宴だ! 宴だ!
セカンライノを倒した祝いとして、ミリア達に宴に誘われた。
なんでも、自分たちで準備をするので、俺はゆっくり楽しんでくれとのことだ。
セカンライノは確かにゲームでは強敵だし、たまには休むのも悪くない。
それに、ミリア達の開いてくれるパーティがどんなものか気になるからな。
会場へと移動すると、ミリアが出迎えてくれた。
穏やかな笑顔で、歓迎してくれているのが伝わる。いいよな、こういうの。
「ようこそ、クリスさん。今日のパーティを楽しんでいってくださいね」
ドレスを着ているミリアはとてもキレイで、適当な格好で来た俺が情けなくなってくる。
まあ、いまさら衣装は変えられやしないから、別にいいのだが。
俺もおしゃれをすれば良かったかもしれないが、衣装には詳しくないからな。
「ボクのこんな格好で大丈夫なんですか? ちょっと心配です」
「大丈夫ですよ。身内だけの会なので、動きやすいほうが良いんじゃないですか? おしゃれをしたいなら、衣装は用意していますよ」
どうしたものか。確かにおしゃれな格好での動き方には慣れていない。
せっかくキレイな服を着ても、最悪汚したり破いたりするよな。もったいないか。
なら、ミリアの言うように今の服装でもいいか。幸い親しい相手だけだから、文句を言う相手も居ないだろう。
「汚したら困りますし、今回は今の格好にしますね」
一応ミリアに買ってもらった服だから、まるっきりダメということはないはずだ。
組み合わせは本当に雑だから、そういう意味ではあれな格好かもしれないが。
いまさらだが、パーティと知っていたのだから、もっと衣装を考えればよかったな。
現実ではあまりに縁がなさすぎて、配慮ができていなかった。
「分かりました。皆さんお待ちですから、案内しますね」
そのままミリアについていくと、見たこともないような飾りが付けられた部屋に、テーブルの上に並べられたごちそう、そして着飾ったみんなが待っていた。
ミリアはキャリアウーマンというイメージを持ったまま、茶髪をまとめることで柔らかい印象もある。
黒いドレスができる女という感じをもたせるが、それでも優しげな顔で緩和されている。
キツめの顔をしているミリアだが、表情と衣装のおかげでとても親しみやすそうだ。
エリカは子どもが背伸びをして着飾ったような印象もあるし、同時に大人びた空気もまとっている。
なんというか、二面性のようなものを感じられて、深みにハマってしまいそうだ。白いドレスのおかげで無垢な印象もある。
占い師として頼りになるイメージと、子供っぽい見た目の相乗効果と言った感じか。
ソルは赤いドレスが赤い髪と褐色肌に似合っている。
勝ち気な姉御肌なイメージのソルだが、今回は落ち着いた雰囲気も兼ね備えている。
やはり、パーティという場に合わせているのだろう。やっぱり配慮できる人なんだよな。
セッテは青いドレスを着ている。ソルと同じように、髪色に合わせたドレスだ。
スレンダーな体型と相まって、社交場にいそうな雰囲気がある。
堂々とした姿勢のおかげで、頼りになりそうに感じるんだよな。いつもの魔女っぽい格好とはだいぶ違う。
「みなさん、お綺麗ですね。よく似合っていますよ」
「ありがとうございますです。クリスさん、楽しんでいってくださいです」
「ふふ、こんなアタシも悪くないだろ?」
「親睦を深めるいい機会だよね。クリスくんも、仲良くしようね」
うん、いい場所を用意してくれたな。みんな笑顔で、とても居心地がいい。
誰も言っていないが、きっと俺のために準備してくれたんだよな。俺だけが待っていたのだから。
本当に、良い仲間たちと出会えたことだ。運が良かったよな。
「はい。いっぱい楽しませてもらいますね。みなさん、ありがとうございます」
「では、まず食事を楽しんでくださいね。立ったままでも食べられる用意をしていますが、椅子もありますよ」
まさに至れり尽くせりといった感じだな。配慮が行き届いている。
俺を楽しませるためにここまでの用意をしてもらったのだと思うと、涙すら出てきそうだ。
どれだけ俺を大切にしてくれているか、よく分かる。単なる仲間ではないんだよな。
ああ、みんな良い人ばかりだ。最高だな。この世界に来れてよかったとしか言えない。
食事はどれも手間がかかっているのがよく分かる。
ゆっくりと味わっていくが、今まで食べたことがないくらいに美味しい。つい顔がほころんでしまいそうだ。
肉も魚も野菜もそろっていて、どれも見事な味だからな。こんな贅沢を味わっていて良いのだろうか。
「美味しいです。みなさんも食べてくださいね。ボクの前だからって、遠慮しないでいいです。というか、みなさんと一緒がいいです」
そういえば、俺の食べ方は合っているのだろうか。かなり手でつまんでいるが、よく分からない食器もあるよな。
みんなを観察していると、フォークらしきものやスプーンらしきものを使っていた。
やっぱり、ゲームの中だから、現実と同じなのだろうか。じゃあ、このよくわからないものは何だ?
「そういえば、みなさんが使っていない食器がありますね。なんですか?」
「これは飾りですよ。食器ではありません。まあ、クリスさんが心配することはないです。マナー違反を気にしたりはしませんから」
ミリアの口ぶりからするに、俺はなにか失敗しているのだろうな。
だが、正直に言えばよく分からない。みんなの厚意に甘えていいのだろうか。
それとも、何か間違っているか聞いたほうが良いのだろうか。
「なにか失礼なことをしていたら、言ってください。申し訳ないですけど、ボクはマナーに詳しくないので」
「大丈夫です。クリスさんの失敗はあまりないです。事前に占いましたが、大問題は起きないです」
なら良いのだが。エリカのおかげで安心できた。気づかいという可能性はあるが、だったら指摘するのは余計に失礼だろう。
それにしても、本当に楽しい。親しい人と同じ時間を過ごすだけで、ここまで幸せになれるとはな。
「ありがとうございます。ボク、こんな楽しい時間は初めてなので、みんなが不愉快なら嫌でしたから」
「大丈夫だ。心配するなよ。アタシ達がクリスのことで不愉快になると思うか?」
「そうだよ。クリスくんは私の命の恩人なんだからね。仮に失敗したって、小さいことだよ」
「本当に嬉しいです。みなさんと出会えて、本当に良かった。ボクは誰よりも幸運ですね」
それからもつつがなくパーティは進んでいき、最高の1日だと思える日になった。
『セブンクエスト』を楽しめるだけでも良かったのに、今ではみんながいないと物足りない気がする。
「今日は楽しかったです。ボクが贅沢を覚えてしまったみたいで、怖いですね。1人に戻れなくなりそうで」
「あなたを1人にはしませんから、安心してください。ずっとみなさんでそばに居ますから」
ミリアの言葉に合わせて、みんな微笑んでくれた。何度でも感じたことだが、本当に俺は恵まれているな。
今の出会いに恥じないように、もっと頑張っていこう!
――――――
セカンライノを倒した祝いのパーティなんて言葉は建前で、すべてはクリスを楽しませるためだった。
そのために、ミリアを始めとしたクリスの知り合いたちで、豪華な会場を用意したのだ。
狙ったとおりに、クリスはとても楽しんでいる様子。それでも、細かいことが皆の心にトゲを残していく。
節々からクリスの過去が想像されて、誰もが胸を抑えそうになった。
食器の使い方も知らなかったり、初めての喜びだなんて言われたり、1人に戻れなくなりそうと言っていたり。
何もかもがクリスの暗い過去を証明しているようで、それぞれが胸を引き裂かれるような痛みを味わっていた。
それでも、今日見せてくれたクリスの笑顔を続けるために、これからもクリスのそばに居続ける。誰もがそう決意していた。
「クリスさんが楽しみを知る機会は、誰にも奪わせはしません。誓って、あなたを支え続けますからね」
ミリアの言葉に、皆が強くうなずいていた。
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