第57話 準備と焦燥。
「アヤナさん、その、バジリスクの出る森の名前を教えてください」
「レギアの森、別名バジリスクの森だから、冒険者ギルドにでも行けば、情報はあると思うわ」
「レギアか……ありがとうございました」
「アヤナさんは旅の占い師さんのようですが、貴方に連絡を取りたい場合、どうすれば良いですか?」
一箇所に留まらないのは、何か理由があるんだろう。
権力者に囲われたくないとか、多分。
「祈るか諦めるかよ。奇跡が起こればまた神様が道が交わるように結びつけてくれるでしょう」
「メールが送れない世界って本当に不便ですね……」
そう言ってコウタはため息をついた。
それでも突然時間外に訪ねて来てすみませんと、お詫びにチョコとアイスでもあげてとコウタから耳打ちされたので、私はちょっとトイレと言って、一瞬外に出て、スキルで購入したチョコとアイスを謝礼の銀貨とは別に渡した。
「え!? チョコとアイスクリーム!? あ、ありがとう」
これには占い師さんもびっくりしてる。
私のスキルまでは見通してなかったようだ。
「これ、私達の家の住所と、よく出店してる市場の住所を書いたメモです。
冬は自宅の店舗で営業予定でしたが、レベル上げをするかもです」
私は住所を書いた紙も追加で渡した。
「あ、建物外観の写真はこれで〜〜」
紗耶香ちゃんがそう言いながら自分のスマホを取り出し、写真で家の写真を見せた。
「ところでさっきから、携帯……いえ、貴方達の端末はちゃんと動いてるのね?」
「電波は当然ないんですけどぉ、コータ君が災害時にも活躍するソーラーパワー充電器持って来てて、ソレたまに借りて、使える機能だけ使ってるんで」
「なるほど……」
* *
私達は占い師さんにお礼を言って、宿を出た。
「占い師さんがまた連絡取りたくなるようにチョコとアイス渡すなんて、コウタも策士だねえ」
私はコウタの策士ぶりに感心して言ったんだけど、
「そもそも公園で店やってる時間でもないのに急に宿まで突撃したから、お詫びだよ」
「あれ? そうだったの」
本人そこまで考えて無かったのか。
「それにしても、冬は店やるつもりでレベルアップって言ってたが、そっちは俺達で頑張るから、お前達は無理するなよ」
「そもそも私達も自衛の為に、そこそこ強くなりたいとは思っているし、短期間でどれほどやれるかはわからないけど、一人で思い詰めて先走りしないでよ?」
「そうだよ、二重遭難みたいにぃ〜〜、被害者増えたら洒落にならないし」
私達はなんとかコウタを宥めようとした。
「まあ、お前達の成長次第だな」
「コウタったら、憎たらしい言い方してぇ〜〜。自分は猛者のつもりなの?」
「ごめん……」
素直に謝ったから許す。
許すけど、心配だな……。
コウタは家に帰って釘に金槌、ノコギリ、鍋、フライパン、包丁など、自分が急にいなくなっても私達が困らないように、スキルで予備の金物を買って、倉庫に入れた。
絶対に両親を助けに行きたいって気持ちは分かるので、まだ頼んでもいない物を勝手に購入したのは黙認した。
それは、彼なりの優しさだろうしね。
そして、翌日、コウタは冒険者ギルドに行って、レギアの森ことバジリスクの森と聖なる祈りの泉のある、ダンジョン、サーフェルドの詳しい情報を集めて来た。
ついでにしれっと武器と防具も買って来ていた。
ライ君用のも、買ってた。
まだ12歳くらいの少年だけど、ショートソードと胸当て、籠手。
自分用にはリーチの長い槍。そして剣と腕にベルトで固定する小さめの丸い盾も。
ダンジョン内は狭い場所もあるかもしれないから、槍以外に剣も買ったらしい。
どちらか使わない時はアイテムボックスに入れておけばいい。
ちなみに市場のよろずやの仕事は私と紗耶香ちゃんでどうにかした。
*
家に帰って、私はキッチンで火を起こす。
夕食は店で出したのと同じ串焼きと、おにぎりだ。
そして追加で汁物を用意する為に、お湯を沸かすのだ。
「ねー、汁物はお味噌汁でいいよね?」
「うん、いいよ〜〜」
「食えればなんでもいい」
コウタの食への興味が急激に薄れて来ている……。
朝晩はもうだいぶ、冷え込むようになって来たので、もうじき、冬が来るなぁと、実感しつつ、私はお味噌汁を作った。
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