第32話 森へ

 自分達のお店の本日の売り物が完売した後、私達は市場を少しぶらついて食材探し中。


「ねぇ〜〜私、今夜は和食が食べたい〜〜」

「サヤもそろそろ和食が食べたいかも」


「和食かあ……あ、魚屋だ、魚のアラ売ってる。あれで味噌汁作ると絶対美味いだろ」

「アラもいいね。あと、筑前煮かきんぴらとか食べたい」

「じゃあ、あのアラは安いから、とりあえず買おう」

「りょ」



「買って来たぞ」

「オツ〜〜」

「出汁の効いた味噌汁楽しみ」

「そういやサ、きんぴらって言えばアレンジできんぴらサンドってあるよね、パンに挟んでもイケるってヤツ」

「ああ、いっぱい作って明日の売り物をきんぴらサンドにしてもいいね。

それときな粉のおはぎとか」


「レンコンやゴボウは見当たらないな。ニンジンはあるけど」

コウタが八百屋を見てるけど、レンコンとゴボウが見つからない。


「こっちに無いなら私があっちで買えばいいんだけどね」


 残りはニンジンだけ買って帰宅した。



 *


 帰宅後にスキルで必要な物を買い、私は自分が食べたい筑前煮ときんぴらを作った。


 コウタはアラを使ってお味噌汁を作り、紗耶香ちゃんは売り物の串焼きの串打ちをせっせとやってくれた。


「正月以外でも筑前煮食べられてラッキーな気がしてキタ。美味しい」

「うん、美味しいな」


「ありがと。

私は筑前煮のレンコンが好きでさ〜〜、あ、きんぴらはレンコンじゃなくてゴボウとニンジンと胡麻で作ったよ。

パンに挟むやつは私、ゴボウの方しか見たこと無かったからゴボウ使った」


 値段もレンコンのが高いので、売り物のきんぴらもゴボウとニンジンとゴマで作った。

 パンは市販品を使う。


「ん……これをパンに挟んで売るのか。ボリュームも有るし、悪くないような気がする」

「この味噌汁の味、パない、神ってる」

「うん、良い味出てるよね〜〜」

「魚のアラの力だよ」


「ところでさ、きな粉のおはぎときんぴらサンドはどっちが受け入れられやすいかな?」


「それはやっぱパンを使った方かな? でもきな粉のおはぎ小さな試食用を作っておけばいけそうな気もする。何しろこっちでは高価で貴重な砂糖を贅沢に使う。甘味は麻薬的な魅力があると思う」




 * 


「本日は健康強化味の焼き鳥と万能スパイス味の豚バラ串焼き、きな粉のおはぎ、きんぴらサンドが売り物でございます」


 多分、免疫強化って言ってもこっちの人に通じない気がするから、コウタは健康強化味と言ってるんだと思う。


「また知らないメニューが追加されてるな」


 興味深げに新作を見ているお客様達。


「こちらきな粉のおはぎの試食となっており、食物繊維が豊富でして、健康に良く、お通じも良くなる可能性があります。効果には個人差が有ります」


 一応保険に効果には個人差が有ると言っておく。

 コーヒーやキウイやニガリの方がお通じには効く可能性があるけど。


「試食って、このひと口サイズの食って良いのか?」

「はい、どうぞ。お味を確認して下さい」


 私は男性客に、にこやかに試食を勧めた。


「……お、甘くて美味いな。これは子供が喜びそうな味だな」

「この黄色いの五個とそのパンで何か挟んであるやつ二つくれ」

「かしこまり!」


「あら、甘くて美味しいじゃない、黄色いの六つちょうだい」

「新作のパンのヤツ三つくれ」

「強化なんたらの串焼き3本くれ」

「かしこまり!」


「「毎度ありがとうございます!!」」


「よー! また来たぞ! 全種類一個ずつ!」

「リックさん、毎度あり!」

「……お、この細い根菜のパンも甘辛い味付けで美味しいな。こっちの黄色いのは、砂糖が贅沢に使われてる気がする。この値段でいいのか」

「きな粉が健康に良いので、皆様の健康の為に……頑張っております」


 本当はきな粉はセール価格だったからですけど。

 本来なら高価な砂糖の事をごまかさないとね。


「たまげた奉仕者精神だな」


でも多くのお客様に健康になって欲しいのは本当だからいいか。


 そういやきんぴらサンドのゴボウも食物繊維が取れるな。

 これは自分が食べたかったついでに作ったけど、良かった、こっちの人にも受け入れられたっぽい。



 *


 数日後、休日が来た。


 休日と言えど、私達は森に来た。


 私達はラウルさんとリックさんをご飯で釣って護衛をして貰い、森に素材探しと、あわよくば何かを狩ってレベルアップを狙おうと言う事を考えているのである。



 人目の無い森に入ってから、ラウルさんが真面目な顔で私達に話があると言って来た。


「ギルドで鑑定眼の持ち主を聞かれたんだが、一応伏せて置いた。

言えば仕事になり、結構な金は稼げるだろうが、危険な仕事を割り振られる可能性がある。

危険を覚悟して金を取るか、安全を取るか、まだお前達本人に確認してないからな。

で、どうする? 鑑定眼持ちと名乗り出るか?」


「うーん、ウイルス……危険な病保持者の鑑定などを任されそうなら、正直命の危険を伴いますから、もっと強くなってからじゃないと不安ですね」


 私は正直な気持ちをぶっちゃけた。

 だって防護服も無いんだもん。


「やっぱりそうだよな」


 コウタと紗耶香ちゃんも、ラウルさんの言葉にうんうんと頷いている。


 森の中は紅葉してる木々と、常緑樹がある。

 落ち葉をサクサクと踏み歩きつつ、獲物を探す。

 足音で獲物に気が付かれそうな……。


「ところで今日のランチのメニューは何があるんだ?」

「リック、お前な、今真面目な話をしてただろう?」

「え、真面目な話は今終わったんじゃ?」


「昼休憩にはカレーを予定しています。ちょっと辛い料理は大丈夫ですか?」

「あ、俺辛いの好きだぞ」

リックさんは嬉しそうだ。


「俺も大丈夫だ」


 ラウルさんもカレーいけそう。多分、日本のカレーは外国人にも人気だった。

 地球の軍人さんにも人気だったし、多分イケるでしょ。

 私はスキルで日本製のカレールーを先日セールで見つけて買っておいたのだ。


 何でスキルのショップで日本で買えるのと同じメーカーの物が買えるのかは、未だに謎だけど、味が保証されているので、正直助かる。



「止まれ、獣臭だ」


 ラウルさんがイケボで鋭く警告した。


 私達は緊張しつつもそれぞれの武器を構えた。

 私がナタ、紗耶香ちゃんがスリングショット、コウタが斧を構えた。

 ナタを構える姿など、ホラー過ぎて、正直ラウルさんに見られたくは無かったけど、命は大事だ。


 スリングショットを装備したのが紗耶香ちゃんなのは、彼女の方が遠くの獲物を見つけるのが上手いせいだ。

 合理的判断。


 ザザザっと何かが森の中を猛進して来る音がして、飛び出して来たのは、大きな猪!


「ワイルドボアだ!」

「はあっ!!」


 気合い一閃! リックさんの槍が大きな猪の頭部に突き刺さった!

 強い。


「猪肉取れたぞ〜〜、皆で食おう」


リックさんは朗らかに笑って気前良く言った。


「え? お肉いいんですか? あっ! リックさんの素早い動きにうっかり見惚れて何も動けてなかった!」

「コウタ、ドンマイ」

「あはは、あれはヤバ過ぎだし、しょうがないよ、コータ君」


「俺も何もしてないから気にするな」


 ラウルさんも励ましてくれる。


「でもラウルさんは獣の気配にいち早く気がつきましたよね」

「まあ、慣れているからな」


「あ、食べられるきのこ発見! 猪肉ときのこもカレーに入れるか?」

「サヤは木ノ実見つけた〜〜、このどんぐり、食べられるんだって」


 鑑定眼を使ったらしい。


「え、あ、コウタも紗耶香ちゃんも目ざといな」


 私は推しのラウルさんに見惚れていたとは言えない。

 私も何か成果をあげないと……! せっかく森まで来たんだし!

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