第77話 秘密基地と濃霧の森

「あのねー、バスケットの中に食べ物いっぱいあって嬉しかった」


 子供達が瞳をキラキラとさせつつ話しかけて来た。

 日曜学校のお勉強の時にお弁当を持って行ったので、それが嬉しかった報告らしい。



「サンドイッチ美味しかった! 唐揚げも」

「ハムとチーズはさんだのと〜、卵のと、なんか魚の」

「ハムチーズレタスサンドと卵サンドと、魚のはツナサンドよ」



 私はお弁当の中身の名前を子供達に教えた。


 おや、紗耶香ちゃんが他の男の子と話をしている。

 聞き耳を立ててみよう。



「森の浅いとこに小屋?」

「薬草取りに行く子供が使う秘密基地があるんだ! 

そのうち家が別れても、寂しくなったらそこで皆で会おうって話した」


「そうなんだ〜〜、でも浅くても、森には気をつけるんだよ、魔物や蛇が出るかもだしぃ」

「わかってる〜〜」


 子供達の秘密基地か、一度森に行って本物を見てこよう。

 そんな事を考えてる最中、ちょうど目の前に馬のお世話が終わったらしいコウタとライ君が通りかかった。


「あ、コウタ!」

「なんだ? カナデ」


「ソフィアナ様が今度、狩猟大会に参加されるらしいのだけど、お外で食べる時用のお弁当を作ってくれないかって、依頼が来ているの。

ついでに狩りにも参加出来るから、狩りで修行しつつお金も稼げる一石二鳥かと」


「なるほど、いいんじゃないか」

「受けていいなら、今度の森の修行の後に伝書鳥にOKの返事持って行かせるよ」

「俺は良いよ」

「でも狩猟大会には貴族がいっぱいいるけど良いのね?」



 私は念を押した。怖い貴族もいるかもしれないから。



「貴族の使う魔法や剣捌きも勉強になるかもしれないから、弁当屋としてどさくさに紛れて行くのは悪くない気がする。まあ、俺は狩りもしたいが」


「分かった、じゃあ紗耶香ちゃんも狩猟大会の令嬢のドレスが見たいって言ってたから、OKって手紙を今度出すね」



 翌日。



 本日は子供達にかぼちゃのパイを持たせて里子トライアルに向かわせた。


 お前が来たせいで食い物が減る〜! と元々いる兄弟などの不満を減らす為だ。

 両親の愛情を奪われるとか、心配する子供もいるだろう。

 別に子供が一人もいない家に送り出す訳でも無いようだし。

 どうにか仲良くやって行けるといいな。



 子供達を送り出した後、居間でゴソゴソする私に紗耶香ちゃんが話しかけてきた。



「カナデっち、箱に何を詰めてんの?」

「腹痛の時の薬草、頭痛の時の薬草、切り傷の時の薬草、風邪予防の生姜湯、そういう物を詰めているの」

「あーね、常備薬?」


「うん、そう」

「5個……箱が多いけど」

「この家を出る時に、子供達全員に持たせるから」

「ああ、なる〜」


「サヤがお金出すから喉飴入れてあげて、美味しい系と美味しくは無いけど利き目が顕著なのと二種」



 私は頷いた。

 子供に優しいギャルだ!



「ふふ、美味しい場合、きっとすぐ食べちゃうわね」

「だから美味しくないのも混ぜておくんだよ〜〜」




 * *

 

 男の子供達を里親トライアルに出してる最中に私達は森で修行。

 クリスだけはまだ女の子を求める人がいなかったので、赤星の食堂のおばさんのとこに預けて来た。



 森に到着した。


 早速森の浅い場所で例の秘密基地を見つけた。

 すぐに見つかるから秘密の意味はよく分からないが。

 元は木こりの道具置き場のようだった。



 近くには確かに春から秋までは薬草摘みの子達がいた気がする。


 ついでなんでそこを通りかかった人に秘密基地について聞いてみた。



 証言その1。


「念の為にここを通りかかる時は魔物避けの祈祷をしているんです」


 優しいクレリックの女性だった。



 証言その2。


「念の為、ここを通りかかる時は聖水をかけてる。

薬草摘みの子供達がここで休んでいるの見た事あるから」


 優しい冒険者の男性ラウルさん

 本日はマジで約束もしてないのに偶然会った。


 私達はタオル代わりの布と毛布と包帯とクッションを木箱に詰めて秘密基地に差し入れをしておいた。


「床にビニールシート敷きたいし、箱も本当はプラスチックみたいに雨に強いの使いてえ」

「私も思ったけど、オーバーテクノロジーだよ」

「だよなあ」



 秘密基地の次に修行の為に森の奥に行った。

 また森をうろついていたら偶然会ったラウルさんも一緒に。

 奥に行くなら危険があるからって。マジで親切。



「霧が出て来たな」

「うわーガスってる〜〜! 視界最悪なんですけど〜〜!」

「これは……なんかのゲームみたいに凄い濃霧」


「ここら辺、近くに沼があるぞ」


 ラウルさんがそんな情報をくれた所に、ライ君が急に口を開いた。


「何か来マス!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る