第39話 お家探訪

 こちらの世界で金曜日に相当する日になって、私達は午前中にお菓子を売り捌いた。



「デート前にクリアハーブゲット出来て良かった」



 備えあれば憂いなし。



「カナデっち、良かったね! ところで今日は半日営業だったから、これから物件の内見行くんだよね?」


「二人とも準備は良いのか?」

「おけ」

「私も大丈夫」



 いざ、内見へ!

 そして、乗り合い馬車で現地近くまで来て、残りは地図を片手に徒歩移動。

 

「ここだ、到着した」


 そこそこサイズの一軒家に納屋付きだった。


「へー、なかなか綺麗な家じゃない? 

納屋もあるよ。馬を飼ってたのかな?」


「うん、悪くないね」


「ここは、比較的新しい家なんだが、かなり安い物件らしい」


「へー、どうして?」


 掘り出し物? 売主が早くお金欲しいとかかなって、私はコウタに聞いてみたんだけど、


「強盗が入って、家の人が……殺された」


「ヤバ! 事故物件じゃん! 怖!」

「ええ〜〜、いくら安くても殺人事件の起きた家は……だって治安悪いって事でしょ?」

「それでも家の外観、見た目は一番綺麗らしい」



 私達は恐る恐る玄関から中を見たら……



「床に血の痕があるじゃないの! 私、ここは無理……!!」

「マジそれな」



 流石の紗耶香ちゃんも涙目。私も泣いた。

 外観が綺麗でも床が怖いじゃないのよ! よく見たら壁にも飛び散った血痕のような赤黒いシミがある……。



 「南無阿弥陀仏……」



 私は思わず手を合わせてお祈りをした。



 最初の物件は痛みが激しくて雨漏りしそうだったんだよね。

 でも強盗殺人物件はやっぱ無理、怖すぎる。



「そうか、やはり安くても無理か。

じゃあ次でリックさんのツテで聞いた分はラストだ」


「ちょっと移動しながらで良いから、私、体に塩かけるわ」

「サヤにもかけて〜〜」

「じゃあ俺も」


 私はアイテムボックスから塩を出して自分と二人の体にもふりかけた。

 厄祓いだ!

 お祭りデート前に何か憑いてたら困る。


「リックさん、頼みますよ〜〜最後が優良物件で有れ〜〜!!」


 私は祈るような気持ちで言った。



 私達は乗り合い馬車でラストの物件へ移動した。



「ラストはこの物件」

「でか! てか、家が敷地内に二つもあるよ!? 二世帯住宅!? お得!」



 紗耶香ちゃんがラストの物件を見て色めきたった。

 なかなか大きな敷地内に建物が二つある。


「一軒はお店でもう一軒を居住用にすれば良いんじゃない!? 

畑とか庭もあるし!」


 私も畑付きで興奮してる。


「ただ、一番お値段が高い」

「二つも家があるならそうなるよね、でも一軒はお店に出来て好都合じゃん?」


「あ、待って、この家の前の持ち主はどうしてるの? 

また怖いいわくとかある?」


 私はさっきの強盗殺人のあった家がトラウマになってて、思わずコウタに聞いた。


「ここは年老いた夫婦が二人で食堂を営んで住んでいたが、娘が嫁ぎ先で老いた親を心配して呼び寄せたので、廃業して売り家になったそうだ」


「親孝行〜〜!! 合格ぅ〜〜!!」


 紗耶香ちゃんが喜んで万歳した。


「ここなら私も怖くない! 

ちょっとお高くても胡椒と化粧品の売り上げでどうにかなるんじゃない?

リックさんの知り合いの貴族女性に化粧品アピールさせて貰おうよ」


「ああ、そういや化粧品もあったな、じゃあここにするか」


「「うん!!」」


「そうと決まれば俺はまたあの銭湯に行って、商人さんの家を出るってあの爺さんに断りを入れないといけない」


「りょ」

「まだ息子の旅の商人さんが戻って来て無いのに家出るの悪かったかな?」


「でも冬が来る前に移転したいんだろ?」



 冬の市場通いは辛そう……。

 テント下営業は屋根があっても室内みたいに壁が無いもの……。



「それはそう」

「確かに」


「てか、元食堂の方、見てみようよ、まだ外見しか見て無いじゃん」

「あ、そうだよね、まだ中見て無かった」

「じゃあ、内見な」


 食堂には今もしっかりと使えそうな厨房があった。

 冷蔵庫があったらしき形跡は床にあったけど、本体はもう売ったかな?

 流石に売れそうな魔導具は引っ越し時に売るよね。



「この老夫婦が食堂として使用してたとこを店舗にすれば良いのよね?」

「だよね〜、ちょうどよかった。カマドとか古そうだけど業務用オーブンも何故かしっかり残ってるじゃん」

「古いからコレは残してあったのかな?」


 私は年代物っぽいオーブンを軽く点検しながら言った。


「そうかもな。火の魔石は外れてるから、魔石は買わないと」

「それくらいなら、費用も最小限でちょっとした食事を出すお店もオープン出来そう」


 助かる!


「ねー、あっちの端っこの棚に雑貨置いて売れば良くない?」


 紗耶香ちゃんは窓の前に設置してある棚を見て言った。

 棚の中は既に空だ。


「そうだね、ここに雑貨とか置くの良さそう」



「んじゃ、次、住居の方を見ようか」


 コウタの提案に私達は頷き、少し離れた場所にある母屋を見に移動した。

 ひと通り見たけど、特に問題は無さそうだった。


「うん、部屋数も私達がそれぞれ個室使える分も有るし、問題無いね」

「謎の血痕も無いし、お風呂も有るから良いじゃん!」


「じゃあ、この物件を買うって事で話を進めるぞ」

「りょ」

「うん。よろしく」

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