第102話 王都の異変

 目が覚めたら、令嬢の部屋だった。

 元夫人の部屋を紗耶香ちゃんが使って、この家の主人の部屋がコウタの部屋。


 何しろ夫人の部屋は主人の部屋と扉一枚で繋がっている隣なのだ。


 たまにいい雰囲気になる紗耶香ちゃんとコウタ。

 あの二人は、いずれそのような関係になるかもしれないので、念の為、私は元のこの家の主の娘、令嬢の使っていたらしき部屋を欲しいと言って貰った。


 紗耶香ちゃんの使う部屋は男主人の部屋に次ぐ広さ、豪華さなので、普通に承諾された。



 今日は紗耶香ちゃんとコウタの両親とで、お洋服を買いに行く。

 コウタはリックさんとラウルさんも連れて、狩りに行く。

 ムラマサの試し斬りがしたいのだろう。

 経験値にもなるし、レンジの素材集め資金にもなるからまあ、良いけど。


 * *


 ちょうど紗耶香ちゃんとコウタの両親の洋服を買い物を終え、どっかで休憩がてら飲食店に寄ろうとした所に、伯爵令嬢のソフィアナ様の元へ飛ばしていた白雪が私の元へ戻って来た。


 足には手紙がある。

 私達は近くの人のいない裏路地に入って、こそっと手紙を見た。


「王都で大きな事件があって、当分お茶会はできないそうよ。

こんな手紙で話せる内容じゃ無いらしく、私はコウタが戻ったらソフィアナ様の元へ行こうと思う」

「だね、貴族がお茶会禁止だなんて、よっぽどだよきっと」



 紗耶香ちゃんも同意してくれた。



「何かしら、不安ね」

「お、俺がついてるから」



 キナ臭い情報にコウタの両親もやや不安そうだが、このお二人、仲良くて良かった。

 クリスもやや不安げな様子で私の服の裾を掴んでいる。

 いかん、子供を不安にさせてしまった。何か気を逸らす話題は……。



「クリスにも絵本でも買ってあげたいけど、あるかな?」

「あー、本が高価なんじゃ、子供向けは少ないと思うケド?」


「じゃあいっそスケッチブックに私が描くか……」



 私がそう言うと紗耶香ちゃんが食いついて来た。



「カナデっち、童話が描けるの?」

「えーと、童話は難しいけど、少女漫画みたいなのなら」

「いいね! サヤも読みたい」


 今度絵本というか、漫画に挑戦するか。

 画材とかはコウタのスキルショップで買って貰った物がある。

 これまでは時間が無かった。

 冬籠り中にちょうどいい。


 近くの飲食店で軽い食事を済ませて私達は屋敷に戻った。


 紗耶香ちゃんが自分の伝書鳥のバニラに手紙を託してコウタの元に飛ばした。


 内容は「家に戻ったらソフィアナ様の元へお話を聞きに行こう。

 王都で何かあったらしい」という内容である。


 手紙はわざと日本語で書いてあるから、この手紙が途中で誰かに奪われても、日本語が分かる人にしか分からない。



 スキア伯爵邸にて、ソフィアナ様から得た情報。


 エルム歴、2078年、バルド国王夫妻。崩御。

 死因。夫婦の寝室にて二代目魔王の襲撃。


 王都は夜中、突然の二代目魔王襲撃で、大変な事になっていたらしい。


「二度と異世界から勇者召喚などするな。これは警告だ。

さも無いとこの国のみならず、世界を滅ぼす厄災を起こす」


 二代目魔王は空を飛んでいて、窓を壊して夫婦の寝室に侵入。

 国王夫妻を殺害し、駆けつけた騎士にそう告げたらしい。

 国王夫妻が亡くなり、王太子が即位し、王となる。王太子妃も王妃となる。



 そうなるけれど、しばらくは王国中、喪に服し、44日間は祭り、祝い事、パーティー禁止。

 と、なった。


 喪が開けたら、王太子の即位式の式典がある。


 そんな情報を貰った。


 大変な事で、メイドや執事の事を聞くのも気が引けたが、ソフィアナ様はリストをくれた。

 今度面接もさせてくれるらしい。


 私は普通におやつにでもして下さいとメロンパンとバームクーヘンとドーナツを渡して、仲間達と帰宅した。


 * *


 クリスはライ君に預けて、積み木遊びでもしてて貰い、コウタの両親は厨房で食事の用意をしてくれるらしいからお願いした。

 買って貰った服のお礼をしたいらしい。



 私達は屋敷内のサロンに移動し、その間に話しあった。



「よほど異世界からの勇者を脅威としているのか、もしくは異世界の人間を巻き込むなと言う配慮?」


「なんで魔王が人間に、しかも異世界の人間に配慮なんてするんだ?」


 私の言葉にコウタが首を傾げる。


「ねー、二代目魔王の容姿って襲撃者は仮面を被った男女でぇ、おそらくは男の方が魔王で、女が配下の何かって話だったよねぇ? 何でちょー強い魔王が仮面なんかつけるんだろ?」


 紗耶香ちゃんの意見に私にもふと、疑惑が持ち上がる。

 仮面してるなら、顔を隠したいんだよね……。



「前勇者パーティーって魔王と相打ちで行方不明ってか、遺体も見つかっていないのよね?

実は勇者達が裏返って魔王になったって言うのなら、異世界からの勇者召喚やめろってキレるのは分かるんだよね。だって迷惑かけられた張本人であれば納得」


 私の言葉にハッとなるコウタ。


「まさか……でも、異世界転生したら魔王になった! とか、勇者やめて魔王になった! みたいな作品読んだ事あるな、俺も」


「でしょ? だからさ、異世界人の勇者召喚やめろって言ったのが気にかかるから」

「じゃあ次の魔王が元クラスメイトなら、話せば分かる系で、実は今頃諸悪の根源の極悪国王倒して、人間を自主的には襲わず、優しい魔王になって美味しい物でも食ってたり?」


 紗耶香ちゃんの説が合ってて優しい魔王になっててくれたら助かるけど。


「あり得るね。

でも言葉を話さない系の魔獣は魔族と違って、本能や食欲で人間襲ってるから普通に出くわせば襲っては来ると思うよ」


「まあ、魔獣は仕方ないだろう。ひとまずはもう新しい王様が魔王とやたら積極的に戦争しない、穏健派であることを願うよ、俺は」


「「そうだね」」

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