無駄だ!!!!」
巨大化した爪の攻撃でさえ、ギンノウは再生能力を使ってくるが、ビートは見逃さなかった。
その能力にも限度があり、完全には治しきれていないことを。
そこで、ビートは巨大化した爪でギンノウを掴み、あちこちに振りまわし始める。
自分の爪の重さなのか、それともギンノウと合わさっての重さなのかは分からないが、重たかった。
それでもギンノウも諦めていないようで、ビートの爪を掴むとそのままビートの身体ごと地面へとねじ伏せる。
そして一度高い場所まで連れて行くと、巨大化した爪の重さと自分の身体の重さを利用して、ビートの身体を下にして急降下する。
「死ね死ね死ねええええええええ!!!」
「っ!!」
地面へと叩きつけられたビートは、意識を手放してしまった。
―苹里VSネビー―
ネビーは他の鳥を操って、苹里を攻撃させていた。
「ハハハハ!逃げ惑うことしか出来ねえとは、大した番人じゃねえか!!」
「困りましたね。一体全体、聖域外から他の鳥達を連れて来られてしまうとは。それに、自分では攻撃してこないなんて、卑怯な相手に当たってしまったものです」
「卑怯じゃねえよ!!これも戦略のうちだろうが!!!てめぇなんぞ、俺が相手にしなくても始末出来るってことだ!」
「!!」
苹里の羽に、痛みが走った。
痛みのもととなっている個所を確認すると、そこには羽を毟られたような痕と、少しの血が出ていた。
苹里の悲痛に満ちた表情を見られたからなのか、それとも羽に残ったその傷跡を見たかたなのか、ネビーはこれまで以上にキレながらも楽しそうにしていた。
「ハハハハハハ!!!!じわじわと感じろ!てめぇらが死んでいく姿、ちゃんと見届けてやるからよ!!」
「はっ」
ネビーが笑ったすぐ後、苹里も笑った。
それに気付いたネビーからはすぐに笑顔が消えた。
「ああ!?なんだてめぇ!?何笑ってやがんだよふざけんな。マジで殺してやるからな。クソ鴉野郎が!!」
他の鳥たちに、苹里を襲う様に指示を出したネビーに対し、苹里は羽をばさばさと動かして怪我の具合を確認してから言う。
「清らかな鳥?笑わせてくれますね。寄生することでしか育たない鳥ですよね?人任せすることに長けた、他力本願な鳥なだけですよね?」
「ああ!?」
「汚くても、嫌われていても、そんなことは関係ありません。もし僕が穢れているというのなら、自分の力で勝とうともしない、対等に戦おうともしないあなたは、そんな僕よりも小汚いですね」
「てめぇ・・・!!黙って聞いてりゃあ好き勝手言いやがってよお・・・!!俺が寄生してるだあ?てめぇこそ、人間の生活に紛れこんで、ゴミ漁ってるだけじゃねえか?汚ねぇもん食ってるクズ野郎が、俺にんなこと言うんじゃねぇよ」
ブチブチ、と血管が切れたような音など実際に聞こえるはずがないのだが、それが聞こえてきそうなほどにネビーの表情が変わっていった。
その場にいたネビー以外の鳥たちは、そのネビーの気迫というのかオーラというのか、それとも殺気というのか、とにかくそれらの空気に耐えきれずに飛び去ってしまった。
残されたネビーは、深呼吸だと分かるほど深く息を吸って吐いて、それを繰り返す。
そしてそれが数回終わって落ち着いたのか、苹里に向かって飛んできた。
「てめぇ!!!!!まじでぶっ殺してやるぜ!!この俺をコケにしやがったんだ!存分に痛めつけてやるよ!!!」
ヒュッ、と風を切るように苹里に突進してきたが、苹里は攻撃には当たらないようにしながら避ける。
だが、傷ついてしまっている羽では思う様に飛ぶことが出来ず、ネビーの攻撃を次第に受けるようになってしまう。
「ハッ!!口ほどにもねえとはこのことだな!!無様な鳥には無様な死に方がお似合いだぜ!!!」
「(このまま逃げていても、ってところですかね。幸運を運ぶ鳥とは良く言ったものです)」
「おいおい余裕かよ!?なんなら、今すぐにでもここで始末してやるよ!!」
そう言うと、ネビーは苹里の羽の先を掴んで振りまわした。
一旦苹里から離れると、今度は思い切り嘴から突進して一度川に叩きつける。
苹里が川から上がってくると、それを待ち構えていたようにネビーがいて、水を被ってしまったため少し震えている苹里に近づくと、その羽を毟って行く。
荒々しく、強引に。
「二度と飛べねえ哀れな鳥にしてやるよ」
―ノーズゼインVSレオジオン―
ノーズゼインは、レオジオンから逃げるように飛び続けていた。
広い神の聖域内の空で、2羽がくるくると旋回しながら飛んでいる様は、傍から見ればとても喜ばしい光景でもある。
一向に向かって来ようとしないノーズゼインに、レオジオンは痺れを切らしながら、目の前で飛んでいるその鳥に向かって言う。
「いつまで逃げてる心算だ?そろそろ俺と正々堂々戦おうとは思わないのか?それとも、俺にその席を譲る気にでもなったか?」
聞こえてはいるはずなのだが、レオジオンの言葉に対して何も言ってこないノーズゼインに、レオジオンはさらに苛立つ。
「まったく笑わせてくれる。それでも空の王か?!俺より選ばれた者か?!戦おうぜ!ノーズゼイン!!!」
「・・・騒がしい奴だ。少しでも良いから黙っていられないのか」
「お前が俺と勝負してくれるなら、大人しくなってやるんだけどな!」
「(大人しくなるとは思えねえ・・・)」
鷲であるノーズゼインと鷹であるレオジオンは、個人的な接触はこれが初めてである。
それなのにどういうわけでレオジオンがこれほどまでにノーズゼインに喧嘩を仕掛けるのかと言うと、元々の原因は神にあるだろう。
神の聖域に置いて、まずゾーンをどう決めるかと考えていた。
今ある5つ以外にも、極寒ゾーンや灼熱ゾーン、メスゾーンにオスゾーンなどと、多くのゾーンが存在していた。
それに応じた番人たちも大勢いたようなのだが、その管理が面倒になってしまった神は、ゾーンを一気に減らすことにした。
誰もが平等に迎えることとなる朝と夜、そして地球上に無くてはならない森と海、そこに空が加わった。
その空の番人を決める際、鷲の他にも候補がいた。
他の候補とは、鷹、速さの象徴である隼、平和の象徴である鳩など様々だ。
なぜ鷲が選ばれたのかと言うと、その偉大なる姿からだと言われているが、神が適当に決めただけかもしれない。
自分がなるものだと思っていたレオジオンはそれが気に入らず、番人となったノーズゼインをずっと恨んでいた。
「なんで、なんで神は俺ではなくお前を選んだ?なんでだと思う?俺はこう思ってるんだ。お前が神を誑かして、その座を手に入れたんだってな」
「・・・・・・。勝手に言ってていいけど、その性格だと番人は無理そうだな」
「・・・ムカつくなぁ。本当にムカつくなぁ。なら、お前を潰すための俺の力を見せつけてやるよ」
そう言うと、それまでノーズゼインを追いかけていたレオジオンは、一度追いかけるのを止めた。
何処に行くのかと思いきや、レオジオンは太陽の方向に向かって高く飛んで行く。
太陽にでも突っ込む心算かと思ったが、どうやらそれは違ったらしい。
太陽に隠れるようになったレオジオンは、ノーズゼインよりも少し小さな翼をこれでもかというくらい広げる。
「神の裁きを受けるのはお前だ!!」
「・・・っ」
すると、レオジオンは自分の身体も発光させ、太陽の力が強まったように眩しさが襲う。
「おー、眩しいね」
「レオジオンの奴、あれほど冷静に動けと言ったのに」
「けど、これで分からなくなったな」
「何・・・?」
神も魔王も目を細めることなく空を見ている。
そして、神が呟く。
「そろそろ変わるぞ。人間が言うところの、“運命”って奴が」
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