第3話 理想郷と桃源郷

アングラ造形 気紛れ聖戦

理想郷と桃源郷


 どんな条件であれ、私には確信がある。神は絶対にサイコロを振らない。


           アインシュタイン




































 第三聖【理想郷と桃源郷】




























 「人間とも仲良くしているようだな」


 「仲良くの定義を示してくれるかな?私は仲良くしている心算はないよ。もしそう視えているのなら、それは君の勘違いだ。私は誰とも仲良くしないよ」


 「四神の奴らと言い、シャルルにしてもぬらりひょんにしても、みな人間と接することに抵抗さえなくなっている。てっきり、お前の差し金かと思ったくらいにな」


 「幾ら私が神であっても、彼らに言う事を聞かせることなんて出来ないよ。分かってるだろうけど、彼らは自分勝手だからね。私のことなんて視えちゃいないよ」


 「最近太ったか?羨ましいよ。丸々と太った豚になったとしても、俺達に幻覚を見せることができるんだからな。幾ら太っても気にしなくて良いじゃないか」


 「それ喧嘩売ってるのかな?私は太っていないし、そもそも神だから何も食べないんだよね。空腹とかないから。そういうことも分からなくなっちゃったのかな?さすが魔王様だね、呆けるのが早いんだね」


 「空腹がない?俺は知っているぞ。お前が実は辛い物が好きだと言う事をな。食べた後しばらく舌を出して冷やしていたではないか。神とはいえ情けない姿を見てしまったよ」


 「それ本当に私だったって証拠でもあるのかな?私を陥れようとしているのが見え見えだよ?ていうかさ、本当に何なのかな?私はのんびりとしていたいんだけど、視界に入らないでもらえる?」


 「はっはっは。人様の視界に勝手に入ってくるのはどっちだろうな」


 「ハハハハ、本当にどっか消えてくれないかな」


 互いに笑っていない目を相手に向けながら、乾いた笑いを続けていた。


 それをただ、静かに見守ることしか出来ないハンクは、ガイから少し離れるのだった。








 その頃・・・


 ―ストレイクVSホルボ―


 「へえ・・・、そういうことも出来るんだな。初めて知ったよ!蜘蛛っててっきり、蜘蛛の巣を張るしか能がないと思っていたから」


 血だらけになっていたはずのストレイクの身体は、傷口からの出血を抑えていた。


 紺の髪の毛が蜘蛛の糸のように身体に巻き付き、それは徐々に白、もしくは透明といった色へと変化していく。


 「仕留めたと思ったんだけどねぇ・・・」


 傷口が治りきる前に止めを刺そうと、ホルボはストレイクに襲いかかる。


 蜘蛛の姿の時よりも、人間の姿の方が攻撃がしやすくなったと嬉しく思いながらも、尖った嘴で心臓部分を目掛けて突き立てる。


 しかし、間一髪でストレイクは蜘蛛になったため、ホルボの嘴はストレイクが寄りかかっていた木にぶつかった。


 「いやあ、驚いたよ。蜘蛛ってそんなことも出来るんだ!」


 「・・・・・・はあ。美味いもん食いてぇなぁ」


 「なあ、なんで血が止まってるんだ?蜘蛛にそんな能力あったっけ?」


 「止血効果があるんだよ。まあ、普段血が出るようなことはほとんどないから、あんまり使わないけどな」


 自分の糸で止血を終えたストレイクは、しばし木の上で休憩をしていた。


 空気中の水分を吸着した糸は、ほどよくふかふかで眠ってしまいそうになったが、ホルボが糸を引っ張ってストレイクを引きずり下ろしたため、それは叶わなかった。


 「お前なんて、見た目が汚らわしくておぞましいだけだろ。それに引き換え、俺は純潔。力もなく、素早く動くことが出来ない蜘蛛なんかに、負けるはずがないね」


 「ジャンプくらい出来るぞ」


 「基本のんびり屋さんだろ」


 「んなことねえ。雨の日も風の日も頑張ってんだよ俺たちは。夏の暑さにも冬の寒さにも負けぬだよ」


 「干からびて凍死してくれ」


 「お前友達いないだろ。俺の経験上、いつもニコニコしてる奴って何か隠してんだよ。良い奴に見られようっていう、作戦?八方美人に多いタイプだな」


 「美人って・・・!お前見る目あるな」


 「・・・そういうことじゃないからな。言葉のまま受け取る奴初めて見たぞ」


 「見てみろよ」


 話題を変えようとしたのか、ホルボはそう言うと、ストレイクが作った罠に羽を引っ掛け、それを簡単に壊して見せる。


 次々に罠を壊していき、ストレイクの攻撃は自分にとってまったく意味の無いものであることを示す。


 「いいか!?お前の罠なんて、俺にかかれば俊殺なんだよ!わかったらとっとと降参して、俺に殺されろ」


 「あー、それは断る。だって俺、本気出すの此処からだから」


 「何を言って」


 その時、話しながら引っかけていた蜘蛛の巣がクン、と羽に引っ掛かる。


 先程までのように簡単に引っ張って壊してしまおうと思ったホルボだが、なぜだかその糸は簡単には切れなかった。


 ついには、羽の一部が抜けてしまう。


 なんとかして糸を解こうとしたとき、今度は急に糸が緩んだため、ホルボはバランスを崩して倒れてしまった。


 すぐに立ち上がると、またすぐに別の糸に引っ掛かってしまい、動かなくなった。


 「何をした?」


 ストレイクはホルボに近づいてくると、さらに糸を絡ませる。


 「お前、ここを何処だと思っているんだ?ここは神の聖域。つまり、俺を普通の蜘蛛と同じだと思ってちゃあダメだろ」


 「神の聖域だから何だってンだ?」


 いつも笑っているようなホルボの表情が、少しだけ歪んだ。


 「俺の糸は自由自在。ま、要するに普通の糸より融通が利くみたいなことだな」


 「融通・・・?なんだそりゃ」


 「伸縮も自在、そして糸自体の強さもな。普段より弱めにすることも出来るし、逆に、今お前が引っ掛かっているように強固にすることも可能ってことだ」


 「このまま俺の首を身体から引き離すことも出来るってわけかい。こりゃ驚いたね」


 そのまま大人しくなると思っていたホルボだが、からまっている羽を無理矢理そこから引き抜こうとしていた。


 危ないと言おうとしたストレイクだったが、それよりも先にホルボの羽に傷がついてしまうと、ホルボは一瞬笑うのを止めた。


 それからすぐに大声を出して笑った。


 「ハハハハハハハハ!!!!!」


 「・・・!?」


 おかしくなったのかと思っていると、ホルボはそのまままた強く羽を引き千切り、ストレイクの糸から逃れた。


 ホルボは一気にストレイクに近づくと、ボロボロの羽と嘴を動かしてストレイクを自分の身体で取り囲むようにする。


 目の前にホルボの大きな嘴がくると、こう言われた。


 「食ってやるよ。骨も残さず」


 そして、ストレイクはホルボの嘴の中へと入った・・・。








 ―氏神VSヴァルソイ


 氏神がヴァルソイに海中に連れて行かれたから早1時間が経とうとしていた。


 ヴァルソイも苦しくなってきたため、木の根っこを辿って海面へと顔を出し、爪で捕まえていた氏神を木に向かって投げ着ける。


 「はあ・・・はあっ・・・」


 狩りの時にもこれほどまでに長く潜ることなどそうそうないと、ヴァルソイは太い根っこの上にあがると、そこで息を整える。


 人間の姿になると、少し長くて邪魔な髪の毛をかきあげながら、氏神の方を横目でちらっと確認する。


 すると、氏神は動かぬまま人間の姿になっていた。


 「クク・・・。鳥がこれほど潜水出来るとは思っていなかっただろう?これからは、俺が代わりにここの番人になってあげるよ」


 ヴァルソイは少しだけふらっとする身体を動かすと、未だ動かないままの氏神に近づき、仰向けにしてその上に馬乗りに跨る。


 両手を氏神の首に絡めると、ゆっくりゆっくりと締めつけて行く。


 「いつもは自分が締めつける側だもんな。このままじっくりと苦しめ」


 じわじわと締めつけて行く手に力を入れて行くとその時、何かが這ってくる感覚になる。


 「まだ、生きていたのか」


 ゆっくりと目を開けた氏神は、数回咳こむ。


 水を飲んでしまって苦しいというよりも、息を止めていたから、という感じだろうか。


 「その状態で俺の動きを封じるか、氏神」


 「お前が近づいてくるのを待ってたんだ」


 氏神は、足だけを蛇に変え、自分に馬乗りになってきたヴァルソイを背後から捕え、その動きを封じたのだ。


 そして自分の首を掴んでいるヴァルソイの腕を少しだけ動かすと、得意というか普段から人間の姿が煩わしいと慣れ親しんでいる関節外しを行い、ヴァルソイの身体の下から抜けだした。


 ゴキゴキと痛そうにも見えるが、氏神は慣れているからなのか、それとも本当に痛くないのか、平気そうにしている。


 外した関節を元に戻すと、身体中を動かしてため息を吐く。


 「川鵜は潜水出来ると知ってはいたが、まさかここまで長時間とは思っていなかった。もう少し長ければ危なかっただろうな」


 「水陸両用、さすがは海の番人だ」


 「本来、海の生物ではない俺が海の番人などするべきではない。他にもっと最適な生物がいるからな」


 「それは、自分がその中から選ばれたことに対する自慢かな?」


 「そんなつまらない喧嘩をする心算はない。それに、俺が選ばれたのはあいつの気紛れだ。本当は鯨のジュラシとかクラゲのポムとかサメのジンとか、とにかく候補は沢山いたんだよ」


 「なら、なんでお前が?」


 「知るか。神の話じゃ、デュエ―って奴がどうにも手放さなかったらしい。だから俺になった。それだけだ。恨まれる覚えなんてない。迷惑だ」


 聞いたことのあるような名に、ヴァルソイは少し考えてみた。


 確か、海に関する人物で、その力は膨大だと聞いたことがあるが、実際に会ったことはないし、会ったことがある者は極稀であるため、実在するのかさえ怪しいものだが。


 しかしながら、神が諦めたということは、それなりに権力のあるものなのだろう。


 まあ、あの神の性格からして、すぐに諦めたとも考えられるが。


 「なら、やはり俺にも可能性がまだ残っているということだね」


 そう言うと、ヴァルソイは鵜へと成る。


 それを見て、氏神も同じように蛇へと姿を変えて対峙する。


 翼を広げると、氏神を捕食しようと迫る。


 「喉を噛みちぎってあげよう。二度とその生意気な言葉を発せられぬように」



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