第2話

「今日一日もよく頑張ったなぁーっ。」ぐーっと固まっていた四肢を伸ばしながら今日一日を思い返す。今日は良い日だった。自分の作品を展示してくれている画廊を久しぶりに訪れると、初老の紳士が佇んでいた。紳士の隣に並んで僕も作品を眺めると唐突に「君がこの作品の作者かな?」と尋ねられた。僕はすごいびっくりしちゃって「どうして分かったの?」なんて言っちゃったっけ。「わかるさ。この作品と君では、同じオーラが出ている。魂のうちから溢れ出す、力のようなものがね...」ここで彼は笑みを浮かべてこう言った。「やはり、君も君の作品もいきいきとしているよ。私達が久しく忘れてしまった輝きが、私達を照らしていつかの思いを呼び起こしてくれているようだ。」あんまり紳士が嬉しそうに褒めてくれるから、僕も顔をほころばせた。すごく嬉しかったなぁ。「きれいだ」「すごい」って言ってくれる人はたくさんいるけど、こんな風に僕の作品を捉えてくれる人はいなかったから。

あ、でも...

その後紳士は悲しそうに顔を伏せて、「君のような純粋な輝きはいつかは失われてしまう。汚れた海のような、社会の荒波にね」って言ってたっけ。どういうことなんだろう。紳士は辛そうだった。もうどうしても取り返しのつかないような、そんなものを惜しむ表情。僕はそんな表情をさせたのが嫌で、自分はそんなふうにならないのだと思ってほしくて、彼に詰め寄って、「では、ずっと僕の作品を見に来てください!」って言ったんだ。すると一瞬あっけに取られた表情をして、そして弱々しく笑って「わかったよ」って言ってくれた...

僕はつぶっていた目を開けた。あの紳士のためにも、明日からも頑張らないと。その時、ふと壁にかけていたカレンダーが目に入った。キャラクターが付いてるわけでもない、シンプルなカレンダー。それの今日を示すマスには「大安」と書いてあった。そして明日のマスには「赤口」と書いてあった。なんだか嫌な感じだ。そんなの気の所為に決まってる。そう言い聞かせてベッドに飛び込んだ。仰向けになり、「明日もいい日になりますように」と願いながらまぶたを閉じる。最後に目に入ったのはもちろん、よく見慣れた天井だった。

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