第40話 お祭りデート

「銭湯で会った爺さんに商人さんの家を出て引っ越すって断ったよ」

「そう」

「おつ〜〜」


 コウタの言葉を聞いてから、、私達は不動産を預かる人にもお金を払って権利書を得た。

 権利書を貰う時にはリックさんも同席して貰い、鑑定眼で権利書が本物かも確かめた。


 荷物は全てアイテムボックスに入るから私達の引っ越しは身一つで行けた。

 簡単に掃除をして、明日の日曜に相当する日はいよいよ秋のお祭り。


 引っ越し先に移動する時にも道中の店先などにはかぼちゃが飾られていて、まるでハロウィンだった。

 多分実りを祝う収穫祭なんだろうけど。



  * *



「紗耶香ちゃん、私の口紅、おかしくない?」



 お化粧が似合ってないのでは? と、不安になって聞いた。

 買ったばかりで下ろしたての綺麗目ワンピースも着た。

 万が一の貴族対応用に買った物だけど、今日はデートで特別な日だからいいよね。


「大丈夫、かわたんだよ」

「ありがとう、鞄にクリアハーブのブレスケアヨシ! 財布ヨシ!」



 荷物の最終点検を終えた。



「行ってら! 頑張って! サヤはコータ君と祭りをテキトーにぶらついてるから」

「カナデ、人が多いだろうが、迷子になるんじゃないぞ」


「はーい!」



 以前と家が変わったので、ラウルさんとの待ち合わせ場所はいつもの市場の噴水前にした。



「お待たせしましたか?」


 私、15分は前に着くように出たのに、ラウルさんは先に着いてた!



「いや、俺も今来た所だ。祭りの本会場は神殿の近くだから、移動するぞ」

「はい」



 大中小の沢山のかぼちゃや麦の穂が飾られたお祭り会場に到着した。

 お祭り会場は賑やかな音楽が流れていて、楽師が結構な数いるのが見てとれた。


 人も多い!

 カップルも多い!


 露店もいっぱい並んでいる。

 会場の中心には豊穣の女神のような像があって、その近くでは音楽に合わせてダンスをしている人達もいる。


 

 ラウルさんはダンスには興味が無いようで、露天を見渡してから言った。


「たまにはよその串焼きを買ってみるか? それとも甘い物にするか」

「あ、かぼちゃのパイがあります! あれにしましょう!」


 串焼きも好きだけど、同じ被りつくならパイの方が可愛いと思ったので。


「分かった」

「パンプキンパイとミートパイを一つずつくれ」

「あいよ」


 ラウルさんがさっそく店の人にパイを二つ注文した。

 小ぶりのパイのサイズは四分の一カットだ。

 このくらいなら余裕で食べ切れる。


「あ、お金」

「ここは俺が出すから」


 私が慌てて鞄からお財布を出そうとしたら、なんと奢ってくれるらしい。

 こちらの世界でもデートは男性がお金出してくれることが多いのかな?


 ここで固辞すると男性側のメンツが立たない気がしたので、大人しく好意を受け入れよう。


「ありがとうございます」


 油紙に包まれたパイを温かいうちに食べた。

 まだ温もりの残るパンプキンパイは美味しかった。

 ラウルさんはミートパイを食べた。


 「あ、輪投げだ」


 丸い輪を商品に引っかけたらそれが貰える日本の縁日で見たようなのがこちらにもあった。


「やってみるか?」

「はい」

「何かの木彫りの像と焼き物っぽい像が有りますね」



 台の上に色んな像がずらりと並んでいる。



「あれが商売の神の像で、あれが狩人の神の像、あの女神像は豊穣の女神」



 神様の像を輪投げでゲットしても良いのか!?

 まあ、でも、せっかくだし、狙ってみようかな。



「商売繁盛のためにあの商売の神様の像か強くなれるように狩人の神様の像を狙ってみようかな」

「おう、良いんじゃないか」


「商売繁盛、商売繁盛、とうっ!!」



 入った!! 投げた輪は木彫りの商人の神像にスポッと引っかけ成功!



「はい、お嬢ちゃん、おめでとう〜〜!」



 店の人に景品の像を貰った! 

 私はそれを鞄に入れるふりしてアイテムボックスに入れた。



「じゃあ狩人の神像の方はどうする? 代わりに取ってやろうか?」

「いえ、そっちも自分で!」



 その方が御利益が有りそうなので!



「そうか、頑張れ」



 ラウルさんの声援を受けて、いざ!



「レベルアップ! レベルアップ! とうっ!」


 入った! 木彫りの狩人の神像もゲットした!


「お、またまた成功だな、上手じゃないか」


 えへへ! やったわ! そのうちレベルアップ出来そう!



「か〜〜っ、また持っていかれたか、おめでとうお嬢ちゃん」



 また持っていかれたと言いつつも店のおじさんは笑顔だ。

 おめでたいお祭りだもんね。



「次は雑貨屋さんを見ても良いですか?」

「ああ」

「あ、キャンドルホルダーだ、かわいい!」



 キャンドルホルダーに色んな絵が描かれていてかわいい。

 図柄が麦の穂と猫のやつが特に目を惹いた。


 日本でもクリスマスのイベントでこういうの見たなあ。



「買うか?」

「うーん、あんまり散財すると仲間に呆れられそうなので、今回は諦めます」

「そうか」


「あ、ヒヨコ売ってる! 雌がいたら欲しいな」

「あれ全部雄だぞ」

「やっぱりそうですか、そんな気はしました……皆、卵産む方が良いですよね。こんなとこで安売りされるのは雄……」


「雄も育てば食えるぞ」



 う!! それは確かに!



「いやあ〜〜、うん、今度にします。

そう言えば鶏小屋の準備もありませんし」



 笑って誤魔化した。まだ鶏をシメル覚悟がない。



「あ、コウタと紗耶香ちゃんが踊ってる!」

「本当だ、あいつらもいたな」



 しばらくしてダンスパーティーの場所に戻って来たら、なんとコウタと紗耶香ちゃんが一緒に手を取って踊ってる。

 リズムに乗ってれば、ステップは適当でいいみたい。



「カナデも踊りたいのか?」

「わ、私は別に……」



 ラウルさんの手を、手に触れたいとは思うけど、ダンスは恥ずかしい。



「ほら……」



 って、差し出された、ラウルさんの手──っ!!

 ドキドキしながら手を重ねたら、ダンスをする人の中に誘導された。


 結局めちゃくちゃなステップで踊る羽目になったけど、お祭りだし、わざわざ私に注目する人もいないでしょう!

 いい思い出になります! きっと!

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