しっ尾5本目 只より高いものは無いって

「と…とりあえず、こちらへ……」

 夜の、お賽銭箱さいせんばこの前で正座して説明を聞くなんて……。いま何時かしら。やっぱり全部忘れてたわたしにバチが当たったのね…。

 ぎんさんは、あいわらず顔をそむけたままだし日本語、変だし……体、痛いし。

「えー…で…では、〝約束やくそく〟についてですけども……」

「はい…」

「…」

ぎんさん?……」

「「………」」

「も……ももももうわけありません。ワ……ワタクシ、めんと向かってお話しするはきんちょうしまして」

「いまさらー」

 いや顔、向き合ってないしペルソナかぶってるし.

「ぎ…ぎんさん。だ…大丈夫だから、横向いたまま話して大丈夫だからね!」

 大丈夫かな? この妖狐ひと……。

 でも…。わたし、落ち着いてる。それに、人とこんなに話せたのって、はじめてかもしれない。ようだけど…。

あ…。人じゃないからか……は、ぎんさんに失礼よね。でも気分が沈んじゃう。

「いいえ……ゆいさまは何もお気になさらず…。あり…がとうございます。お言葉に甘えて横を向いたままで…」

「──えー…〝約束やくそく〟とは……あなたのお願いと、〝同じ価値のものをペルソナに与えなければならない〟と、いうことですわ」

 ええと。どういうことかしら?

「すみません。よく分かりません」

「んー…お願いをかなえるには〝だいしょう〟が必要、なのでございます」

「?? お願いしただけなのに?」

 まるで、お願いにお金を払うみたい。もっと分かんない。

「……お願いされる方々かたがたの悪いクセですわ…〝ただ〟でもらえると思ったらおおちがいですの」

ゆいさまかりおもてさまと両思いになりたい……というのは軽いお気持ちなのですか?」


「そんなことない! です! 本気です!」


「……では、かりおもてせいさまのどこにこいがれていらっしゃいますの?」

「え……えと」

あんなわたしに、毎日あいさつしてくれるし、良く話しかけてくれるし、じょうに返事できなくても、話題をふってくれるし……──」

「……それは。──かりおもてさまは他のみなさまにも同じことをされているのでは?……ゆいさまにではなく」

「それは……」

「……あこがれ、なのではございませんか?」

「なりたい自分に、重ねているだけなのでは?」

「そ…んな」

「そんなこと、ナイ! そんなの認めたら、お願いした意味なくなっちゃう!」

「……」

 やだ、なんでなみだが出るの?

「わたし…ちがってるの……?」

になっちゃだめなの!?」


「……申しわけありません、ゆいさま。ワタクシ、余計なことを……」

「好きになるって、人それぞれ。ですわね」

ゆいさまのお気持ちは分かりましたわ。あかしとして、その本気と〝同じ価値〟をペルソナにお与えください。それはゆいさま自身がお考えになることです」

 グスッ。そんな、急に言われても……。

「お賽銭さいせんじゃ、ダメ?」

「…ヨヨヨ。ぎんは悲しゅうございます。何度も申しますがゆいさまの決意が欲しいのです」

 ええええええ。困る…なんにも浮かばないわ。

「ど、どうすれば……」

「時々……いらっしゃいますわ、そういうお方が。──では…ペルソナに決めていただきましょう」

「ぺ、ペルソナって生きているの?」

「ンなわけあるかい。 あっ、ししし失礼いたしました。そうではなく…ペルソナに宿ったたましい──創ったお方のたましいが、ワタクシに教えていただますの」

「わかったような、わからないような」

「少…々、お待ちください。──あら?……あらららら、らぁ?」

「どうしたんですか?」

「あの…。その……ワタクシの…ハツ、初恋の人……〈めんせいすけさまの今〉をお探しくださいと……キャッ、恥ずかしい……」

「「…………」」

ぎんさん、手…じゃなくて前足で顔をおおちゃって、なんかカワイイ…っえ。

「はああああああ? アンタ、なに言ってんの! ですかぁ?」

 わたしのなみだがどこかへ行きました……。

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