第56話 コウタの両親

 翌日、仕事終わりにコウタとライ君が公衆浴場に行くと言うので、私達も久しぶりに行く事にした。


 情報収集も必要だものね。


 ひととおり体を洗って、ゆっくり湯に浸かる私と紗耶香ちゃんは、同じようにマッタリ中にしている世間話に混ざっていた。


「え? よく当たる占い師がこの領地に来てるんですか?」

「マ? 興味ある〜〜」


「そうなの、うちの娘の結婚相手に相応しい、いい人はどこかにいないかって占って貰ったら、良縁が見つかったのよ」


「でも見て貰うの、だいぶんお高いのでしょう?」


 思わずTV販売のCMみたいなセリフで聞き返す私。


「それほどでも無いわ、貴族みたいに持ってる人からは結構貰うみたいだけど、平民相手ならちゃんとそれなりよ?」

「へえ、良心的なんだぁ」


「その占い師の名前は? 正確にはどこにいるんですか? お宿?」

「名前はアヤナよ。

日中はしばらく公園で占いの店を出しているって話よ、しばらくしたら移動しちゃうから行くなら早めがいいわ。夜は宿にいると思うけど」


「アヤナさんですか、ありがとうございます」



 アヤナ……まるで日本人みたいな名前の響きだけど、気のせいかな?

私達みたいに、他にも異世界に転移してる人っているのかな?




 お風呂から出て、コウタ達と合流した。



「お前達も占い師の噂を聞いたのか」

「そうよ、それで、明日は占い師のお店がある公園に行きたいと思ってるの」



 私はそう言ったのだけど、コウタは首を振った。



「俺は明日まで待てないから、赤星亭に今から行きたい」

「え!? そんなに占い好きだったの?」


 てか、占い師の宿は赤星亭なのか。


「俺が聞いた噂は占い師の事だけじゃない、よその国の王様が、魔王を倒して欲しくて、たまに勇者召喚をやるらしくてな、その勇者は異世界から呼び寄せるんだと」



 なんですって! ラノベや漫画でよく見るやつ! 

 それにしても、魔王がいる世界だったなんて……そんなお約束いらないのに!


「召喚の儀式の為に沢山の魔力を集めるから、その魔力溜まりで空間に歪みが出来て、たまに異世界から紛れ込む、俺達みたいな巻き込まれる迷い人ってのかがいるらしい」


「ええ……まさか。私達、そのとばっちりでこっちに来たの?」

「そうかもしれない」

「ええ〜、それで勇者は召喚出来たわけ? 全部人違いじゃないでしょうね?」


「30人くらいまとめて呼んでしまったらしいけど、重用されたのは、その中から選ばれし三人らしい」

「選ばれし三人が勇者!?」



 これはすごい話になって来たわ。


「勇者一人、聖女一人、魔法使い一人って話を聞いた」

「他の巻き込まれた人は?」


「いくらか小金をもらって、犯罪を犯さず暮らすなら好きにしろって城から出されたらしい。

でも、他にも一部、見栄えのいい女子は城に残ってメイドになったとか」



 雑! 勝手に呼んでおいて、雑!



「確かに異世界召喚が普通に有る世界なら、聞きたい事はあるね。

元の世界に戻れるのかとか」


「そうだろう? 俺が図書館の出入りが可能になるように、ソフィアナお嬢様に希望したのもそういう情報が気になったのもあるからなんだ。

他にも異世界転移した者がいたのか、帰る手段はあるのかとか」


「確かに赤星亭なら場所も知ってるし、今から行けるね。

じゃあ行ってみよう」


「りょ」

「そういう訳だ、ライ、馬車を赤星亭に向かわせてくれ。

御者台の隣りは俺が座って、道を教える」

「ハイ」


 *


 店に着いて、私は早速食堂にいるおばさんに声をかけた。


「アヤナさんと言う占い師がここに泊まっていると聞いたんですが」

「あら! あんた達! 久しぶりだね、ああ、確かにいるよ! 7号室だ」


「「ありがとうございます」」

「あざまス」



 私達はお礼を言って、三人で二階に続く階段を登った。


 それにしても、客の誰がどこに泊まってるとかいう守秘義務とかはここには無いらしい。

 今回はそれで助かったけど。


 7号室の前に来た。

 コウタは緊張した顔で木製の扉をノックした。


「どうぞ、中に入って」

「「「失礼します」」」


 鍵はかけて無かったのか、来訪を予知していたかのように、私達はすんなりと室内に入れた。


 中には黒髪ロングのワンレンの綺麗な女性がいた。

 日本人っぽい顔をしている。



「どうぞ、その辺で楽にして、私に聞きたい事があるのでしょう?

お代は三人分で銀貨10枚でいいわ」


 ゴクリ、生唾飲んじゃった。とりあえず、私から提案した。


「三人でワリカンにしよう?」

「りょ」

「分かった、まず、誰から聞く? あ、そこにある椅子は二人が使え」


 私と紗耶香ちゃんは、コウタの言うとおり、室内には女性が座っているのとは別に、椅子が二つあったので、借りた。


 コウタは遠慮して壁にもたれて、立っている。



 そして、私はそっと挙手した。

 私から質問してもいいかと、二人の顔を見たら、どちらも無言で頷いてくれた。


「えっと、まず、私、奏から聞きます。

最近よその国で勇者召喚が行われたらしいのをご存知ですか?」


【ええ、知っているわ、私も昔、それの影響に巻き込まれてこちらの世界に来たから】 


 日本語!! この人は日本語で話をしている!


【アヤナさん、では貴女は、日本人なんですね?】

【そうよ、そしてあなた達も、同郷ね】

【も、元の世界に帰る方法は……ありますか?】


 シン……と、一瞬、室内に静寂が訪れた。

 


【……かつて、生きて戻れた人いたという話は聞かないわ。

一方通行らしいの。

あるいは魔王などを、倒せたらなにかの奇跡が起こる可能性はあるけれど】


 ──ダメ……か。

 帰れ……ないのか、やっぱり……。

 紗耶香ちゃんが挙手した。


【あのぉ、召喚された勇者三人がどんな人達か分かりますか?】


 占い師は、テーブルの上の水晶を覗き込んで、しばらくして口を開いた。


【あなた達と同じ学生。修学旅行で空港へバスに向かう途中、バスごと移動したようなの】


【修学旅行!?】


 私達は同様に驚いた。


【私達も修学旅行に行く予定だったんですけど、私達とその人達、関係がありますか?】


【あなた達と同じクラスの人達よ】


 占い師目線は未だ水晶にある。


【な、なんですって!?】


【担任の先生はあなた達がドタキャンしたのかって思い込んでムカついて、いないと言う事を隠して、そのまま旅行に行くことにしたようね】 


【あれからどうなったか、気になっていたけど、出発は出来てたんだ】


【でもバスごと転移して、修学旅行には行けなかったんだ……】

流石の紗耶香ちゃんも呆然とした顔でそう言った。


【ええ、結局、この異世界に来てしまったようね】


 私達のせいで出発出来てなかったら、申し訳ないなって思ってたけど、出来なかった方がマシだったかもしれないとか……想像の斜め上すぎる。



【わ、私の家族は……どうしてますか?】


【奏さんの家族は、心配されています。

忽然と修学旅行バスも消えていますし、ニュースにもなりました。

結局神隠しと言われています、写っていた道路の監視カメラで、暗黒空間に飲まれたと、大騒ぎだったようです】


 それは確かに大騒ぎだ。


【家族……占い師さん、俺の名前は浩太と言います。

俺の両親はある日突然……失踪したんですけど、どこにいるのか、また、生死は分かりますか?】


【今、現在生命活動はしていません】

【……失踪した、原因は、分かりますか?】

【あなた達同様、魔力溜まりから、ヒズミに落っこちて、こちらの世界に来てしまったようです】


 ……!! そ、そんな……。

 親子揃ってそんなことある!?


【な……。じゃあ、俺……は、捨てられた訳じゃなくて、不幸な事故で、両親を失ったと……】



 コウタの顔色が真っ青になって、それから、足元に崩れ落ち、項垂れた。

 紗耶香ちゃんが慌てて駆け寄って、背中をさすってる。



【あ、あの、亡くなっているのなら、コウタの両親のお墓とかはありますか?】 


 せめて、お墓参りでも……。


【墓はありません、コウタ君の両親は、元の世界に戻る方法を探すため、冒険者になったようですが……森で、石になっています】


【石に!? どういう意味ですか!?】


 コウタが顔を上げて占い師さんに問うた。


【バジリスクの出る森で、石化させられています】


 な……っ!? あの伝説の!? コカトリスと同じようなものと言われてる、あの、ファンタジー生物!?


【も、元に戻す方法は?】

【無いことも無いですが、危険が伴います】


【教えて下さい!!】



 コウタは必死の形相で叫んだ。



【とあるダンジョンにある、聖なる祈りの泉の聖水であれば……】

【そのダンジョンの名前は!?】


【サーフェルドです】

【……ありがとうございます】


 コウタは震える手でポケットからスマホを取り出し、小さくサーフェルドと呟いているから……メモ機能でメモをしてるみたい。


【沙也加ちゃん、自分の家族のこと聞かなくていいの?】

【カナデっち、うちは放置系だから……さ】


 そう言って沙也加ちゃんは悲しげな顔をしたので、それ以上は突っ込めなかった。



「それより、アタシ、こっちで結婚とか出来ますか!? 

良い人どっかにいますか? イケメンで優しい人!」


 こっちの言語に戻したようだ。ずっと日本語じゃライ君が意味不明になるもんね。


「います。貴女は綺麗なので、引く手あまたよ。死にさえしなければ」


「し、死ぬ!? サヤ、死ぬの!?」

「死は確定されている訳ではありませんが、ダンジョンもバジリスクの森も危険が伴います」


「ダンジョンと森へは俺とライで行くから、お前達は……」


「待ってまって! レベルを上げて一緒に行こうよ! 

頭数は多いほうが良いでしょ?」


「せっかく家と店が持てたばかりだぞ。

俺の家族の事で、お前達まで危険に突っ込む事はない」



「……水くさいじゃん。ここまで来て」

「……でも。お前達……別に強くないから、とにかく後方支援で金稼いでくれてた方が、こっちも安心だし……」


「「うっ!!」」


 私と沙也加ちゃんは顔を見合わせ、途方に暮れた。


 確かに、私達は死体ごときにビビるチキンでさ!

 今のところは強くはないけど!


「ライ君はそれでいい訳? コウタは両親の為に、危険な森やダンジョンに行きたいそうなのだけど」

「オレハ、主を守ル。ドコニでも、ついてイク」


 ……。


 決心は硬いようだ。

 会ったばかりなのに忠誠心が高いのは契約のせい?

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