第2話 世界を反転させてみてよ
アングラ造形 気紛れ聖戦
世界を反転させてみてよ
この世で最も理解できないことは、それが理解できることであるということだ。
アインシュタイン
第二聖【世界を反転させてみてよ】
―苹里(鴉)VSネビー(郭公)―
「どうしましょう。みんながどうなっているか確認をしておきたいところですが、そうはいかないでしょうね」
苹里がうとうとし始めた頃、やってきた。
今日もいつものように平和な時間が過ぎて行くだけの予定だったというのに、苹里の前には未だ舌打ちを繰り返す男が。
どうして舌打ちばかりしているんだろうとか、ストレスでもあるのかとか、色々と聞きたいこともあるのだが、聞いたところでどうしようもない。
「あのぉ・・・」
「ああ?なんだてめぇ?俺に文句でもあんのか殺すぞ」
「・・・初対面の方相手にそういう言い方はどうかと思いますよ。それに、目つきかなり悪いですね。大丈夫ですか?」
「一々ウルセぇ野郎だなぁああ!?なんで俺の相手が鴉のてめぇなんだよ。鴉なんか相手じゃねえッつうんだよな」
目つきが悪いのはもともとなんだろうと、苹里はそう納得することにした。
ネビーはずっとイライラしているようで、そのイライラの原因さえ分からないが、多分理由はないのだろう。
「仕方ありませんね。相手をしましょう」
そう言って、苹里は白鴉へと姿を変える。
それを見て、ネビーも満足したのか、自らも郭公の姿へとなっていく。
「へへ、楽しくなってきたな。それでいいんだよ。どうせお前も他の奴らも、俺がぶっ殺してやるからよ」
苹里とネビーは攻防を始めるが、苹里はあまり攻撃を仕掛けることなく、ネビーが一方的に攻めている。
苹里があまり好戦的ではないことに気付いたのか、ネビーは苹里に体当たりした。
「あー、なあ、ゴミを漁る邪魔ものの嫌われ者のお前と、美声で春を告げる清らかなこの俺。どっちが生き残るべきだと思う?俺は俺だと思うわけだ。なあ、どうだ?」
苹里は身体を起こしながら、真っ直ぐにネビーを見つめる。
その苹里の目に、ネビーは口角を上げる。
「答えは、勝った方ってわけだな」
―ノーズゼイン(鷲)VSレオジオン(鷹)
レオジオンは、髪の毛を縛りながらずっと話していた。
それは、ノーズゼインに対する一方的な憎しみの話。
「ずっと気に入らなかったんだよなぁ。なんでか分かるか?」
「・・・知らない」
「鷹と鷲、どちらも空の王としてふさわしいだろ?なのに、どうして神は俺じゃなくてお前を選んだんだ?身体が少し大きいだけだろ?それに俺は太陽神の象徴とまで言われているんだ。それなのに、鷹じゃなく鷲?許せないんだよなぁ。俺が納得できる理由を並べてくれるか?」
髪の毛を縛り終えたレオジオンは、バサッと翼を広げてノーズゼインを威嚇する。
ノーズゼインは威嚇するわけではないが、鷲へと姿を変えて、同じように翼を大きくうねらせる。
「生意気なんだよなぁ。だから俺と勝負しようや。な?どっちが空の王を名乗るのに本当にふさわしいのかを、今日、今、此処で、思い知らせてやるよ」
「・・・そんなことをしに、わざわざこんなところに来たのか?別に俺は空の王の名が欲しいわけじゃない。欲しいなら持って行けばいい」
「・・・!言ってくれるねぇ。そういうところがムカつくってんだよ!!!」
いきなり、レオジオンが向かってきた。
ノーズゼインも翼を広げて飛び立つと、後ろから物凄い勢いで迫ってくるレオジオンから軽やかに逃げて行く。
それさえも気に入らないのか、レオジオンはさらに加速してくる。
「逃げるしか能が無くなったのか・・・!俺とやり合うのが怖いか?逃げ腰の鷲なんて笑えるな!!所詮、崇められているだけで、実際はそんなもんだよな!」
背後からそんな声が聞こえている中、ノーズゼインは空から状況を把握していた。
相当高い場所にいるため詳細はわからないまでも、それぞれのゾーンにはそれぞれの門番がいるが、その門番たちも今自分と同じような目に遭っているのだろうと予想出来た。
普通、こういうときは神が来てくれると思っているかもしれないが、それは違う。
神は決して手助けをしない。
「(何にせよ、この男をどうにしないと他の奴らにも会えそうにないな)」
至って冷静に、何も分からない状況で解決の糸口を見つけることに専念する。
後ろから獲物を狩る勢いで飛んでくるレオジオンのことも視野に入れながら、ノーズゼインは考える。
「驕ることなく、高みへ」
―ビート(梟)VSギンノウ(蒼鷺)―
その頃ビートは、爪を使ってギンノウを攻撃していた。
「・・・ダメだな」
何度攻撃をして怪我をさせたところで、ギンノウは再生してしまうのだ。
「さすが俺っしょ!幾ら攻撃しても無駄だってわかったかなー?俺ってすげぇから、怪我しても治せるわけ。なぜって?それは俺が再生の鳥だから!!!!」
「変な髪型だな。風圧で崩れてるよ」
「まじか!?おお!まじだ!よし、ちょっと待ってくれ。髪型直すから」
「馬鹿だろ。てか、髪型直すくらいならそもそもセットしてこんな喧嘩しかけてくるなよ。おつむ弱いんだな。髪型直すついでに脳味噌入れ変えてくると良いよ」
「そ、そんなこと言うなんて、お前どういう性格してんだよ!?俺すっげェ打たれ弱いんだからな!?心臓が痛い!心が苦しい!ソレ見たことか!お前が俺にグサグサと酷いこと言うからだからな!」
ビートの言葉に、ギンノウは心臓部分を押さえながら叫んでいた。
それでもビートは呆れたような顔を隠すこともなく全面的に顔に出すと、それだけでギンノウは過呼吸になったように荒く息をする。
ビートは頭をかきながら、傷つきながらもしっかりと髪の毛をセットし直しているギンノウを待っていた。
リーゼントなわけでもないのに、微妙な髪型をずっと微調整しているギンノウは、ようやくセットに満足がいくと、ビートの方に顔を向ける。
「お前が“死”なら俺は“不死鳥”だ。どっちが勝つか見ものだな」
「別に俺は何かを死なせる力があるわけじゃない」
「あー、そういうのいいから。ほら、お前なんか真面目な感じー。俺違うから。あ、ちょ、この辺風強くない?まじで髪型崩れるわ。やっべ。また直さないと」
「・・・・・・」
そうしてこうして、ギンノウがまた髪型をセットするのを待つ。
これは一体何の時間何だろうと思うビートだが、なんだかもう面倒臭くなってきて、ギンノウが戦うということを忘れてくれないかな、と思っていた。
そんな都合の良いことにはならないだろうが。
心の中で思っていただけなのだが、ついうっかり声に出してしまうということは多々あるわけで、ビートもそうなってしまっただけ。
だから、本音がポロリと出てしまった。
「メンドクせぇ・・・」
ギンノウには聞かれずに済んだようだが、聞かれていたらまた凹んだり落ち込んだりと、面倒なことになっていただろう。
「どうするんだ、これ」
その頃、神と魔王たち。
「わざわざ会いに来たと思ったら、私を潰すと・・・。面白い冗談を言えるようになったんだね」
「冗談ではない。本気だ」
にこやかに笑っている神を見ているガイもまた、微笑んでいるが目つきは鋭い。
ガイは隣にいるハンクに向かい、顔は向けないまま口を開く。
「ハンク、奴の目が左右で異なっている理由を教えたな」
「ええ」
ガイに促されたわけではないが、ハンクは神の方をその瞳孔が横長になっている目で見ながら話す。
「右目が黒くなっているのは、相手の心を読む力を持っているから。心を読み過ぎて、その心の穢れから黒くなったとも言われている。左目が金色なのは、もともとの目の色。確か、そうでしたね」
「正解だ。心を読むなどと言ったことをするのは、弱い奴がすることだ。お前は恐れていたんだ、神に背く可能性のあるもの全て。それはすなわち、神以外のもの全て」
「あー、さすがにそれはちょっと落ち込むかな。このオッドアイ、個人的には気に入ってるからさ」
「俺達に見せているその姿さえ、本当の姿か分からんだろうが」
「何のことかな?」
にこりと笑って、ガイの言葉を軽やかに返してみせるも、それで話を変えてくれるような男ではない。
おちゃらけている神に、ハンクは目を細めて一歩前に出るが、ガイに制止される。
「姿そのものを変えられるだけではなく、虚像の姿を強制的に見せることも可能。そしてまた、相手が想像した姿を見せているとも言われている。まあ、動物や植物と話す力は必要か分からんがな」
「ハハ、楽しいよ?」
「そういう性格も変わっていないな。だから昔からお前とはソリが合わないんだ」
「神と魔王のソリが合う方がどうかしてるよ。それに、私は自らの姿を騙そうなどと思ったことは一度もない」
「一度もない?神は嘘を吐くようになったのか」
「本当だよ。神がみんなを恐れていたように、みんなも神を恐れていた。だからこそ、勝手に視てしまったんだろうね。“神”などという、視なくて良い存在の影を・・・」
神は、続ける。
「確かに私の右目は、これまでに穢れたものを目に余るほど視て来たからだろう。だけどね、こうして左目の色彩が守られ続けているのは、穢れたものと同じように美しいものも視て来たからだよ。それが分かっていない君たちはやはり・・・、私以上に可哀そうで悲しい生き物だね」
ピク、とガイの眉間が動いた。
自らを落ち着かせるためなのか、ふう、と小さく息を吐いたことによって、ハンクはガイの心情を理解する。
「!」
ハンクの身体が黒く大きく変わって行くかと思うと、ガイがハンクを再び止めたため、ハンクはしゅうう、と小さく元に戻る。
「お前にはまだ勝てん。落ち着け」
「・・・それ、私のことを褒めたのかな?照れるよ」
「そういうところが、嫌いなんだ」
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