第62話 聖なる雷

 何かが接近してくるという、ライ君の言葉に警戒していると、コブラのように鎌首をもたげたデカイ蛇の魔物が現れた。


 キングコブラがアナコンダ並みの大きさになったみたいな最悪の造形。


 素早く動いて蛇に斬りつけるライ君!

 傷は入ったけど、でも致命傷じゃない!


 次に逆側からコウタがショートソードで攻撃! 浅い!


 怖い! 蛇が致命傷を避けようとぶんぶんと蛇体をくねらせ、動く!

 やばい、どう見ても毒持ってるやつ!


 噛まれる前に倒さないと!


 クレリックに何か使える魔法とかは!?

 私は下がってステータス画面を開いた。


 あった!


『いざ降り来たれ! 聖なる雷!』


 天からの雷撃が蛇に直撃した!



「今よ! 一時的にスタンした!」

「ハイ!」

「おう!」


 ライ君が蛇の頭部の真下、首を狙って斬りつけ、次にコウタがトドメとばかりに蛇の頭部から地面に叩きつけるように突き刺した!


 これはクリティカル!



「ええ〜〜、カナデっち、凄い。攻撃呪文あるんだ!?」


「何かステータスをよく見たら裁きの雷っていうのかあった。敵にのみ有効なんだって。

多分無害な人には使えない」


「それはそうだよね、クレリックだしぃ。サヤも攻撃魔法っぽいの欲しいなぁ」

「でも水木さんがそばにいてくれるだけでジャンプ力とか力の能力値は上がってるようだよ。

おかげでヘビも倒せた」


「主、蛇の眼と牙と魔石、取れた」


 ライ君が草に包んでドロップ品を持って来た。



「ライ、ありがとう。蛇の両目が素材になるんだな」

「コウタ、気をつけて、その牙、毒があるんじゃない?」

「ライが草に包んでくれてるから、アイテムボックスにこのまま入れるよ」

「あ、この葉っぱおにぎり包めるやつ」



 ピロロン音がしたのか、コウタがステータス画面を開いた。


「俺も今の戦闘で狩人のレベルもアップした。今日はこの辺で帰ろう」


「「うん!」」


 コウタは木の幹にナイフで矢印を彫っていて、それを目印に帰り道を行く。

 それを見た紗耶香ちゃんが言った。



「サヤさぁ、山菜狩りやキノコ狩りの人が森や山の中で迷子にならないのが不思議なんだよね。コータ君は今みたいに木に目印をつけてるから、まだ分かるんだけど」


 それは私も思う。

 方向音痴的には普通の道でもちゃんと覚えて移動出来る人達は凄いと思う。


「足元に結べるような草があればそれを結んでも目印になるよ。アーチみたいにさ。覚えておけばいい」


「おけ。カチューシャのリボンみたいにすればいいんだよね」

「あー、そうだ、その目印、私も漫画で見たことあったわ」

「草食動物が多そうなとこなら目印が食われる可能性もあるだろうけど」


「じゃあやっぱ木に目印のが安心だね」


 木には申し訳ないけど。


「それはそうなんだけど、もしかしたらナイフや刃物を持たない時も有るかもだし」

「なる〜〜」


「また私、思い出したけど、誘拐されたお嬢さんがネックレスを千切って目印をわざと落としていたのもある。いざという時は真珠のネックレスも犠牲にしてさあ」

「大事なのは要所で躊躇しない事だな」


「ところで、魔法使いになるにはどうしたらいいのかなあ?」


「呪文を唱えるとか?」


 紗耶香ちゃんが魔法の力を求めていたので、私がなんとなく提案すると、コウタが先にその気になった。


「試しに言ってみるか……。ファイアーボール!」


 …………。シーン………。


 コウタはかっこよく呪文を唱えたつもりだったろうけど、何も起きなかった。


「ファイアーボール!」


 今度はコウタを真似て紗耶香ちゃんが叫んだ。

 が、何も起きなかった。


「あー、ダメ、何も起きない〜〜」

「まあ、そう簡単にはいかんか」


「いや、二人とも待って、森の中で火魔法はやばいでしょ、せめて水や土にして」

「あ、それは確かに」

「あはは、ごめーん。てか、じゃあ風魔法ならいい?」

「風は、木や葉を揺らすと虫がいっぱい落ちて来そうで怖いような」


「あ! 確かに森の中だと虫が怖いわ!」


「──だが、待って欲しい、雷も通常は火災の原因なりかねないのでは?」



 コウタがハッとした顔で言った。


「緊急事態でそこまで頭が回らなかった。

でもさっきの聖なる雷は普通の雷と違った気がするんだけど」


「そ、そうだっけ?」

「た、多分……」


 などという行動や雑談をしながら帰った。

 森を抜けた時は心底ホッとした。



 * *


 はー、疲れた。

 森に入る前に馬車を預けた所まで、私達は何とか生きて戻って来れた。


 雷撃とクレリックのジョブはありがたい。

 生存率が上がりそう。

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