第4話

今日丸々割いて、基本的なことについてはわかった。

僕が今いるのは1DKでそれにお風呂とトイレがついている部屋だ。どうやら賃貸ではないらしい。

それから彼、旭川祐介について調べた。元々大阪の出身だが、成人すると同時に上京。それ以来ここで一人暮らしをしている。携帯は2台持ちで一つがプライベート、一つがおそらく会社から貸与されたもの。会社からのものには取引相手や同僚、上司と思われる名前が多くあったがプライベート用の携帯の連絡先は悲しいほど少ない。上の方に固定されている親の連絡先ですら最後に連絡した履歴がかなり昔のことだから、人間関係については希薄と見ていいだろう。隣人との関係もほとんどなし。次に、パソコン。これはどうしようかと悩んだけど、中の人格のようなものが入れ替わっていても体はしっかり元の人について覚えているらしい。なんとなくで打ったパスコードがあっていたので、なんとも不思議だと思う。大学の卒業論文のデータが残っていて、理系の物理専攻だとわかった。しかも、それなりに高い偏差値のW大学の。高卒である身からするとすごいと思うし尊敬もする。今勤めている会社はイトウ商事という従業員数12000人を誇る大企業。IT関係の職業で今をときめく会社。株価もうなぎのぼりでW大卒の人も多く勤めている。万が一知り合いにあったら困るな。注意しよう。頭の片隅にメモしておく。

もちろん元の自分についても調べた。でも情報は出てこなかった。そんなに著名な芸術家でもないし、当然か。

気がつくと、遠くでカラスが鳴いており部屋に西日が差していた。もう一日が終わってしまった。明日からどうしよう。今日はごまかせたけど明日からは普通に勤務しなくてはならない。元の体の人に迷惑をかけるわけにもいかないし...

でも自分じゃない人の生活を体験するなんて新鮮だなぁ。少し、ほんの少しだけ楽しみにしている自分がいる。どうせ今嘆いたってもとに戻れるわけじゃないんだ。この生活を満喫しよう。そう割り切ってさっとシャワーを浴びる。スッキリした気持ちでベッドに潜り込んだ。「おやすみなさい」知らない天井の下で僕は目を閉じた。

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