アングラ造形 気紛れ聖戦

maria159357

第1話 嫌いなんだよ

アングラ造形 気紛れ聖戦

嫌いなんだよ



   登場人物


           神 かみ


   蛇  氏神 うじがみ


   鴉  苹里 ひょうり


   蜘蛛  ストレイク


   梟 ビート


   鷲   ノーズゼイン


   魔王 ガイ


   山羊  ハンク


   鷹   レオジオン


   蒼鷺 ギンノウ


   郭公 ネビー


   鸛 ホルボ


   鵜   ヴァルソイ


























 敵は多ければ多いほど面白い。


          勝海舟






































 第一聖【嫌いなんだよ】




























 ここは、神の聖域と呼ばれている場所。


 とはいえ、誰も実際に見たことなど無いらしいから、本当のところここが神の聖域なのか、それとも別の場所なのかは分かっていない。


 しかし、神と呼ばれるその存在と、その回りで魂を喰われぬよう其処に居続ける者たちがいることは確かなようだ。


 神の聖域の簡単な説明をしようか。


 説明するほど複雑な作りでもないのだが。


 神の聖域はとてつもない広さではあるのだが、形でいうと丸く、その中央部分に神が常にいる。


 そしてその中央部分の周りはおおまかに5つに区分されており、1つは海ゾーン、1つは山ゾーン、1つは朝ゾーン、1つは夜ゾーン、そして1つは空ゾーンといった具合だ。


 空ゾーンは空に存在しているため、空から見ると、4つ大地が分かれているように見える。


 それぞれのゾーンには担当している門番がおり、森の番人は蜘蛛のストレイクといって、目が細く少しチャラい感じの紺のさらっとした髪の男で、海の番人は蛇の氏神といって、紫の髪がもさっとしている淡々とした性格の男だ。


 朝ゾーンは鴉の苹里という男で、いつもは真っ白な髪の白鴉として行動しており、タレ目だ。


 夜ゾーンは梟のビートという男で、面倒見が良く茶色の髪をしており、空ゾーンは鷲のノーズゼインという男で、青と白が混じったような髪をしており、しっかりしているようで少し天然なところがある。


 まあとにかく、それぞれ頼りになる。


 今日もそれぞれの持ち場で門番という名の暇つぶしをしている。


 そんなある日、急に侵入者が現れた。


 警報が鳴るわけでも、誰かが叫んだわけでもなく、ただ、目の前に急に奴らは現れた。


 「やあ、久しぶりだね、ガイ。いよいよ寂しくなって私に会いに来たのかな?」


 「ふざけたことを。お前を潰しにきたわけじゃない。お前はここで大人しく見ているんだ。可愛がっているあいつらが殺されるところをな」


 「そういえば、この前四神のところで暴れたんだって?体力有り余ってるね」


 「ああ、壊したつもりが、足りなかったようだ」


 そう言いながら、侵入者のボスでもある魔王のガイは、神と向かい合う様にして大きくて真っ赤な椅子を用意し、そこに座った。


 ガイの隣には白髪に顎鬚の男、それが山羊のハンクであることは分かっている。


 なぜなら、神だから。


 ストレイクのもとには、灰色の髪をひとつに結っている鸛のホルボが。


 ビートのもとにはセットしてきた黒髪を何度も直している蒼鷺のギンノウ、ノーズゼインのもとには橙色のうねった髪をしている鷹のレオジオン。


 氏神のもとには灰色の長い髪をひとつに縛っている鵜のヴァルソイ、そして苹里のもとには緑色の髪をした舌打ちばかりしている郭公のネビーが対峙している。


 「神の膝もとに置いておくには、なんとも穢れすぎた連中だな」


 神と同様、遠くのものが見えている魔王はそう呟いた。


 同じ風景が見えているだろう神は、頬杖をつきながら足をプラプラさせ、青のグラデーションの髪を風に靡かせながら、パールホワイトのリングのイヤリングを指先でいじる。


 「穢れすぎた、ね。面白いんだけどねぇ」








 ―ストレイク(蜘蛛)VSホルボ(鸛)―


 常に森に常駐しているストレイクは、人間の姿からすぐに蜘蛛の姿になると、毎日のようにはり続けている蜘蛛の糸で作った罠をホルボに引っかけようとしていたのだが、ホルボの大きな身体ではすぐに壊されてしまっていた。


 「やっぱでかい身体ってのは厄介だな。あれくらいないと、子供を運べねえんだろうな。いや待てよ。子供運ぶってこと自体、鳥には不可能じゃね?無理じゃね?幾らなんでも重すぎだよな」


 1人でぶつぶつと言っていると、ホルボは次々に罠を壊して行った。


 あんなに大きな生物と捕えるために罠を作ってはいないと思いながらも、ストレイクはため息を吐いてから気合いを入れる。


 一方ホルボは、自分よりも随分と小さな蜘蛛へとなってしまったストレイクをどうやって見つけ出そうかと思っていた。


 「はっはっはっは!全然見つかんねぇなこりゃ!!困っちゃったなぁ。どうするか。一飲みして終わりにしてぇなぁ!!」


 こちらも独りごとを言いながら歩きまわっていると、何やらごそごそと物音に気付き、こっそりと覗く。


 すると、そこには何やら必死に作っているストレイクの姿があった。


 ホルボは身体の大きさの差があるからか、気付かれることを恐れずに、音を立てながら一気にストレイクに近づいて行った。


 だが、ストレイクの身体があまりに小さかったため、羽を使ってストレイクを近くの木々にぶつけていく。


 ストレイクの身体からは血が出てきて、それを見たホルボは、連続でストレイクの身体にあらゆる衝撃を加えて血を流させる。


 「おおおお!!やっべぇどうしよう!止まらねえ!!!!!」


 しばらく経って、ホルボの攻撃はようやく止んだ。


 小さな蜘蛛になっていたストレイクだったが、シュウウ、と煙を出しながら人間の姿へと変わる。


 それを見て、ホルボも人間の姿になる。


 「ハハハハ!!大したことねぇな!!こんな奴が神の子分だったとはなぁ!!!もっとしっかりしてくれよ。じゃねえと、もっと痛い目見ちゃうぜ?」


 ホルボも笑い声が森の中に響く。


 ストレイクの身体や顔は血だらけで、かろうじて糸が動いているくらいだろうか。


 終わったなと、ホルボはストレイクを置いて別の奴でも倒しに行こうとしたのだが、その足は止まった。


 糸がストレイクの身体に集まって行くのを見て、ホルボはまた楽しげに笑うのだ。


 「そうだよなぁ。このまま終わっちゃダメだよなぁ」








 ―氏神(蛇)VSヴァルソイ(鵜)


 「・・・誰だ」


 氏神は、海ゾーンの中にあるマングローブの木に背中をつけて昼寝をしていた。


 しかし、そこにいきなり現れた初めてみる男の姿に、眠たそうにしている目を数回瞬きしながらも背中を木から離した。


 胡坐をかいて頭をかいている氏神を見て、ヴァルソイは微笑んでいる。


 「人が気持ち良く脱皮し終わってゆっくり休んでたってのに。何の用だ」


 「みんなを潰してこいって言われたんだよ。だから、それを実行しに来た。それだけだよ」


 「・・・俺は無駄な時間を過ごすのが好きじゃない」


 「何が無駄だって言うんだい?」


 氏神は数秒だけぼーっとしたあと、その場に立ち上がった。


 「俺の労力と貴重な時間」


 「はは、面白いね。でも、無駄かどうかはやってみないと分からないと思わない?だって、どちらが上かなんて戦ってみないと。ね?」


 「目的は」


 「さっき言ったよね?潰しにきたんだよ。俺達こそが上に立つべき存在だと証明するためにね」


 重たそうな瞼を上げ下ろししながらも、氏神の肌は徐々に蛇のような色合いになっていく。


 「もっと他にやるべきことがあると思うがな。余程暇人なんだな」


 「俺達をないがしろにしてきたのがいけないんだよ。ガイ様は言っていた。俺達こそが神に代わる位置づけにいると」


 「神になりたい理由はさっぱり分からんが、まあいい。売られた喧嘩を買うほど暇ではないし、お人好しでもないが、緊急事態らしいからな」


 「・・・嬉しいな」


 氏神が完全に蛇の姿になる頃、ヴァルソイも鵜の姿へと変わっていた。


 氏神は木の上へと移動して、海の上にいる鵜の様子をじっと観察していると、急に鵜が氏神の方へ向かって飛んできた。


 こう言う時、鳥なら飛んで逃げるという行動を取るだろうし、手足があればそれを駆使して走りだすのだろうが、生憎、氏神にはそれらがない。


 だがそれでも俊敏に反応してかわすも、身体が長くなってしまっている分、ヴァルソイが掴める場所も多くなってしまっているということで。


 「苦しんで死んで」


 そう言いながら、ヴァルソイは氏神を掴んだまま海へと突進した。


 一度入ったかと思うと、海面に出て低空飛行を繰り返し、再び海の中へ入る。


 それを何回かやったあと、ついに、ヴァルソイは本格的に海に潜水し始める。


 ヴァルソイが何を思っていたかは分からないが、氏神を見て笑っていたことだけは確かだ。


 「さよなら、食物連鎖に負けた者」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る