第76話 里親探し
先日は海老フライとケーキを皆で美味しく食べた。
孤児の子供達が美味しいものにがっついて食べるので、誰も取らないから、ゆっくりと味わって食べるようにと宥めるというか、私とコウタは教育に必死だった。
紗耶香ちゃんは放任主義なのか、好きに食べさせればいいんじゃね? って感じだったけど、犬食いは躾がなってないと思われ、印象が悪くなると思うんだよね。
* *
翌朝。
私は朝食後に、おもむろに店名のお話を切り出した。
「便宜上、よろず屋って言ってたけど、店の名前もそろそろきちんと考えない?」
「サヤも貴族にオシャレなレースまで卸すのに、ずっとそれでいいのかとは思ってた」
「俺にネーミングセンスは無いから何か考えてくれたらありがたいんだが」
私は逃げようとしたコウタの退路を断つように言った。
「三人とも、候補を一個、紙に書いて、シャッフルしてから開封後、全て見て、多数決で決めよう」
「一つ考えて紙に書くのか━━━━分かった」
私は同じサイズに切った紙とペンを渡した。
五分後に、紙を集めて開封。
「サコカ」
「シャトゥレ」鍵付きの小さな宝箱 (ドイツ語)
「フルリール」草木が咲く (フランス語)
「このサコカってコウタでしょ? 三人の名前の頭文字取っただけの」
「だからネーミングセンス無いって言ったろ! バラすなよ〜〜!
匿名の意味が無い〜〜!」
コウタは顔を赤くして叫んだ。
「コウタ、ごめ〜ん、突っ込まずにいられなかった」
「それならコカサでもよかったんじゃ?」
「コが最初に来ると小さく終わるかもって気になる、響き的に、カコサでも過去って感じになるし、カサコもなんかお地蔵さんを連想するし……」
「ふーん、なるほどね〜〜」
「もう、頼むからシャトゥレかフルリールにしてくれ! 俺はその二つならどっちでもいい!」
コウタはそう叫んで毛布を頭から被って顔を隠し、床に転がった。
そんなに恥ずかしかったのか……。
「えーと、じゃあ、アミダクジにしよ」
紗耶香ちゃんの提案のる事にし、アミダくじを紙に書いて作った。
「で、誰がこのアミダやるかってとこだけど、コウタ〜? もう二択だし、アミダで決めるからさ」
「俺はいやだ、もうアミダで選ぶのもライに頼んでくれ」
ライ君はコウタの隣に静かに座っていた。
「じゃあ代打でライ君、この線が道になるんだけど、どっちかを選んで」
「ホントに俺でイイのデスか?」
「うん」
「じゃあ、コッチを」
ライ君が選んだ線を、私が指でなぞっていき、折り返した紙を開くと……。
「……はい、フルリールに決定! 紗耶香ちゃん、おめでとう!」
「やった〜!!」
「カナデはドイツ語の方かよ〜〜」
コウタはむくりと起き出して余計な事を言った。
「うるさい! ドイツ語はかっこいいから!」
「ハイハイ、ドイツ語はかっこいいよな〜〜」
「二人とも仲良いね〜〜」
「「よくない!!」」
「え〜〜、その被りっぷりで〜〜? ウケるんだけど〜〜」
コウタとセリフがハモってしまって紗耶香ちゃんに笑われた。
「近所に走り込みに行って来る! 店の方は二人に任せた! 馬車と御者のライは置いて行く!」
コウタはガバリと起きて、逃げるようにさっさと出かけた。
あいつ〜〜!
「あ、紗耶香ちゃん! 飛ばしてた伝書鳥のバニラが戻って来たよ〜〜!」
「うん! ……やったね! ソフィアナ様、またレースを買ってくれるっぽい」
「じゃあライ君借りて、三人で売りに行こうか〜、コウタはさっさと走りに行ってしまったし」
「りょ」
「子供達〜〜、お弁当はバスケットに詰めておいたから、教会の日曜学校でしっかりと勉強しておいでね〜〜」
「「はーい!」」
子供達を日曜学校に送り出してから、私と紗耶香ちゃんはライ君の御者で、伯爵邸に向かった。
ソフィアナ様にレースを売って、タオルも売り込んで来た。
ふわふわの心地良いタオルはまたずいぶんと高評価でお買い上げいただいた。
* *
走り込みから帰って来ていたコウタは、銭湯に寄って来たみたいだった。
里親探しの情報収集にも余念がない。
「男の子達の里親の件、今度、農家と職人の家だけど、里親トライアルで二週間ほど預かって貰う」
「そう、ちょっと寂しくなるけど、あったかい家庭だといいね」
「ああ」
「ねー、どうする? 手土産でも持って行かせる?」
紗耶香ちゃんが手土産を提案して来た。これが女子力か。
「えっと、粗品? タオル?」
「引っ越しの挨拶かよ。それにこっちじゃ、このタオルはふわふわで高級品レベルだよ」
「そう言えばそうだわ」
「菓子折りでいいんじゃね。お茶の時間に一緒に美味しいパイでも食べてもらえば」
「よし、かぼちゃのパイでも作って持たそう」
「りょ」
「オッケー」
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