第74話 不思議な老人の正体は
「どうぞ、卵酒です」
私は暖炉の前で温まってもらっている老人に温かい飲み物を勧めた。
「ありがとう、お嬢さん」
「風邪には卵酒って古風だな、生姜湯の方が良くないか?」
「まず、風邪かどうかも分からないけど、顔色悪かったから」
私は昔話の旅人の姿をした神様のお話を思い出していた。
一夜の宿をと求める老人に、冷たくあしらって追い返すと、実は神様だったので、後で酷い目に遭うといった話だったと思う。
それほど、不思議な雰囲気のある老人だったから。
神様ってお酒好きだし、勘違いだったら、家に入れるのは、ずいぶんと少し不用心かもだけど、もしもの時はライ君がいるし。
実はどこぞのお偉いさんってパターンもある。
貧しい老人のふりして実は皇帝とか。
どこの皇帝だよって話になるけど。
「ぴったりの着替えが無くてすみません、とりあえず毛布に包まって下さい」
コウタが自分の着替えと毛布を持って来た。
「あーね、フリーサイズの寝巻きとか予備のシーツと毛布は多めにいるね〜〜」
紗耶香ちゃんが簡単に食べられるサンドイッチを持って来て、老人の前にトレイごと置いた。
「どぞ」
「あ、ありがとうございます。ご親切に」
老人が雨に濡れた服を着替えるだろうから、私達はその場を後にした。
*
私達はコウタとライ君の部屋に集まった。
「あのおじいさん、素性が分からないけど、邪険にも出来ないから家にあげたけど、ライ君、後で同じ部屋であの人見ててくれる?
徹夜はする必要ないから、なんとなくでいいわ」
金目の物はアイテムボックス内だし。
「ハイ、分かりまシタ」
「顔色悪いし、具合悪いならフツーは病院じゃないの?」
紗耶香ちゃんがベッドに腰掛けながら言った。
そこはコウタのベッドでは?
別にいいけど、可愛いギャルが自分のベッドにとか、通常で二人きりならときめきイベントだぞ。
私はちらっと平然とした顔のコウタを見ながら口を開く。
「普通はそうよ、だから違和感あるのよ」
「昔、ここの食堂の常連だったから頼ったけど、金が無くて医者にかかれないとか?」
コウタの想像、私も一瞬考えたけど、
「昔ここに通ってたなんて一言も言ってないよ、あのおじいさん」
「うーん、意味わかんね」
コウタはやはりいたって普通の様子で、反対側の……おそらくライ君のベッドに二人並んで座っている。
「ね、旅人に扮装して宿を借りたり、食べ物や水を下さいって言って来る神様の話知ってる?」
「動画サイトの昔話系アニメで見た事はあるが、まさかカナデ、あの人が神様だと思ってるのか?」
「よく分からないけど、不思議な感じがするんだもん」
「えー、あのおじいちゃん、神様だったらどうする?」
「どうもこうも、冷たくせずになるべく親切にするしかないな」
「アタシらは──、着替え渡して、温かい飲み物とサンドイッチのサービスをしたのでセーフ?」
「た、多分。具合悪そうな人に消化の悪そうな豪華な食事は出せないし」
結局、暖炉のある居間に老人を泊めた。
ライ君に同室で一晩見てもらったけど、不審な動きは無かったそうだ。
朝食に温かいうどんを出した。具はネギととろろ昆布。
箸は無理かもしれないので、食器はフォークとマグカップだ。
「お若い方々、ありがとうございました、お世話になりました。
これはお礼です」
老人は乾かした外套から何故か鳥を3羽出した。
「マジシャン!?」
コウタが驚きの声を上げた。
「え!? これシマエナガ!? ちょーかわいいんですけど!」
何故か北海道のシマエナガそっくりの白くて丸っこい鳥が外套から出て来て、私とコウタと紗耶香ちゃんの肩にとまった。
「フワリと言う妖精です。手紙を届けてくれますよ。
では、失礼、美味しい飲み物と食事と毛布と着替え、ありがとうございました」
自分の着ていた元の服に着替えた老人はすっかり元気になって、どこぞへ帰って行った。
ピロン! この場にそぐわぬ電子音が脳内に響いた。
「ねえ、今、脳内に音が」
「ああ、ステータスオープン!」
コウタがすぐにステータスを開いた、私達も開いた。
ウインドウに大きく表示された文字には、こうあった。
【突発クエスト】「神の遣いの訪問」クリア! 【発生条件: ある程度の善行をする】
クリア報酬、伝書鳥3羽ゲット。
一部に特別スキルとショップに新カテゴリー解放。
なんとコウタのショップに雑貨と布が解放!
紗耶香ちゃんに魔法使いのスキルの水魔法追加!
私にはクレリックの回復魔法追加!
「嘘だろ! 職人に頼んで竹小物作ってる時に雑貨が解放された!
ショップ内にコップも弁当箱もレースもあるんだが!?」
「アタシ、水魔法貰った! サンドイッチで! ラッキー!!」
「ほら、やっぱり神様系! 神様の遣いだったじゃん! びっくり〜〜!」
「びっくりどころじゃない、邪険に追い返すような真似しなくて良かった!
ところで布系が貰えるなら水木さんだと思ってたのに」
「コータ君が自分の着替えのシャツとズボンを貸したからじゃない?」
服が布だから!?
「じゃあサンドイッチで水魔法貰えるのなんで?」
「わかんない、レタスを水で洗ったせい? それかアタシの苗字のせい?」
「「水木……」」
「でも贅沢を言えば、水魔法より、火魔法とかのが強かったのでは?」
「でも紗耶香ちゃんの水と私の雷を合わせたら、敵に広範囲の感電攻撃できそうよ」
「ああ! なるほど〜〜!」
「俺も贅沢だけど魔法系スキルが欲しかったなあ」
「でもレース買えるし、お金稼げるよ。蓋付きの器まで買えるから、超便利だよ〜」
紗耶香ちゃんはコウタを励ました。
「まあ、資金繰りはしやすくなったな」
「コウタ! 今度私に画材買って〜〜、水彩絵の具と水彩紙でいいから、あと、筆とか」
「分かった、分かった」
思わぬ神様からの贈り物に大騒ぎした私達だった。
突然こんなクエストあるんだ。
びっくりした。
「ところでこのラブリーな鳥の餌は!?」
紗耶香ちゃんがハッとした顔で言った。
「餌は愛情のみでいいって書いてあるよ! 流石妖精! 不思議!」
ステータス画面の伝書鳥のとこに、そう書いてあった。
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