第103話 黒に染まる

 喪に服すか。


「とりあえずしばらく黒い服でローテを組むぞ」

「黒ね〜りょ」


「男は黒に染まれって誰かも言っていたしね」



 コウタもそう言いつつ、ちゃんと黒い服を着ていた。



「コウタ……もしや黒の剣士って呼ばれたい?」

「それはどうでも良い」



 どうでもいいのか。ちょっとだけ残念。



「そう言えば、コウタ、ムラマサの試し斬りはどうなった?」

「黒くてでかい蛇の魔物、大蛇を斬ったぞ」

「大蛇切りムラマサか、それなら格好がつくわね」

「そりゃあ、大根切りムラマサよりはな」


 そうね!!



 しばらく黒い服で生活することになったけど、私は元々黒ばっかり着るオタクだったので別に問題なかった。



 メイドと執事の面接の為、ソフィアナ様の元へ来た。


 サロンで候補が来るのを待っている。

 その間に私の意見を言っておこう。


「私の意見だと、なるべく若い方が良いと思う」

「なんで? 家事経験値高そうな年上もいいと思うけど」


「年上の人は年下にああしろこうしろと命令されたらムカつくらしいので。

過去アシスタント先で先生から自分より年上のアシスタントは使いにくいとも聞いた」

「ああ、なるほど……」

「でも、アシスタントじゃなくてメイドと執事だよ?」



 そうかな? 人間の本質は変わらないのでは? 

 小娘や小僧に命令されたらイラッとくるんじゃないかと。


 なお、ライ君は奴隷枠だったので、特殊。絶対服従の契約がついてるし。

 


「まあ、私の個人的な意見なんで」

「とりあえずサヤは顔見て決めたい。いい感じの人を」

「そうだな、俺は渋かっこいいおじいちゃん執事とか好き」


「コウタ、おじいちゃん執事が今更他所の新規募集に来ないから。

リストに老人は居なかったでしょ」

「そういや、そんな老人いなかったわ」


 ガッカリするコウタ。おじいちゃんに甘えたかったのか?


 ややしてサロンに集まった男女の中から、簡単な自己紹介などをして貰って選ぶ事に。



「楽にして、志望動機を教えてください」



 私はメイド候補に面接官っぽい質問もしてみた。



「敬愛する将軍様の生家の維持を任される事は誉れだと思いました」



 ほほう。愛国心のようなものかな? それから将軍個人に心酔してる?



「では、そちらの君、だいぶん若いね、うちに来たい理由を聞かせてくれるかな?」


 コウタがまだ14歳位の女の子に声をかけた。



「うちは貧乏なので外で働いて来いってお父さんとお母さんに言われました」


 あからさまな口減らし……!


「そ、そうか、大変なんだね。次に隣にいる執事候補の人、得意な事とかありますか?」

「わりと力持ちなので、薪割りとかも得意ですし、御者も出来ます。

何でも好き嫌いなく食べられますし、どこでも寝れます」


「どこでも寝れるのはいいですね」


 睡眠不足だと健康に影響するし。

 私がそう言うと、たくましい体の男の人はニッコリと笑った。愛想もいい。



「そこの女の子、得意な事とか長所を教えて下さい」


 紗耶香ちゃんの問いに答えるのは若くてなかなかかわいい女の子。



「わ、私は少食なので、あまり食費もかからず、お得だと思います」


 切ない!!

 逆に食べさせてやりたい気がする!


 10人の候補に色々と質問させて貰った結果、お休みなどを交代で取る事も考えて、私達は女性三人、男性二人、計五人を雇用する事になった。


 最初は経費抑えて男女一人ずつとか考えていたけど……急に体調崩す事もあるよねって事で。


 いなきゃいないで、掃除くらいならしばらく放置でもいいかなって思わなくもないのだけど。


 皆を全員、お部屋から出して、廊下に待機して貰い、伯爵家の執事にそれぞれお手紙を渡して貰った。

 お断りする五人に当てた、例のお祈りメールっぽいお手紙の内容はこうだ。



「この度は当方共の為にお集まりいただき、誠にありがとうございました。

厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は採用を見送らせて頂くこととなりました。

ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。

〇〇さんの今後のご健勝、ならびにご活躍を心よりお祈り申し上げます」



 一方採用通知。


「ご応募いただきありがとうございます。厳正なる選考の結果、◯◯様を採用させていただくことが内定しましたのでご連絡いたします。


 今後の契約書の手続き・休み等のスケジュールにつきましては、もう一度顔を合わせてから行います。


 尚、採用について何かご不明な点等ございましたら、遠慮なく質問をして下さい。

 ◯◯さんを当館に迎えられることを、一同大変嬉しく思っております。


 それでは、まずは手紙にて恐縮ですが、ご連絡申し上げます。

 どうぞよろしくお願いいたします。



 ──と、こんな感じだ。


 あからさまな口減らしの子はかわいそうなので雇用する事にした。

 あとは、包容力のありそうな、子守も出来そうな人を選んだ。



 * *


 屋敷には新しい使用人を迎え、掃除洗濯洗い物などが楽になった。

やったぜ。


 うちは食事が美味しいのと、具合が本当に悪い場合は薬をあげるなり、治癒魔法も使うなり、休みもあげると言われたら、何故か高待遇だと喜ばれた。

 使用人業界はそんなにブラックなの?

 


 そんな中、コウタの両親メインで食堂をプレオープンして貰った。

 かつて市場に来てくれたお客さんが結構来てくれる。

 

 飯が美味いのとウエイトレスが可愛いと評判の店です。

 可愛いウエイトレスは紗耶香ちゃんです。

 黒いメイド服で給仕をしてくれます。


 ご主人様の一人なのにメイド服なのはかわいいからと、ちょうど黒い服なので。


 

 * *


 喪中でも、レベルアップの為、冬の森の中へ。

 

 運動不足解消と、修行もたまには行かないと、スキルショップ内で買える物が増えるかもだし。


 そして森の中を獲物探してうろついていたら、偶然ラウルさんに会って、一緒になった。

 冬は遠出をあんまりしないから、わりと狩り場は被るんだって。


 男女交代でトイレ休憩。

 男達は茂みの奥へと消えた。



「見て! 紗耶香ちゃん! あそこ! 凄いでかい大根の葉みたいなの生えてる!」

「サヤが鑑定してみるね! ……これ巨大な大根みたいなやつだよ、魔法薬の素材にもなるんだって。

引っこ抜いてみようか!」


「よし!」

「せーので引っ張るよ!……せーの!」


「うおおおりゃあああああっっ!!」


 私の気合いのセリフが可愛くないのは自覚している!

 それに比べて、紗耶香ちゃんは……



「てやああああああっ!!」


 なんか、可愛いな?


 ブチッ!!



「「あっ!!」」


「ああ〜〜! 葉っぱが千切れた……ちょー残念〜〜」

「クソ、やっぱりスコップとかで掘らないといけなかったか」



 そこへ戻って来たコウタとライ君。



「カナデ、お前の雄叫び、女子として、可愛げがだいぶん足りない気がするんだけど……」

「うっさいわよ、コウタ」

「別に悲鳴じゃ無かったみたいで、ひと安心デス」



 ライ君は優しい。


「全くカナデはサヤちゃんを見習えよ」

「うっさい! 紗耶香ちゃんの声が気に入ったならファンレターでも書いてろ!」


 紗耶香ちゃんが、え!? って顔した後に、私はバタンと巨大な大根を引っ張り疲れて、地面の上にだらしなく転がった。

 そこへ、ちょうど戻って来たラウルさん……。

 

「ほら、カナデよ、推しに己の可愛くない声を聞かれてしまったのではないか?」

「…………」


 コウタの容赦ないツッコミ……。


「いや、別に、気合いの声とかどうでもいいだろう。それより、カナデはこれ、欲しいのか?」


 ラウルさんの気使いを感じる問いに、私はムクリと体を起こしてアイテムボックスからスコップを出した。


「はい、魔法薬になるらしいので、今から掘ります」

「貸せ、俺が掘ろう」

「ラウルさん、俺も掘ります!」


 ラウルさんは私からスコップを受け取って、大根の周りの土を掘った。

 コウタも自分で出したスコップを使って掘る。


「頑張れ〜〜!!」


 紗耶香ちゃんは男子を応援している。

 私はさっきだらけてついた砂や土を体から払い落としたりしてた。

 これが、女子力の有無かもしれない。


 やれやれ。

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