第61話 クラスメイト

「倒したスケルトンと蜘蛛カラ魔石が取レマシタ」


 あ、よく小説や漫画で見たやつ。 ドロップ品!



「やったね」



 ライ君が魔物の死体から魔石をゲットしてくれた。



「あ、そういや猪からも取れてたぞ、魔石。茶色であんまり綺麗じゃ無いけど」

「魔石はセオリー通りならギルドで買い取ってくれるやつ?」


「ああ。沢山溜まったら交換に行こう。……おっと、毒消し草も発見した」


 コウタは話をしつつも鑑定眼で周囲を見渡し、薬草を発見したようだ。



「じゃ、いっぱい採っておこう。バジリスクの森で何があるか分からないし」



 私はそう言ってしゃがみこみ、コウタが指差す草を採取した。



「りょ」

「そうだな」


 しばらく採取してると、女性の悲鳴が聞こえた。



「他の冒険者かな? 今悲鳴が聞こえたよね」


 私は悲鳴が聞こえた方向を見た。でも深い森でよく分からない。



「助ケニ行きマスか?」

「とりあえず行ってみようか……」

「カナデ、どう考えても実力的に危なそうだったら、見捨てて逃げる覚悟も必要だぞ」



 コウタの最優先事項は両親救出だし、その言い分も分かる。


「わかってる。私も無理はしないよ」

「今の仲間の命が最優先だ」

「サヤもそう思う。相手が善人とは限らないし」


 その辺は我々三人はわりとクールな人間だった。

 ライ君の背中を追って、その後について行く我々。


「見ツケタ」


 ライ君の足が止まった。


「ちょっと! やだ! 離してったら! こんな所で正気なの!?」


 えっと、襲われてるのは、女の子で、その子に馬乗りになってるのは、男だ。


 人間! どっちも人間だ。

 婦女暴行!?


「やめなよ、こんないつ魔物が出るかわかんないとこで、馬鹿な事するの」


 紗耶香ちゃんがクールに言った。その手には槍を持っている。

 私はナタを装備している。


「なッ! うるせぇ関係無い! って、お前ら!」

「あ! アンタ達っ! 後藤と坂下さん! どっちも元クラスメイトじゃん!」


 紗耶香ちゃんの言葉に後藤が目を見開いて叫んだ。


「お前ら! 生きていたのか!」


 それはこっちのセリフだよ。

 二人とも体を起こし、身だしなみをささっと整えてた。

 冒険者風の服というか、村人の服にボロいマントと籠手がついてるような服装だった。

 地面には古びた剣が2本あった。彼等の武器なんだろう。


「なんだ、痴話喧嘩だったか」


 このクラスメイトの二人は確か彼氏彼女として付き合っていたので、コウタは気が抜けたような声を出した。


「あんた達、今までどうやってここに来たの!? 

修学旅行のバスにいなかったのに!」


「知らん、俺達三人はコンビニ出たらいきなりこっちも異世界の山の中だった」



 コウタは雑に説明したけど、紗耶香ちゃんは占い師さんの情報を少し話した。



「多分だけど、勇者召喚の魔力の余波で巻き添えで時空の歪みに落ちたっぽい」

「とにかくこいつらは魔物に襲われてたんじゃ無かったし、俺達はもう行こう」


 コウタがそう言って去ろうとした時、後藤が品の無い笑顔を浮かべ、すがろうとして来た。


「ま、待てよ、お前達、会ったばかりじゃん! そーだ! 何か食べ物持ってないか!?」



 無いこともないけど、こんな所で女押し倒すクズには渡したく無いな。

 でも、飴くらいならいいか。



「修学旅行用で持って来た喉飴しかないけど、あげる」


 嘘だけど! 

 他にも持ってるし、飴はスキルでいつぞや買った残りだけど!


 私は手切れ金を渡すかのように飴を三つポケットから出して二人の方に投げた。


 二人は慌てて飴をキャッチ。

 一個は地面に落ちたので坂下さんが拾った。


「じゃあね」

「ねえ、待って! 私らと一緒に行動しない!?」


 坂下さんがこれ幸いとばかりに声をかけて来たけど、無理。

 この二人怖い。


「あー、こんな所で女の子押し倒すヤバ男と一緒はちょっと無理かな。

ごめん」


 紗耶香ちゃんもキッパリ断った。



「治安が乱れる。悪いがそっちはそっちで頑張ってくれ」

「なんだよ! クラスメイトなのに冷てーな!」


「俺達は石化と死の危険があるバジリスクの森に行くから」

「はあ!? 何でわざわざそんな所に行くんだよ!? 正気か!?」

「どうしても助けたい人がいるから、仕方ない」


「馬鹿かよ……」

「えー、信じらんない〜〜」


 私からちゃっかり飴は受け取りつつもそんな反応。

 まあ、分からないでもないけど、気をつけてねの一言もないし、放っておこう。



 私達は二人を置いてさらに森の奥へ行く事にした。

 まだ修行を続けないと。



「それにしてもよくこの伯爵領まで来れたね、あの二人」


 私は素朴な疑問を口にした。


「そうだな、船にでも乗って来たのかな? あいつらと長く話していたくないから、俺も疑問はあってもほっといた」


「あの二人、あんまり好きなタイプじゃ無いもんね……」



 和を乱すと私の直感が告げている。


「虫とかいそうな地べたに押し倒すとか、あいつどうにかしてる。

一体どこでサカってんの〜〜ありえん」



 目の前の生い茂る植物を槍で払い除けながら悪態をつく紗耶香ちゃん。


「命の危機を感じる状況で、子孫を残したくなる本能と言われても認めたくない感じするよね」


 せめて宿や室内でやれ。


「あいつらこの辺で暮らしてんのかな?」


「アタシらのスキル知られたら、たかられる気しかしないし、二度と会いたく無いけどぉ、どうだろうね〜〜」

「それどころか、あの二人のスキルもどんなのか分からないから、用心するに越した事はないわ」

「そういや、アタシ、相手のスキルの事は忘れてた」


「集団転移作品も私いくつか読んだ事あるけど、一番嫌で怖いのが、相手のスキルを強奪出来るスキルとかあったやつ。考え過ぎかもだけど」


「うわ、怖〜〜。そんなスキル持ちいたら嫌だネ」

「俺はもう何一つ失いたくねえ」

「それはそうだね」


「シッ、静かニ、何かの気配がシマス」



 ライ君の言葉に私はザワっと鳥肌が立った。

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