第101話 新しいお屋敷で
将軍の生家に祈祷師を呼んで、それから生還パーティー兼、新居の引っ越し祝いをやることになった。
クリスは普段、コウタの両親に見てもらう事にした。
クリスはコウタの両親に速攻で懐いたし、相性も良さそうだった。
我々は冬が終わればチョロチョロ遠出するかもしれないし。
コウタにクリスと両親が凄く仲良くなったら、妬ける? と聞いたら、妹が出来たと思うことにした。
と、笑った。
「俺はホントに両親を助ける事ができて、俺を捨てたんじゃないって分かっただけでも十分なんだ」
その言葉を聞いて、コウタも立派になったな。
などど思った。
夕刻になって、招待した人が集まって来た。
冬なので、最近陽が暮れるのが早い。
後の予定が無い人は客室に泊まっていって貰う予定だ。
人手に渡るまでは不動産屋がきちんとお部屋もメンテなどをしてくれていた。
流石に将軍の生家だけあって、大事にされていた。
「随分でかい家を買ったな」
「よう、バジリスク戦に参加してないのに、俺まで招待ありがとう」
「貴族の令嬢がレース目当てに突撃して来ることもあるもので大きい家にしました。リックさんにも色々お世話に、なっていますから」
ラウルさんとリックさんを生還祝いと引っ越し祝いパーティーに招待した。
「あ、あそこにいるのがコウタの両親か? 顔がやっぱ似てるな!」
「ありがとうございます。今日は楽しんで行って下さい」
リックさんがコウタに話しかけていたら、コウタの両親も気がついて、いつも息子がお世話になっているそうで、ありがとうございます。
などと、お決まりの挨拶などをしていた。
「すき焼きと刺し身です。刺し身が辛い方は、言ってくださればコウタの魔法で炙りにも出来ます」
「でも安全なんだろ?」
リックさんが訊いた。
「はい、鑑定でも問題無いです」
リックさんもラウルさんも我々の信頼度が上がって、こっちの食べ方にも慣れて来たようだ。
今日は仕事も無いらしいから、お腹を壊すかもという心配もいらないだろう。
まかり間違えてそんな事になったら私が治癒魔法で何とかするけど。
「あ、生の魚、プリプリしてて美味しい」
「これが……サシミ……あ、これは口の中で溶ける!」
お二人とも、存分に堪能して下さい。
更に我々が命懸けの遠征中、留守中クリスの、お世話をしてくれた赤星のおばさんも呼んでいたので、到着するなり、屋敷の立派さに驚いていた。
「凄いお屋敷だね! あんた達、貴族に、なったのかい?」
「いいえ、貴族の売った家を買っただけです」
「今度さあ、コータ君の両親の分の着替えの服とか買いに行こうよ。
今は手持ちの適当に着てもらってるけど」
「ああ、そうだな」
「お母さんは古着でいいわよ、こんな大きな家を買って、本当に大丈夫なの?」
「俺のも古着でいいぞ」
「大丈夫だよ、母さん、父さん。新しいのと中古と両方買えばいい」
「でも、家の維持の事とか考えてる? 大きいと掃除も大変でしょう?」
あ……まあ、それは確かに大変かも。
「そ、掃除かー、そういやたまに呼ぶとお掃除してくれる企業とか無いのかな?」
「浩太ったら、考えてなかったの?」
コウタの両親を助け出す大きなミッションが終わって、ちょい浮かれてたね、私達。
「これはメイドと執事を雇うチャンス!?」
しかし、私がそう言うと、コウタも紗耶香ちゃんも食いついて来た。
「メイドさん!」
「あーね! 執事! いいじゃん!」
「まあ、男女一人ずつくらいいてもいいよね、執事とメイド」
色めき立つ私達に赤星のおばさんから。冷静な忠告。
「アンタ達、使用人を雇うなら、ちゃんと盗みとかしない、真っ当な人間を雇いなよ」
「あーね、鑑定で人格までは見抜けないよね」
紗耶香ちゃんも首をひねって考えてる。
「推薦状とか持ってる人かな?」
コウタが、そう言ったので、私は思った。
メイドや執事を雇ってる貴族に聞けばいいのでは?と。
「今度パンを納品に行く時にでも、ソフィアナお嬢様に訊いてみる?」
「そうだな、ソフィアナ様が、俺たちの大事な戦いが終わったらお茶会に美味しいパンを出したいと言っていたか」
「白雪、鳥を飛ばして色々報告しとく」
私が白雪を呼ぶと窓辺から飛んで来た。
「かわいい! 鳥さん!」
「クリス、サヤの鳥さん触っていいよ、名前は、バニラ」
「バニラちゃん!」
紗耶香ちゃんが自分の鳥でクリスの気を惹いてくれてる今のうちに、私はアイテムボックスからレターセットを出して手紙をしたためる。
「このすき焼きって料理も美味いな」
「でしょう!?」
リックさんとコウタのお父さんが意気投合してる。
「じゃあ、白雪、お願いね!」
窓辺から飛び立つ白雪。
それをジュースを飲みながら、じっと見て見送っていた、ライ君。
「あ、ライ君、もしかしてソフィアナ様に何が伝えたい事があった?」
「いいえ、特に何も」
「……クリスちゃんとライ君は学校に通わす方が、いいのかな」
「俺は、御者の他にも掃除なども出来マスよ」
「それはありがたいけど、でも日曜学校で読み書きくらいは習った方がいいよね」
「そうだな、俺も御者出来るようになったし」
「こんな立派なお屋敷に住む主が御者を自分でするのデスカ?」
コウタは御者技術を、いつのまにか得ていたらしい。
「まあ、そもそもが平民だから良くないか?」
「食堂は定休日あるの?、あるなら、母さんもお屋敷のお掃除の手伝いをするわ」
「母さん、食堂の掃除もあるから無理しないで」
「コウタ! 新しい武器の試し斬りの時は付き合うぞ! 狩りに行こうぜ!」
「ありがとうございます、リックさん」
あ! そうか! ムラマサの!
「コータ君! ご両親の服とかの買い物はサヤ達に任せてくれていいよ〜〜」
「そう? ありがとう水木さん」
「あーね、いいかげん、アタシの事も下の名前で呼べば良くない?」
「あ、じゃあ……サヤカさん?」
「サヤで良いよ〜〜」
「サヤ……ちゃん」
「ま、それでいっか!」
キャハハ! と紗耶香ちゃんは朗らかに笑った。
何だか地味にやることが多いな?
命がけな作業とは違うからいいけど。
でもメイドや執事を雇うとか、私達も出世したものだね!
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