第73話 不思議な老人

「本格的な冬前になんとか小屋が完成したわね」


 完成したばかりの小屋を見てる私と紗耶香ちゃんとコウタ。


「二段ベッドもできたね、おめ〜〜」


 紗耶香ちゃんがおめでとうと言っても、ここで寝る予定の子供達は今、竹の食器を作ってる職人の所に見学に行っている。


「里親探しの方はどう?」

「もちろんやってる。まともな親を選ぶ為に慎重にな」

「そうだね、まずはトライアル期間を設けてその家に合うかちゃんと調べて虐める家族とかいないか調べないと」


「ああ、猫の里親探しでもトライアル期間ってあったな、そういえば。

農家から一人男の子が欲しいって来てるが、やっぱり働き手が欲しいんだろうな」


「そうさのう、でも時代的にもそれは普通でしょ。

仕事の手伝いして欲しいと思われてても、行った先で可愛がられないとは限らないわ。

某赤毛の三つ編みの少女のように」

「そうさのう……あそこ使用人にもちゃんとお茶の時間におやつも出してくれるんだよな」


「女の子のクリスちゃんには里親見つかるまでに私が膨らんだ袖の服を贈ってもいいわ」

「じゃあサヤは靴と、教会に通う時用の帽子とバスケットをあげよかな〜〜」


 小屋から出たら、冷たい風が吹いた。

 寒っ。


「あ〜〜ヒートテック欲しい〜〜」


 何故ならば、本格的な冬が怖いから〜〜。


「マジであっちの衣料品も買わせて欲しいよね〜〜」

「まあ、無いものねだりしててもな、子供達もそろそろ帰ってくる時間だ」

「ご飯、ご飯」

「あ、今日のご飯は何〜〜?」


 メニューは大抵食材仕入れ担当の私が決めてる。


「ビーフシチューだよ〜〜」

「やった〜〜! 肉だ〜〜!」


 たわいない事で、子供のように喜びを表す紗耶香ちゃんはかわいい。


「あ、帰って来た」


 ライ君の操る馬車が敷地に入って来た。


「ただいま〜〜!」

「ただいま帰りまシタ」

「お帰りなさい」

「みんな、お帰り〜〜!」


「お帰り! お前達男子の寝床が出来たぞ!」

「わーい!」

「やった〜〜!」

「中に入って見てもいい?」

「もちろんいいぞ」


 子供達がわらわらと集まって来て、嬉しそうに小屋を見る。

 二段ベッドに登ったりしてるのを私達は小さな窓から眺めた。

 あんまり広い小屋じゃないから全員入るのキツいのね。


 さて、子供達が新しい自分達の寝床を確かめている間に食事の用意。

 下準備はしてある。


 もうスキルショップで買ったシチューの素を入れて簡単に煮込めばすぐに完成する。

 私達と一緒に母屋で寝る女の子のクリスは小屋を一瞬だけ見て、キッチンに来て口を開いた。


「クリス、お手伝いする」

「ありがとう。じゃあテーブルを布巾で拭いてくれる?」

「うん!」

「サヤは〜〜、応援する〜〜」

「こら〜〜」


 パンを焼いているコウタが笑いながら紗耶香ちゃんを叱るふりをする。


「あはは。嘘でーす。サヤはサラダ作るね〜〜。このツナとコーンとレタスを使っていい?」

「いいよ〜〜」


やがて焼き立てパンのいい香りとビーフシチューの香る素敵な食卓を囲んで、皆で夕食。


「ご飯の後はちゃんと後片付けを手伝うんだぞ」

「「はーい」」


 里子に行った先で愛される子になる為に、ある程度の躾は必要だ。

 子供達は言えばちゃんと皿洗いなどをしてくれる。

 この調子なら、みないい子ですので〜〜と、紹介できるだろう。


 私達はいずれ危険なバジリスクの森へ行くから、その前には皆の里親を見つけてあげたい。

 全員が生きて帰れる保証は無いから……。


 * * *


 日々、修行をしながら、時は過ぎて、冬を迎えた。


 レベルアップ目指して、強くなる為の修行が忙しくて、食堂開店の目処がなかなか立たない、そんな中、ある日突然、一人の老人が食堂の店舗の方に来た。

 私は掃除の最中だった。

 

 そのお爺さんは、顔色は悪く、雨に濡れて震えていた。

 

「申し訳ない、一晩泊めていただけないだろうか?」


 私は明らかに違和感を感じた。

 宿屋に行けばいいのに、何故わざわざまだ開いてもいない食堂へ?


 とはいえ、具合の悪そうな老人を追い出す訳にもいかないし、私は日本にいた頃に見た、とある昔話を思い出していた。

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