第3話
どこか遠くで機械音が鳴っている。これは...目覚まし時計のアラーム?誰だろう。隣の人かな。それにしては、やけに大きいような...
重いまぶたを開けると、知らない天井だった。目覚まし時計は隣で鳴っていた。午前6時20分。もちろん、自分で仕掛けたものではない。未だにけたたましい音で鳴り続けているアラームを急いで止めて、周りを見渡す。およそ6畳ほどの広さ。一人用の寝室なら広いほうだろう。ドアがあるからその先にも部屋は続いているのだろうし...
ようやく脳が覚醒して、この異様な状況に追いついてくる。ここはどこ!どうしてこんなところにっっ!
慌てるあまりベッドから転げ落ち、必死の思いで床を這う。どこか、どこか出口はっ、、、
幸いなことにドアノブにたどり着くとキィッと軽やかな音を立てて扉は開いた。その先は廊下になっていてリビングに繋がっているようだ。リビングに誰か立っているようだ。僕はその人に今まで出したことのないようなスピードで突進し...
危うく転びかけた。そこに人はおらず、姿見があった。そこに写っていたのは、誰かだった。いや違う。これは、僕、、、?いや僕のはずは...
この現実を受け入れるのにたっぷり5分はかかった。いや、体感5分なだけでもっと短かったかもしれない。あまりにもありえない状況に追い込まれたとき、かえって人はあっさり受け入れることができるものらしい。僕は絶対騒ぐタイプだと思ってたのになぁ。窮地に追い込まれた人間の反応なんてみんなおんなじようなものなのかとそんなことばかり思った。今わかること、何もわからないということ。まずはこの人が誰なのか知らなくちゃ。きっと身分証明書ぐらい持ってるよね、、、
知らない人基自分の部屋を漁っていると自動車の免許証を見つけることができた。それによるとこの人は旭川祐介、年齢は僕より2歳上らしい。顔写真も付いてるから間違いない。しかし、と僕は思う。本当に2歳上とは思えない風貌だなぁ。平凡な背格好。どことなく冴えない顔で、むしろ野暮ったい印象すら受ける。精気を感じず、くたびれた感じだからだろうか。目だけが輝いているのが、なんだか不釣り合いに見えた。
僕が鏡の顔をしげしげ眺めていると突然携帯が鳴り出し、僕は飛び上がった。表示を見ると「中林正雄」とあり、この時間帯的に上司だろうと予想する。どうしよう、声は一緒かもしれないけど、性格が全く違うだろうし下手な受け答えでもしてしまったら...
僕がそう考えている間にも僕の焦りを表すかのように着信音が激しく鳴り響く。とりあえず一般的な社会人のイメージをまとった僕で電話に出ることにした。
「もしもし」
「やっと出たか。私だったから良かったものの、取引先には2コール以内で出るようにするように。」
「はい。すみません。」
「はぁ。君はいつもそれだな。毎度改善されてるからいいものの...。ところで今日はどうしてまだ出社してないんだね。とうに出社時刻は過ぎてしまっている。」
確かに時計を見ると8時を指している。
「すみません。今朝、体がだるく体温を測ると37,8℃の熱がありまして、、、」
「それならそうと早くいってくれ。いついかなる時も、報連相は忘れないように。では今日は一日しっかり休むように」
ここで電話は切れた。ほうっと大きく息を吐きだして、床に寝そべった。本当に疲れる。僕の周りにはこんな人はいなかったなぁ。しばらくそのままのびていて、はっと気づいた。もしこのまましばらく、もしくはずっと祐介のまま、戻れなかったら?今日はなんとかごまかせたけど、明日は、明後日は...
恐ろしい考えに至って僕は跳ね起きた。じっとしちゃいられない。怪しまれないために、この旭川祐介について調べないと。幸いなことに、今日一日休みをもらったんだから...
僕はもそもそと起き上がって、「自分」についての手がかりを探し始めた。
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