第99話 ムラマサと新しい家
「俺、家をもう一軒買おうと思う」
え!?
「マジで!?」
朝からコウタのゴージャスな発言に、紗耶香ちゃんも流石に驚いた。
「親が食堂に通えるように近場で、中古でいいから物件を探そうと思う。綺麗なレースの売上も沢山あるし」
「コウタが親の為に家を買う孝行息子に!?」
「だって、あった方がいいだろ」
言葉も無く、呆然とするコウタの両親。
数年間、行方不明で、その間は育ててさえいないのに、急に家を買ってくれると言われたら驚くよね。
「あ、いっそのことさ、この今住んでる家を親御さんにあげて、アタシ達が新しい家を探せばよくない? ほら、こっちは貴族のお嬢様が、突然来たりするし、でかい馬車も複数停められるでかい庭付きの邸宅? 中古でいいから」
「なるほど、でかいの!」
広い家! 憧れる!
「そう言えば、レースの他にも胡椒に化粧品もあるし、今度はもっと大きいのいけるな。
正直、両親は冒険者向いてないと思うから、食堂で働いて貰いたい。
ここなら店舗目の前というか、同じ敷地内だし」
「う、父さん達に冒険者とか戦いが向いてないのは分かるし、食堂も冒険より安全そうでいいと思うけど、ホントにそんな家を二軒も持つ余裕あるのか?」
コウタのお父さんは心配そう。
「それが、あるんだよ。お金」
「私達が石化してる間に……い、いつの間にか甲斐性のある、立派な息子に育ってるなんて」
そりゃあ、コウタのお母さんもびっくりだよね。
「よし、不動産屋に行こう!」
コウタが勢いよく言った後に、紗耶香ちゃんのお言葉。
「そんなんあったんだっけ? 前回はリックさん頼りだったけど」
「あー、商業ギルドに、行けば分かるんじゃない?」
私の提案に紗耶香ちゃんとコウタがそれもそうだと言って商業ギルドに行く事が決定した。
だけど、もう一つ大事な話が残っている。
「ところでコウタ、先にムラマサを作らなくていいの?」
「あ! そうだった! ムラマサ!」
コウタは、慌ててアイテムボックスから素材の野太刀とドラゴンの素材等を出した。
玉鋼とか他の必要な素材は鍛冶屋のとこから買ってきたらしい。
私は庭に出て錬金釜を使う事にした。
何か間違えて爆発とかしたら怖いし。
錬金釜をアイテムボックスから取り出し、何も無い土の上に置いた。
コウタの両親が空中に急に出て来た魔法陣から、物を取り出す私達を見て、何その力? って今更改めて驚くので、コウタが親切に説明した。
「ところで父さん達もこっちの世界に来た時、何かチートを、力を貰わなかった?」
「異世界言語が何故か分かるだけだったぞ」
「これすらなかったら、すぐに飢え死にしたと思うわ、怖かったわぁ」
うーん、コウタの両親が貰ったのは異世界言語だけだったか。
でも、それだけでもあって、ぎりぎりセーフといった所かな。
「素材を錬金釜に入れます」
「おう! カナデ、頼んだぞ!」
私は錬金釜に素材をそっと入れて行く。
野太刀が釜からややはみ出るけど、多分これでいいのよね。
『錬成!!』
錬金釜に素材を打ち込んで錬成!と言えば良いらしい。
錬金釜が光って、野太刀等が光の粒子になって、釜に入った。
【ムラマサ 錬成、成功。──完成しました】
そのメッセージの後に、一本の刀が光とともに、釜からす~っと、出て来た!
いつの間にか錬金釜の所有者が私になっていたので。私が、刀を釜から引っ張りだして、コウタに渡す。
「はい! コウタ! ムラマサを受け取って!」
「おう!」
刀をコウタが受け取った。
【カナデがムラマサを、コウタに譲渡しました。マスター登録完了】
そんなメッセージが出た。
どうやら所有するには錬金釜で作った人の許可がいるみたい。
「これが! ムラマサ! ヤバい、感動で震える」
コウタは村正を鞘ごと抱きしめて、ふるふると小刻みに震えている。
「ここに大根があるけど、斬ってみる?」
私がアイテムボックスから大根を取り出してみたんだけど、コウタは血相を変えて叫んだ。
「初のムラマサの試し切りが大根とか、許されない!」
「あ、それもそうか」
日本刀の名前に燭台や鬼や山姥を斬ったら、その名前で呼ばれてたよね。
大根切りムラマサとか、確かに不味いわ。
台無し。
じゃあと、試し切りは今度にして、錬金レシピで素材を集めれば魔道レンジが作れる事も報告した。
「レンチン出来るようになったら、確かに助かるな」
レンジに関しては皆、同じ感想、反応だった。
「あ、俺、昨日気がついてさ、鑑定で親の健康診断したんだ。
それで胃の調子とかも問題ないようだから、今度からは食事に肉とかも大丈夫だ」
「あ! そう言えば、鑑定があったよね」
皆忘れてたよねー! って、紗耶香ちゃんが笑った。
私もつられて笑った。
コウタの両親にクリスを預けて、留守番を頼んだ。
私は飲み物と菓子パン等をテーブルの上に出しておき、お腹空いたら食べて下さいね、魔導具の冷蔵庫の中のも自由に使っていいので、と言付け、私達は馬車で商業ギルドへ向かった。
* *
「おはようございます。お世話になっております」
コウタが商業ギルドのカウンターでギルドカードを差し出し、それを受付嬢が確認する。
「はい、コウタ様ですね。本日のご用件は」
「家を、買いたいのです。いい物件があるか知りたくて来ました」
「かしこまりました、では売り物件担当の者を呼んでまいります」
お! イケた!
私達はワクワクしながら不動産担当者を待った。
ややして担当者のおじさんが現れて、いくつかの物件を紹介してくれた。
「こちらは元はとある商会の別荘でした。他所に別荘を買い、こちらは現在売りに出されています」
「へえ、会社の保養所みたいな物かな?」
「はい、そしてこちらが没落貴族の元屋敷で〜〜」
没落て、何か縁起悪いな。
「こちらはさる将軍の生家でしたが、王都に立派な邸宅を構えた為に、売却をなさるとの事です」
「大事な生家を売って大丈夫なのでしょうか」
私は不思議に思ったのでつい、そんな事を言った。
「えー、実は将軍様は昔の古い邸宅を売って、自分の騎士団に最新の武具を買い与えたいようだとの噂を、武器商人から聞きました」
え? そんな裏事情が!
「あ、現実的で立派な方なんですね。思い出より今生きてる人を守る為に」
「へー、なる」
「最新武具は大事だよな、装備が悪いと最悪死ぬし」
私達は納得した。
そして我々三人は紙に書いてある物件のイラストと間取りと、購入金額を確認して、コウタが代表して口を開いた。
「没落貴族の館以外の、商人の保養所と将軍の生家、この二か所の内見に行きたいのですが」
「かしこまりました」
こういう流れになった。
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