第100話 二つの物件

 物件その一。


 緑豊かな林のそばで景観が良い。泉も有る。


「流石商人の保養所。商品をいっぱい置けそうな棚が沢山。在庫置きにも使っていたのかな?」


 私は大収納の棚がいいなと思ってスマホのカメラを使って撮影した。


 紹介してくれてる商人ギルドの不動産屋にスマホを見られ、「それは何ですか?」と問われ、「記録の魔道具です」とか適当に誤魔化して言った。


 不動産屋は、そんな便利な物が!? どこで買える物ですか? とも言われ、特別なアーティファクトで非売品だと、私はシラをきった。

 流石にコウタの雑貨ショップリストにもスマホやカメラは無かったし。



「なるほど、商人の物件は便利そうだな。荷馬車を置くスペースも十分だった」

「お風呂、大人数で入るのか、大きいね。ちゃんと男湯と女湯も分けてあるし」


 お風呂は大風呂があったのだ。ゆったりと入れる。

 


 物件そのニ。


「屋敷のデザインがかっこいいし、でかい。流石将軍の生家。元々良い家の方か」



 コウタが将軍家の外観を見ながら感心している。



「貴族のお嬢様とかお迎えするなら、どう見ても華麗なこっちのが似合ってるよね〜〜」



 紗耶香ちゃんも将軍家の館の外見が豪華なので、思わずスマホで撮影しつつ、そう言った。



 内見。


「風呂の質は流石に将軍の生家のこっちが上か。装飾とか」

「一人用サイズのピカピカの猫足のバスタブがあるメインのお風呂が二箇所あるね。

それに加えて使用人用は一階に別にあるし」


「使用人用はでかい木製のタライだな」

「まあ使用人用だものね」



 格差社会……。



「お、歴史ある雰囲気な上に騎士の武器置き場と鍛錬場も有るぞ」

「厨房も広いね〜〜。料理長と手伝いが4人くらいは入る感じかな?」

「ああ」


 広くて使いやすいキッチンはいいなと、私は思った。



「うーん、悩むね」

「ああ」

「サヤもこれは悩むわ」


 ガチで悩ましい。


「見た目で選ぶか、今の家……食堂への近さで選ぶか……」

「どっちもそこそこ距離有るっぽいケド?」


「食堂への通勤時間か〜〜。まあ徒歩はしんどいからどちらも馬車移動になるな」



 コウタも紗耶香ちゃんもまだ決めかねてるようだし、


「あの、すみません、一旦、家に帰って慎重に決めてもいいでしょうか?」



 私は不動産屋に猶予はあるか聞いてみた。



「はい、大きな物件で、そうそう売れませんし、良いですよ」


 とりあえずこの案件は持ち帰り、弊社で検討をします。

 

 私達は帰りに冒険者ギルドにも寄って、石化解除の秘薬の情報の追記をしたり、貯めてた魔石などの売却などを行った。


「ワハハ、ドラゴンとバジリスク討伐で青銅級から銀等級までランク上がったぞ」



 コウタは冒険者証明カードが青銅からシルバーのプレートになった事を喜んでいる。



「コウタが目指すは銀の上の金等級なの?」


「やっぱ白金、プラチナランクがかっこいいとは思うが、まあそこまではな。

両親も救い出したし。

あ、そういや、カナデ、レンジの素材に難しいのはあるのか?」


「あ〜〜、何ちゃらのインゴットとかは知らないなって」

「何ちゃらとは?」

「ごめん、忘れたの」


 ステータス画面を開けば良いんだけど、何となく冒険者ギルドでは開きたくない。

 私達の他にもステータス画面を見れる人がいないだろうか?

 クラスメイトの生き残りとか。思わず周囲をキョロキョロしてしまう。


 ギルド受け付け付近には、色んな人がいて、落ち着かない。


「俺が今度金属に詳しそうなドワーフの鍛冶屋に聞くから、必要素材のメモをとっておいてくれ」

「うん」


 冒険者ギルドから出て、生還パーティーは何を食べるかって話題になった。


「親は前回、大事をとって肉食えなかったから、肉がいいかな?」

「ご両親、本人達に聞けば良くない?」

「それはまあ、そうだな」

「サヤは最近肉もピザも海鮮のエビも食えたからどちらでもいいよ〜〜」


 家に帰るとコウタのお父さんの悠人さんはすき焼きが良いといって、お母さんの真希さんは刺身と言うので、両方とも用意する事にした。


 何しろ生還パーティーだもんね。そこそこ豪勢で良いでしょ。

 ラウルさんの空いてる日を聞いておこうと伝書鳥を飛ばした。


 ちなみにコウタの両親に物件の方も一応参考までに聞くと、

 悠人さんは見た目重視のようだった。


「やっぱり高そうでは有るが、将軍家がかっこいいから良いんじゃないか?」


 お母さんの真希さんは慎重派のようで、


「将軍て騎士の家なんでしょう? 魔物退治だけじゃなくて、戦争とかで人を殺す事もあるって考えたら、商人の持ち物件だった方が、お母さんは安全そうな気がするわ。

私、地球にいた頃、友達の付き合いで博物館で人を斬った事のある刀を見に行った事があるのだけど、見た後に体調を崩した事があるのよ」

 

「あらら、影響を受けやすい方なんですね」



 そう言えば霊感体質の友人も曰く付きの土地とか、行きたがらなかった。



「私の守護霊が弱いのか、運が悪いのか分からないけど、確かに体調を崩したのよ」

「母さん、そんな体質で良く冒険者やろうとしたね」


 コウタが思わずそんな事を言った。冒険者は基本的に流血沙汰が多いからね。


「冒険者になれば、元の世界に戻れる情報が手に入るかもって、子供を、浩太を置いて来てしまったし」



 それは紛れもなく、母の愛だった。



「俺は、捨てられたんじゃないって分かって嬉しかったよ……」


 急にしんみりした雰囲気になってしまったけど、すぐにお父さんが物件の話に戻した。



「でも貴族の令嬢が来ることがあるんだろう? 

商売人の家も箔がつくように、見た目が豪華な方がいい気がするぞ。

あ、お祓い的な事をして貰えばいいんじゃないか?」



 たしかに商人的にはハッタリもイメージも大事ではある。と、私も思うので、



「ああ、神官か巫女に祈祷を頼めるらしいですよ」


 私はその情報を思い出し、コウタのお父さんの方を見て、そう言った。



「そう言うのをちゃんとするなら、騎士の家でもいいかもしれないけど……ね」



 お母さんは敏感で繊細な人なんだろう。その気持ちも分かる。



「じゃあお祓い……祈祷をしてから将軍の生家にするか?」

「そうだね」

「あーね、じゃあ真希さんを新しい家に呼ぶのは祈祷後にしますネ!」


「ええ、ありがとう、サヤちゃん……と呼べばいいのかしら?」

「はい、サヤって呼び捨てでも良いですヨ〜」


 そんな訳で元将軍の家にする事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る