リベンジの機会は逃さない!

 セッテがパーティに加わってから何度も冒険を繰り返して、そろそろパーティでの活動にも慣れてきた。

 そこで、セカンライノに挑んでみようと思う。以前はセッテは逃げるだけだったが、今なら倒せるはずだ。

 俺がとどめを刺してしまっては何の意味もないから、盾役に集中して2人に活躍させたい。


「セッテさん、今回はセカンライノに挑戦してみませんか?」


「だ、ダメだよ! 私に勝てる相手じゃないから!」


「大丈夫です。みんな成長してきたので、この3人なら勝てる相手ですよ」


「ああ。きっとそうだ。それに、いずれはボスにも挑むつもりなんだろ?」


「そうですね。ボクの目標は、魔王を倒すことですから」


「ま、魔王!? そんなの、死んじゃうよ!」


「なら、逃げてもいいです。ボクは戦うので」


 俺としては、魔王を倒さないことには何も始まらない気分だからな。

 それでも、他の人に無理強いはさせられない。怖いというのなら尊重すべきだろう。

 セッテとお別れするのなら寂しいが、それぞれの人生があるのだから。


「クリスくんが逃げないのなら、私もついていくよ。一人にはさせられないから」


「アタシだって居るんだから、一人ではないぞ。でも、ありがとう。心強いよ」


「無理はしなくていいですからね。命がかかっているんですから」


「だからこそ、クリスくんを放ってはおけないんだよ」


 ソルは優しい人だと知っていたが、セッテも優しいな。

 やはり、パーティを組む相手は正解を選べた。万が一の時には、必ず俺が守ろう。きっとそのために、俺は『肉壁三号』として生きているのだろう。

 冒険を楽しむことはとても大切だ。だからといって、冒険のために他を捨てるつもりはないからな。


「ありがとうございます。でも、ボクの心配より、自分のことを優先してくださいね。ボクは強いので」


「そうはいかないよ。クリスくんは命の恩人なんだから、しっかりと恩返しをしないと」


「ダメです。ボクが助けた命を犠牲にしたなら、何のために助けたのか分かりません」


「そうだな。クリスの前で無茶をしたら、また助けられることになるはずだ」


 ソルの言葉を聞いて、セッテはため息をついた。それから、強くうなずいてくれる。

 うん、これで大丈夫そうだな。俺の目の前でも、そうでなくても、知り合いに死なれたら困るんだから。

 俺はこの世界を楽しみたいのだから、他人の犠牲なんて背負うつもりはない。


「分かったよ。じゃあ、ほどほどに頑張るね」


「ああ、それでいい。アタシも無茶をして失敗したからな」


 まあ、ソルのことは何度か助けた。その経験が力になっているのなら、ありがたいことだ。

 やっぱり大切な人がいるかどうかで、楽しさはぜんぜん違う。それを知った以上、パーティメンバーは大事にすると決めたんだ。


「じゃあ、いきましょうか。セカンライノにリベンジです」


 まあ、俺は勝ったんだけどな。セッテにはもっと自信を持ってほしい。

 ここらあたりのモンスターをちゃんと倒せる火力を出すのは、案外難しいんだから。

 今のソルには同じ回数の攻撃では倒せない。ちゃんとした冒険者であるソルでも。

 それを考えたら、セッテは弱者だなんて言えないよな。


「うん、分かったよ。しっかり倒してみせるからね」


「アタシも活躍してやるさ。ちゃんと強くなったところを見せないとな」


 ナダラカ平原を順調に進んでいき、セカンライノを探していく。

 うん、ある程度形になってきたよな。

 ソルは的確に敵との距離を保ちながらスラッシュとハイスラッシュを当てている。

 セッテはどの敵にどの魔法が有効かしっかり把握はあくできている。使い分けが上手い。

 パーティとしての完成度はだいぶ高いと思う。これなら、後は回復役がいればカンペキだな。


「見つけましたよ。セカンライノです。さあ、いきましょうか」


「ああ、任せておけ」


「しっかり魔法を撃ってみせるからね」


 事前にある程度打ち合わせをしており、セッテの最強の魔法でしとめることになった。

 俺が敵の攻撃を引き付けて、ソルが確殺ラインまで削っていく。

 そして、詠唱を終えたセッテが魔法をぶっ放す。

 この作戦で、十分に勝てるだろう。そもそも俺1人で勝てるというのは置いておいて。


 まずは俺が近寄っていって、アピールタイムを使う。そして、敵の攻撃を引き付けながら回避していく。

 やっぱり、攻撃に当たったらカッコ悪いよな。どうせ大したダメージじゃないとしても。


「セッテさん、詠唱を始めてください。ソルさん、いきますよ」


「ああ。全力で行くぞ! まずはハイスラッシュだ!」


 ソルが強烈な一撃を与える。それでも、セカンライノは俺の方に集中したまま。

 簡単なものだな。ヘイト管理を意識するほどの敵じゃないのは。

 俺が攻撃を当てていかなくても、一度アピールタイムを使うだけで十分なのだから。


 セッテは詠唱を始めていて、あとは時間を待つだけだ。

 俺とソルなら、絶対に魔法を発動するまでに一撃圏内まで持っていける。

 もしかしたら、俺が攻撃しなくても十分かもしれないくらいだ。


 セカンライノは俺の方に突撃を繰り返している。

 フェイントもかけてきてやっかいだが、まあ、当たってもダメージは問題ない。

 それでも、カッコよさのためにはノーダメージでいきたいよな! 気合いを入れるぞ!


「さあ、こっちですよ。よく狙ってくださいね」


 ソルやセッテの方を狙われたら困るからな。

 まあ、アピールタイムの効果だけで十分だろうが。

 俺は敵の攻撃をよく見て、最低限の動きだけでかわそうとしていく。

 ソルはスキができたセカンライノにスラッシュやハイスラッシュをぶつけていく。

 うん、いい調子だ。そろそろ詠唱できただろうか。そんな事を考えてセッテの方を見る。


 もうちょっとかかりそうな雰囲気だけど、楽勝だろう。

 そんな油断が良くなかったのか、セカンライノのフェイントに引っかかってしまった。

 しっかりと攻撃を回避できない。突撃を食らってしまった。ああ、失敗だ。カッコ悪いな。

 でも、セッテの詠唱は終わったから、後はぶつけてもらうだけだ。


「今です、セッテさん」


「いくよ。メガファイア!」


 炎の竜巻にセカンライノは巻き込まれ、そのまま倒れていく。

 うん。とてもいい威力だ。素晴らしい魔法だったな。


「やりましたね、セッテさん。おかげで楽に倒せましたよ」


「ああ、助かったよ。魔法使いがいれば頼りになるな」


「そうだといいな。二人は私の恩人だから、役に立てたら嬉しいんだ」


「なら、もう十分すぎますよ」


「そうだな。アタシだけじゃ、もっと苦戦したはずだ」


 和やかな空気のなか、達成感に満たされたみんなで帰っていく。

 カッコ悪い一幕はあったが、セッテの活躍が見れたしプラスだよな!

 ああ、今日も楽しかった! また何度でも、みんなと冒険をしよう!



――――――



 セッテはセカンライノを強く恐れていた。それでも、クリスが挑むのならばついていくしか無い。

 だって、彼が1人で戦う未来は避けたいから。大切な恩人だから。

 それゆえ、覚悟を決めてセカンライノに立ち向かっていく。まだ恐れを抱きながら。震えそうな体に活を入れながら。


 逃げ出したくて仕方なかったが、それでもクリスのために詠唱を続ける。

 終わりそうなころ、クリスがセッテの方を見る。焦りか。そう考えると、クリスに攻撃が直撃した。

 自分の詠唱が遅いばかりに、クリスを傷つけてしまった。後悔ばかりに襲われるセッテ。


 セッテのおかげで楽ができたとクリスに言われても、自分が情けなくて情けなくて仕方がない。

 心苦しさが消せないまま、セッテはずっと悩み続けていた。


「私が未熟なせいで、クリスくんが苦しんでしまう。もっと強くならないといけないのに……戦うのが、怖い……私はなんて情けないんだろう……」

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